奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
『雪風。空を飛ばないの?』
シャルロットさんは「プライベート・チャネル」で私にそう訊ねてきた。
『いえ……
この世界に来たばかりの金剛さんにいきなり飛行での移動はさせられません』
シャルロットさんの帰還を急ぐためにもここは飛んで逃げるべきという懸念も正しくはあるが、「IS」どころか飛行を扱ったことのない金剛さんがいるので飛んで逃げるという案を却下した。
『この世界か……
本当に雪風は違う世界から来たんだね……』
私の発した『この世界』という言葉にシャルロットさんは狐に抓まれたかの様な言い草をしてきた。
『……恐らくですが、後でもっと驚くことになると―――』
『え?』
『いえ……何でもありません』
私は金剛さんが水上機を使ったことから恐らく彼女と共に彼女たちも来ていること予想した。
しかし、シャルロットさんが視えるという確証はないのでこれ以上言うのはやめようと思った。
……いくら何でも妖精が見えるなんてことはないでしょうし……
理由は分からないが二度と会えないと思っていた金剛さんが助けてくれたという奇跡が起きたが、いくら何でも妖精さんを目視できる提督としての素質を持ち合わせる人間までもが近くにいるとは到底思えない。
艦娘の提督になる条件として求められるものは戦術眼や戦略眼、人間性よりも先ず妖精の存在を見ることが出来るということだ。
というよりも、妖精が見えるということは既に人間性が妖精すらも認められているということになり逆説的にその時点で人間性は優れていることになり、戦術眼や戦略眼も経験を積んでいくことで自然と開花していくことになる。
そもそもなぜ艦娘の提督として人間が必要かと言えば、妖精に認められた提督には艦娘の力を十二分に引き出す力や、装備や改修、改造などの成功確率を高くする力が具わっているからだ。
提督が不在の場合は特例として最も練度の高い艦娘が提督代理を務めることになるが、それでも提督の存在の有無で戦局は大きく変わる。
司令が『世界を救った英雄』として言われるのは彼自身が機動部隊の出身であり、新世代の戦術や戦略に精通していたことや妖精の加護を最も受けた提督だったのも大きかった。
……今思えばあの参謀たちが司令のことを目の敵にしていたのはそういうことだったのかもしれませんね……
しかし、限られた人間しか持つことのできない提督としての素質は士官学校で優秀な成績を修めた軍人たちにはどれだけ努力しようとしても与えられるものではなかった。
今まで優れた軍人として自分たちこそが人類を救う英雄になると努力をしていたのにも関わらず、まるで神様の気まぐれの様に自分たちにはない素質を持つ他人にその前提が与えられるのだ。
面白いはずがない。
彼らの目にはただ偶々素質に恵まれた人間が自分たちの夢や栄光を掠め取ったと映ったのだろう。
でも……だからこそ司令たちが選ばれたんでしょうね……
だけど、そういった参謀たちの僻みから私は司令たちがどうして妖精たちに選ばれたのかが理解できてしまった。
司令に嫉妬してきた人間たちの多くは既に祖国やそこに住む国民たちではなく自らの栄光だけを求めていた。
恐らく、彼らが仮に艦娘の提督としての能力を持っていても、彼らは自らの虚栄心の為だけに私たちを犠牲にしていただろう。
つまり、妖精たちはそれを感じ取って彼らの様な人間を選ばなかったのだ。
……一応、一夏さんと篠ノ之さんに忠告しておきますか
他人のことを強く言えないが、私は一夏さんと篠ノ之さんに司令たちと同じ立場を感じてしまった、
あの二人は他の専用機持ちとは異なり、特例で専用機持ちになった。
あの参謀たちの様な人間が現れないとは限らないだろう。
「By the way.
