奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第74話「薄れゆく希望」

「千冬姉!!」

 

『!!一夏!!?』

 

 ようやく本部である旅館が見えるところまで辿り着き通信が回復した俺は千冬姉の名前を叫んだ。

 俺の声を聞くと千冬姉はいつもの教師としての仮面を捨てて、俺のことを『一夏』と呼んだ。

 

『……全員無事―――?』

 

 その後、直ぐに冷静さを取り戻した千冬姉は教師として全員の無事を確かめようとしたが

 

『―――陽知とデュノアはどうした?』

 

 どうやら映像でも俺たちのことを確認したのか、必死に感情を押し殺しながらこの場にいない雪風とシャルのことを訊ねてきた。

 

「……教官。

 お姉様とシャルロットですが……

 二人はまだ戦闘空域に……」

 

 そんな中、最もこの中で冷静に状況を説明することが出来るラウラが逸る気持ちを抑えて千冬姉に二人の現状を伝えた。

 

『何だと……?』

 

 その報告を受けて千冬姉は今まで見せたことのない動揺と焦りを声に込めていた。

 

『……ボーデヴィッヒ。

 全員を代表して敵の戦力と陽知とデュノア、そして、今の貴様たちの状態を説明しろ』

 

 千冬姉は一転して冷静を装ってラウラに遭遇した敵の数、残された二人とこの場にいるメンバーの状態を確認してきた。

 

「はっ!

 敵の数は夥しいビット兵器を扱う機体を扱うタイプが二人。強力な砲撃能力を有するタイプが一人。これらを支援するユニット三基で構成された小隊が一つ。

 また、砲撃能力が強力なタイプを中心とした同程度の小隊がいます」

 

 ラウラは極めて冷静に敵の戦力を千冬姉に伝えた。

 千冬姉がラウラに説明を求めたのは正解だった。

 今、この場で最も冷静に状況を説明できるのはラウラだけだ。

 もし千冬姉が指示を出さなかったら間違いなく全員が慌てて説明しようとして、逆に収拾がつかなくなっていたはずだ。

 

『……わかった。

 次に二人の状態だ。

 今、二人の機体はどうなっている』

 

 あの敵の数を耳にしながら千冬姉は動揺を見せなかった。

 「IS」というこの世界における絶対的戦力の常識を覆す数の多さという概念にもかかわらず千冬姉は落ち着いていた。

 恐らく、ここにセシリアが助けを求めに戻った際に報告をある程度受けていたのだろう。

 加えて自分が冷静にならねばと気丈に振舞っているのかもしれない。

 

「はい。お姉様の「初霜」は「福音」による攻撃でスラスターや武装が一部残して破損。

 シャルロットの「ラファール」は敵の不意打ちをもろに喰らい損傷は激しいかと……

 また、二人とも「シールドエネルギー」の残量は危ういかと」

 

「……っ!」

 

 ラウラの冷静な報告を受けて改めて二人がどれだけ危険な状態なのかを理解させられた。

 雪風は俺も近くで見ていたからわかるが、機体の機能が一部死んでいる。

 シャルも恐らく、あの明らかに生身の人間が当たれば五体が残っていたらマシになりそうな砲撃の直撃を食らったのだから機体の破損はともかくとして「エネルギー」も相当持っていかれたはずだ。

 少なくとも二人が独力でここまで戻って来れるのは無理だ。

 

 千冬姉……!早く……!

 

 これ以上、二人を待たせるわけにはいかない。

 俺は千冬姉の指示や許可が下りないことに焦りを感じた。

 

『分かった。

 最後にこの場にいる全員の機体の状態を教えろ』

 

 千冬姉は最後にこの場にいる面々の機体の状態を求めてきた。

 

「はい。織斑とオルコットは装甲を破損し、凰は装甲に加えて武装も。

 私と篠ノ之の二人は殆ど損傷はありません」

 

 ラウラはこの場にメンバーのダメージを簡潔に述べた。

 彼女の説明通り、今、この場でほぼ無傷なのはラウラと箒ぐらいだ。

 

『わかった。

 今からお前たちに指示を言い渡す』

 

「……!」

 

 ようやく、今の状況の概要を聞き終えて千冬姉は俺たちに指示を言い渡そうとしてきた。

 俺は、いや、俺たちは二人を助けに戻れることへの期待を胸に抱いた。

 

『全員、待機だ。

 再出撃は許可しない』

 

「え」

 

 だが、帰ってきた言葉は耳を疑うものだった。

 

「千冬姉……?

