奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第71話「選択」

「雪風……!!シャル……!!」

 

 突然、一発の轟音が響いた後に何かが炸裂した音が聞こえてきたので後ろを振り向いた。

 すると、そこには宙に投げ出されたシャルと彼女を錨で引っ張っていた雪風が宙に浮いている錨の鎖に手を伸ばしながら跳んでいた。

 

「ぐっ……!!」

 

 雪風の奴……

 あんなこと言っておいて……!!

 

 逃げだす前に『脱落した人間は置いていく』と非情なことを言った雪風に俺は憤りと悲しみを抱いていた。

 雪風のことだ。

 きっと自分でもそれが嫌なことだとわかっていたはずなのにアイツは俺たちにそう言ったのだ。

 それなのにその張本人が条件反射的に仲間を助けに行った。

 

「箒!!セシリア!!

 戻ってく―――」

 

「あ、ああ!!」

 

「は、はい!!」

 

 このまま二人を置いていけない。

 俺は運び手である二人に頼んで引き返す様に言ったが

 

「ダメだ」

 

「―――ぐっ!?」

 

「一夏!?」

 

 突然何かによって上半身を締め付けられて俺は身動きを取れなくなった。

 

「ラウラ!?」

 

「お前何を!?」

 

 自分が何に縛られているのかを確かめる為に俺は顔を戻した。

 そして、俺を拘束しているのはラウラであることを理解した。

 

「オルコット。篠ノ之。

 止まるな。この場から離れるぞ」

 

「なっ!?」

 

「ちょっと!?

 アンタ、何言ってんのかわかってんの!?」

 

 ラウラはセシリアと箒にこの場から離れろと言ってきた。

 その言葉を誰もが耳を疑った。

 よりにもよってラウラが雪風を見捨てろと言ったことが信じられないのだ。

 しかし、そんな彼女の言動に衝撃を受けたが俺を含めたこの場の全員が雪風とシャルを置いて逃げるつもりなどなかった。

 

「……ならば仕方ない」

 

「?」

 

 俺たちが引き下がらないのを確認するとラウラは仕方なさそうにした。

 

「貴様らが止まるというのならば―――」

 

「ラウラ!?」

 

「アンタ、何を!?」

 

 ラウラは右手からプラズマ手刀を展開しその切っ先を自らの首元へと近づけた。

 そしてそのまま

 

「―――私は自分の首を切り落とす」

 

「なっ!!?」

 

「ラウラさん!?」

 

「!?」

 

 自分の命を盾にして俺たちを脅してきた。

 明らかにその眼は本気だった。

 本気で彼女は自分の命を引き換えにしてでも俺たちが引き返すことを阻止しようとしている。

 

「……あ」

 

 一体、何が彼女をこうまで突き動かしているのかと確認しようとしてみるとあることに気付いてしまった。

 

 左手を……

 

 ラウラはもう片方の手の親指の付け根を強く握っており左手はその証拠にプルプルと震えていた。

 明らかに痛みを与えて自制しているのが分かる。

 

『行ってください……!!』

 

 ここで無理に引き返せば間違いなくラウラは自らの命を絶つ。

 だけど、ここで雪風とシャルを置いていくという選択を俺は選べなかった。

 仮に雪風にその覚悟があるとしてもシャルはどうなる。

 俺は何も言えなかった。

 

「……みなさん。

 いきますわ」

 

「セシリア!?」

 

「アンタまで何を言ってんのよ!?」

 

 そんな全員が何も言えずに膠着状態に陥っているとセシリアがそう言ってきた。

 

「……雪風さんはわたくしと篠ノ之さんに助けに戻るなと言いました……

 だから、わたくしに出来るのは雪風さんの意思を尊重させることだけですわ……」

 

「だからって仲間を見捨てるっていうの!?」

 

「違いますわ……!!

 どうしてそんなことを……!!」

 

 セシリアに抱えられながら鈴はセシリアの発言に猛反発した。

 それに対してセシリアは違うと反論した。

 確かにセシリアの発言は結果的に雪風たちを見捨てることになるだろうが、だからといって彼女が見捨てると言っているわけではないのだ。

 でも、セシリアはそれを理解しながらも苦しんでいる。

 セシリアだって本当はこんなことを言いたくないはずだ。

 俺にもわかる。

 だが、雪風に名指しで『戻るな』と頼まれ、さらには運び手として今自分が託されている鈴を守るという務めが彼女にそうさせるのだ。

 

 なのに……俺は……

 

「もういいわよ!!

