奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第102話「再会の結果」

「……その……じゃあ、箒は大丈夫なんだな……?」

 

「はい。恐らくは」

 

「………………」

 

 一夏さんは未だに納得がいかない様子であったが朝潮ちゃんは自信を持って肯定した。

 私も朝潮ちゃんが具体的な理由を話していないので少し疑問に感じたが、彼女が自らの妹たちを引き合いに出したことから私は彼女を信じることにした。

 

「雪風もこの世界では友人に恵まれている様子で安心したぞ」

 

「うん!こんなに心配してくれているんだからそれだけ雪風ちゃんが大切にされている様子だね!」

 

「……ありがとう。二人とも」

 

 若葉ちゃんと皐月ちゃんの二人は一夏さんの私のことを心配する様子を見て、彼らが私を友人として大事にしていることに安心してくれた。

 

「えっと……あんたらは雪風の……」

 

「ああ。私たちも雪風と同じ駆逐艦だ」

 

「そ、そうか……」

 

 一夏さんは私と二人が遠慮なしの話をしていることに少し意外そうに私と二人との関係を尋ねてきたので、若葉ちゃんがそれに答えるとやはり戸惑った。

 恐らく、彼女たちの外見年齢や『駆逐艦』という言葉に何とも言えない気持ちになったのだろう。

 

 それに少しだけ私は年を重ねちゃいましたからね……

 

 艦娘の年の取り方は人間よりもかなり遅いと言えども、流石に三十年も戦っていれば他の子よりも成長してしまうものだ。

 だから、他の娘よりも年上に見えてしまうのも無理もない話だ。

 特に先輩や後輩の印象が強い日本の学生の彼らにとってみれば驚くだろう。

 

 と言っても二人の方が私よりも先輩なんですけどね……

 

 ただ睦月型と初春型の二人の方が私よりもお姉さんなのが事実なのだが。

 

「そ、そうなのか……」

 

「何というか……」

 

「複雑なものなのですわね……」

 

 それを聞いた一夏さん、鈴さん、セシリアさんは複雑そうにしていた。

 年齢のこともあるが、恐らく、この世界にとっては馴染みのない造られた生命と、私たちが兵器の種類の一つである駆逐艦を自称することに違和感があるのだろう。

 

「そうだったのですか……」

 

「はい……」

 

 ただ一人ラウラさんだけはそこに違和感を抱いていない様子だった。

 かつて彼女が「VTシステム」に呑み込まれていた時に彼女は自分のことを『失敗作』と呼ばれることを恐れている様な発言をした。

 そういったことから、彼女は私たちとよく似た存在なのかもしれない。

 

「……そうだったのか……てっきり俺は雪風の方が年上だと思ってた」

 

「いや、確かに私もそこら辺に驚いているけど……」

 

「ん?どういうことだ?」

 

 一夏さんが私の見た目が精神年齢に引きずられて他の駆逐艦よりも年上に思えてしまったことを露わにすると叢雲ちゃんは思うことがあるらしく、鈴さんも気になってしまったらしい。

 

「だって、雪風って私たちの中じゃ年が若い方だったし」

 

「「「「え?」」」」

 

「あ」

 

 叢雲ちゃんの発言に私は何か途轍もなく嫌な予感がしてきた。

 

「それは一体どういうことですの?」

 

「いや、雪風って陽炎型っていう最新鋭の艦隊決戦型駆逐艦の艦娘で私の四世代後の娘なのよ」

 

「えっと、つまりは雪風はアンタたちにとっては……

 随分と年下ってこと?

 あれ、でも雪風って確か―――」

 

「り、鈴さん!?

 この話は止めませんか!?」

 

 このままいくと色々な意味で私にとっては赤っ恥になりそうな気がして私は慌ててそれを止めようとした。

 

「あれ?そう言えば雪風って三十年とか―――」

 

「って、一夏さん!?」

 

 しかし、私の願い空しく一夏さんが悪意のない指摘で私が今最も追求されたくない話題をよりにもよって方向すらも決めだした。

 

「え?もしかすると……」

 

「女性に訊いていい質問があることを知ってください!!!」

 

「―――え?あ、ごめん」

 

 思わず私は一夏さんに対して声を荒げてしまった。

 この人は前から思っていたが、女性に対して失礼な発言をし過ぎではないだろうか。

 女性に年齢のことを訊ねるのは、体格や体重を訊ねるのと同じくらい失礼なことだ。

 

「雪風、落ち着きなさいって」

 

「そうだ!冷静になるんだ」

 

「そうっぽい!三十歳ぐらい問題ないっぽい!」

 

「ちょっと夕立!?」

 

「それは言っちゃだめだよ!?」

 

「あわわ」

 

「!!?」

 

「えっと……その雪風さん?」

 

「私たちは気にしていないからね?」

 

「そうです!」

 

「やめてください!?

