奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第83話「生死の分かれ目」

 シャルロットさんの死にゆく姿を前にして再び「深海棲艦」に大切な人を奪われるという絶望に飲み込まれそうになりながらも懸命に彼女の下へと向かおうとするが砲撃と上からの爆撃によって私は近付くことも出来なかった。

 

 どうして……どうして……!?

 

 この世界に来て、いや、あの戦いの後に「深海棲艦」の勢力が弱まり二度とこの悲しみは訪れないだろうと私は心の中でそう思っていたのか、過去の傷と新たに訪れる絶望によって心がどうにかなってしまいそうだ。

 

 お願い……もう……やめて……

 

 そんな祈りが通じる相手じゃないことは嫌というほどに理解している。

 だけど、それでも縋ってしまう。

 

 誰か……助けて……!!

 

 私はまたしても誰かに、いや、誰でもいいからシャルロットさんを助けて欲しいと願った。

 シャルロットさんはこの世界の人間だ。

 それなのにどうして関係のない「深海棲艦」に殺されなくてはならない。

 もし私が関わったことで運命が混ざったのならばもう彼女、いや、この世界の全ての人たちと関わることを禁じられてもいいからその代償として彼女の命を奪うのはやめて欲しい。

 彼女は何も悪くない。

 

「……!?

 ユッキー!!伏せてください!!」

 

「え?」

 

 突然、金剛さんは何かに焦ったのか私に伏せる様に言ってきた。

 この敵の爆撃が降り注ぐ中で動きを止める様なことに対して、彼女の咄嗟のその言動に理解できなかったが彼女に無理矢理海面に身体を押し当てられた。

 そして、その直後だった。

 

「!?」

 

「ぐぅ……!?

 What's happen!?」

 

 私たちの頭上で多くの何か、いや、敵の艦載機が爆ぜたような音と熱気が生じた。

 一体、何が起きたのかは分からなかった。

 それは咄嗟に何かを感じて私に伏せる様に指示した金剛さんも同じだった。

 

「!?

 金剛さん!!」

 

「……!!」

 

 だけど、私はこの瞬間を見逃さなかった。

 

「OK!Fire!!」

 

 金剛さんは迷うことなく砲撃した。

 それはこの場にいる全ての存在が気を取られた瞬間だった。

 私たちも敵も何が起きたのか、いや、敵にとってはむしろ艦載機を潰されたという意味では動揺するしかない状況だった。

 その瞬間全ての存在から戦いの概念が消えた。

 それは他の誰よりも先に主導権を握ると言う競争だった。

 そして、その瞬間を私と金剛さんは奪い取った。

 たった一瞬。だけど、この一瞬でも伊達に三十年間も戦ってきたわけではない私と、誰よりも古強者の名前に相応しい金剛さんの前では十分なものだった。

 その証拠に金剛さんは私の意を汲み取ってくれた。

 こんな距離での砲撃など金剛さんからすれば外すことの方が奇跡だ。

 彼女の発射した砲弾はシャルロットさんを捕らえているヲ級に迫り自らに近付くその砲撃を目の当たりにしたヲ級はただ目をカッと開くことしか出来なかった。

 結果

 

『――――!!?』

 

「ゲホっ……!!」

 

「シャルロットさん……!!」

 

 ヲ級は姫や鬼とは異なり声にならない甲高い声を上げその痛みにのたうち回り、シャルロットさんを絞め殺すことなど忘れて彼女を解放した。

 

「ユッキー!!!」

 

「……!はい!!」

 

 それを見て今度は私が金剛さんの意を汲み取り敵に向かって突撃した。

 

 あの人たちもこの覚悟で……!!

 

 私は駆逐艦、それも満身創痍で敵に向かうことに対してあのレイテで味方の軽空母と後に続く仲間たちの為に奮戦した異国の小さな勇者たちを胸に抱いた。

 彼女たちの覚悟がなければ、私たち、いや、人類の勝利はなかっただろう。

 

 でも、私だって仲間を思う気持ちは負けてません……!!