 アンタたちが助けに行かないならアタシだけでも置いて行って!!

 アタシが助けに行くから……!!」

 

 鈴は暴れ出した。

 そして、そのまま飛び降りようとした時だった。

 

「……ダメだ。鈴」

 

「え……」

 

 俺は鈴を止めた。

 

「一夏……?」

 

「………………」

 

 鈴は信じられないといった表情だった。

 

「……セシリア。箒……

 行くぞ」

 

「なっ!?」

 

「一夏!?アンタまで!?

 どういうつもり!?」

 

 俺は今、逃げると言った。それも仲間を置いて逃げると俺は言ってしまったのだ。

 だけど、これ以上耐えられなかったのだ。

 自分は何も言わないで全ての責任がラウラやセシリアたちに押し付けるのが。

 

「見捨てたりなんかしない……」

 

「え……」

 

 俺は根拠のない本心を言った。

 

「見捨てたりなんかしない……!!

 必ず助けに戻るんだ……!!」

 

「!?

 で、でも……」

 

「凰……

 今は少しでも早くお姉様たちを助けに戻ることだけを考えるんだ!!」

 

 こんな状況で、しかも戻ってきたとしても二人が生きているのかわからないのに俺は鈴に言い聞かせるように今は逃げることを選んだ。

 今から俺たちがやろうとしていることはただの希望的観測に縋っている机上の空論だ。

 俺たちが戻ってくるまで二人が生きているのは絶望的なのはわかっている。

 それでも必ず助けに戻る。

 それは間違いなく心の底から願っている。

 俺たちは「シールドエネルギー」をほぼ失っている。

 だが、今から戻って補給すればもしかすると二人を助けられるかもしれない。

 可能性は0ではないはずだ。 

 

「……わかったわ……

 だけど、すぐに助けに戻るわよ……!!」

 

「ああ……

 二人とも頼む」

 

「はい……!!」

 

「わかった……!!」

 

 鈴は泣くのを堪えてようやく了承したことで俺たちは補給を行い戻ることを決意した。

 少しでも早く戻る。そして、二人を必ず助けに戻る。

 全員がそう心の中で決めたのだ。

 

 クソ……

 逃げるって……こんなにも辛いことなのかよ……!!

 

 生まれて初めて逃げることが難しいことであり、その際に誰かを置いていくことがどれ程辛いのかを俺は教えられ、その辛さから唇を噛みしめた。

 

 

 行ってくれましたか……

 

 次々と砲弾が飛んでくる中、私は初霜ちゃんの鎖を辿りながらシャルロットさんの下に向かいながら一夏さんたちの様子を眺めていた。

 彼らは暫くの間、あの場に留まっていた。

 きっと私たちを置いていくのを躊躇し助けに戻ろうとしたのだろう。

 だが、その後に何とか踏みとどまってこの場から離脱してくれた。

 

「シャルロットさん……!!

 聞こえますか!?」

 

 何とか、シャルロットさんの傍に近付けた私は先ずは彼女の意識を確認した。

 「IS」の絶対防御で機体の損傷は激しいがそれでも彼女には目立った外傷は存在しなかった。

 

「うぅ……

 何とかね……ちょっと気分が悪くて頭がくらくらするけど……」

 

「そうですか……よかった……」

 

 口が利けることや目立った外傷が見られないこと、彼女の発言から砲撃の衝撃によって脳震盪は起こしているがそれでもそれ以外に怪我がないことに私は一先ず安堵した。

 だが、この様子では彼女が独力で逃げるのは不可能だろう。

 

「……シャルロットさん。

 気分が悪いと思いますが我慢して下さい」

 

「……ごめん」

 

 私は彼女の肩を担いでそのまま左へと直立で水面ギリギリの低空飛行をした。

 これならば少なくとも水の抵抗を受けずスラスターが破損しシャルロットさんを背負っている私でも水上の部隊から逃げ切れると判断したのだ。

 だが、機動部隊には追い付かれるだろう。

 少なくとも、シャルロットさんがある程度回復して彼女だけでも逃げ切れる距離と時間を稼ぐしかなかった。


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