奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「IS」が初心者でも動かせるご親切設計なのか、それとも一夏に適正以外に相当な才能があるのか
よくわからないんです……
「う、うそ……」
私は予想外の物を見て驚愕してしまった。
「お、お嬢様……これは……」
虚ちゃんもまた、同じ物を目にして驚きの色を隠せずにいた。
「信じられない……」
私も虚ちゃんも目の前のことが信じられなかった。
なぜなら、私と虚ちゃんの視線の先、そこではなんと
「どうしてそんな姿勢で……あそこまでスムーズに動かせてるの!?」
「IS」初心者である雪風ちゃんが極めて稀にしか見ることのないほとんど直立した状態でまるで地上を滑るかのように高スピードで本当に地面を滑っているかのような移動をしていたからだ。
「よし!移動の仕方は大体「艤装」と変わりがありませんね」
私は更識さんに言われたとおりにとりあえずはこのアリーナを一周しようと思った。
動かし方はどうやら、「艤装」と変わりないらしく、身体全体でバランスを取り、その後は前に進もうと思えば移動できるらしい。
「あ、曲がり角です」
私は前方に曲がり角を確認してなるべく最小限の動作で曲線を動かせるように体の重心を右に移しながら曲がった。
「普通の移動は何とかなりましたが……問題は飛行ですね……」
「IS」の戦いにおいてとりあえず、砲雷撃戦に似た攻撃ができる移動手段ができたにはできたけど、問題となるのは「IS」最大の利点である
かつての戦い、いや、「あの作戦」の生き残りである私にして見れば、制空権の有無は嫌でも誰よりも身に染みている。
それに飛行戦術を学べると言うことはさらなる戦術の幅が広がることに等しいことだ。
今の私の移動手段は通常の砲撃戦では有効だが、近距離での雷撃を確実に当てるという点では確実性に欠ける。
しかし、空中戦を物にできれば、雷撃の命中率は確実性を増し私たち駆逐艦では不可能であった艦載機爆撃に近い一撃離脱の高速爆撃を可能にできる。
飛行か……私にできるんでしょうか?
私はまだ見ぬ飛行に不安だった。
妖精さんならばまだしも私は「艦娘」だ。
飛行は畑違いだ。
『私が信じられませんか?』
いや、こんなことで弱気になってたら……神通さんに怒られますね。
不安に駆られる私の脳裏に浮かんだのは荒れた海で訓練するというまさに鬼の所業に等しい訓練を言い渡しながら私たち「二水戦」が怖気ついてたら、私たちに少し、いや、大分卑怯な言い回しで訓練させた「華の二水戦」の旗艦の言葉だった。
よく考えてみれば、神通さんのあの言い回しは
『私が鍛えたあなたたち自身を信じなさい』
と言う意味だったのかもしれない。
そんな彼女の真意か今となっては解らないけれど、私はたまに弱気になる自分にいつもこう発破をかける。
「絶対、大丈夫!」
根拠のない自身だけれどそれが私の在り方だ。
たとえ、どれだけ時間が経っても私の師への「尊敬と感謝」の想いだ。
「……虚ちゃん、私初めて……「天才」ってものを見た気がする……」
「それは簪様の前では言われない方がよろしいかと思います」
雪風ちゃんの「IS」を使ってのとても初心者とは思えない移動を目にして私は思わず「天才」と言う言葉を口走ってしまった。
それに対して、虚ちゃんは否定はしないが、簪ちゃんの前では口に出さないようにと言ってきた。
私の妹である簪ちゃんは何かと言えば周囲からは私と比較されて育ってきたこともあって自信を持てないでいる。
だけど、はっきり言えば簪ちゃんの素質は周りの標準を優に超えている。
でも、だからこそ私は簪ちゃんを遠ざけないといけない。
あの子には
「しっかし、あのカーブの仕方……
まったく無駄がないわね……」
私は雪風ちゃんのカーブ曲がりを素直に感心してしまった。
普通、「IS」の初心者は曲がろうとする時にはどうしても急激なブレーキをかけて減速してしまう。
また、慣れない者は曲がり方も垂直になってしまい軌道も大きくなってしまう。
それでは相手の射撃武器のいい的だ。
それに対して、雪風ちゃんはスピードをぎりぎりまで保ち曲がり方も小さい。
もちろん、これが自動車やバイクならば危険運転で褒められたものではないが、あいにくこれは「IS」の運用だ。
雪風ちゃんのあの動き方は相手の攻撃を避けつつも相手の動向に目を配り、相手に対して攻撃の算段も立てられる。
雪風ちゃんの「IS」は見たところ、銃撃戦を主にした物のはずだ。そう言った点では理に適っている。
あ、そうか……
私は彼女の運用を見て忘れてはならないことを思い出した。
