奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「雪風!!」
「あっ……」
加賀さんに促されるままにこの部屋に入って来た四つの人影は私の下へと近づき、その勢いに私は少しだけ驚いてしまった。
「よかった……無事だったんだな……!」
「心配しましたわ……!」
「もう無茶しないでよ!」
「良かったです……良かったです……!」
「一夏さん、セシリアさん、鈴さん、ラウラさん……」
私の傍に来た一夏さん、セシリアさん、鈴さん、ラウラさんの四人はほぼ朝潮ちゃんたちと同じ反応をしていたが、彼らの場合は彼女たちと比べると喜びよりも安堵の方が上回っていた。
「この馬鹿……!
あれだけ『助けるな』って言ってたのに自分が真っ先に助けに行くなんて……
ちょっと殴らせて!」
「鈴さん!お気持ちは理解出来ますがダメですわ!」
「う……すみません……」
鈴さんは今までにない程私に対して怒っている。
またセシリアさんも止めてはいるが、私への怒りを抱いていた。
彼女たちからすれば私は彼女たちに『友達を助けるな』と言って禁止しておきながら、いざそうなったら助けに行っているので、殴りたくなるのも当然だ。
周りを見回してみると、朝潮ちゃんたちも彼女たちからいきさつを聞いたのか『その通りだ』と黙って頷いていた。
「お姉様が無事で良かったです……!」
「ラウラさん……」
ラウラさんは泣きじゃくりながら私に抱き着きながら無事を喜んでくれた。
それを見て私は
「ごめんなさい。
あなたにとっては辛いことを押し付けて……」
彼女に他の誰かを止めさせるという苦しいことをやらせたことに謝罪した。
あの中で最も軍人としての行動が出来るのは良くも悪くも彼女だけとはいえ、私のことを慕ってくれている彼女にとっては『私を見捨てろ』などという指示は絶対に受け入れられることではなかったはずだ。
「いえ……お姉様が無事なだけで私は……!」
「ありがとうございます……」
彼女は私を責める事よりもただ私が無事であったことを喜んでくれた。
だけど、彼女の涙を見る度に私はこの子に酷なことをやらせてしまったと痛感させられた。
「雪風……その大丈夫か?」
「一夏さん……」
最後に一夏さんが声を掛けてきた。
彼の様子は私が生きて帰って来たことに対しての安堵と喜びもあったが、同時に困惑も存在していた。
知られちゃいましたか……
普段の彼ならばいの一番に喜んでくれるだけだろう。
彼は他者の不幸を誰よりも怒り、幸福を喜ぶ。
そんな少年だ。
そんな彼がこんなにも喜びを前に出さないということは私の過去を知ったことによる戸惑いが大きいのだろう。
「はい。大丈夫です」
「そうか……シャルも大丈夫なのか?」
「はい」
一夏さんは私の無事を確かめると今は眠っているシャルロットさんのことも訊ねてきた。
そこに篠ノ之さんが含まれないのはきっと篠ノ之さんの為だろう。
「……箒、大丈夫か?」
「え?あ、あぁ……」
ここでようやく一夏さんが篠ノ之さんに声を掛けた。
何故私に篠ノ之さんのことを訊ねなかったと言えば、それはこの場で起きている篠ノ之さんの為だ。
もしここで彼女本人ではなく、私に訊ねてしまえばそれこそ彼女の立場がなくなる。
「……ありがとな。箒。
雪風とシャルを助けてくれて。
それとお前も無事でよかった」
「あ……」
一夏さんは確りとお礼を言った。
篠ノ之さんの無事を喜び、そして、彼女が私たちを助けたことが確かな意味がある事を彼女に伝えたのだ。
「アンタ、少し部屋から出ていって」
「え……」
「鈴!?」
「鈴さん!?」
しかし、そんな中鈴さんが部屋から出ていくように篠ノ之さんに言った。
その冷た過ぎる言葉に私や一夏さんを含めた事情をよく知る面々だけでなく、こちらに来たばかりの艦娘たちも戸惑った。
「ちょっと、アンタ!