 何言ってんだよ……?」

 

 俺は一瞬、千冬姉が何を言っているのか理解できず確認した。

 

『もう一度言う。

 貴様たちには再出撃の許可は出さない。

 以上だ』

 

「なっ!?」

 

「!?」

 

「何を言っているんですか!?教官!?」

 

「千冬さん!?」

 

「二人を見捨てろとおっしゃるのですか!?」

 

 けれども帰ってきたのは俺たちに雪風たちを助けに行くことは許さない。

 つまり、二人を見捨てろと千冬姉は言っているのだ。

 その言葉に一斉にこの場にいる全員が抗議した。

 

『二人が今、どこにいるのか分からない以上、貴様らを闇雲に送り出すわけにはいかない。

 それに織斑とオルコットと凰。

 貴様らはエネルギーどころか装甲が危うい。

 次に敵の不意打ちを食らえば命を落とすぞ。

 だから、どっちにせよ貴様ら三人には救助に向かうことは絶対に許さん』

 

「!!?」

 

 千冬姉はいつも以上というよりも今まで見せたことのない程冷淡な態度で俺たちにそう言い捨てた。

 そして、わかったことが一つある。

 仮に救助を行うとしても俺とセシリアと鈴の三人は出撃しないと完全に決めているのだ。

 

「……それは俺が弟だからか?」

 

『………………』

 

 助けに向かわせてもらえないことに憤りを感じて俺は生まれて初めて千冬姉に反抗した。

 いつも尊敬し、感謝し、育ててくれた恩を返しきれないたった一人の家族であるが、今の千冬姉の発言に俺は納得できない。

 千冬姉が俺を助けに向かわせないのはこのままいけば俺が死ぬことになるからという姉として私情と不安があり、俺を守るために雪風とシャルを見殺しにしようとしているのではと邪推してしまったのだ。

 

『……自惚れるな。織斑』

 

「……!」

 

『仮令、貴様が赤の他人でも私はわざわざ死に行かせる様な指示は私は出さん』

 

「教官……!!」

 

「千冬さん!?

 いくら何でも!!」

 

「あんまりですわ!!」

 

 千冬姉は恐ろしいまでに冷たい声で俺にそう言い放った。

 その千冬姉の態度にラウラや鈴、セシリアが食って掛かった。

 

「……三人とも……いいんだ……」

 

「一夏?」

 

「一夏さん?」

 

 だけど、今の千冬姉の明らかに異常な冷徹を通り過ぎた冷酷ともいえる態度に違和感を感じたことで千冬姉がどうしてそんな態度をしたのか理解させられた。

 

『それでもやはり暴走状態の「IS」と戦うと言うことは非常に危険なことです。

 失礼を承知で確認させて頂きますが、織斑先生はそのことに対して覚悟を持っていられますか?』

 

『お前の言いたいことは解かった。

 私もそのことは十分に承知している。

 だから、お前たちにこの役割をさせることに恥を忍んで頼みたい。

 頼まれてくれるか?』

 

 出撃前に雪風は千冬姉に俺たちの誰かが死ぬかもしれない場合があることを言及し、千冬姉はその場合を受け入れていた。

 そして、千冬姉はそれを苦渋を飲むつもりで選択した。

 

 千冬姉はわざと……

 

 千冬姉のここまで冷たい態度は俺や、この場にいる全員を向かわせないための偽悪だ。

 

『もし何か予期せぬことが起きて誰かを置いて行かなくてはならなくなったとしても、それが誰であろうとお二人は絶対に止まることなく一人でも多くの人を連れて帰ってください』

 

 クソ……!

 どうして、千冬姉も雪風も……!!

