奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第108話「彼方と此方」

「深海棲艦との戦いを頼むって……!?」

 

 一夏さんたちは織斑さんの発言に衝撃を受けた。

 でも、これは彼らからすれば当たり前の価値観だ。

 そもそも軍人であるラウラさんを除いて彼らにとっては命のやり取りは程遠いものなのだ。

 以前、「IS学園」の生徒に対してラウラさんは『お遊び』と見下していた節があったが、むしろそんな風に思われること自体が感じられることは大切なことだし恵まれていることなのだ。

 よく『平和は腐敗を生む』という考えを耳にするだろうし、「女尊男卑」に対しても私は『自分たちが危険な目に遭わないのに偉そうに言うな』と嘆いてもいる。

 当然、「女尊男卑」なんて考えは間違っている。

 でも、だからといって平和が壊れることも間違っているのだ。

 

 ……だからこそ、私たちがいるんです

 

「何や、そんなことか?」

 

「え……」

 

 龍驤さんのあっさりとした反応に一夏さんたちは信じられないといった様子だった。

 これも正しい。

 

「……いいのか?」

 

「……そう思ってくれているだけでええんや」

 

 織斑さんの申し訳なさそうな確認の声に龍驤さんは気持ちだけで十分だと返した。

 織斑さんの疑問に思う気持ち、つまりは誰かに戦いを負わせることへの躊躇いや後ろめたさは憐憫の表れだ。

 平気で他者を危険な目に遭わせようとする人々よりもそう思ってくれている人たちの為に戦えるのなら、それは私たちの誇りでもある。

 

「では、付近の海に対することだが……作戦に関しては一週間後に行ってもらってもいいか?」

 

『!』

 

『!?』

 

 作戦の始まりが一週間後。

 その期間に対して艦娘と一夏さんたちで反応が大きく分かれた。

 

「『一週間後』か……」

 

「遅いな……」

 

「仕方ないわね……」

 

「え……」

 

 艦娘の方では作戦が一週間も後である事に対して不安がっていた。

 彼女たちからすれば、既に衣食住の心配もなく戦いに対する抵抗感がないのも大きな理由だろう。

 むしろ、敵が完全に増え切る前に叩けないことを不安がっていた。

 

「すまない……

 だが、装備が変わっている以上調べないまま戦うのは危険と判断してそうさせてもらった」

 

「そりゃ、そうやな」

 

「むしろ、それを考慮しての判断ならばありがたいことだ」

 

 私たちが『一週間後』を『遅い』と感じながらも『仕方ない』と思っていた理由を彼女は公言してくれた。

 彼女の憂慮は正しい。

 いきなり今まで使っていた装備が全く異なるもの変わったのだからそれを何の試運転もなしに同じ感覚で使うのは危険だ。

 むしろ、この辺りに出た「深海棲艦」という脅威を自分たちにとっても危険な存在だと理解しながらも焦らずに『一週間後』も猶予を出来るだけ延ばしたのは十分こちら側に配慮してくれている。

 

「加えて、今までの雪風の状況と同じならば、あなた方の今までの艤装と同じ戦い方が可能のはずだ。

 そのことから一週間あれば足りると思われる」

 

「ほう?それは幸先がええなぁ」

 

 訓練に関しても私と同じで今までの艦娘としての戦い方と同じで問題ないはずだ。

 それに関しては「艤装」と「IS」の操縦法がよく似ているのは幸いしている。

 

「……ちょっと待ってください……

 雪風さんと…同じ……?」

 

「あ」

 

 織斑さんの口から出てきたさり気ない発言にセシリアさんが反応してしまった。

 

「いいことに気付いたな、オルコット。

 そうだ。貴様と戦った時、雪風は「IS」の訓練を受けてからたった一ヶ月しかなかったぞ?」

 

「「「「「え~!!?」」」」」

 

「織斑さん!?それは!?」

 

 織斑さんは少しにやけながら私とセシリアさんが戦った際に私が「IS」に対する操縦期間が一ヶ月だったことを明かし、それを聞いた一夏さんたちは今までなかった程の驚愕の声をあげた。

 

「そんな……」

 

「嘘でしょ!?たった一ヶ月!?」

 

「俺より一ヶ月違うだけなのに……この差……」

 

「それでセシリアと鈴、しかも、ラウラを倒したの!?」

 

「流石です!お姉様!!」

 

「いえいえ!?

 私が勝てたのはあくまでも三十年間の戦闘経験があったので動作さえわかれば何とかなっただけですから!?

 セシリアさんも鈴さんも落ち込まないでください!!