 露骨な優しさが逆に悲しくなってきます!!」

 

 私が興奮していると叢雲ちゃんたちが助け舟を出してくれたが、夕立ちゃんが私の実年齢という泥船を出してきたことで私はさらに思い詰められ、それを見て最も年齢を指摘して欲しくなかった学園側の人たちも気にかけられてそれが逆に空しくなってしまった。

 憐れみがここまで悲しいものだとは思いもしなかった。

 そもそも、私が何故ここまで年齢のことを余り話題にされたくないかと言えば

 

 三十代なのに学生やっているだけで恥ずかしいのに~……!!

 

 いい大人が学生をしていたことが恥ずかしかったのだ。

 仕方ないとはいえ、私は起動不能だったらしい「初霜」を起動させたことから、保護の必要性が出たために「IS学園」に所属することになった。

 しかし、見た目が十代ぐらいなので生徒として所属することになった。

 そこら辺に関しては必要な処置なので納得できた。

 ただそれでも旧知の人間や今まで一緒にいた学友たちにも実年齢三十代の人間が学生をしていたというのはかなり心にくるものがあるのだ。

 

「何をそんなに恥ずかしがっている、雪風!」

 

「む、武蔵さん……」

 

 そんな風に羞恥心に悶えていると武蔵さんが私に対して渇を入れてきた

 

「そんなことで恥ずかしがっている様では一国の総旗艦の名折れだぞ?」

 

「うっ……」

 

 武蔵さんのその一喝に私は冷静さを取り戻した。

 どうやら連合艦隊旗艦を務めた身として私のこの不明さを叱責しているのだろう。

 

「すみません。

 確かに恥ずかしながら浮足立っていました……」

 

 一国の海軍の総旗艦を務めていたにもかかわらず、こんなことで狼狽えてしまった。いや、むしろ、長年務めていたことで自惚れがあったのかもしれない。

 私もまだまだということだろう。

 

「そうだな……

 ところで雪風、一つ訊ねていいか?」

 

「?はい、何でしょうか?」

 

 私が自分の未熟さを恥じていると武蔵さんが何か尋ねたいことあるらしい。

 

「最近、お前は紅茶に何も入れずに飲んでいるらしいな?」

 

「え?まあ、そうですけど……

 それがどうしたんですか?」

 

 武蔵さんは何故か私が紅茶に何も入れないで飲んでいること訊ねてきた。

 それにどうしてこの人がそんなことを知っているのだろうか。

 

「いやな… あれだけ甘いものが好きで紅茶の渋みが苦手であったお前が素の紅茶を飲んでいるとは思わなかったからな」

 

「!?

 む、武蔵さん!?それは!?」

 

 武蔵さんはニヤ付きながら私が紅茶を砂糖抜きで飲めなかったことを暴露した。

 別にそのこと自体は訊ねられても問題はない。

 

 何でこの状況で!?

 

 しかし、今ここにはそれを知られたくない人たちがいるのだ。

 

 中身が大人の人が学生の中で大人ぶるなんて……

 逆に恥ずかしいんですよ!?

 

 子供が背伸びして珈琲や紅茶に砂糖を入れないで飲んで大人ぶるのはよくあることだ。

 ただ私の場合はそれを大人なのにやっている形になってしまっているのが恥ずかしいのだ。

 こんなことは子供の草野球相手に大人の商店街の人間が手加減なく挑んで勝つという文字通り大人気ない姿と同じだ。

 恥ずかしくて仕方がない。

 しかも、これだけではない。

 

 総旗艦の面子を保つためとはいえ、紅茶の渋みを我慢していたことまでばれたら……!!

