奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「う……」
「シャルロットさん!」
「シャル!」
「目が覚めましたの!?」
「良かった……!」
「はあ……」
「え?……みんな?」
緊張が解けて眠っていたシャルロットさんはある程度回復したのか目を覚まし、私たちは安堵と喜びの声をあげた。
どうやら、目覚めたばかりで彼女は少し混乱しているらしい。
「……よかった。みんな、無事だったんだ」
「はい!」
シャルロットさんも一夏さんたち四人が無事であったことを喜んだ。
彼女の呼びかけに私はそう強く反応した。
彼女からしても先に撤退した四人のことは気掛かりだったのだ。
「それはこちらの台詞ですわ!」
「そうよ!」
「ああ……でも、無事でよかった……」
そんな彼女に対してセシリアさん、鈴さん、ラウラさんはそう返した。
それを聞いて私はその言葉が私にも向けられているものだと感じた。
いや、少なくともただ攻撃を食らってはぐれてしまったシャルロットさんよりも自発的に助けに行った私は非難の対象だろう。
でも……助けられて良かったです……
だけど、この光景を見て私はシャルロットさんを見捨てなくてよかったと感じた。
彼女たちは心配してくれていた。
そして、今はそのことに怒ってくれている。
もし私がシャルロットさんを助けずにいれば、これは後悔と悲しみに変わっていただろう。
あの感情よりもこちらの方が比べようもない程マシだ。
「あれ?金剛さんは?
それにこの人たちは……」
シャルロットさんは自分と私を助けてくれた金剛さんがこの場におらず、さらには見知らぬ他の艦娘たちがいることが不思議そうだった。
「ああ、シャル。
この人たちは―――」
「私と同じ艦娘です。
シャルロットさん」
「―――雪風?」
一夏さんはシャルロットさんが事情を知らないと考えて説明しようとしたが、私は既に少しだけ彼女に話していたこともありそれだけで伝わると考えてそれだけを言った。
「……そうなんだ」
「え!?」
私の言葉を聞いてシャルロットさんは呆気に取られたが、直ぐに状況を理解して直ぐに理解して納得した。
「知っていたのか?」
「うん。逃げている時に雪風に話してもらった」
シャルロットさんの飲み込みの早さに一夏さんたちは驚きを隠せずに訊ねた。
あの時、私は最後になるかもしれないと考えて、彼女に自分の過去を明かした。
それは友人に知って欲しかったという動機であったが、今はそれが違う意味で意味を持っていた。
「そうだったのか……」
「それで……金剛さんとあの三人と……」
「そうね。
アンタが安心した前に会った艦娘は私たちだけね」
「……何というか、賑やかだね」
「ええ……まあ……」
シャルロットさんはこの部屋に集まっている艦娘を目にして一言そう言った。
私もそう思う。
個性豊かな艦娘が30人近くいる。
かつての鎮守府の様な賑やかさがここに凝縮されていると言っても過言ではない。
「あ!君もそういう喋り方するんだ!」
しばらく、シャルロットさんとこの光景を眺めていると皐月ちゃんが声を掛け来た。
どうやらシャルロットさんの喋り方に親近感を感じたらしい。
「えっと、君は?」
「ごめんごめん。
僕の名前は皐月!睦月型の五番艦だよ!よろしくね!」
皐月ちゃんはシャルロットさんに自己紹介した。
確かに二人とも、一人称で何処か少年染みた喋り方をする。
とはいえ、性格は逆であるが。
「そう……
僕はシャルロット・デュノア。
よろしくね。皐月」
「うん!」
皐月ちゃんの元気溌剌な姿にシャルロットさんは少し戸惑いながらもすぐに彼女に釣られて自分も自己紹介をした。
皐月ちゃんの良いところが出ていますね
一見するとシャルロットさんが戸惑っているだけの様に思えるが、それでも彼女は皐月ちゃんの明るさがシャルロットさんのことを元気付けているのが見て取れる。
皐月ちゃんは本当に陽炎姉さんと同じくらいの天性の人たらしだ。
でも、そこがいい。
「あ、確かに時雨みたいっぽい!」
「時雨……?」
二人の会話に夕立ちゃんが入ってきた。
彼女もまた人懐っこいので人の心に簡単に入って行けるようだ。
そんな彼女は姉である時雨ちゃんに口調と雰囲気が似ている彼女の興味を持ったらしい。
「うん!時雨は夕立の姉さんっぽい!」
「『ぽい』……?えっと、それは……」
「あ、それは夕立ちゃんの口癖だから気にしないで」
「え?あ、そうなの?」
夕立ちゃんの『ぽい』という口癖にシャルロットさんは混乱している様子だった。
夕立ちゃんの『ぽい』という口癖が確かに語尾に付けられると前の言葉が本当のことなのか信憑性が薄れてしまうだろう。
その結果、時雨ちゃんが本当に夕立ちゃんの姉なのかわからなくなってしまったのだろう。
シャルロットさんにこの手の話題はきついですよね……
そもそも出自のことに関してはシャルロットは苦い内容だ。
そんなあやふやな家族関係を持ちだされたら彼女は困るだろう。
「確かに時雨に似てるわね……」
「え?あ、あなたは?」
「……私は扶桑型戦艦の一番艦の扶桑」
「扶桑さんですか?」
「えぇ……」
シャルロットさんが時雨ちゃんに重なって見えたのはどうやら扶桑さんもらしい。
彼女にとっては恐らく、最後に一緒に戦った一人でもある時雨ちゃんのことを思い出してつい反応してしまったのだろう。