そんな言い方は―――!!」
叢雲ちゃんは鈴さんに抗議した。
鈴さんに勝らずとも劣らない勝気な彼女ならば間違いなく怒るだろう。
「……叢雲。待つんや」
「―――え?龍驤さん……?」
そんな空気の中、叢雲ちゃんを止めたのは龍驤さんだった。
「うちらはこっちに来たのは今さっきや。
あっちの事情はよくわからん。だから、ここは下がっておきぃや」
「で、ですが……」
竣工日では龍驤さんの方が年下ではあるが、空母の中ではあの鳳翔さんと並ぶ古株である彼女の言葉に言い出すことが出来なかった。
「……大丈夫や」
「え……」
「……!」
だけども、龍驤さんは強い意志を込めて『大丈夫』だと言い放った。
その意思を受けて叢雲ちゃんだけではなく、私や他の艦娘たちもこれ以上何も言えず引き下がるしかなかった。
「……おい!鈴!!
一体、何を―――!?」
それでも一夏さんは鈴さんに抗議した。
彼のその行動は当然だろう。
だけど
「いや、いい……一夏……」
「―――箒!?」
言われた本人である篠ノ之さんがそれを力なく受け入れてしまった。
彼女は神通さんを殺しかけたことは自分を罰して欲しいと思っていることに加えて、その神通さんの教え子である鈴さんに糾弾されるならそれでいいと諦めてしまっていた。
「……すまなかった……」
「………………」
「お、おい!箒!」
そう言って目を合わせることもなく篠ノ之さんは謝罪の言葉だけを残して部屋から出て行ってしまった。
「鈴さん……!
あんまりですわ!」
「そうだ!凰!
確かに篠ノ之のやったことはお前にとって許せないことでも……!」
セシリアさんとラウラさんは鈴さんの態度を責めた。
二人からすれば確かに今までの篠ノ之さんの行動や神通さんにしてしまったことを擁護することは出来なくても、私やシャルロットさんを助けたこともあって今の態度は酷いものだと映ったのだ。
「うっさい……!
ラウラ!約束通り帰るまでは守ってやったんだからこれ以上は無理よ!
それとこれでも我慢した方なんだから……」
「凰……」
「鈴さん……」
けれども鈴さんは決して悪びれることなくむしろ、自分は譲歩していると語った。
確かに情に厚い彼女からすれば我慢してる方なのかもしれない。
「えっと……鈴さんでしたっけ?」
「そうよ、確かアンタは朝潮だっけ?」
鈴さんのその姿に誰もが声を掛けられないでいると、朝潮ちゃんが声を掛けた。
「アナタは神通さんの教え子なのですよね?」
「……そうよ?それでそれが何?」
朝潮ちゃんは鈴さんが神通さんの教え子であることを確認した。
それを見て、私は先ほどの龍驤さんの発言と重ねて彼女が言わんとしていることを把握した。
「なら、安心です」
「え……」
「「「?」」」
鈴さんが自らの妹弟子であることを確かめて彼女は納得し安心した。
それに対して鈴さんや一夏さんたちは理解出来ないでいるようであったが、それでも私は朝潮ちゃんの『安心』という意味がなんとなく分かった。
「あの人が教え子として認めているならば大丈夫ですね」
「い、いや……だけど……」
「そうですわ……」
「いくら何でもあんな言い方は……」
朝潮ちゃんの言い分に対して三人は納得がいかない様子だった。
確かに朝潮ちゃんの、いや、この場合は「二水戦」のことを知っていなければこの状況での彼女の発言は意味が分からないだろう。
「彼女みたいな子は中々素直に言えないだけです」
「え?」
「彼女の様な妹を二人も持つ身なので」
「………………」
朝潮ちゃんはそう言って一夏さんたちの反論を抑えようとした。
それは満潮ちゃんや霞ちゃんと言う口調が激しく勝気が過ぎる妹二人を持つ長姉としての実績故の言葉だ。
