奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第82話「煙の先」

「お二人とも、手筈通りにお願いします」

 

「うん」

 

「Yes!折角、ユッキーの考えてくれたTacticsなのデース!

 必ず成功させてみせマース!!」

 

 これから目の前の敵を突破する為の作戦を金剛さんとシャルロットさんに託したところ二人は了承してくれた。

 特に金剛さんに至っては戦艦である彼女にとっては駆逐艦である私の意見を聞き入れてくれた。

 いや、むしろ彼女は嬉しそうに乗ってくれている。

 

 恐らく、いえ、間違いなくこれならば突破できるはずです!

 

 私の考えた作戦は余りにも稚拙で単純だ。

 しかし、それ故に相手の不意を突ける。

 

「来た……!!」

 

「!」

 

 私たちが歩みを進めると敵は当然ながら自らの航空戦力を向けてきた。

 

 やはり、此方に空母がいないと戦隊規模でも空母は脅威です……!

 

 目の前にはヲ級は二隻しかいない。

 だけど、空母がいない此方側にとってはそれだけでも脅威になる。

 

 まだです……

 

 私は近づいて来る敵の艦載機を眺めながらある瞬間を待った。

 幸い、相手には戦艦がいない。

 どうやらあくまでもあの部隊は討ち漏らした敵を撃破するための待ち伏せ部隊らしい。

 ただその点においては手負いの私とシャルロットさんにとっては十分だ。

 

 だけど、お陰で希望が見えてきました……!!

 

 元々、一か八かの賭けであったが今の状態で成功の可能性が跳ね上がる。

 

 あと少し……!!

 

 敵機との距離が徐々に近付いたが私はそれでも待った。

 仮にここにいるのが新兵だけならばこの緊張感に耐えられずこの瞬間に撃っていただろう。

 

 今……!!

 

 だけど、此方にいる海の古強者である彼女がいる限りあり得ないことだ。

 

「Fire!!」

 

 敵機が此方の射程範囲に入った瞬間、それらの魚雷が撃ち込まれる寸前で金剛さんが絶好の瞬間に三式弾を放った。

 結果、敵に先ほどの不意打ちよりは少ないが、十分に引き付けことで幾らかの打撃は与えられた。

 

「まだまだいきマース!!」

 

 よし、このまま……!!

 

 その後、金剛さんは間髪入れずに三式弾を叩きこんだ。

 その結果、私たちと敵の部隊との間には金剛さんの主砲からのものと三式弾による煙によって遮れた。

 これを見て私は

 

「シャルロットさん!今です!!」

 

「う、うん……!!」

 

 今こそが仕掛ける時だと判断してシャルロットさんに号令をかけた。

 シャルロットさんは引き絞った弓矢から放たれた矢の様にそのまま海面すれすれを低空飛行しながら飛んでいった。

 敵が上空にいて制空権が握られている状態での低空飛行。

 このままで明らかに上空から狙い撃ちにされるという自殺行為にも等しいこの作戦。

 だけど、今はそうはならない。

 

 今なら煙で見えません!!

 

 今、シャルロットさんの飛行している場所は金剛さんの砲撃によって生み出された煙によって前方の敵だけでなく、上空の敵からも隠れている。

 これならば敵の部隊に容易に近づける。

 

 ◇

 

 すごい……

 

 雪風の作戦通りに僕は敵に確認されないままに近付けている。

 雪風の立てた作戦は正しかった。

 

 やっぱり、雪風って本当に軍人だったんだ……

 

 冷静なままに直ぐに作戦を考えられた雪風を見て僕は彼女が本当に長い間戦っていた軍人だったことを否応にも理解させられた。

 

 見えた……!

 

 黒煙がようやく途切れて僕は目の前の敵を確認した。

 敵はどうやら、僕が接近したことに理解できず混乱し出している。

 このままいけば間違なく雪風の言う通り勝てるかもしれない。

 

 でも、今から僕のすることって―――

 

 だけど、雪風に任された役割について僕は踏ん切りがつかない。

 

 ―――相手を……殺すってことだよね……

 

 雪風に任された役割。

 それは敵の前で急上昇してそのまま彼女に持たされたロケットランチャーやグレネードを全て敵に投下することだった。

 たったそれだけのことの筈なのに僕は躊躇いを覚えてしまった。

 

 でも、やらないと……!!

 

 だけど、迷いを胸の中にしまって僕は敵の目の前で上空に上がった。

 雪風は目の前の敵、「深海棲艦」のことを倒さなくてはならない敵だと語った。

 あの優しい雪風が倒すしかないと言っているのだから話し合いの余地が存在しないのだろう。

 

 やらなきゃ……やらなきゃ……!!

 

 僕は自分の心に命令するように念じた。

 そうしないと僕だけでなく背後にいる雪風や金剛さんも殺される。

 それだけを考えるようにした。

 

 今……!!

 

 僕は敵の頭上、それも絶対に避けられない高さまで詰めるとそのまま全ての爆弾を投下しようとした。

 しかし

 

「………………」

 

「うっ!?」

 

 僕のことを見上げた人の形をした敵の顔を見て僕はそれを忘れてしまった。

 

 ダメだ……僕には―――!?

 

 頭でやらなければならないと分かっている。

 だけど、いざその瞬間に敵の顔を見たことでそれが出来なくなってしまった。

 

「……っ!?

