奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「皆さん。準備はいいですか?」
「おう」
「ええ」
「大丈夫ですわ」
「うん」
「問題ありません」
「……大丈夫だ」
篠ノ之さんに「福音」のパイロット、ラウラさん、一夏さん。
セシリアさんに鈴さん、シャルロットさん、私。
という人数の割り振りを行いそれぞれが持ち場についてから心の準備が出来ているのかを確認した。
既に背中に乗っているラウラさんと私がそれぞれの牽引用の装備を一夏さんとシャルロットさんに手渡し脱出の準備は整った。
これなら逃げきれますね……
私は背後の「深海棲艦」の艦載機の群を見つめ、この距離ならばギリギリで逃げ切れると確信した。
そうだ……それと……
ふとあることを伝え忘れていたことに私は気付いた。
「セシリアさん。篠ノ之さん。
少しいいですか?」
「ん?」
「何ですか?
雪風さん」
「オープン・チャネル」で私は運び手であるセシリアさんと篠ノ之さんに呼び掛けた。
何故「オープン・チャネル」かと言えば、これから話すことは全員が心して聞いておかなければならないことだ。
特に運び手である二人には絶対に厳守してもらわなければならないことだ。
「もし何か予期せぬことが起きて誰かを置いて行かなくてはならなくなったとしても、それが誰であろうとお二人は絶対に止まることなく一人でも多くの人を連れて帰ってください」
「なっ!?」
「えっ!?」
「雪風!?」
「何言ってんのよ!?」
私の発言に対して二人だけでなく全員が非難した。
「万が一の場合です。
もし篠ノ之さんかセシリアさんが引き返したりすれば最悪全滅の可能性があります。
それだけは避けなくてはいけません」
「っ……!
だけどよぉ!!」
「……あくまでも万が一です」
一夏さんは私に反抗してくるがそれは尤もだ。
私は暗に仲間を見捨てろと言ったのだ。
水雷屋として、駆逐艦として、いや、艦娘として最低のことを言っている自覚はある。
だが、万が一の事態に出くわしてしまって混乱した方が最悪だ。
そうなれば撤退どころではなくなる。
『ラウラさん』
『……何でしょうか?』
今度は「プライベート・チャネル」で私はラウラさんに呼びかけた。
『もし万が一……万が一誰かが脱落した時はあなたが一夏さんを拘束してください』
『!?
どういうことですか!?』
私の指示に対して彼女は声を荒げた。
『一夏さんは真っ直ぐ過ぎます。
そして、友達想いです。
恐らく、仲間を見捨てられず自分から敵に飛び込むはずです。
そうなったら―――』
『……危険ですね』
『―――はい』
一夏さんは自己犠牲の心が強過ぎる。
もし私が想定する最悪の事態に陥ったら迷うことなく仲間を助けに行く。
その状況で飛び込むのは自殺行為同然だ。
仮に彼がそれで命を落とせば篠ノ之さん、セシリアさん、鈴さんは間違いなく立ち直れなくなる。
下手をすれば彼女たちは私と同じ道を辿ることになる。
それだけは絶対に避けなくてはならない。
『頼んでも……よろしい……ですか?』
これは憎まれ役だ。
仲間を助けにいくことを邪魔するという最低の行動だ。
それを私は他人にやらせようとしている。
『わかりました。
お姉様。私にやらせてください』
ラウラさんはそれに対して何一つ言うことなく受け取った。
ごめんなさい……
私はこんなことを他人に、それも自分を姉の様に慕ってくれているラウラさんに任せることが嫌だった。
『……いえ。
私はお姉様が言われるのならば……
いえ……お姉様だからこそ言えると思います』
『え……』
ラウラさんは私に向かってそう言ってきた。
『お姉様……
あなたは以前私が篠ノ之諸共、凰を攻撃した時に私のその行動を激怒しました。
他者を、いえ、味方を平気で勝利の為に犠牲にすることをあなたは本気で怒りました』
『………………』
彼女はあの「学年別トーナメント」で自分がしでかしたこととそのことへの私の糾弾を言及した。
皮肉にも先ほど私が口に出した指示は「多を生かすために少を躊躇いなく切り捨てる」という私自身が何よりも憎んでいることそのものだ。
磯風を見捨てた苦しみを私は他人に味合わせようとしている。
あれだけ偉そうにラウラさんにのたまっていたのに私は自分自身が嫌悪しているあの参謀たちと同じことをしている。
『でも……そんなお姉様だからこそ……
その辛さを知っているであろうお姉様のことを私は責められません……』
けれどもラウラさんは矛盾した恥知らずの行動を責めないと言ってきた。
『そして、何よりも私はお姉様を信じます』
『……!!』
彼女は私を信じると言った。
そして、その一言が私にあることに気付かせてくれた。
……そうでした……私は……!!
