奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「シャルロットさん。
これでお別れです」
「……っ……雪風……」
私は旅館の方へと突入する前に改めてシャルロットさんに今生のお別れを告げた。
今から私たちがやろうとする無謀に彼女を巻き込みたくないのでここで彼女と「さよなら」をしなくてはならない。
ここで別れる訳ではないが別れを惜しむことがなくなる前にしておかなければならない。
「それとシャルロットさん。
一ついいですか?」
「……何?」
これから別れることになる友達に私はもう一つだけ言いたかったことがあった。
「……あなたはあなたの人生を生きてください」
「えっ……」
私はどうしてもそれを言いたかった。
「『仇を取る』とか、『あの時逃げなかったら』とか、『罪を償う』とかそんな風に考えないでいいんです」
「それは……!?」
私は恐らく彼女がこれから背負ってしまうであろう罪の意識について先に言っておいた。
きっと彼女はこれからのことで後悔することになる。
この人は優しい。
それだけに私がしてしまったことを彼女がしかねない。
「そんなの……出来ないよぉ……」
だけど私のその言葉を拒んだ。
当たり前だ。
そんな風に言われただけで罪悪感がなくなるのならば、私だって最後まで戦ってこなかった。
「そうですね。
だから、言わせてください」
でも、そんな私だからこう言える。
「あなたは幸せになってください。
それがあなたへの罰です」
「え……」
こんなことを言うことが烏滸がましいのかもしれない。
だけど、こう言わなければ彼女は自分を許せず茨の道を進んでしまう。
だから敢えてこう言うしかなかった。
「生き残った自分だけが幸せになる……
それは辛くて苦しい生き方です。
それがあなたにとっては一番残酷なことのはずです。
だから、生きてください。シャルロットさん」
「っ……!」
私は彼女にとってはこのことの方が大変であるということを懸命に説いた。
それが一番苦しいであることを理解している私だからこそ逃げないで生き続けることの方が大事であると伝えた。
「……ずるいよ」
『……ずるいよ』
「……そうですね。私もそう思います」
彼女は私に恨めしそうにかつて私が磯風に向かって言った最後の言葉をぶつけてきた。
彼女の気持ちは痛いほどわかる。
他人にされて嫌なことを私は友達にしようとしている。
本当にずるいと思う。
でも今なら、いや、きっと立場が逆だったら私も磯風や他の姉妹たちに同じことをしてしまっていただろう。
あはは……
磯風、私やっぱり、あなたのお姉ちゃんです
私が最期になるであろうこの状況で再び見付けた妹との共通点を誇らしく感じた。
きっとあの時、私が死ぬ方になっていたら私が磯風のことを初めて叱ってでもして彼女を生かそうとした。
あの子よりも不器用で飄々としてなくてもたまには姉としての威厳を見せて言うことを聞かせていたはずだ。
でも、あなたが……いいえ、あなたたちがくれたこの命をでも誰かを、それも友達を助けられます。
ありがとう
同時に私は磯風や私がこの場にいる理由を作ってくれた戦友たちにも感謝した。
もしこの命が長く続いているのがこの時、この瞬間の為だというのならばなんて幸福だろう。
ようやく少しだけだが自分を取り戻せました
あの戦いの後、私の心は姉妹たちや恩師や戦友を失っていく中、摩耗していき最後に天津風という残っていてくれた最後の妹や一緒に頑張ろうと約束してくれた初霜ちゃんを失って折れてしまった。
生きる意味を殆ど失った私は守れなかった後悔の分までも人生に費やすことしか考えられなかった。
そして、何時か朽ち果てていくその瞬間をゆっくりと待つ。
そんな人生だった。
それなのに今の私は目の前にいる大切な友達を守ることが出来る。
これの何処に悔いがあると言うのだろうか。
でも、後もう少しだけ……本当にもう少しだけ平穏を楽しみたかったです
しかし、よく考えてみたら心残りは在った。
色々と騒動はあったけれども少なくとも人類の存亡などとは無縁のこの世界での日常を友だちと分かちたかった。
この世界にも「女尊男卑」という最悪な風潮や例の無人機の様なことはあったけれども、少なくとも私は比較的にまともな一般人としての、「陽知 雪風」という人間としての生き方は出来た。
『明日、人類が滅びるか』とか、そんな恐ろしい明日を想像して焦燥感に駆られることもなく毎日を過ごせる。
それだけでも私にとっては平穏だ。
それに……金剛さんとも色々と話したかったです……
今、この瞬間に亡くなったはずの金剛さんがいてくれる。
もう会えないと思っていた私にとってのもう一人の母がいてくれる。
彼女とも平穏を過ごしたかった。
楯無さんに無茶を言って英語の教職員として就職してもらうなどして教師と生徒という関係もいいのかもしれない。
……ああ、そうです。
他にもあります……
今の想像図以外にも出来てしまった。
とりあえず、一夏さんに私の本当の年齢を教えたかった……
先ず最初に私は一夏さんに今までのことを全て話してとりあえず年上であることを明かしたかった。
