奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「戦いが終わっているのに戦い続けたなんて……」
「そんなのあんまりですわ!?」
「どうして……!?」
雪風の現実とは思えない過去を知りラウラたちもまたやり切れない気持ちになった。
それは友達が自分の人生を諦めそれを代償とした生き方への悲しみそのものだった。
「……あの馬鹿……新しく出来たらしい友までもを傷付けおって……」
当然ながら武蔵さんも那々姉さんに言われながらも俺たちを見てそう呟いた。
いや、恐らくだが彼女たち全員の嘆きは俺たち以上なのかもしれない。
彼女たちは平和の為に命を懸けて戦っていたらしい。
それなのに雪風は戦いに生き残りながらもその平和を捨ててしまった。
それがどれ程のものなのかは彼女たちが一番理解しているのだろう。
「……これでは……陽炎たちが……」
朝潮は悲痛な表情をした。
……陽炎……?
彼女が口に出した名前が誰なのかは分からないが、その人たちは恐らく雪風にとっては大切な人たちであるかは感じ取れた。
「……雪風……あなたは十分に守っていたじゃない……なのにどうして……」
翔鶴さんもまた無念そうにそう呟いた。
どうやら彼女もまた雪風とは関わりが深い女性らしく、雪風がしてきたことだけで十分だったと想いを漏らした。
それ程までに雪風が守り、助け、救ってきたものは数多く存在していたことを物語っていたのだろう。
……雪風……俺が偉そうに言うのはどうかしているけど……
それは……欲張り過ぎだろ……
雪風の願いは尊く感じる。
そして、その願いは決して間違ってなんかいない。
でも際限のない願いの大きさが何時しか雪風自体を縛ることになり彼女を戦いから解放しなかった。
そこに俺は憤りと悲しみを抱くしかなかった。
「……!ちょっと待った!
戦いは勝ったんでしょ!?それならどうして雪風が戦わなくちゃいけないのよ!?」
「……!そう言えばそうですわ!?
どうして雪風さんは……!」
「!」
鈴は雪風が戦いに勝ったにも拘わらず戦い続けたことに疑問を抱いた。
確かにそうだ。雪風は戦いに勝利したのだ。
だからもう戦う必要などないはずだ。
「……いえ。
「深海棲艦」との戦いは決してなくなることはないんです」
「え……」
だけれども那々姉さんは悲しい顔をして戦いが「深海棲艦」との戦いは決してなくならないと告げた。
「なくならないって……」
「だって、勝ったんでしょ!?それならもう……!」
戦いがなくならない。
その意味が俺たちには理解出来なかった。
終わらない戦いなんてものがあるはずがない。
少なくても俺たちの世界の歴史ではそうだ。
「……雪風の言った「勝利」というのは「深海棲艦」に奪われた航路や海域、陸地を取り戻し、「深海棲艦」の最大規模の巣を破壊したという意味です。
「深海棲艦」は無限ともいえる数を増やす生物とも言っても過言ではないんです。
だから、戦いは終わらないんです……」
「そんな!?」
「それじゃあ、きりがないじゃないか!?」
だけれども雪風たちのいた世界ではそうではないらしい。
『勝つことで全てが終わる』。
そんな言葉がまやかしに感じる程に「深海棲艦」という存在との戦いが終わりが見えないほどに絶望的なものであることが伺えてしまった。
「雪風は戦いが終わった後、中華民国に渡りその地で総旗艦となって戦い続けるのと後進を育てることに生涯を費やしたらしいです」
「なっ!?「総旗艦」だと!?」
「それに中華民国ですって!?」
「?」
武蔵さんと鈴は雪風のただならない経歴を説明されて驚いていたが、「総旗艦」という聞きなれない言葉と「中華民国」という歴史の授業で習うぐらいの国名に俺は困惑してしまった。
「中華民国」って孫文とか袁世凱とかの国だよな?
どういうことなんだ?
世界史の近代に出てくる国名が出てきたことは意外だったが、今の中国が鈴が所属している「中華人民共和国」という国家だったはずだ。
まさか、「中華民国」という国が残っているとは思わなかった。
「……そこまで歴史が違うのか……」
ラウラは最早、常識が完全に違っているあちらの世界の歴史にそう呟いた。
本当にあっちの世界情勢はどうなっているのだろうか。
「……「総旗艦」か……駆逐艦がか……」
「信じられない……と言いたいところやが……」
「雪風ならあり得るかもしれませんね……」
「?」
彼女たちは雪風が「総旗艦」というものになっていたことに当初は驚いていたが、直ぐに『雪風ならば』という理由で納得し出した。
どうやら、雪風はあちらの世界でも相当な実力だったらしい。
そして、その「総旗艦」というものはかなり重要なものらしい。
「……「総旗艦」……しかも、彼女たちの性質からすると……その立場は……」
「?」
ラウラは何か思い当たる節があるのか「総旗艦」というものが何かしらの立場に相当すると考え着いたらしい。
「何よ、ラウラ?