ああやって、
昨日の件で雪風ちゃんが「軍人」なのは知っていた。
けれど、私はそのことの重さをどこか実感できずにいたのかもしれない。
雪風ちゃんのあの走行手段はきっと、そんな世界における環境で培われたものなのだ。
『自分たちが一度たりとも戦場で死ぬことへの恐怖を感じたことない人間が力を持っているだけで威張るな!!』
あの言葉の重さが私にのしかかった。
「IS」や「核兵器」、「ミサイル」、「無人兵器」。
そう言った科学技術の発展で生み出された(「IS」に関しては篠ノ之博士だけの才覚限定かもしれないが)兵器は一瞬で多くの生命を奪い破壊をもたらす。
今や、戦争一つ起きるだけでたった数時間も経たないうちに世界が終わる時代だ。
だけど、「IS」を除く、いや、「IS」でさえも最早、味方の兵士を失わないで敵を一方的に倒せる戦争ができる手段となったことで、私はいつしか人々の間からそう言った「兵器」を持つことや使うことへの躊躇いすらもなくなってしまうのではないかと思えてきた。
実際、「IS」のもたらした影響もまた相手の反撃が来ないという慢心から「女尊男卑」なんて馬鹿らしい考えを生み出してしまった。
だけど、それは「兵器」だけに限ったことではない。
例えば、「人権」などもそう言ったいい例の一つだ。
「人権」は長い人類の歴史の中で自由を求めた人々が戦いの中で手にした大切な財産であり、同時に武器であり、尊ぶべきものである。
けれど、「人権」は耳障りのいい言葉で現実の中で汚いこともしなくてはならない人間を容赦なく「悪」に仕立てることのできる免罪符にもなり得る可能性もある。
簡単に言えば、『自分たちは「正義の味方」だから自分たちが「悪」だと思った人間は全員「悪」だ』と言う歪んだ考えを持った人間を多く創り出してしまう「兵器」同様の「諸刃の剣」なのだ。
今の時代で行き過ぎた「女性の権利」を主張する人間たちも所詮はそう言った相手が殴れないことをいいことに一方的に殴り続けるいじめっ子と変わらないのだ。
「あ~あ……まったく、雪風ちゃんが本当に眩しいわよ……」
「……?」
私も心のどこかで「更識」の名を背負っていると言う思い上がりの中で生きてきたかもしれない。
だけど、雪風ちゃんの辿ってきた道や彼女のそう言った真っ直ぐさに私は自分の小ささに涙が出てきそうだ。
「だけど……」
『こう言うのもどうかと思いますが、「帝国軍人」として……
いや、一人の人間として敬意を表します』
雪風ちゃんはそんな私のことを認めてくれた。
多分、雪風ちゃんのことだから、人にはそれぞれに背負うものがあるから、そんなことを一々気にしてたらそれこそ笑ってまた認めることだろう。
ちょっと、嬉しいかな……
ちょっと多少の嫉妬を感じるも昨日もそうだったけれど、今も、いや、今は昨日以上に嬉しく思えた。
「更識さ~ん!布仏さ~ん!
一周終わりました!」
「え、ええ……お疲れ」
「お疲れ様です」
私は「艤装」の移動の要領でとりあえず移動してみてなんとか一周できたが少し不安なことがあった。
「すいません。今のやり方でよろしかったでしょうか?」
「……え?」
「……はい?」
それは今の水上、いや、この場面では地上移動のやり方だ。
昨日見た「白騎士事件」における「白騎士」の動きは全て空中における動きばかりだった。
そのため、他に参考になるものを教本だけしか見ていないことから、私は「艤装」による水上移動を一応の参考にして見たのだが、もしかすると「IS」の移動の仕方としてはダメな部類なのかもしれない。
悪い癖は初めのうちに直しておく。
そうしないとそれが原因でとんでもないミスを招きかねないからだ。
「いえ、一応は自分が今までやってきた移動の仕方をやってみたんですが……
ダメでしょうか?」
戸惑う二人に私は確認を求めた。
やっぱり、この世界じゃダメなやり方なんでしょうか?
私は「この世界」の過去の人間ではないが、私の過去の戦場における戦いはこの世界では古いのではないかと思ってしまった。
この世界でもどうやら既に
私のやり方が古いのは仕方ないのかもしれない。
まあ、その時はその時です。
たとえ、水上戦が「時代遅れ」であっても関係ない。
その時は戦い方を変えるしかない。
だけど、どんなに戦いの舞台や方法が変わっても悲嘆するつもりはない。
戦い方や戦場が変わっても……「二水戦」で培った「水雷魂」は私の胸に刻まれています。
師や姉妹、仲間たちとの間で互いに切磋琢磨し続けた「二水戦」での日々は決して欠けることも砕かれることも色褪せることもない私にとってはかけがえのない日々だ。
そうですよね……矢矧さん?