 シャルロットさん!?」

 

「―――え?」

 

 雪風の叫び声が聞こえた直後だった。

 

「がっ!?」

 

 突然何かに首を掴まれた。

 そして、そのままその何かは掴んだ僕の首を握り潰すように力を込め始めた

 何が起きているのかと視線を前に向けるとそこには

 

「ァア……」

 

「………………」

 

 無表情に僕の首を片手で掴んでいる大きな帽子を被っている蒼白い幽霊の様な少女がいた。

 その少女は怒りをぶつけるのでもなくただただ機械的に僕の首を締めあげた。

 

 ああ……そうか……この人達にとっては僕は―――

 

 僕は自分のしてしまった大きな過ちに気付いてしまった。

 

 ――殺すだけの存在だったんだ……

 

 それは相手にとって自分は取るに足らない殺すだけの存在であり、それ以上でもそれ以下でもなかったことを理解していなかったことだった。

 

「シャルロットさん……!!」

 

 遠くで、いや、最早そう聞こえる程に雪風の声が小さく聞こえた。

 その声に焦りと必死さ込められており僕を助けようとしてくれているのが痛いほどにわかる。

 だけど、その声は全く大きくなることはなく彼女が僕を助けられないことを心の底から理解させられた。

 

「かはっ……!?」

 

 雪風すらも助けに来れない。

 そのたった一つの事実によって僕の絶望は確実なものに変わった。

 

―エネルギー残量残り10%―

 

 嫌だ……死にたくない……

 

 このままエネルギーが尽きて首を折られるか、その圧力で首と身体が分かれるか、その前に窒息できるかそんな運命しか僕には残っていなかった。

 自分が死ぬ。

 それが避けられないものになっているという事実がただただ怖かった。

 

 嫌だ……助けて……

 雪風……一夏……誰か……

 

 迫る死とそれとは対照的に遠のいていく意識の中で僕は僕に生きたいと思わせてくれた友達に助けを求め続けた。

 

 お母……さん……

 

 そして、最後に僕が縋ったのは既にいない生まれた時からずっと守ってくれた唯一の存在だった。

 

 ◇

 

「シャルロットさん……!!」

 

 途中まで作戦通りにいき、後はシャルロットさんが作った爆発の中を進んで敵を突破しようとした矢先、立ち込める煙の中から聞こえてこなかった爆発音に訝しみながら煙の先へと進んだ先で私が目にしたのはシャルロットさんがヲ級によって首を絞められそのまま殺されそうになっている最悪の光景だった。

 それを見て私は我を忘れて助けに向かおうとしたが

 

「……!?

 ダメネ!!ユッキ―!!」

 

 金剛さんによって止められそれは不可能だった。

 

「っ!?

 離してください!!このままじゃシャルロットさんが!?」

 

 私は彼女の拘束を振りほどきそのままシャルロットさんの方へと向かおうと必死だった。

 

「ユッキー……―――

 ―――っ!?」

 

「!?」

 

 だけど金剛さんの静止だけでなく煙が晴れたことでシャルロットさんの接近による動揺から持ち直した敵の部隊と視界を復活させた敵の艦載機の攻撃により今度は避けることに流石の金剛さんも前と上からの攻撃の最中に私を庇いながら砲撃することは出来ず接近することもままならなかった。

 

 私のせいで……!!

 

 またしても私の立てた作戦のせいで人が、それが友達が死のうとしている。

 完全に私の考えが甘かった。

 私は「深海棲艦」のことを説明したことで「深海棲艦」の危険性を完全にシャルロットさんが理解できていたと勘違いしていた。

 だけど、それは違った。

 

 この世界の人と私の世界とでは違うのに……!!

 

 相手が自分たちを殺しに来る。

 だから、倒すしかない。

 私たちの世界ではそうするしかなかった。

 だけど、この世界にはそれ以外の方法が多くある。

 相手を滅ぼすことに躊躇してしまうなんてことはこの世界では当たり前のことだ。

 誰かを守る為に自らの暗部としての生き方を全うする更識さん。

 元々、戦う力として生まれてきて最近になって日常を知ることが出来たラウラさん。

 恐らく、一夏さんを守る為ならば全てを敵に回す姉としての覚悟を持っているであろう織斑さん。

 そういった特別な背景を持っている人たち以外にとってはこの世界では他の生命を奪うということは簡単に割り切れないことであるはずなのに私はそれを失念していた。

 

 特にシャルロットさんは……!!

 

 シャルロットさんは特にそれが顕著だ。

 転校してきた時から一夏さんと私たちで説得する間での彼女の様子でそれは伺えることだった。

 シャルロットさんがあそこまで人生に諦観していたのは最愛の母親を失い、実の父親を頼ることが出来なかっただけでなく、彼女が他人を押し退けてまで生きることを選べなかった優しさがあったからだ。

 何よりも私があの時の一夏さんに対する女性の横暴な態度でこの世界の「女尊男卑」で悲しみを抱いていた私に彼女は寄り添ってくれた。

 そんな彼女の優しさを知っていたはずなのに私は彼女を死地へと送り込んでしまった。

 

 やめて……

 

 私は首を絞められ藻掻き続け既に力を失いつつある手の代わりに目を向けて助けを求めるシャルロットさんを見てしまった。

 

「やめてええええええええええええええええええ!!」

 

 またしても大切な人を奪われる。

 それも今度は自分が死地に送り、そして、助けを求める人を奪われるという今まで経験したことのない二度とと立ち直れないであろう恐怖と絶望が私の中で生まれた。


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