奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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夕立の「ぽい」は深い……それ故に難しい……


第99話「嘘の意味」

「で、ここが歴史の全く違う世界の未来ってことはわかったわ。

 それでここがその……「深海棲艦」も「艦娘」も存在しないで、人類同士であの世界大戦を遥かに上回る規模の戦争を起こして、その結果大日本帝国がなくなって日本という国が残ったのね」

 

「……そうですが……大丈夫ですか?」

 

 叢雲ちゃんは何とかこの世界が私たちの世界とは異なった歴史を辿った世界の未来である事を把握した。

 ただやはりと言うか、私と同じく人類同士の争いの果てに膨大な死者を出したことや「大日本帝国」という私たちにとっての母国が滅びたということには思うところがあるらしい。

 

「……まあ、思わないところがないと言ったら嘘になるわ。

 だけど、私たちの世界でも「深海棲艦」がいても人間同士の争いがなくなっていた訳でもないし、余力があるかないかの問題でしょ。

 それに何だかんだで「日本」という国は残ってくれているんだし、そこまで悲嘆することはないわね」

 

「……!

 強いですね。叢雲ちゃんは……」

 

 叢雲ちゃんは少し衝撃と複雑さを感じながらも、私の時と比べたら比較的に落ち着いてこの未来、いや、今を受け入れた。

 そこに私は多少の羨ましさを感じた。

 

「……いや、多分アンタや夕立、金剛さんがいてくれているから余裕があると思うわ」

 

「え……」

 

 しかし、彼女は自分が余裕でいられるのは自分が一人ではないからと否定した。

 

「そもそもそんな訳の分からない状態に一人で投げ出されたら誰だって不安になるわよ。

 ただ今は他の秘密を共有してくれている人間が複数いるから何とかなるわよ。

 だから、大丈夫なのよ」

 

「………………」

 

 彼女の言葉に私は感服してしまった。

 確かに彼女の言う通り、私も一人だったせいで不安でしょうがなかったし、いるはずもない司令に助けを求め、そして、神通さんという秘密の共有者が出来てもなお、友人たちに秘密を隠していたことへの後ろめたさに心を苦しめられた。

 

「……それでも、叢雲ちゃんはすごいですね。そのことに気付いていて……」

 

「?」

 

 なおの事私は彼女が強いと感じた。

 彼女は私と異なってその痛みを経験していないのにもかかわらず、それでもそれを受けた際のことを確りと想像している。

 知らないのに知っている。

 その時点で彼女は強いと感じてしまう。

 

「まあ、私はアンタが先にこの世界に来ていてよかったと思うわ」

 

「え……」

 

 叢雲ちゃんは私が先にこの世界にいたことを『よかった』と言ってきた。

 

「今のアンタは確かに後ろ向きになっているけどそれでも根本的なところは変わっていないわよ。

 真っ直ぐなところも。お人好しなところも。泣き虫なところも。それと誰とでも直ぐに打ち解けるところもね。

 少なくても、私よりも直ぐにこの世界の人たちと話し合えるでしょ?」

 

「で、でも……私は……」

 

 叢雲ちゃんは私の性格の変化を考慮しながらも私が根本的なところは変わっていないと答えてくれた。

 確かに叢雲ちゃんの性格だと少し私の時よりも角が立ってしまいそうな気もしなくはない(ただセシリアさんの件やラウラさんの件についてはあの慈愛の固まりと言える初霜ちゃんでも間違いなくひと悶着が出た可能性があるが)。

 だけれども、友人たちに隠し事をしていたことへの後ろめたさもあって素直に受け止める事が出来なかった。

 

「でも、雪風ちゃんなら安心できるよ」

 

「え……」

 

 私が迷っていると夕立ちゃんが会話に入ってきた。

 

「雪風ちゃんなら色々な人に信じてもらえると思う。

 だから、大丈夫っぽい!」

 

「夕立ちゃん……」

 

「そういうこと。

 後、もう一つ加えておくとこいつがアンタの立場だったら私とは違う意味で不安よ」

 

「叢雲ちゃん、ひどい!?」

 

「ぷっ……」

 

 夕立ちゃんの明るさに少しだけ前向きになりそうになった時、叢雲ちゃんは自分だけでなく夕立ちゃんも引き合いに出して私を励まそうとしてくれた。

 それに対して夕立ちゃんは心外だったらしかったが、久しぶりに同じ駆逐艦、それも戦友とのお喋りで私は笑ってしまった。

 

「雪風ちゃんも笑わなくっても!?」

 

「すみません……

 でも、時津風を思い出して」

 

「え……」

 

「時津風ちゃんて……」

 

「あ……」

 

「?」

 

 夕立ちゃんの無邪気さをすっかりと毒気を抜かれた私は時津風といた時のことを思い出してそれを口に出したが、彼女たちの反応を見て私は口を閉ざした。

 

 そうだ……二人にとっては時津風は……

 

 二人が没した時、まだ時津風は生きていた。

 私はある程度の顛末は話したが、詳細なことは話してはいない。

 生き残ったことで彼女たちの死を過去のものとして一緒にしてしまっていたが、二人にしてみれば時津風はまだ生きている存在だ。

 そんな当たり前のことを私は忘れてしまっていた。

 