ユッキ―あとどれぐらいで着きますか?」
妖精の存在と提督としての素質について考えを巡らしていると金剛さんがこの場においては最も考慮すべき帰還までの時間を訊ねてきた。
流石、金剛さんだ。
この場においては所要時間は最も重要なことだ。
時間がかかればかかる程敵との接触の可能性も高まる。
「……恐らくですが40分近くかかると思います」
私はこのまま航行をした場合の所要時間を口に出した。
飛べば水の抵抗や潮の流れもないこともあり、もっと早く着くが今は金剛さんを連れていく必要もあってそれは出来ない。
それに私自身「銀の福音」の攻撃でスラスターを破壊されており速度を出せない状況だ。
危険な状況だ。
「……そうですか。
ユッキー。もし航行が苦しいのであれば私が引っ張っていきマス」
「……!」
私は自分が足手纏いになっていることに悩んでいると、金剛さんが私を曳航していくと提案してきた。
「今のあなたは怪我をしていマース
それにどうやら彼女は艦載機の化身らしいデス。
ですので、私だけがあなたを曳航していますので遠慮なく頼ってくだサーイ!」
「金剛さん……」
金剛さんは今自分が置かれている状態が分かっていないけれどもそれでも出来る限りのことをしようとしてくれている。
普通は戦艦を曳航するのに駆逐艦を使うことはあるけれども彼女は逆のことをしてくれようとしてくれている。
「……変わりありませんね……」
その周囲への変わらない優しさを振りまく姿に私は神通さんと並んで目標にしたのかを改めて確認させられた。
この人はいつも優しいのだ。
一見すると楽天家のように思えるが、その実誰よりも周囲のことを見ており誰よりも強い慈愛を持っている。
だから、私そんな彼女の様な強くて優しい艦娘になりたいと思ってしまったのだ。
「Yes!私は常に全力デース!!
それに……きっとあの娘もあなたには生きていて欲しいと思っているはずデス」
「……っ」
金剛さんのその言葉に私は心を強く揺さぶられた。
それは後悔であり罪悪感であり感謝でもあった。
金剛さんは変わらず私が守れなかった自らの妹である比叡さんの為にも生きて欲しいと言ってくれた。
今でも私の心の奥では比叡さんを守れなかったことは消えることのない後悔だ。
だけど、金剛さんの言う通りあの時の比叡さんが私や時雨ちゃんたちに生きていて欲しいと願っていたことも理解してしまっている。
それなのに……私は……
私は確かに戦い抜いた。
結局は最期まで戦い続けて今も戦っている。
今の私を見て比叡さんはどう思うのだろうか。
彼女が守ってくれたこの命を無駄にしてしまったのではないかと私は彼女を守れなかった後悔と共に感じているのだ。
「ユッキー!」
「……金剛さん?」
私がまた塞ぎ込もうとした矢先、金剛さんが声を掛けてきた。
「……ユッキー。
あなたがどの様な生き方を選んだとしてもきっとあの娘は誇らしく思っているはずデス」
「え……」
彼女は唐突にそう言った。
「あなたは何処か昔よりも思い詰めていマス。
だけど、それは全てあなたが選んだ道デス」
「………………」
金剛さんは少し突き放した様な言い方をしてきた。
だけど、彼女の言っていることは紛れもない事実だ。
私が既に限界を迎えていたのに艦娘を辞めずに司令や榛名さん、神通さん、さらには約束を交わした初霜ちゃんたちの気持ちを裏切って人間として生きなかったのは私の意思だった。
だからこそ辛いのだ。
色々な人が望んでいた平穏な道を選ばないでその人達を悲しませてしまったことが。
「……でも、私はその生き方は比叡が守ったあなたの生きた証だと思っていマス」
「え……」
けれども、次に出てきたのはまるで私の生き方を肯定するような言葉だった。
私はそれを素直に聞き容れる訳にはいかなかった。
何故なら、彼女の言う通り私が今この場にいるのは比叡さんが自分を犠牲にしてでも生還させてくれたからだ。
それなのに私は自分で自分の命を縮めてしまった。
比叡さんに顔向けが出来ないのだ。
「……きっと、あなたの今までの人生はtoughなものだったデショウ。
デスが、あなたはその中でも多くのことを残してきたデショウ?」
「!?」
「あの娘が守った生命が何かを残してくれタ。
それだけであの娘の人生には何かしらの意味があったはずデス」
「………………」
金剛さんの諭しに、いや、心の中に秘めていた感情を私は否定できなかった。
いや、否定したくなかった。
何故なら、それを否定するということは私を守るため死んだ比叡さんの選択を無意味だと断じていることに他ならない。
私はなんてことを……
今更になって私は自分が無自覚のままに比叡さん、いや、彼女以外にも再び出会えたとはいえ神通さんや時津風、磯風、そして初霜ちゃんたちの想いすら無下にしようとしていたことに気付いた。
そうだ。確かに私は自分の命を縮める様な馬鹿なことをして司令たちを悲しませてしまった。
でも、その軌跡を私自身が否定するということは私を助けてくれた彼女たちの選択すらも冒涜することになる。
比叡さんたちがしてきたことは無駄ではなかった……!