 

 今、空中での出来事と金剛さんの砲撃、そして、空母への打撃によって敵陣は乱れている。

 そこに秩序は存在しない。

 あらゆる所に戦火は燻り死が散らばっている。

 だけど、同時にそこにはこの私の小さな体が入り込める空白も点在している。

 後は集中して必ずシャルロットさんを助け出すということだけを一念を貫くだけだ。

 

『!?』

 

「……邪魔です!!」

 

 懐に入ってきた敵の存在にもう一隻のヲ級が顔を歪めたが如何に空母と言えども、最大の武器である艦載機がここにおらず、そして、「深海棲艦」特有の怪力も警戒すれば恐れることはなく、むしろ、他の艦よりも抜けるのは容易かった。

 

『―――!!』

 

 シャルロットさんを目前にして彼女を捕らえていたヲ級が私に強い敵意を向けて立ちはだかった。

 どうやら私がシャルロットさんを助けに来たことを理解した上でこのまま差し違えるか、この場でただ私の足を止めるつもりらしい。

 ここは敵の真っ只中だ。

 少しでも足を止められれば直ぐに死ぬことになるだろう。

 それでも私は

 

「……っ!!」

 

 残っていた最後の装備である改修で取り付けられた刀を抜いた。

 はっきり言えば、「IS」用の刀で空母と言えども「深海棲艦」の鋼鉄ともいえる装甲の肌を貫くなど不可能だ。

 しかし、それが唯一可能な箇所がある。

 

 金剛さんの作った傷を狙えば……!!

 

 そこは先ほどの金剛さんの砲撃によって生じた破損箇所だ。

 「深海棲艦」と普通の軍艦の最大の違いは生物か無機物であるかの違いだ。

 つまり装甲の下ならば普通の人間や艤装を纏った私たちと同じだ。

 

 白兵戦は慣れてませんが……!!

 

 近距離での砲雷撃戦ならば遅れは取らない。

 だけど、不慣れな「刀」では上手くいくかはわからない。

 その時だった。

 

『左手の小指の付け根で端を挟んで当てる瞬間だけ力を入れろ!!』

 

「!」

 

 戦闘で初めて刀剣の類を使う私にすら理解できる程のその言葉が「プライベート・チャネル」から聞こえてきた。

 私は言われるままに左手の小指の付け根だけに力を入れ刀の端をヲ級の破壊されているひび割れた胸にその切っ先を向けた。

 

 後はいつも通りに……!!

 

 刀なんて使ったことがない。

 だけど、射程の違いがあるだけ後は得物の距離と標的が一致することを思うだけだ。

 そんな砲雷撃戦の要領で私はヲ級に向かった。

 

『―――!!』

 

 私の様子を見てヲ級は忌々し気に私を睨み付ける。

 恐らく、刀で自分を倒そうとすることに対して身の程知らずと憤慨しているのだろう。

 だけど

 

『―――!!?』

 

「……どんな時でも敵を過小評価したらダメなんですよ」

 

 それが命取りとなった。

 私の向けた刀身は生々しい肉の感触を残しながらヲ級を貫いた。

 初めて感じる砲撃とは異なる形での生命を奪い取る感覚に戸惑いを覚えたが私は直ぐにそれを捨てた。

 

「シャルロットさん……!!」

 

 私はここが未だに戦場にも拘わらずただがむしゃらに彼女に手を伸ばして彼女を救出した。

 

「……雪……風……?」

 

 生きてる……よかった……

 

 私は彼女を抱きしめたまま敵の艦隊の後方まで進むと彼女は朧気ながらも意識を取り戻し私のことを呼んだ。

 どうやら自分が生きていることすらも分かっていない様子だった。

 そのことに私は安堵を覚えた直後だった。

 

「う……」

 

「シャルロットさん……?」

 

 目をパッと開き

 

「うわぁああぁああああああああ!!!」

 

「シャルロットさん!?」

 

 突然、私にしがみついてきた。

 

「怖かった……!!怖かったよ……!!雪風……!!