 

 そもそも私が紅茶の渋みに慣れたのは総旗艦時代に旗下の艦娘たちに苦手意識を持たれないように私が金剛さんにしてもらった時の様にお茶会を開いていたことが理由だ。

 しかし、その際に旗下の娘たちにミルクティーを飲んでいると示しがつかないので無糖にして飲んでいたのだ。

 

 それに今でも本当は甘いものの方が好きですし……!!

 

 加えて、実は無糖よりも甘い方が好きなのは変わらない。

 セシリアさんとのお茶会も甘いお茶菓子を持参して、その甘さと紅茶の渋みを楽しむというやり方で楽しんでいる。

 これまでばれてしまったらもう恥ずかしくなって死にそうだ。

 

 いえ……

 ここは乗り切れるはずです……!!

 そもそもこの25年間を知る人間は私しかいないんですから……!!

 

「そ、それは昔のことです!!

 そもそも私だって子供だったんですから甘い方が好きなのは当たり前です」

 

 二十五年前の私は子供舌なのは当たり前だ。

 と言うよりも子供が子供舌なのは当たり前だ。

 だから、子供舌と言うのだから。

 

「お、みんなにからかわれてムキになっていたお前がそう言うことを言うとはな」

 

「う……」

 

 武蔵さんは私の主張に対して至極冷静な発言をした。

 やはり、ここは戦艦と駆逐艦の貫録の違いだろう。

 一応、この人は私たち陽炎型よりも後生まれのはずだが、やはりその差は大きい。

 

「ところで雪風、後で大和直伝のアイスクリームを食べるか?」

 

「え!?本当ですか!?

 ……あ」

 

 大和さん直伝のアイスクリームと聞いて私は思わず目を輝かせて食いついてしまった。

 すぐに我に返り周囲を見回すと『仕方ないよね』と頷く駆逐艦、『あらあら』やら『変わっていないな』と言った軽巡と重巡、生温かい目で私を見る戦艦と駆逐艦のお姉さま方がいた。

 そして

 

「……えっと……その……雪風って可愛いな?」

 

「~!!?」

 

 完全に小さい動物や子供を見る目で微笑ましく見ている、実質私よりも年下のこの世界の友人たちの反応が私の胸に突き刺さった。

 加えて、一夏さんのその『可愛い』という言葉が完全に私の年上の人間として最低限の尊厳をズタズタにした。

 確かに年頃の女性が同年代の男性に言われれば嬉しい言葉である。

 しかし、この場合は違う。

 年上の女性が自分よりも年下の男性に『可愛い』と言われるのは完全に逆効果だ。

 

「ちょ、ちょっと一夏!?」

 

「それはこの状況では言ってはいけない一言ですわ!?」

 

「えっ!?」

 

 流石の鈴さんとセシリアさんもいつもとは異なりヤキモチをやくよりも私の心情を察してくれて抗議してくれた。

 だけど、年下の人たちにそうされると再び立つ瀬がなくなってしまった。

 

 うあぁあぁああぁあああああ!!?

 よく考えなくても私、結構年下の男の人に対して恥ずかしいことをしてるじゃないですか!?

 

「て、雪風ちゃん顔真っ赤ぽい!?」

 

「どうしたのです!?お姉さま!?」

 

 今の出来事で今までの一夏さんとのやり取りを思い出し悶絶してしまった。

 恥ずかしいには恥ずかしかったが今は自分と一夏さんとの年齢差を考えて余計に恥ずかしくて仕方がなかった。

 よく考えてみなくても、私と一夏さんとは十五歳ほども年が離れている。

 それなのに私はほぼ同年代の女子と同じ様な付き合い方をしてしまっていた。

 それだけでなく、横抱きにされたり、下着同然の布面積の水着であんなに近付いてしまったりと同年代の女子がされたりしても恥ずかしいことをよりにもよって十五歳ほども離れた男の人にしてしまった。

 

 今さらになって気付くなんて~!!?

 

 今まで、「司令」に対して恋心を持ったり、帝国海軍の軍人さん達に大切にされたり、総旗艦の地位目当ての男性たちを蹴散らしたりしてきたが、年下の男性に自然な流れとはいえ、意図せずそんなことをしてきてしまったことを自覚し恥ずかしさのせいで死にたくなってきた。

 

「や、やり過ぎたか……」

 

「そうやな……」

 

 小声で武蔵さんと龍驤さんが反省している様であったが、今の私には関係がなかった。

 ただただ恥ずかしくて仕方がなかった。


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