奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第67話「意思」

「な、なんだあれは……」

 

 嘘だろ……

 

 雪風の叫びで緩めていた緊張感を再び取り戻し俺は周囲を見回して愕然とした。

 箒は初めて目にしたその異様な光景に呆然とするしかなかった。

 俺、いや、俺たちの眼前の水平線にまたあの悪夢の様な光景が再現されていた。

 

 この数は一体……!?

 

 あのおびただしい数のビット兵器の群れがまたしても夏の青空に黒い影を広げていた。

 先ほど、「福音」によってトドメを刺されたばかりなのにそんなことが意味がなかったかのように同じ数かそれ以上の大群がこちらに押し寄せてきているのだ。

 

 やっぱり、こいつらおかしいぞ……!

 

 戦っている時に感じた奇妙な違和感。

 人にフィットしたサイズだから「IS」だと思うように俺はしていた。

 だけど、それならばおかしい。

 「IS」の数的にこんな数で、しかも何度も襲って来れるはずがない。

 それなのにまたもや同じぐらいの物量で迫ってきたのだ。

 

 例の「無人機」と関係しているのか……?

 

 俺はふとあの無人機のことを思い出した。

 あの時、あの無人機には未確認のコアが搭載されていた。

 あれだけのサイズであの耐久力を持つのは「IS」ぐらいしか存在しないはずだ。

 もしかすると、あの無人機を造った人間がここまで人間に近い姿に改良したのかもしれない。

 

『一夏さん!!篠ノ之さん!!

 「福音」の搭乗者を!!』

 

「……!!」

 

 そうだ……!!

 

 再び現れた謎の敵の正体について考えを張り巡らせていることよりも優先すべきことがあることを雪風の叫びで思い出した。

 今、この場で一番危険なのは「シールドエネルギー」を失い完全に無防備になっている「福音」のパイロットだ。

 もしあの爆撃を食らえば間違いなくアウトだ。

 

 ……雪風……

 やっぱり、お前は……

 

 こんな状況なのに俺は安心した。

 今、雪風は他者の命を優先させて的確な指示を出してくれた。

 少なくとも、先ほどのような怒りに走るよりも誰かを守ることを優先してくれた。

 それだけで俺は安心できた。

 

 ◇

 

 マズイッ……!!

 

 私は再び来襲してきた「深海棲艦」をこの目で確認しこの状況が最悪であることを把握した。

 私がそう判断したのは単純にこちらが疲弊しているからだ。

 先ず、一夏さんは最初の敵の一波で「シールドエネルギー」を削られている。

 次にセシリアさんや篠ノ之さんを除いた私たちもこの場に来るまでの間にエネルギーを使い、さらには「福音」との戦闘で完全に消耗している。

 この場でまだ戦う余力が残っているのはセシリアさんと篠ノ之さんだけだが、圧倒的に数が足りなさすぎる。

 

 この世界でもこの状況に陥るなんて……

 

 こちらが疲弊した瞬間に反撃してくる。

 そんな悪夢の様な状況を私はあの世界で幾度となく経験してきた。

 相手が戦力の逐次投入という最悪手をしているのかとすら思えるこの数のごり押しに勝機が感じられない絶望的な状況を再び私はこの身で味わっている。

 

「嘘でしょ!?」

 

「ありえませんわ……!?」

 

「そんな……」

 

 鈴さんとセシリアさん、シャルロットさんは既に終わりだと思っていた敵の襲来が終わりではない状況に驚愕していた。

 彼女たちがそう考えるのは当然だ。

 単純に数の猛威を知っていることもある。

 それ以外にも少しでも軍に近い人間ならば知っている戦力の逐次投入という戦略的に明らかに最悪な一手を打ってくる相手に非常識さを感じているはずだ。

 だが、「深海棲艦」にそんな常識は通用しない。

 その最悪手を常道としているのか平然とやってくる。

 「深海棲艦」にそんな概念はないのだ。

 そうなるとそれを防ぐために今度はこちら側が最悪手であるはずの戦力の逐次投入をしなくてはなくなる。

 そして、彼女たちが焦っているのは人型のサイズで使用できる兵器である「IS」の数が限定されているのにそれが意味を為さないことへのこの世界の常識を超えた未知への恐怖だ。

 「深海棲艦」は「IS」ではない。

 しかし、彼女たちにとって考えられる唯一の敵の正体の予想は「IS」しかないのだ。

 それなのにその「IS」の常識と弱点を敵が乗り越えてきたという絶望が彼女たちを恐怖させているのだ。

 