私が「二水戦」から移行したあとに所属していた「第十戦隊」の旗艦を務め、私にとっては思い入れの強い軽巡の一人で後に実質上の最後の「二水戦」旗艦を務めた矢矧さんは、移り行く海から空への優位性にたまに私が不安を感じているといつもいつかの神通さんとは異なるやり方で
『主役から裏方になっただけで私たちのやることは変わらないわよ!』
と発破をかけてくれていた。
そして、奇しくもこの「IS」は彼女から「二水戦」の旗艦を受け継いだ初霜ちゃんの「艤装」を模したものだ。
だったら、私は
一人でも……私は「二水戦」です!
その航跡を最後まで目にしたものとして、そう言い放つつもりだ。
初霜ちゃんが解散を口にした後でも私の心から「二水戦」の誇りと航跡がなくなることはなかった。
幸い、この「IS」には魚雷に酷似した兵装や駆逐艦の主砲に似た火器が存在する。
だったら、「二水戦」で培った戦い方をある程度は応用できるのかもしれない。
「二水戦」で培った戦いを応用できるか、不安と期待の中で二人の返事を待っていると
「えっと……雪風ちゃんて……その……今まで、どんな……その、戦い方をしてきたの?」
「え?」
更識さんはまるで腫れ物に触れるかのような声で私の過去における戦い方を訊ねてきた。
「え?いえ、今みたいな水上走行をしながら主砲や高角砲を使って相手を砲撃したり牽制したりしてから、隙を見て魚雷で雷撃を叩き込んでいましたけど?」
一応、私は砲雷撃戦を知らない人でも解る様に駆逐艦の戦い方を噛み砕いて説明した。
「……じゃあ、雪風ちゃん。
念のためだけど、そこにある並んであるコーンの間を倒さないようにして移動してみてくれないかしら?」
すると、彼女はアリーナの中央に置いてある円錐型の工事現場などでよく見られるコーンが「IS」を纏った人間が入れるほどには間隔が空けてある十個ほどの列を指さして新たな指示を出した。
「はい、わかりました!」
まだ「二水戦」の戦いができるかは解らないが、「IS」に関しては彼女たちの方が一日の長どころか、それ以上の経験があることから私は素直に従い、コーンの列に向かって移動を開始した。
対空戦を思い出しますね……
コーンを目の前に私が思ったことは空から襲い掛かってくる敵の艦載機の爆撃や銃撃を避ける蛇行走行だった。
はっきり言えば、駆逐艦は装甲は薄いのでちょっとした一撃で致命傷に至るほどに他の艦種よりも打たれ弱い。
そんな中で空爆はもちろんのことだが、砲雷撃戦も当たれば致命傷になるのは自明の理だ。駆逐艦にとっては足を止めるということは死に直結することに他ならない自殺行為だ。
また、同じ水上戦力が相手ならともかく、私たちよりも圧倒的に速さに勝る航空戦力相手に直線的な動きは追い越されるのは当たり前だし、速さで負けるということは相手のいい的になってしまうことにもなる。
だから、軽巡や駆逐艦には陣形を崩さない程度には蛇行戦術が許されていた。
「いきます!」
私はまずはこの「IS」の性質上、最も使用する頻度が高いと思われる右手の単装砲を使用しやすい移動の仕方としてコーンの左側に回って二つの目のコーンとの間を右腕を自由に動かせるように腰の回転を使って最小限の動きでくぐった。
……次!
一つ目は難なくくぐった。
しかし、問題はこれからだ。
一つ目は空間的に多少の余裕があって方向転換も可能だった。
だけど、二つ目以降は即座に反転を何度も繰り返していかなければならない。
特に初霜ちゃんの「艤装」は性質上、右手で牽制を行い左手の連装砲ないしは魚雷による本命を叩き込む戦いを主とする。
つまりは、今の一瞬で右手で単装砲で放った砲撃の後に追撃を仕掛けた後には隙が生まれるためにすぐに相手の射線上からの離脱が求められる。
そして、二つ目のコーンの傍を通る際に私は重心を左後方にかけて二つ目と三つ目の間に入った。
……やりました!
二つ目も成功した。
実のこと、こんな急な動きができたのは久しぶりのことだった。
私は既に時の流れで身体と「艤装」にはガタが来ており、ここまで急な動きは既にできなかった。
三つ目に入る際の準備に入ると私は再び単装砲を構えながら身体の軸を使って二つのコーンの合間に入った。
そんな時に
「……私の考えたプラン……」
「お、お嬢様!?
気を落とさないでください!?」
後ろで二人で何かやり取りをしているようだ。
電探を使って盗み聞k、いや、様子を窺ったがどうやらなぜか更識さんは落ち込んでいて、布仏さんがそれを必死に励まそうとしているらしい。
後で私も手伝おう。
と、考えているうちに三つ目の合間も終わった。
今回の改二がレア艦で普及率の低い江風と言うことは雪風改二の可能性もいよいよ高くなってきたと思います。