「……雪風、それって……」

 

「ぽい……」

 

 二人は私の口振りから察してしまった。

 同時に二人は不安を抱き始めた。

 

 どうしましょう……

 時雨ちゃんだけしかが生き残ってくれなかった夕立ちゃんもそうですが……

 叢雲ちゃんは……

 

 私は悩んだ。

 夕立ちゃんの姉妹はスリガオを突破した時雨ちゃんだけしか生き残っていない。

 逆に言えば、私の味わった孤独を時雨ちゃんも味わっていることを夕立ちゃんに教えることになる。

 加えて、叢雲ちゃんに関して私は何といえば分からなかった。

 特型駆逐艦としての姉妹は曙ちゃん、潮ちゃん、響ちゃんが生き残ってくれたが、吹雪型の姉妹としては全滅してしまっている。

 そんな残酷な真実を彼女たちに教える勇気が私にはなかった。

 

 嘘を吐くべきでしょうか……

 

 このことを知っているのは私と神通さんと一部の人たちだけだ。

 なら、神通さんたちと話を合わせてでも真実を隠すべきではないだろうか。

 残酷な現実を知る必要もないし、確認の仕様もないのだから話す必要なんてないはずだ。

 私が嘘を吐くという罪を背負うだけで相手を傷つけないで済む。

 それが彼女たちの姉妹への冒涜だとしてもだ。

 

「……時津風は……戦死しました……」

 

「!?」

 

「そんな……」

 

「……雪風ちゃん」

 

 先ず始めに私は既に隠すことのできない時津風のことだけは説明しようと決めた。

 だけど、実の妹の死を説明しなくてはならないとなると心が苦しくてしょうがなかった。

 何度もこういうことはあったが、慣れないし慣れたくもなかった。

 

「あ、でも……

 この世界で時津風とよく似た人と出会えたんですよ。

 だから、その……今は少しだけですが寂しさが拭えて来ました」

 

「アンタ……」

 

 私は時津風とよく似た性格の本音さんの存在のお陰で寂しさが薄れてきていることを伝えた。

 本音さんの優しさと天真爛漫さは時津風を彷彿とさせる。

 それが私にとっての癒しとなっている。

 この世界に来てから彼女のその明るさにどれだけ癒されてきたことか。

 何よりも友達が出来ていたことを二人に伝えたかった。

 そうすれば二人を安心させられるかと思ったからだ。

 

「そんな訳ないでしょ……」

 

「!?」

 

 だけれども、叢雲ちゃんはそんな私の嘘を見破るかの様に私に言ってきた。

 

「アンタ……

 妹を失くしたんでしょ?

 それを新しい友達が出来たからと言って忘れられるような薄情な奴じゃないでしょ?」

 

「……うっ……」

 

「強がるのはやめなさいよ。

 アンタ、泣き虫なんだから。ちゃんと泣きなさいよ。

 それと……姉が無理している姿見てると……心が苦しくなってくるわ……」

 

「あ……」

 

 叢雲ちゃんに私の偽りなどお見通しであり、強がるのを止める様に言ってきた。

 そして、彼女の言葉に私はどうして私に強がるのを止めようとしたのか理解出来た。

 彼女もまた時津風と同じ、姉の前で命を落とした妹だったからだ。

 彼女からすれば私の姿は自分を守れなかったことを自分の姉が自分を責めている様にも見えた。

 

「無理しないでいいのよ……

 あたしたちに遠慮せずに……」

 

「叢雲ちゃん……」

 

 その言葉から私は理解させられた。

 私は嘘すら吐けず、嘘を貫くことも出来なかったということを。

 

「雪風ちゃん……ありがとう……」

 

「え……」

 

 私が嘘を貫き通すことも出来ず、嘘を吐こうとしたことによる自責の念に駆られていると夕立ちゃんは『ありがとう』と言ってきた。

 

「雪風ちゃん。私たちの為に嘘を吐こうとしたんでしょ?

 ありがとう」

 

「っ……!」

 

 夕立ちゃんは目に涙を浮かべながらも私の手を握って笑顔で再び『ありがとう』と言ってくれた。

 

「だから夕立も大丈夫っぽい!

 雪風ちゃんも我慢しなくってもいいっぽい!」

 

「夕立ちゃん……」

 

「夕立の言う通りよ。

 言っておくけど、アンタが考えているよりもアタシ達は軟じゃないのよ。

 そんな気遣いは無用よ」

 

 叢雲ちゃんは泣きそうだったがそれでも気丈に振舞っていた。

 夕立ちゃんの前向きながらも相手を思いやる優しさと叢雲ちゃんの不器用な優しさに私は幾分か救われた。

 

「ありがとう……二人とも……」

 

 私は彼女たちにお礼を言った。

 彼女たちは嘘を吐こうとした私を許しただけでなく、私の抱えている悲しみにまで理解を示し受け止めてくれた。

 何よりも同じ駆逐艦である彼女たちと悲しみを共有してもらったことで心が軽くなった。

 

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