奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第91話「定まらぬ謎」

「雪風の……お姉さん……?」

 

「そうや。初風は雪風の姉や。

 それがどうした?」

 

「どうしたって……」

 

 龍驤さんに言われて出てきて明らかになった雪風と「初風」という少女の関係。

 二人は姉妹だった。

 そして、雪風のいう『お姉ちゃん』というのはもしかすると、その初風なのかもしれない。

 だが、それ以上に俺は更に疑問が生まれてしまった。

 

 どうして姉妹一緒に戦っているんだよ……

 

 それは雪風があれだけ愛おしく想っているお姉さんまでもが雪風と戦っていたということだった。

 俺はてっきり雪風があの目をするようになってしまったのはお姉さんをあの「深海棲艦」と呼ばれる存在に殺されたことによる怒りと悲しみによって戦いに身を投じてああなってしまったと思っていた。

 しかし、実際はお姉さんも雪風と一緒に戦っていたということが真実だったのだ。

 

 嘘だろ……そんなこと……

 

 俺はこの真実を知りたくなかった。

 既に目の前の彼女たちがただの人間ではなく、彼女たちがあの「深海棲艦」と呼ばれる存在と戦うために生まれてきたのは理解した。

 そして、恐らくは雪風も同じだ。

 だから、雪風もその姉も一緒に戦場に出ていたのだ。

 

「おかしいわよ!!どうして、姉と妹が一緒に戦わなきゃいけないのよ!?」

 

「鈴……」

 

 そんな悲し過ぎる事実が判明された中、鈴が姉妹が一緒に戦場に出ていたという現実に怒りを向けた。

 俺だってそう思う。

 

「……それが「艦娘」だからや」

 

「え……」

 

 そんな俺たちの憤りに対して、龍驤さんはそう返した。

 

「うちらは誰かを守る為に生まれてきてその役目を全うしようとした。

 ただそれだけや」

 

「何よそれ!?

 意味わかんない!!」

 

「落ち着けって鈴!!この人たちに当たっても意味ないだろ!?」

 

「っう……!」

 

 そんな龍驤さんの淡々とした言い草に鈴は益々苛立ちを募らせた。

 俺は自分も納得してなかったがここで龍驤さんに当たり散らすのはお門違いだと思って彼女を止めた。

 

「鈴さん。落ち着きなさい」

 

「セシリア……?」

 

 未だに興奮が収まらない鈴に対してセシリアは龍驤さんの方を向いた。

 

「……すみません。一つだけ聞かせてください。

 あなた方はその生き方を誇りだと思っておられますか?」

 

「え……」

 

「セシリア!?あんた、何を!?」

 

 セシリアは俺や鈴にとっては訳のわからない言葉を龍驤さんにぶつけた。

 俺たちからすれば彼女の言葉は信じられない。

 戦うことに誇りを感じることもそうだが、何よりも雪風が姉を失っているのにそれをどうして誇りだと言えるのかが俺には分からない。

 

「そうや」

 

「「!?」」

 

 だけど返ってきたのは俺らからすれば信じられないものだった。

 

「……そうですか。

 なら、わたくしはあなた方にも雪風さんにもこれ以上こういったことで言うことはありません」

 

「セシリア!?」

 

 セシリアはその答えに納得した。

 俺たちは龍驤さんの答え以上にセシリアの反応が理解できなかった。

 どうしてセシリアはこんなにも不条理な龍驤さんたちの運命に納得が出来るのか。

 しかも、その中には雪風も含まれている。

 

「……鈴さん。一夏さん。

 彼女たちには彼女たちの誇りがあるのですわ。

 それをよくも知りもしないわたくしたちが否定したり咎めたりするのは間違っていますわ」

 

「なんでよ!?