 

 雪風もあれだけ『見捨てろ』と言っておきながら我が身を犠牲にしてでもシャルを助けた。

 雪風も千冬姉も冷徹に振舞っている癖にその実、他人を危険から遠ざけようとして憎まれ役をする。

 

「教官!!

 私は殆ど無傷です!!

 ですから、私だけでも!!」

 

 俺たち三人だけには絶対に助けに行かせないという千冬姉の意思がどうやっても動かないことは明らかだった。

 ラウラはその中に含まれない自分だけでも助けに向かわせて欲しいと懇願した。

 

『……だめだ。

 高機動形態ではない貴様が仮に敵と遭遇すれば離脱することが困難だ』

 

「っ!しかし!!」

 

 だが、千冬姉はラウラが高機動形態ではないという理由から再出撃の許可を出さなかった。

 あの連中の追撃を通常の「IS」を振り切れるかと言えば難しい。

 俺やセシリアの機体を見れば理解できることだ。

 しかも、連中が何処で待ち伏せしているのか分からない以上、千冬姉の危惧は一概には間違っていない。

 

『それと……篠ノ之の出撃も許可しない』

 

「なっ!?」

 

 そして、トドメと言わんばかりに千冬姉は唯一、無傷である高機動形態という二人を助けられる可能性が高い箒にまで許可を出さないと言ってきた。

 その理由が分からなくなり、完全に俺たちの手から希望が失われたことを理解させられた。

 

 

 そんな……

 

 私は少しでもシャルロットさんの願いを叶えたいと考えて共に生還しようと気持ちを固めた。

 だけど、その直後にその願いすらも踏み砕くように目の前に絶望が立ちはだかった。

 

「雪風……?」

 

 私の動揺を察しとったシャルロットさんが恐らくまだ視界があやふやなまま、私が目にしている絶望へと目を向けた。

 

「一人……?」

 

 彼女は目の前に存在するその絶望を絶望だとわからないままその事実を一言で済ませた。

 そう私が目にしているのは目の前に現れた一人分の人影だった。

 たった一つの影。

 それに対して私はそれが何なのかを知っていることで焦りすら越えて生き残ろうとする意思が削り取られてしまった。

 目の前の影は海上に佇んでいる。

 仮にあれが「IS」ならば空中にいるはずだ。そう考えるとあれは「深海棲艦」の可能性が高い。

 そして、本来ならば群れ、いや、艦隊で行動するであろう「深海棲艦」が一体でいることの意味には多くのいい意味と悪い意味が存在する。

 いい意味は艦隊からはぐれた「深海棲艦」ということだ。

 それだけならば大して脅威にはならない。

 だが、この海域において圧倒的優位に在る「深海棲艦」がその可能性に陥っている可能性は限りなく低い。

 それに希望的観測に縋るのは明らかに危険だ。

 つまり、残されているのは悪い意味ということだ。

 

 姫……鬼級……?

 

 それは一体だけで一個艦隊で挑まなければ渡り合えない「深海棲艦」の強力な個体である「姫級」か「鬼級」であるということだ。

 当然、姫級か鬼級にも護衛がいるが、それがいなくても十分に危険な存在だ。

 

 誘いこまれた……?

 

 私は目の前に佇むその絶望と後ろから迫る敵の追撃に挟まれた形になっていることで今までの自分が敵の思い通りに動いていたという可能性を感じた。

 

 私のせいで……

 

 私はまんまと敵の策に乗せられて狩場に誘い込まれた。

 そして、シャルロットさんまでもを巻き込んだ自分の愚かさに思考を失いそうになった。

 

「雪風……?

 どうしたの……?」

 

「!」

 

 しかし、絶望の淵に陥りそうになった私をシャルロットさんの声が引き上げた。

 

 そうでした……今は……!!