「それに……
それがあなたなりの思いやりなのでしょう?」
「っ!」
「え……」
「?」
朝潮ちゃんは鈴さんに対して穏やかな笑顔でそう問いかけた。
一体、どういうことだろうか。
私も意味がよくわからなかった。
私は朝潮ちゃんのことは信じて、これ以上鈴さんが篠ノ之さんを徒に傷付けることはないとは思っているが、それがどうして思いやりになるのかは見当がつかなかった。
「当たり前か……」
凰に追い出される形で部屋から外に出た私は自分がどうしてああまで言われたのかを改めて理解させられた。
自分でも今回のことで全てが許されるなど甘い考えだということが理解している。
一夏や陽知、デュノアを助けただけで許される。そんな訳がないことを私は理解している。
何よりも私自身がそうだった……
私はそれを那々姉さんにしてしまった。
彼女が約束を破ったことを許さないで私は怨み続けた。
そんな私が許されるわけがない。
そして、今度は私がその番になったのだ。
「ごめんなさい……」
それでも私はそう言いたかった。
誰も聞いてもいないただの自分への慰めで私は謝罪を呟いた。
「どうしたんですか、箒ちゃん?」
「え……」
しかし、そんな独り善がりな謝罪をしていた矢先、私に声を掛けてきた人間がいた。
その声に私は耳を疑った。
「……那々……姉さん?」
私が声のした方を振り向くと、そこにいたのはここにいるはずがない那々姉さんだった。
しかし、私のよく目にした彼女とは異なり、今の彼女は身体中を包帯だらけで車椅子というあの強かった彼女の印象が全く感じさせない姿だった。
そして、その痛々しい姿は
私のせいで……
私のしてしまった行いの結果だということを嫌でも突き付けられた。
どうして彼女がここにいるのかは分からない。
それでも彼女の状態は全て私が原因だ。
そのことに対して言い訳して逃げたくなかった。
「どうして……ここに?」
彼女は私が原因で大けがをした。
そして、そのまま病院に運ばれた。
それなのにどうして彼女がここにいるのだろうか。
「少し心配になって、病院を抜け出して来ちゃいました」
「えっ!?」
とんでもないことを彼女は答えてきて私は戸惑った。
だけどそんな戸惑いを吹き飛ばす様に彼女は次の言葉を向けた。
「……よく頑張りましたね」
「……っ」
那々姉さんは私に労いの言葉をかけてきた。
「ちゃんと私の頼みを守ってくれましたね。
箒ちゃん」
「う……で、ですが……私は……」
彼女は自分の言いつけ通りに「紅椿」を誰かの為に使った私のことを認めてくれたけれども私はそれを素直に受け止められなかった。
どれだけ認めてくれても私が私を許せなかった。
「箒ちゃん」
「え……」
そんな罪悪感の中にいると那々姉さんは項垂れている私の頭を弱々しい力で引き寄せてきた。
「ごめんなさい。
あなたを一人にしてしまって……約束を破ってしまって……」
「あ……」
既に力が入っていないのに彼女はただ私を抱き締めるだけに力を出して傷だらけの腕で私を包んだ。
何で彼女がそんなことをしたのか理解した私は
「ごめんなさい……」
その一言を言いたかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!
うあああぁああああああああ!!!」
このぬくもりの中で私は言いたかった言葉を素直に言った。
力はなくても私を受け入れてくれたこのぬくもりがどれだけの大きさなのかを改めて私は気付かされた。
「泣いては駄目ですよ」
そんな私を那々姉さんはあやし続けた。
私はそんな資格がないことを自覚しながらも彼女の腕の中で延々と泣き続けた。