「マズイ……!!」

 

 ラウラさんは私の語った二つの「深海棲艦」に関する情報と二つ目の情報から自ら推測した三つ目の脅威を自らの目で確かめて焦りを感じていた。

 それは「IS」がどうとかの常識を通り越した軍事学、いや、そんな高尚な言葉が意味をなさない原始的な集団の生存学から導き出される結論だろう。

 

 マズい……

 このままではまともに動けません……

 

 ある程度予測できていたラウラさんはともかく事前情報なしの三人、いや、一夏さんと篠ノ之さんを含めた五人にとってはこの襲来は余りの不意打ちだ。

 これは夜の海に飛び込んだ人間がサメの群れに出くわして恐慌するも同然の状態だ。

 これではどんなに合理的な戦術を考えても無意味だ。

 私がどうやって全員を守れるかと考えようとした時だった。

 

「……雪風……どうすればいいの……?」

 

「え……」

 

「「「……!!」」」

 

 鈴さんが少し声を震わせながら私にそう言ってきた。

 

「鈴さん……?」

 

 この非常事態の中で鈴さんは少し恐怖を滲ませながらも私にどうすればいいのかと訊ねてきた。

 その彼女の姿に私たちは冷静さを取り戻した。

 

「……アイツらのことをアンタは知っている……

 なら、この状況でどうすればいいのかわかるんでしょう?」

 

「……!」

 

 鈴さんの言葉にこの場にいる全員の目に光が宿ったかの様に思えた。

 

「アタシ……

 みんなを引っ張ったりするのは出来るとは思うけど……

 まあ、その……こういう小難しいことを考えるのは苦手なのよね?

 だから、全部アンタに任せるわ」

 

「……鈴さん……」

 

 自分たちの常識が通じない未知の敵とそれらが持ってくる確実なる死に対する恐怖に駆られながらも鈴さんは決して心を折ることなく私にどうすればいいのかということだけを求めてきた。

 その恐怖の中で屈しないその姿はその感情に反して誇り高い精神を感じさせた。

 

「……わたくしも雪風さんを信じさせてもらいますわ」

 

「……!セシリアさん」

 

 鈴さんのその勇気に続くかのようにセシリアさんも私にそう言ってくれた。

 

「……あなたの今までの行動や在り方を考えさせてもらいますと不思議と安心できますわ……

 先ほどまではちょっとおかしかった気がしますけれども、それでもあなたの意見を尊重させていただきますわ」

 

 一時的に私が怒りに身を任せていたことを彼女は知らない。

 だけれども、それ以前の私の行動を見て彼女は私を信じてくれると言ってくれた。

 

「うん……だったら、僕も信じなきゃいけないね」

 

「シャルロットさん……」

 

 二人の言動に感化されたのかシャルロットさんも続いてきた。

 

「確かにさっきまでの君はいつもと違ったよ。

 今も何処か怯えも感じられるしね。

 それでも、僕は君を信じたい。

 だって、友達だもん」

 

「あ、ちょっと!!

 それアタシもだからね!!」

 

「そうですわ!

 雪風さん、あなたが何者であろうともわたくしたちは「友人」ですわよ!!」

 

「みなさん……」

 

 シャルロットさんは今でも抱いている私の怯えを受け止めながらも私をただ友達だからと言って信じてくれた。

 それに鈴さんとセシリアさんも負けじと呼応してくれた。

 彼女たちは秘密を隠していた私を「友達」と思ってくれていた。

 

 ……私……みなさんに悪いことをしちゃいましたね……

 

 私は彼女たちに二つの罪を重ねてしまった。

 一つは彼女たちに強さを計算に入れなかったことだ。

 彼女たちは弱くなんてなかった。

 確かに恐怖を心の中で今でも抱えている。

 だけど、それを乗り越える心の強さを彼女たちはしっかりと抱いていたのだ。

 そして、もう一つの罪とは私は彼女たちとの友情を失うことを恐れていた。

 信じてくれないとかそうじゃなくて隠し事をしていたことへの失望感から嫌われると思っていた。

 それなのに彼女たちはそんな私のことを「友達」だと思ってくれているのだ。

 

「……お姉様。

 どうか、指示を」

 

「ラウラさん……」

 