 あんた、人が戦わなきゃいけないことに何も感じないの!?」

 

「……いいえ。そうではありませんわ」

 

 鈴はセシリアの意見が納得できないらしい。

 それは俺もだ。

 「誇り」があるからといって全てがチャラになるなんておかしいだろう。

 

「……では。あなた方が彼女たちの代わりになれるのですか?」

 

「「え……」」

 

 セシリアは少し悲しそうに強く答えた。

 

「わたくしもこの方たちのことはよくわかりませんわ。

 でも、この方たちの話と雪風さんの話を聞かせてもらってわかったことはこの方たちも雪風さんも自分にしか出来ないことを全うしていただけだとわたくしは感じますわ」

 

 セシリアはまるで自分に言い聞かせる様に言った。

 そこには既に初めて出会った時の尊大な彼女の一面はなく、何かを背負っている振る舞いが感じられた。

 

「で、でも……」

 

 鈴は少し泣きそうだった。

 ああ、わかってる。鈴も本当は怒りたかったのではない。

 悲しかったんだ。

 友達が姉と一緒に戦っていたという過去が悲しくて仕方がなかったのだ。

 

「泣かんでええ」

 

「え……」

 

 そんな鈴に対して龍驤さんは優しく語り掛けた。

 

「お姉ちゃんのそういう優しさも大事なんや。

 むしろ、そんな風に思っていてくれる誰かの為にもうちらは戦っていたんや。

 それは雪風もきっと同じや。

 ありがとな」

 

「うぅ……」

 

 龍驤さんは鈴のその叫びや訴え、考えを否定するのでもなく拒絶するのでもなくただお礼を言っただけだった。

 いや、彼女だけではない。

 周囲を見てみるとこの場に彼女達全員がそれを肯定するような目を向けていた。

 その時、俺は感じた。

 

 この人たち……優しいんだ……

 

 この人たちは優しい人たちだ。

 誰かの涙を止めたいと思って直ぐに行動できる人たちなのだ。

 

 ……少なくともこの人たちは信頼できるのかもしれない……

 

 正体不明な謎の人たちではあるが、この人たちは少なくとも他人の善意を尊く感じられる人たちだ。

 だから、信じられると俺は感じた。

 

「しっかし、まあ……

 どうゆうこっちゃ。「艦娘」も「深海棲艦」もいないとなると……

 何処からどう説明すればいいのかわからんなぁ~」

 

 しかし、それでもやはり彼女は説明に困っていた。

 ただ彼女のその言い方で分かったことがある。

 

 ……この人たちにとっては当たり前のことが俺たちには分からなくて、俺たちにとっての当たり前が彼女たちには分からない……

 どういうことだ?

 

 それは彼女たちにとっては常識らしい「艦娘」と「深海棲艦」が俺たちにとっては常識ではなく、俺たちにとっての常識である「IS」が彼女たちにとっては常識ではないということ。

 両者の間に存在する認識への隔たり。

 この正体さえ分かれば話は前に進むはずだ。

 それともう一つ理解出来たことは彼女たちが雪風の仲間であるということだけだ。

 

 あれ……ちょっと待て……

 この人たちはどこであの敵のことを知ったんだ?

 

 龍驤さんは当たり前の様に「深海棲艦」という名前のあの敵を知ったがこの人たちは一体どこでそれを知ったんだろう。

 どうやこの人たちはあれらと何度も交戦しているらしく、雪風に至っては姉すらも失っている。

 

 しかもまるで俺たちが知っていて当たり前の言い方……

 

 もしかするとだけ、彼女たちが漫画やアニメのヒーローみたいに誰も見ていないところで戦っていたという考えもあるが、それだと彼女たちに言い方におかしい部分が出てくる。

 

 次から次へと謎が出てくる……

 

 何となく違和感の正体が掴めたがそれと同時に今度はどうしてそんなことが起きたのかという謎が出てきて頭がこんがらがってくる。

 

「う~ん。

 君たちの話を聞く限りだとどうやら()()()多少違うらしいなぁ」

 

「……()?」

 

 そんな新しく出てきた謎に龍驤さんはポツリと呟いた。

 どうやら彼女は以前にもこんな話をしたことがあるらしい。

 

「そうや。

 まあ、あの時はうちらに「艦娘」て名前もなく人間の人たちが「深海棲艦」ていう名前を付けた敵を倒していただけだから、むしろこんな形での自己紹介は初めてかもな」

 

「ん?」

 

「え……「深海棲艦」という敵の名前もあなた方の名前を付けたのも……その……人間なのですか?」

 

