奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第79話「責任」

 どうすればいい……

 

 一夏や凰、オルコット、ラウラたちに雪風とデュノアを救助に向かうことを禁じておきながら私は二人を助けられる方法を考えていた。

 この現象と一夏たちを襲ってきた敵の正体は明らかに危険だ。

 一刻も早く二人を救助しなければならない。

 なのに

 

 クソっ……!

 どうして予備の「IS」がないのだ……!!

 

 今、この場に存在する戦力は帰還したばかりの五人の生徒しかいない。

 しかも、その内まともに戦えるのは二人だが、その二人の内一人は「IS」の操縦は素人にも等しくもう片方は機動力が足りない。

 だから、二人を助けるには一夏たち以外の戦力が必要だが、教員の方々との連絡がつかずその安否すらも不明だ。

 そして、残されている手段として私自身が助けに向かうということも予備の「IS」がないことから破綻している。

 自衛隊や米軍に救助要請をすることもラウラの「IS」を高機動モードに換装することも間に合わない。

 

 何が「世界最強」だ……!!

 

 私は無力な今の自分に対して世間が持て囃す「世界最強」という称号に再び嫌気がさした。

 「世界を変えた」あの瞬間を止めることすら叶わず、一夏のことを危険に晒し、そして親友の愛弟子すら今見殺しにしようとしている。

 肝心な時にそんな力を出せないで何が「世界最強」だ。

 

「ちーちゃん。束さんの言ってた通りでしょ?」

 

「………………」

 

 無力感に打ちひしがれながらも打開策を模索しながらも束のその声が聞こえた瞬間に私は通信を切った。

 

「あのチートちゃんの作戦よりも束さんの作戦の方が良かったでしょ?」

 

 どうやら雪風に自分の作戦や才能を否定されたことを根に持ったたらしく束は無邪気に、いや、子供の様な優越感に浸りながらそういった。

 確かに結果的に今回の雪風の立てた作戦が裏目に出たのは事実だ。

 仮に最初に一夏と篠ノ之の二人を出撃させ後方で雪風たち五人に高機動モードで待機させておけば雪風とデュノアの二人を置き去りにすることはなかっただろう。

 

「いや~、あれだけ善後策とか言っていたのにおかしいよね?」

 

 束は雪風のないにも等しい責任を言及した。

 そもそもこの戦いはあくまでも『暴走した軍用機を鎮圧する』という多数の敵を想定したものではなかった。

 いや、それ以上にこんな事態に陥る要素は何処にも存在しなかった。

 仮にこの作戦に携わる人間に責任があるとすればこれらの敵を把握できなかった米軍や「IS委員会」、そして、この場の責任者である私にあるのであって雪風には存在しない。

 

「いや、本当に―――」

 

 だが、束はそれをわかっていないのか、いや、わかっているはずなのにただ雪風を貶めたいが為だけに続けようとした。

 

「―――むぎゅ!?」

 

「束……静かにしろ」

 

「ち、ちーちゃん?」

 

 私は束の口から次の言葉が出ないうちに束の首に右手で掴んだ。

 

「私は今、非常に機嫌が悪い。

 それ以上減らず口を叩くのならば感情のままに貴様の首をへし折るぞ」

 

 変に子供ぽいところがある束からすればあの雪風の束の本質を何処か見抜いたうえでの弾劾は束のプライドを傷つけたのだ。

 束がこういった性格なのは百も承知だ。

 だが生命の重みを誰よりも深く理解し、今回の作戦で誰よりも一夏の安全を考えてくれた雪風のことを侮辱するのだけは許せなかった。

 

「む~、わかったよ」

 

 自分に生命の危機が迫っているにもかかわらず束はこれ以上何も言わなくてもその飄々とした態度を崩さなかった。

 私はそれを見て安心したが

 

「でも、勿体ないな~。

 あの私の知らない「IS」。あのチートちゃんと一緒に海の藻屑になるなんて」

 

「!?」

 

 束のその一言で私は緊張感と危機感を再び、先ほど以上に抱いてしまった。

 

「……貴様が知らないだと?」

 

 私は束に動揺を悟られないようにわざと束が知らないことに驚いたふりをして束が何処まで知っているのかを訊ねようとした。

 

「そうだよ?

 だって倉持にも一応データはあったけど肝心なデータがない機体なんて不思議だよ?

 まるでぱっと出てきたかの様な感じだよ?」

 

「………………」

 

 その束の説明を聞いて私はこう感じた。

 

 マズイ……束は「初霜」が自分の作ったコアじゃないことに気付いている……!!

 

 何時かはこの知的好奇心の塊ならば気づくことは考えていた。

 しかし、既に気付いているとは思っていなかった。

 

「あ~あ、勿体なかったな~」

 

 束は非常に残念そうにだが、大して執着していないようにあっさりと言った。

 

「……仮に陽知の「IS」がお前の作ったものではないのならばどうするつもりだ?」

 

 私は雪風の生存すら危ぶまれるこの状況にもかかわらず彼女が生還することを前提で束に「初霜」の製造過程を知った時の対応を訊ねた。

 

「ん~、そうだね。

 ただのコピーならその技術者を突き止めて色々とお話をしたいかな?