 

 こんなところで心まで死んでいる場合なんかじゃない。

 私の命は私だけの命ではない。

 文字通り私の肩には人の命がかかっている。

 今、諦めるということはその命すら諦めるということに他ならない。

 

「シャルロットさん……

 体調は回復しましたか……?」

 

「え?あ、うん……ある程度は……」

 

「一人で移動できますか?」

 

「うん……なんとか……」

 

 私はシャルロットさんが一人で「IS」を操縦できるまで回復しているのかを確認すると彼女は大丈夫だと答えた。

 

「そうですか。

 すみません。では、今から自分で飛んでくれませんか?」

 

「……わかった」

 

 私に促されるままシャルロットさんは少しふらつきながら立ってくれた。

 

 これなら……

 

 その様子を見て私は僅かながらの希望を抱いた。

 

「シャルロットさん。

 今から私の言うことをよく聞いてください」

 

「何……?」

 

 私はあくまでも平静を装いながら彼女にあることを告げようとも決めた。

 

「このまま固まって逃げるのは危険です。

 ですから、今からは別々に逃げましょう」

 

「え……」

 

 それは今方二人で別々に逃げるという提案だった。

 今、私たちは挟まれている。

 つまり、前後に逃げ場が存在しない。

 あるとすれば横方向だ。

 しかし、ただ横に逃げるだけならば逃げ切れるのは難しい。

 だから、二手に分かれることで敵が狙いを付けられないように逃げようと考えたのだ。

 表向きは。

 

 シャルロットさんだけでも……

 

 この策は半分嘘だ。

 私の本当の狙いはシャルロットさんよりもわざと遅れて敵に狙われやすくして出来る限りの敵を引き付けることだ。

 少なくとも、これならばシャルロットさんに向かう敵の数を減らすことが出来る。

 

「今から、旅館の方へと向かって逃げますよ―――」

 

 私は彼女に悟られまいとこの勢いのまま言い終えようとした。

 

「え……?」

 

 しかし、私が進もうとした瞬間シャルロットさんに手を掴まれて止まってしまった。

 

「それ……嘘だよね……雪風……」

 

「……っ!?」

 

 シャルロットさんは俯きながら私の嘘を暴いた。

 

「シャルロットさん?

 何を言ってるんですか?こんな時に悪ふざけなんてダメじゃないですか?」

 

 迫りくるあの艦載機の音が聞こえ、既に時間が残されていないことを理解した私は既にばれているのにもかかわらず私はそれでもシャルロットさんだけでも逃そうとして押し切ろうとしたが

 

「誤魔化さないでよ!?

 君、自分だけ残るつもりなんでしょ!?」

 

「ぐっ……!!

 そんな訳……!!」

 

 何から何までお見通しのシャルロットさんは私をその場に留めようとし、自分を犠牲にしようとする私を怒鳴った。

 

「あるよね!?

 そんなの絶対嫌だ!!雪風も一緒じゃなきゃ僕は行かない!!!」

 

「何を言っているんですか!!?

 ワガママ言わないでください!!!あなただけでも……!!!」

 

 嘘を吐くことすら忘れて私は泣きじゃくる彼女を言い聞かせようとしたが

 

「嫌だ……!!

 もうお母さんみたいに誰かがいなくなるなんて嫌だ……!!嫌だよぉ……!!」

 

「!?」

 

『嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!!』

 

『置いていくのはもう……比叡さんの時だけいいんです……!!』

 

『磯風……!!帰ろうよ……!!天津風だって……待ってるんです……!!

 だから……!!』

 

 彼女の童の様なその泣きじゃくった叫びに私はこれ以上何も言えなかった。

 彼女もまた大切な誰かを失った悲しみを背負っているのだ。

 今の彼女は磯風を失った時の私と丸っ切り同じだ。

 その悲しみを知る私はこれ以上、言葉に詰まってしまった。

 

「……それでも、私は―――!!!」

 

 だけど、その感情を誰かに味わわせることになるのを理解しながらも私は彼女に生きて欲しくてそれを訴えようとした。

 その時だった。

 

「―――あ」

 

 ついに恐れていたことが起きた。

 それすらも打ち砕かんと言わんばかりに一つの砲撃音が前方から響き渡ってきた。

 

「っ!!」

 

「雪風……!?」

 

 咄嗟に私はシャルロットさんを押し倒し彼女の背中に覆い被さり彼女を迫り来る砲撃から少しでも庇おうとした。

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