私は心の奥底で自分が自棄になっていたと考えていた。
しかし、それでも私のあの世界での三十年間の生涯は無駄ではなかった。
あの娘たちという……
新しい希望を育てること出来たんですから……!!
私が中華民国で育てた教え子たちはきっとあの世界の人類を守る力になっていくことになるだろう。
かつて私が神通さんや比叡さんたちに託された様に。
そして……私が、いいえ、私たちがここにいるのにも何か意味があるはずです……!!
同時に私は自分がこの世界に来たことに何かしらの意味がある気がしてきた。
「深海棲艦」。この世界の人間として生まれ変わった神通さん。そして、死んだはずの私や金剛さん。
本来ならば無関係なはずのあの世界の存在がこの世界に現れたのだ。
そこには必ず何かしらの意味があるはずだ。
せめて、この世界の人たちに「深海棲艦」のことを教えなくては……!!
私はこの世界で出来ることをしたい。
今、私が生きていられる理由を作ってくれた人たちの為にも。
そして、この世界で出来たかけがえのない人たちの為に私はこの世界で戦いたい。
「……金剛さん。
ありがとうございます」
私は今まで心の中で後悔していた。
金剛さんはそんな私の後悔の一部を取り払ってくれた。
もし、彼女が行ってくれなかったら私は戦うことへの義務感に押し潰されていただろう。
「Yes!ようやくユッキーらしい顔になってきましたネ?」
「え……?」
私の感謝の言葉に金剛さんは嬉しそうにしてきた。
「ユッキー。
あなたには笑顔が一番似合いマス!
思えば、提督と一緒にあなたを初めて見た時に私たちはPricelessnessなものを見れたと心の底から思いましタ!!」
「ちょっと!?金剛さん!?」
金剛さんはまるで可愛がっているないしは可愛がっていた親戚の子供が成長した時にその子供の幼い頃の話を懐かしむ様な語りをしてきた。
「え?雪風って可愛いですけどそんなに昔も可愛かったんですか?」
「え!?シャルロットさん!?」
「Yes!
ユッキーはまさにAngelでしタ!
Tea timeに招待した時のクッキーやケーキを前にした笑顔やそれを頬張る際の顔は最高でしタ!!」
「金剛さん!?」
昔の私に興味を持ったのかシャルロットさんが訊くと金剛さんはまだ私が落ち着きを持っていなかった時の幼かった頃の話を持ち出し、私は一夏さんに横抱きにされた時や最近の水着騒動の際に感じたものとは別の恥ずかしさを感じた。
「そうなんですか!!
じゃあ、雪風には沢山可愛い服を着せたいです!!」
「えっ」
「Wow!!Nice idea!!
是非とも頼みマス!!」
「ちょっと二人とも!?
なんでそんなにすぐに意気投合してるんですか!?」
会って間もないそれも未だに戦闘域の中にいるというのに彼女たちは私に色々と服を着せることに共感し楽しみにしている。
「だって雪風って割と大人びているからそんな一面があるって知ったら意外で」
「そうなんですカ?
確かにユッキーはQuteからPrettyになっていますからネ……
では、帰ったらTea timeにしましょう!!その時にユッキーの話をしマス!!」
「恥ずかしいのでやめてください!?」
昔の私を知らないシャルロットさんにとっては昔の私の話は大変興味深いらしく、金剛さんに至っては彼女特有の身内を可愛がる癖で私のことを親バカにも近い感情で私の幼い頃の話をしたくてうずうずしている。
私は幼かった頃の自分と今の私との違いがあり過ぎることで何か背伸びしている様に思われる気がして恥ずかしくて仕方がなかった。
これはあれだ。子離れ出来ない親に友人に色々と話される時に感じるという人間の思春期特有における試練の一つなのだろう。
こ、金剛さん恐るべし……!!
金剛さんのその出会って間もない人とでも直ぐに打ち解け、ただ好意しか向けない彼女の明るさに私は圧されてしまった。
でも……そんな彼女だから皆、戦うことに励まされるんですよね……
しかし、その彼女の明るさと誇りに満ちた心が在るからこそ近くにいる人々は勇気が湧いてくるのだ。
まだ、私は戦えます……!!
金剛さんが来てくれた。
彼女のお陰で後悔に引っ張られていた私は前に足を踏み出せた。
まだ私は戦えることを実感した。
「……!」
「……!!ユッキー!」
その時だった、再び前からあの忌々しい音が聞こえてきた。