その「総旗艦」て?」
「あ、ああ「総旗艦」というのは海軍の全艦隊において司令部を置く艦、つまりは司令塔の様なものだ。
本来ならば、総司令官が搭乗する艦を意味するものだが……彼女たちの場合からすると……」
「え……?」
どうやら「総旗艦」というのは海軍のお偉いさんが乗る重要な軍艦らしい。
つまりは戦艦大和みたいなものらしい。
しかし、ラウラの考えはそうじゃないと聞こえてくる。
「……ボーデヴィッヒさんの考えている通りです。
艦娘にとっての「総旗艦」という立場は一国の海軍の元帥に匹敵する立場であり、最高戦力を意味しています」
「なっ!?」
「海軍元帥!?」
「それって軍のトップてことでしょ!?」
ラウラ以外の俺たちはその意味を知り驚愕した。
元々、年齢が違っていたことや壮絶な生き方、何よりも今までの雪風の戦いにおける姿からただ者じゃないのは感じられていた。
しかし、まさか軍のトップとは想像も出来なかった。
「……だが、それならばお姉様の破格の指揮能力や戦闘能力にも納得がいく」
「う……」
「ま、まあそうだけど……」
ラウラは四人の中で唯一それを直ぐに受け止めた。
確かにラウラの言う通りだ。
雪風には何処か人を指揮する能力が具わっている様に感じられることが多くあった。
そう言えば……セシリアに『国の代表がどうとか』言ってたけど……
そんな立場にいたら、そう思うよな……
あの「クラス代表決定戦」の際にセシリアに『母国の名を傷付ける』とか言っていたのはそう言った立場にいたからかもしれない。
「雪風の実力と責任感ならば納得……
いえ、当然の結果かもしれません」
「?」
俺たちが少しずつ雪風の経歴を受け入れていると朝潮は納得しているが何処か悲し気にそう呟いた。
「それはどういうことですの?」
セシリアは雪風が途轍もなく偉い身分である「総旗艦」という立場に任命された理由が気になったらしく、朝潮にその理由を求めた。
どうやらこの中で雪風と関わりが深いのは彼女らしい。
「はい。雪風は私たち「二水戦」の中では飛び抜けた才能のある娘でしたので実力的にも納得です。
それにあの娘の責任感ならば間違いなく適役です」
「?「二水戦」……?」
朝潮は雪風のことを高く評価しているらしい。
どうやら彼女からしても雪風の実力は群を抜いているらしい。
そして、「二水戦」という何かしらの集団に所属していたらしい。
「はい。「二水戦」とは神通さんが率いていた水雷戦隊のことです。
雪風はその中でも実力面ではまさに「天才」といえる駆逐艦でした」
「え!?」
「……先生が!?」
「二水戦」という部隊はどうやら那々姉さんがあちらの世界で率いていた部隊らしく、雪風と朝潮はどうやらそこに所属していたらしい。
つまりは
「あれ……そうなると……
あんたはあたし達の姉弟子ってこと!?」
「!?」
「それはどういうことでしょうか?」
明らかに俺たちよりも少し年下である彼女は雪風の同僚、つまりは那々姉さんの教え子である可能性がある。
それはつまり、俺たちの「姉弟子」ということになる。
「いや、あたし達も先生に鍛えてもらっているから……」
「!そうなのですか!
では、これからよろしくお願いします!!」
「あ、うん……よろしく……」
俺たちが那々姉さんに師事してもらっていることを把握すると朝潮はすんなりと受け容れて律儀にも挨拶をした。
雪風と同僚であったということから彼女に似て、いや、彼女以上に礼儀正しく真面目なのかもしれない。
「失礼します!」
「!」
そんな風に彼女たちから雪風のことを訊いていると襖が開かれて馴染み深い声がしてきた。
「山田先生!?」
入ってきたのは雪風たちを捜索しに行った山田先生だった。
彼女が、いや、彼女たちが救助と捜索に向かってからまだ30分も経っていないのに彼女は帰還した。
「……あれ?……川神先生!?どうしてここに!?
いえ、それよりもその姿は!?」
「……すみません。少しこの子たちが心配になって病院を抜けて来てしまいました」
「えぇぇええええええ!?そんな無茶な!?」
那々姉さんの存在とこの状態に気付いた山田先生は那々姉さんの怪我の様子と無茶ぶりに驚愕した。
「山田先生!!
雪風と箒とシャルロットは!?」
教師同士の話とか本来は割って入るべきではないと思うけど、それでも三人の安否が気になり俺は山田先生に三人の無事を確かめた。
「はい!!そうでした……!!」
俺たちは一刻も早く雪風たちの無事を確かめたくて彼女の口から出てくる事実を待った。
すると
「安心しなさい。
彼女たちなら全員無事……いえ、それ以上に朗報を持ってきたわ」
静かな声が山田先生に代わって俺たちが聞きたかった答えを教えてくれた。