以前、「妹弟子」と言ったのが未だに気になって仕方がないのだ。
ラウラさんにも同じ軍人であることを明かして、軍人としてのいろは……後、日常の大切さを教えてあげたかったですね
妹分になっているラウラさんには私が軍人であることを明かして本当の意味で軍人としてのいろはを叩き込み、そして、彼女が軍人でなくなった後の生き方についても教えたかった。
鈴さんには彼女の知らない神通さんのことを教えたかったです
同じ神通さんの教え子として、彼女の知らない神通さんの話を教えたかった。
きっと「コロンバンガラ」でのことを聞いたら彼女は私のことを殴ると思うがそれも甘んじて受けよう。
セシリアさんには大人として彼女に女性としての振舞いを教えたかったですね
少々高飛車過ぎるところがあるセシリアさんには総旗艦や練習艦として多くの艦娘を育てた身として大人の女性としての振舞いを教えておきたかった。
そう言えば……楯無さんには卒業後には彼女の家に使用人として雇ってもらうことになってましたね
楯無さんは私が卒業した後に私の身元が露見しないように彼女の実家に迎えると言ってくれた。
きっとそれが実現していたら布仏さんと共に楯無さんや本音さんに振り回されて苦労しながらも何処か充実感に満ちた生活を楽しめていただろう。
篠ノ之さんと共に神通さんのお見舞いをしたかったです……
そして、私が最後に思ったのは今、意識を失いながらも大切な妹分の下へと帰って来ようとしている神通さんのことだった。
もしこのまま私や篠ノ之さんが死んだら彼女は嘆くだろう。
……いざとなれば、篠ノ之さんだけでも逃がします……!
きっと彼女の機体ならば敵の包囲は突破できるだろう。
それが唯一の救いだ。
……結局、私はまた奪われましたか……
色々と生まれた心残りを考えて私はそれら全てがただの夢に終わってしまったことに無念さを覚えた。
でも、今私を突き動かしているのは憎しみなんかではない。
「では、行きますよ」
「ああ……!」
「Yes!」
「……うん……」
私は意思を固めて僅かに過ぎないであろう生存者の救出に対する希望と決して曲げることのない私の在り方の為に陸へと向かおうとした。
そうだ。きっと、そうだ。今の私が私なのだ。今まで自分を曲げていたからこそ苦しかっただけだ。
たったそれだけのことだったのだ。
今から私たちがすること。
それは旅館に突入し、交戦した直後にシャルロットさんだけを逃がし、その後に生存者を探すという算段だ。
さっきと少し同じだが基本的に戦術というのはこういう形の方が効果的だ。
突撃は一見すると猪武者がすることにように見えるが、放っておけば放っておくほど被害が大きくなる相手にとっては放っておけない面倒くさい戦術なのだ。
少なくとも嫌がらせという点ではこれ以上効果的なものがあるとすれば、遊撃隊による複数の奇襲攻撃だろう。
「ユッキー」
「何ですか?」
突撃前にも拘わらず金剛さんが声を掛けてきた。
「ちょっと、楽しみデース」
「「え!?」」
彼女のその『楽しみ』という言葉に対してシャルロットさんと篠ノ之さんが困惑した。
彼女たちからすればこれから命のやり取りをするというのに狂っていると思われても仕方のない発言だろう。
だけど
「そうですね。私もです」
「「えぇ!?」」
彼女なりの緊張のほぐし方だと思って私は同意を示した。
しかし、実際元「二水戦」としてはこの突撃は楽しみだ。
何故ならば
何人、助けられるでしょうか?
この突撃はあくまでもシャルロットさんや篠ノ之さん、そしてまだ生きているかもしれない生存者を助けるための突撃だからだ。
結局のところ、どんな戦術にせよ戦略にせよ本質的には味方を一人でも生かすことが求められる。
そして、「二水戦」の突撃とは味方を一人でも危険から遠ざけるか危機から救うためのものだ。
『ただの突撃馬鹿はいらない!!
そんなのは猪にでも食わせておきなさい!!』
昔、霞ちゃんが『敢闘精神が足らない』等と言ってきた人間に対して言った言葉だ。
本当に彼女らしい。彼女らしく本当に物事の本質を貫いている。
実際、私もみんなもそう思った。
ただ
『……まあ、こいつに限っては馬鹿が馬鹿にならないけどね』
とお姉ちゃんや霞ちゃん等の娘たちには冗談の種に私はされていたが。
何よりも
もう……誰も置いていかないで済みますからね
誰も置いていかないで済むということが私にとっては救いだった。
「……では、篠ノ之さん。気を取り直してお願いします」
「え?あ、あぁ……わかった……!!」
金剛さんの発言と私の反応ですっかり空気が変になってしまったが篠ノ之さんに突入してもらうことになった。
「では、行くぞ!!」
彼女は一気に突き抜けようとした。
その時だった。
「……ん?」
金剛さんが何かに気付いたらしい。
「ユッキー!!STOP!!」
「え!?篠ノ之さん、止まってください!!」
「!?」
金剛さんの言葉に私は動揺し篠ノ之さんを止めてしまった。
その途端、「PIC」によって私たちは止まることが出来たが慣性による衝撃を受けてしまった。