 ラウラさんは少し安堵しながら嬉しそうにしていた。

 それは軍人として部隊に冷静さが戻ったことに対する希望への期待感と私の妹分としての自負からの三人に負けまいとする対抗心だった。

 しかし、今の彼女には以前の独占欲はない。

 あるのは純粋にただ相手への信頼だった。

 それが今の彼女の理性と感情から来る精神力を生み出している。

 

 絶対に奪われたくないですね……

 

 そんな大切な友人たちがくれた想いから私は先ほどまで抱いていたものと同じ意思なのに全く異なるものを胸に感じた。

 

「……わかりました。

 今から私の言うことに従ってください」

 

「「「「!」」」」

 

 彼女たちのことを見て私は迷いを捨てた。

 どんな手を使ってでも6人と救助対象を帰還させる。

 そのことを私は決意した。

 

 

「なんだ……あれは……」

 

 箒は初めて目にする異様な敵の集団に呆気に取られていた。

 俺は「福音」のパイロットを抱えながらも刻一刻と迫って来る悪夢の再来に俺はどうすればいいのかわからずにいた。

 

「一夏、どうすればいい。

 「紅椿」の火力ならなんとかなると思うが―――」

 

 困惑しながらも箒は「紅椿」ならばなんとかなると提案してくるが

 

「ダメだ……!!」

 

「―――え」

 

 俺はそれに反対した。

 俺も「紅椿」に広範囲に及ぶ火力ならばあのビット兵器の大群も薙ぎ払えるのではと考えている。

 しかし、それはあくまでもあれらが最後の敵だという場合だ。

 俺はもう敵はいなくなったと安堵していたが、それはただの束の間の安息であり再びあの敵は来襲した。

 そうなるとあと、敵が何人、いや、何回も来ると思ったほうがいいはずだ。

 「紅椿」はスペックの高さや火力もあるがそれでもエネルギーには限りがあるはずだ。

 もし、それが尽きれば間違いなく箒は嬲り殺しだ。

 

 それに今の箒の状態はマズイ……

 

 加えて、箒の状態がマズイ。

 先ず、こんな非常事態に対して箒は今まで傍観者だった。

 つまりは慣れていない。

 俺も偉そうには言えないが、割とこういった経験の有無で生死を分けるかもしれない。

 

 那々姉さんのことで今の箒は……

 

 そして、何よりも今の箒は那々姉さんを殺しかけたことへの罪悪感で精神的に余裕がない。

 下手をすれば、それが引き金になって自分の身を犠牲にする戦い方を厭わない可能性もある。

 だから、このまま箒に依存する戦いは絶対に避けなくてはならない。

 

『一夏さん。篠ノ之さん。

 聞こえてますか』

 

「……!」

 

 その時、俺たちを落ち着かせるように静かな声が聞こえてきた。

 

「雪風……!」

 

「陽知……」

 

 先ほどまでの様子とは異なり冷静さを取り戻したかのような雪風のその声掛けに俺と箒は反応した。

 

「……もう大丈夫なのか?」

 

 俺は雪風の状態が気になってしまった。

 大丈夫ではないと思いながらもそれでも気掛かりになってしまったのだ。

 

『はい。何とか』

 

 ……『何とか』て……絶対に無理しているだろ……

 

 先ほどまでの彼女の様子と彼女の言葉から恐らく、この状況だから繕っていることは丸わかりだった。

 しかし、彼女が無理をしてでも頑張っているのは間違いなく俺たちの為だ。

 俺はその意思を尊重した。

 だから、俺は踏み込むのはやめると決めた。

 

『一夏さん。篠ノ之さん。

 先ずは「福音」の搭乗者と一緒に来てください』

 

「わかった……

 箒、来てくれ」

 

「あ、ああ……」

 

 俺は箒に雪風の指示に従うようにしてもらい、「福音」のパイロットを抱えながら雪風の下へと向かった。

 

 今、俺に出来ることはこれだけだ……

 

 雪風は今、冷静を装っている。

 本当は心の傷をあれだけ抉られているのにも拘わらず。

 彼女はそうしてでも何かをしようとしている彼女の意思を無駄にしたくなくて、謝るのを我慢してただ指示に従うだけだ。

 

 アイツが我慢しているんだ……

 だったら、俺だって……!!

 

 これぐらい我慢しなくて何が男だ。

 女の子である雪風だって辛いのだから男の俺が我慢しないなんてそれこそ意気地なしだ。

 だから、俺は独り善がりの謝罪は後にする。

 それが今俺が出来ることだからだ。


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