私は勘違いしていた。
そうだ。彼女の言う通りだ。
私は諦めたくない。
どんなに絶望的でも絶対にそんな事態に陥っても最後まで生命を救うことを諦めない。
そのことを胸に刻んでいる自分を見失っていた。
絶対に全員守ります……!!
どんな事態に陥ったとしても命を削ってでも大切な人たちを守ることを絶対に諦めない。
どれだけ現実が残酷でも決して希望を忘れない。
その覚悟は出来ている。
『……ありがとうございます。
ラウラさん……あなたのお陰で迷いを振り払えました』
『いいえ……
安心しました』
ラウラさんがいなければ私は諦めていない自分を思い出せなかった。
「みなさん。
そろそろ行きますわ」
セシリアさんが全員に確認をとった。
私の発言で彼女は動揺したが、それでも今は全員をこの場から脱出させることに専念してくれた。
「大丈夫です」
「うん」
「ええ」
「ああ」
「問題ない」
「……大丈夫だ」
全員が応える中、一夏さんの低い声が目立った。
恐らく、彼は私の言葉に対する憤りを感じているのだろう。
後でちゃんと謝らないといけませんね……
私の一言、いや、今回の一連の行動で彼を含めたこの場にいる全員の心を傷付けたことに対して改めて私は後悔したが、それ以上に全員が帰れることに専念することにした。
「よし……!!」
「行きます……!!」
今度は篠ノ之さんも加わり全員に号令をかけた。
そして、その直後だった。
ぐっ……!!
通常形態で感じる高機動形態の速度に私は一瞬、意識を出発地点に置いて行かれるような錯覚に陥った。
けれども、直ぐに気を確りと持ちシャルロットさんをちゃんと引けているのかを確認した。
今の所、彼女は速さに苦戦しているがそれでも確りと付いて来られている。
そして、一夏さんの方も見てみると彼も同様だった。
これならば誰も置いていかずに帰れる。
後、一分も経たないうちに逃げ切れる。
私はそう感じた。
「―――!」
けれども、一発の轟音がそれがただの幻想に過ぎないことを知らせるように響いてきた。
「がっ!?」
「!?」
その悲鳴の後最初に鎖から強い衝撃が伝わり次に巨大な魚に引っ張られるかのような感覚が腰に走った。
しかし、一瞬にしてその力は消え去った。
その理由は簡単だった。
「!!?」
残っていた「初霜」の錨鎖車が外れたのだ。
シャルロットさん!!?
その先にいるシャルロットさん諸共鎖は宙に浮きこちらの速度によって距離が離れようとしていた。
それを私は無我夢中で手を伸ばしたが届かなかった。
「……っ!!」
まるで手元からこぼれる水の様にシャルロットさんの命を繋いでいる鎖が私の手から離れようとしているのを見て私は何も考えられなかった。
『!?
雪風!?』
勝手に身体が動いてしまっていた。
私はセシリアさんの背中から跳び出してようやく鎖を掴むことが出来た。
だけど、その代償として彼らの速度と後ろに跳んだことで数秒も経っていないのに既に距離が開いてしまっていた。
一夏さんの叫びと共に全員が異変に気付き背後を見た。
その瞬間、再び轟音が聞こえ次々と水飛沫すらも見えてきた。
「……行ってください!!!」
横合いから襲い掛かるこの砲撃に彼らがここに引き返すのは危険だと感じ私はそう叫んだ。