 それと一夏さんはその……私よりも短かったのにむしろ、善戦したんですから逆にそっちの方がすごいですからね!?」

 

 落ち込んでいるセシリアさん、鈴さん、一夏さんの三人に対して私はそう言って励まそうとした。

 そもそも私は三十年も実戦経験を積んできた。

 それだけの経験があれば基本的な動きさえ覚えれば、後は経験で何とかなる。

 だからこそ基本が大事なのだ。

 

「いや……まあ……雪風ですしね……」

 

「うん……まあ……」

 

「そうだね……」

 

「て、朝潮ちゃん、叢雲ちゃん、皐月ちゃんも何を納得しているんですか!?」

 

 折角、三人を励まそうとしたのに駆逐艦の三人たちが何か引っかかる暗黙の了解を含んでいる様な会話をし出した。

 

「あ、やっぱりそうなんだ」

 

「そっちでもですか」

 

「ぽい?」

 

「て、何全員で納得しているんですか!?」

 

 何時の間にか一夏さんたちと駆逐艦の娘たちは意見が一致していた。

 その中で夕立ちゃんは何時もと様子が変わらず本当に癒しだった。

 

「コホン!

 とりあえず、「IS」の基礎さえ覚えれば全員雪風までとは言わずとも、あなた方の本来の戦いは可能となるだろう」

 

「織斑さんまで!?」

 

「……雪風、仕方ないとはいえ一応、織斑たちの前なのだからここでは「先生」を付けてくれ」

 

「……う……すみません」

 

 遂には織斑さんまでも私を特例扱いしてきた。

 むしろ、私からしてみれば戦闘経験も「IS」の経験もないのに私と初戦闘である程度渡り合い、めきめきと実力を付けてきて、しかも私たちが到着するまで「深海棲艦」相手に生き残っていた一夏さんの方が私より優れている気がするのだが。

 

「加えて、今まであなた方に出来なかった「飛行」すら可能になり戦術の幅も広がる可能性もある」

 

『!?』

 

 それを耳にした途端に艦娘全員が衝撃を受けた。

 

 何故ならその一言で我々の今までの戦術に余りにも大き過ぎる変化が生まれるからだ。

 

「空を飛ぶだと!?」

 

「……嘘」

 

「信じられない……」

 

 全員が空を飛ぶ、その事実だけでも十分信じられないことであるが、その先のことも想像して呆気に取られた。

 艦娘が空を飛ぶ。

 それが意味することが我々の持っている戦術にとっては今までの戦術の概念すらも大きく変える。

 

「戦艦や叢雲、照月、皐月、筑摩や熊野だけで制空権を取れるじゃないか!?」

 

 そう今まで艦載機の数が大きく影響していた制空権争いに戦艦や一部の対空能力の高い艦娘が単騎居るだけで制空権を取れる可能性が出てきたのだ。

 

「それだけじゃねぇ……!!

 水雷戦隊が艦爆や艦攻と殆ど同じになるぞ!?」

 

 水雷屋にしても同じだった。

 高く飛べば艦爆に、低く飛べば艦攻、その場で戦えば艦戦とほぼ同じ役割を行える。

 「IS」の飛行能力と艦娘のここの個性を組み合わせれば、それだけの実力が出せる。

 水上戦力を主とする艦娘たちが湧きたっている時だった。

 

「……いえ、浮かれるのはだめよ」

 

「……加賀?」

 

 一瞬、湧きたった艦娘たちの中で空母の重鎮中の重鎮、最強の空母とも言える加賀さんが全員に冷静になる様に諫めた。

 

「どうしたんだ?

 確かに我々水上部隊の能力が格段に向上したのは間違いではないか?

 それに空母も―――」

 

 武蔵さんはてっきり加賀さんが水上戦力を主とする面々が空母の面々がいなくてもやっていけると思っていると早とちりしていると考えたらしい。

 確かに飛行能力を艦娘が得たことで「虎に翼」と言ってもいい程の戦力が向上したのは事実だ。

 加えて、空母の持つ多量の艦載機はこれからも強力な戦力になるのも間違っていない。

 武蔵さんはそこら辺を弁えている。

 

「……いいえ。

 私が危惧しているのは相手が此方と同じ事をして来る可能性があるということよ」

 

『!?』

 

「―――何?」

 

 加賀さんの忠告を耳にして全員に緊張が走った。

 

「どういうことだ加賀?」

 

「簡単なことよ。

 私たちが「飛行」という能力を得たのならば、相手もそれに対応した能力も十分あり得るということよ。

 私はあの「ミッドウェー」で身を以て経験させられたわ」

 

「う……!?」

 

「ミッドウェー……」

 

 加賀さんは自分たちにとって最悪の記憶である戦いを引き合いに出して彼女たちに訴えた。

 

「それに……ここに翔鶴がいることでその後のこともわかるわ」

 

「え……」

 

 次に加賀さんは翔鶴さんがこの場にいることを見て強く言った。

 きっと、彼女がこの場にいるという事実だけで自分たちがいなくなった後のことを想像してしまったのだろう。

 