 またしてもただ謎が深くなりそうであったが何かここに突破口があるのではと思い俺たちは訊ねた。

 一つこのことで学んだことは事実を知るということはそこには謎も存在しており、事実を知るということが必ずしも全てが分かることではないが、それでも少しでもわかることはあるらしい。

 

「ああ。うちらはまあ、なんというか。

 「深海棲艦」が大暴れしていた時に現れて襲われていた人らを助けたらその後に軍の人らに頭を下げられてから軍に所属することになって便宜上、不都合だからといって「艦娘」という名前を付けてくれたんや」

 

「……え」

 

「現れて……助けた……?」

 

 予想外だった彼女たちの名前の由来と過去に触れて俺たちは呆気に取られてしまった。

 彼女たちはまるでそれを当たり前の様に言った。

 

「そうやで?

 それがどうしたんや?」

 

「い、いや……その……」

 

 どうやら彼女たちは疑問に思っていないらしいが俺はそれに驚くしかなかった。

 人を助けることに疑問を抱かない。

 それはとても素晴らしいことだと思う。

 俺も少しぐらいならそれを実践できる。

 しかし

 

 だからって、普通は軍人になるか……?

 

 それでも軍人になるという考えには素直に同意できなかった。

 彼女たちは『守りたいものがあるから戦う』とは言っていたが、それでも命のやり取りに率先して身を投じることに疑問を抱かないことには俺は衝撃を受けた。

 しかも、実際に命を落としている人間すらもいる。

 

『織斑先生。

 一つ確認させて頂きたいのですが……

 ()()()()()()()()()()()()?』

 

『至って簡単です。

 確かに私たちは専用機を受領した時から有事の際には一般生徒よりも優先的に緊急事態には対処することが求められています。

 ですが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『それでもやはり暴走状態の「IS」と戦うと言うことは非常に危険なことです。

 失礼を承知で確認させて頂きますが、織斑先生はそのことに対して覚悟を持っていられますか?』

 

『……わかりました。

 その言葉だけで躊躇いは消えました。

 この務めを果たすことに全力で挑ませて頂きます』

 

「あ……」

 

 そして、彼女たちの考え方と雪風が作戦前に千冬姉に訊ねた質問の意味が理解出来た。

 

 ああ……そうか、そういうことだったんだな……

 

 雪風は何度も千冬姉に何度も俺たちが命を落とす可能性や生徒が戦いに参加することのを言及していた。

 それは彼女が軍人という職業柄上、学生の俺たちを巻き込むことに対する疑問だったのだ。

 

 でも、それじゃあ、お前が一番割を食うじゃないか……!

 

 だけど、もう一つ悲しい事実に気付いてしまった。

 恐らくだけど、雪風も目の前の彼女たちも『誰かの笑顔や優しさを守る為に』と言っているが、結局のところ、それは誰かが戦わなくてはならないからその分を自分たちが背負うという身代わりに等しいことを率先しているに等しいことだ。

 はっきりとしたことは分からないけど、そう言った点では雪風も彼女たちも優し過ぎるのだ。

 だから、あんなにも雪風は直ぐに誰かの為に身を投じる。

 

「一体、どういうことですの……?」

 

「もう訳がわからないわよ……」

 

「何かが足りない……」

 

 俺が雪風の悲壮な強さに気を取られていると三人は一向に解決しないお互いの意識の不一致に悩みを愚痴りだした。

 

「そうやな。

 何か決定的な何かが噛み合わんな」

 

 龍驤さん含めた彼女たちもまた匙を投げそうになっている。

 彼女たちの人間性、雪風の素性はわかった。

 だけど、それらが抽象的過ぎてモヤモヤが取れない。

 正直に言うと、これは俺の主観や印象でしかないが、彼女たちが嘘を吐いているとは思えない。

 だからこの両者の間に存在する認識の溝の正体が分かれば一気に話が進むと思うがそれが分からないからこそ俺たちは悩むしかない。

 

「その理由は私が説明します」

 

『!!?』

 

 疑問に答えを示そうとするその声にこの場の全員が反応した。


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