 ほら特許権とかあるし?あ、でもそれ以上にお近づきになりたいかな~?」

 

「………………」

 

 束は自分の作ったコアとほぼ同質のものを作った相手に対しては強く興味を持っているらしい。

 

 だが……あのコアのルーツは気になるな……

 

 束の動機とは別の意味で私は「初霜」のコアについては興味があった。

 あのコアは本当の経営者である轡木さんや諜報活動に秀でている更識すらその詳細を知らない。

 轡木さん曰く『IS委員会に一方的に押し付けられた』らしく、しかも「初霜」を除いた同じコアの行方も不明らしい。

 全てにおいて雪風が使用しているコアは謎に包まれている。

 

 いや……それよりも今は束の気をそらすことや雪風とデュノアの救出、そして、この旅館にいる全ての人間の安全を考えなくては……

 

 危うく個人的な疑問に囚われそうになったが今はそんなことにかまけている場合ではない。

 仮に雪風が生還した後に束から雪風を守ることや、当然ながら二人の生存の可能性を上げることや、そして、恐らく勢いづいた敵がここまで来た時への対応についても想定しなくてはならないだろう。

 今、こちらに存在する戦力はたった五機。

 しかも、その内三機は「シールドエネルギー」を補充してもマトモに戦えるか疑問だ。

 この旅館にいるのは従業員もそうだがISの訓練を受けているとはいえそれがないことで戦うことが出来ないことから非戦闘員しかいない。数が圧倒的に足りなさすぎる。

 もし敵がこちらに来た場合この旅館を守れるかすら怪しい。

 

 ……川神の父親の懸念した通りになったか……

 

 私はこの事態に直面して川神の父親が日頃から懸念していた「IS」に頼り過ぎる安全保障の問題が現実化したことを実感した。

 川神の父親は「IS」の数が限られていることや「IS」が孤立した場合や想像以上の物量の敵が相手になった場合のことを常に言及していた。

 だが、それに対して政府高官は『自衛官の縄張り意識』と耳を傾けることはなかった。

 

 実際の危機を目の当たりにしない限りは人は誰も重大さを把握できないか……

 

 これも全て「IS」さえあれば全ての敵と戦えるという「IS至上主義」から来る実際の戦闘を軽視した希望的観測が招いた危機感の欠如が原因だ。

 

 ……私のせいで……

 

 こうなってしまったのも全て私のせいだ。

 私が「白騎士事件」で既存の兵器を制圧したことで全ての人間が「IS」を盲信してしまった。

 だが、私が言うのも烏滸がましいことだが当事者である私から言わせてもらえばあれは私だから出来たことだ。

 「IS」の性能は確かに優れているが、全ての人間があんな事が出来るはずなどないのだ。

 

 せめて……川神がいてくれたのならば……

 

 「IS」を絶対視するこの社会の中でももし川神がこの場にいるのならばその限られた手の中で川神は必ず最善を尽くしてくれる。

 だが、その川神はいてくれない。

 

 だめだな……私はあいつの先輩なんだ……

 

 またしても親友の不在に心が揺らぎ、そして、頼りそうになったが今はその親友の教え子が危険に晒されている。

 

 あいつは私を信じてくれた……

 だから、私は……

 

 出来ることは限られている。

 それでも真実を知っても私を「親友」だと言ってくれた彼女の為に私は出来る限りのことがしたい。

 

「……織斑。

 貴様たちは全員補給しろ。

 その後、海岸線で待機。

 敵の襲撃に備えろ」

 

『ち、千冬姉?』

 

 映像回線を再び戻し一夏たちに先ず補給を行い、次に海岸線で敵の襲撃に備えるように指示を出した。

 私は自分に出来ることとして、少なくとも今も戦場に残っている雪風とデュノア、そして、真耶を始めとした教員が帰還してくるであろうこの旅館を守ることとこの旅館にいる全ての非戦闘員を避難させることを決めた。

 

「私は今から、自衛隊と米軍に救援を要請する」

 

 同時に今更遅いと思うが自衛隊と米軍に救援を要請することも決めた。

 今、出来ることがあるとすればこれぐらいだ。

 

 ……私だけでもこの場に残らなくては

 

 私はここに残ることを決めた。私はこの場の責任者だ。

 そして、生徒たちを危険に晒しその救助を先延ばしにしたのも私だ。

 ならばせめてこの場に残り成否を見届ける最低限の義務がある。

 それにいざとなればこの場にいる五人に撤退指示を出すことも必要だ。

 

「……ん?」

 

 この場に残ることを心に誓った直後に私はある事に気付いた。

 

 ……何故、ラウラは地上に降りているんだ?

 

 それは何故かこの場にいる人間の中で最も「シールドエネルギー」の消耗が少ないはずであるラウラすらも地上に降りていることだった。

 雪風を姉の様に慕うラウラのことだから未だに私が救助を指示することを空中で待っていると考えていたのに意外だった。

 

「!?」

 

 しかし、それ以上の異常が存在していた。

 

「……篠ノ之はどうした?」

 

 それは五つあるはずの人影が「銀の福音」のパイロットを含めても5人分しか存在せず、そこに篠ノ之がいなかったことだ。

 

『え、えっと……少し気分が悪いから先に休ませた―――』

 

「……正直に言え」

 

『―――ぐっ!?』

 

 明らかに嘘を吐いているのが、いや、そもそも普段から嘘を吐くことがないというよく言えば誠実、悪く言えば愚直な性格の一夏のそれは簡単に嘘だと理解できた。

 

「まさか……貴様ら……」

 

 全員が地上にいることや篠ノ之がその場にいないこと、一夏が嘘を吐いたことから何が起こったのか私は理解してしまった。


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