 うわああああああぁぁあああぁああ!!」

 

「っ……!」

 

 彼女は先程まで感じていた初めての死への恐怖を泣きじゃくりながら打ち明けてきた。

 その訴えに私は耐えられなかった。

 

「……ごめんなさい」

 

 彼女がこんな目に遭ったのは私のせいだ。

 唯一突破が可能な手段がこれしかなかったというのに私は彼女に押し付けてしまった。

 だけど、そんなことは言い訳にならない。

 

「ごめんなさい……!!」

 

 彼女がそう思うのは当たり前だ。

 死ぬのは誰であって怖いはずだ。

 それも敵が底なしの敵意と悪意と殺意を向けてきたのだ。

 怖いはずがない。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」

 

「うぅううぅ……」

 

 彼女は私を責めない。

 だけど、彼女は泣き続ける。

 本当に怖かったのだ。

 彼女の心に付けてしまったこの深い傷に私はどう償えばいいい。

 

「二人とも、逃げマスヨ!!」

 

「「!?」」

 

 私が謝罪を、シャルロットさんが恐怖を訴えていると敵をどうやら突破したらしい金剛さんが近付いて来て私とシャルロットさんを両脇に抱えて運び出した。

 後ろを眺めるとどうやら金剛さんでもあの敵を全て倒し切ることは出来なかったらしい。

 しかし、残りの敵の様子を見ると彼女は二隻は轟沈しているうえに残りの敵も大破していることからやはり金剛さんのその高い実力を改めて実感させられることになった。

 

「Hoo……やはり、制空権を奪われた状況では倒し切れませんネ……

 当初の予定通りに逃げマース」

 

「了解です」

 

 金剛さんが敵を全滅させきれなかったのはやはり制空権を取られているこの戦場では砲撃戦に集中できないのが原因だった。

 

「デスが……

 あの敵の艦載機を撃墜していた赤い光は何だったんでしょうカ?」

 

「………………」

 

「え……」

 

 金剛さんはどうやらあの敵の艦載機を撃墜したものの正体を目にしたらしい。

 それを聞いて私は確信した。

 

「……大丈夫です。金剛さん」

 

「?」

 

 今の金剛さんの証言。そして、「プライベート・チャネル」から聞こえてきた刀の持ち方の説明。

 それらが意味するものは簡単だった。

 

「彼女は味方です」

 

「!?」

 

 どうやら、彼女が来てくれたらしい。

 まさか、一度ならず二度までも助けられるとは思いもしなかった。

 それも全て私が再び大切な人を奪われそうになった瞬間に来てくれるとは。

 

『陽知!!

 デュノアを私の―――いや、右の方へ……!!』

 

「この声は!?」

 

「!?」

 

 今度は「オープン・チャネル」から確かに聞こえてきた。

 その声の主の登場にシャルロットさんは驚き、事情をよく知らない金剛さんは困惑した。

 だけど

 

「金剛さん!!

 シャルロットさんを指示通りに!!」

 

 彼女がしようとしていることを把握した私は彼女に言われるままに金剛さんにシャルロットさんを彼女が受け止められやすい方に移動させるように伝えた。

 

「……わかりました!!

 シャルロット!少し、心の準備を……!!」

 

「え」

 

 死の恐怖を経験したばかりの彼女には酷なことであると思うが、今からやることは荒っぽいことだ。

 

「Go!!」

 

「え、うわあぁあああ!!?」

 

 金剛さんは彼女を投げ飛ばした。

 金剛さんはその可憐な容姿に見合わず力づくで彼女を右腕の力だけで投げ飛ばした。

 

『金剛さんのことを舐めてはいけない。

 昔、おいたをした時に海に投げ落とされた』

 

 長門さん含めた戦艦の人々は普段温厚でそんなことをしそうにない金剛さんから想像できないことを語っていたが今のを見て私はそれが嘘ではない気がしてきた。

 とそんな与太話にしか思えなかった話に真実味が帯びた時だった。

 

「ぐっ……!!」

 

「うわ!?」

 

 彼女は確りとシャルロットさんを受け止めてくれた。

 

「陽知!今度はお前だ!!

 早く手を!!」

 

「……!!」

 

 シャルロットさんを受け止めてくれた彼女は、いや、篠ノ之さんは今度は私を回収しようと手を伸ばすように指示してきた。

 それを聞いて私は

 

「金剛さん!!

 片方の手にこれを巻き付けてください!」

 

「……OK!!」

 

 金剛さんに千切れた「錨鎖」を手に巻き付ける様に指示をし、右手を篠ノ之さんの方へと伸ばした。

 そして、その直後

 

「……ぐっ!!」

 

「……掴んだ!!」

 

 彼女が私の手を掴み私と金剛さんの身体は空へと浮かんだ。

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