しかし、大人しいを超えて、儚げな扶桑さんが声をかけてきたことにシャルロットさんは困惑していた。
今まで話してきたのが皐月ちゃんや夕立ちゃんといった駆逐艦で、その中でも快活な娘ばっかりだったこともあり、見た目が大人である戦艦かつ清楚な雰囲気を醸し出している扶桑が声を掛けてきたのも大きいだろう。
「……雪風」
「?はい。何でしょうか?」
突然、扶桑さんに名前を呼ばれた。
一体、何の用だろうか。
「……時雨は……山城たちはどうなったの?」
「……!」
「扶桑!それは……!!」
扶桑さんに時雨ちゃんや山城さん、いや、「西村艦隊」の顛末を訊ねられ私は一瞬どう反応すればいいのか分からなかった。
武蔵さんは彼女を咎めた。
恐らく、彼女たちの中ではこのことに触れない暗黙の了解があったのだ。
それはきっと、私の為であり、この場にいる彼女たちの為でもあるのだ。
「……ごめんなさい、武蔵……
でも……私は……」
扶桑さんは自らが我慢できず禁を破ったことに涙ながらに謝罪した。
でも、無理もないことだ。
彼女が戦ったのはあの「スリガオ海峡」だ。
この場にいる全員が激戦の中で果てたり、経験したりしたのは同じ事だ。
と言うよりも、私たちの戦ったあの時代で激戦がなかったことなどなかった。
しかし、あのスリガオ海峡は重要な戦地であり、後から聞かされた話であるが絶望的な戦場であり、西村艦隊が突破できたのは扶桑たちを含めた多くの犠牲があったからだ。
もし、彼女たちがいなければ間違いなく西村艦隊は全滅し、私たち栗田艦隊、そして、「新一航戦」たちと合流することが出来なかった。
「……わかりました。
お話しします」
「……雪風」
「……いいのか?」
「はい。それが私に出来ることなら」
私は扶桑さんに「西村艦隊」のことを教えようと決めた。
それは彼女がスリガオ海峡で奮闘しなければ、レイテにおいて私たちが勝つことどころか、帝国海軍は壊滅していただろうという栗田艦隊全員の共通の認識から来る彼女への敬意からだ。
同時に妹を心配する彼女を見て私は彼女と自分とを重ねてしまったのだ。
「……時雨ちゃん、最上さん、山城さんの三人は突破し最後まで戦い抜きました」
「……本当!?」
「はい」
私はスリガオ海峡を涙ながらに突破し、主戦場に駆け付けた三人が最後まで戦い抜いたことを伝えた。
あの時の山城さんの鬼気迫る姿はまさに地獄の悪鬼すら震えあがり、道を譲る程のものだった。
彼女たち三人を含めた西村艦隊の艦娘と艦隊の到着で撤退か継戦かの二択を迫られていた栗田艦隊は、サマール沖から前進する機会を得ることが出来た。
そして、さらにはそこにアメリカ海軍が到着し彼女たちの登場で一気に士気と地理的条件が組み合わさって状況が逆転した。
もし、彼女たちの奮戦がなければあの戦いは勝つことが出来ず、良くても痛み分けで終わり、こちらは完全に負けていた。
「よかった……山城……」
扶桑さんは妹の無事を知り感激のあまり、泣き崩れた。
彼女は姉として心の底から山城さんの無事を祈っていたのだ。
そんな彼女からすれば山城さんが無事であったことは何よりも大きな幸運だろう。
……山城さんに伝えたいです……
扶桑さんを失ってから、山城さんの悲しみは酷すぎるものだった。
何とか時雨ちゃんや最上さんが支えて来ていたが、敬愛していた姉を失った彼女は見ていて辛かった。
そして、悲しいことではあるが、それはあの戦いでは日常的なものだった。
この私もその一人だったのだ。
不知火姉さんと霞ちゃんは本当に強かったんですよね……
慕っていた陽炎姉さんを失いながらも託された次姉として妹たちに厳しくあろうとした不知火姉さん。
姉たちを全員失いながらも残された末妹として姉妹たちの分まで頑張ろうとした霞ちゃん。
あの二人は本当に強かった。
同時に彼女たちの強さが優しさでもあったことを私は改めて気付かされた。
……何だよ、これ……
俺は扶桑という女の人が雪風に告げられた言葉を耳にして泣き崩れた光景を目にして理解が出来なかった。
何とくなく、察することが出来たが扶桑さんにとっては「山城」という人が大事な存在であり、その人が無事であることを喜んでいるのも理解出来た。
でも
これが当たり前の光景なのか?
何となくだが、この悲しみが普通だったのが雪風の世界だったということを何となく感じてしまった。
これが当たり前になっていくのか……この世界も……
雪風の世界に現れたとされる「深海棲艦」。
それがこの世界にも現れたということはこの世界でも何れ雪風のいた世界の様になっていくことも考えられる。
「一夏……?」
「どうしましたの?」
「いや……何でもない」
俺はそんなことが当たり前になっていくことを想像して嫌な気持ちになった。
そんな何れ来る暗い未来を想像していた時だった。
「失礼する」
「千冬姉……?」
「織斑先生だ。馬鹿者」
千冬姉が突然、この部屋に入ってきた。
「……雪風、デュノア。
無事だったのか……よかった」
「「はい……!」」
「ん……?」
千冬姉は二人を視界に入れると多少ではあるが、表情を和らげた。
やはり、千冬姉にとっても二人を助けに向かえなかったことは苦渋の決断で、本意ではなかったのだ。
同時に俺はどうして千冬姉が雪風のことを『雪風』と呼んだのか気になってしまった。
「……この場にいる全員に対してこれからのことを話させてほしい。頼みます」
そして、千冬姉は畏敬の念を込めてこの場にいる彼女たちにそう告げた。