「……ごめんなさい、翔鶴。

 飛龍を残して私たちがいなくなった後、あなたたちに迷惑をかけたわ」

 

「そんな……!!」

 

 加賀さんは本気で翔鶴さんに謝った。

 それは自分たちがいなくなった後の「五航戦」の彼女たちが「一航戦」になり、その辛苦を理解しての言葉だった。

 だが、同時にそれは彼女が「五航戦」を認めていたという謝罪にも感じられた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ……

 相手が対応って……それだとまるで……」

 

 一夏さんがこの世界の人間として加賀さんの言及した可能性に危機感を覚えた。

 何故ならそれは「深海棲艦」をよく知らない彼らにとっても、いや、私たち以上に最悪の想定だからだ。

 

「そうよ。

 間違いなく相手もそれを……「IS」だったかしら?

 それを対策した戦いか、最悪それを模倣してくるわ。

 私たちの時と同じ様に」

 

『!!?』

 

 私たちにとっての悪夢が、加賀さんの発言で一夏さんたちにとっての悪夢にも変わった。

 「深海棲艦」に「IS」の能力が加わる。

 この世界における絶対にも等しい最強戦力が相手も使い、しかも、異なり無尽蔵に等しい戦力で押し寄せてくる。

 絶望的過ぎる状況だ。

 

「だが、加賀。

 あくまでもそれは私たちの世界でのことだろう?

 私たちの時は相手も元から機動部隊を持っていたし、それを我々に対応して彼方が本格化したのだから我々の時と一緒にはできないのでは?」

 

 武蔵さんは決して楽観はしなかったが、ただ疑問に感じたことを口に出した。

 確かに武蔵さんの言う通り、あちらの世界では私たちが「ミッドウェー」で痛恨の敗北を受けた後に敵の機動部隊に圧され始めたが、それはあくまでもあちらが持っていた航空戦力を本格的に運用したからだ。

 この世界に現れたばかりの「深海棲艦」は「IS」を持っていない。

 そのことから大きな違いはある様に感じる。

 

「そうね。

 これはあくまでも最悪の可能性よ。

 ただこれは皆、肝に銘じて。

 絶対に慢心だけはしないで」

 

『………………』

 

 加賀さんのまるで自分を戒める様な忠告に私たちは黙るしかなかった。

 この人は自分たち「一航戦」と「二航戦」の敗北が原因でこの光景の多くの惨状が起きたと理解し、それに対して後悔しているのだ。

 

 今の加賀さんはさらに強くなっていますね……

 

 だけれども私は加賀さんが一回り大きくなった気がした。

 敗北したことで元から最強の名前が相応しい加賀さんに心の隙が生まれなくなり、元からあった冷静さも加わってこの人は最早無敵だと感じられた。

 恐らく、「IS」を彼女が完全に覚えた上で彼女と戦った場合私は、いや、きっと楯無さんすら勝てない。

 

 ……ただ問題は加賀さんの言う最悪な状況にこの世界の人たちが向き合えるかなんですよね……

 

 既に私たち艦娘は「深海棲艦」相手に『それぐらいはしてくる』というある程度の気構えは出来ている。

 しかし、この世界の人々はそうはいかないだろう。

 先ず、「深海棲艦」という未知の存在にどう反応すればいいのか分からないだろう。

 だが、それ以上にその正体不明の存在が「IS」という拠り所、いや、神話にも等しい最強の存在を使って来れば一瞬にして恐怖で何も出来なくなる可能性が高い。

 問題が起きるのが問題ではなく、その問題に対してどう対処するのが問題なのだ。

 

「……わかった。

 ありがとう。加賀。

 お前がいなかったら危うかったかもしれない」

 

「……いいのよ。

 むしろ、あなたたちに無理をさせたことへのお詫びにならないかもしれないけど、これで同じ様なことが防げるのならそれでいいわ」

 

「加賀さん……」

 

 実際、加賀さんの言う通り、多くの人間や艦娘たちが『彼女たちがいれば』、『あの「ミッドウェー」さえなければ』と嘆いていた。

 もし翔鶴さんと瑞鶴さんが最後まで戦っていなければ私たちの心は折れていた。

 

「……そうか、その可能性もあるのか……」

 

 加賀さんの忠告に対して織斑さんも深刻そうな表情をした。

 それは「IS」の数が少ないこと、もし「IS」が相手も使ってきた際に人々の反応を想像してのことだった。

 相手が自分たちの保有している「IS」の数以上に物量で押してくる。

 余りにも悪夢だろう。

 

「ええ。だから、そのことを念頭に置いてくれないかしら?」

 

「……わかった。

 ありがとう。もしあなたがそのことを言ってくれなければ我々はいきなり絶望の前に立たされていた。

 僅かではあるが、希望になった」

 

 織斑さんはその最悪の未来を一度は「絶望」として受け取ったが、すぐに加賀さんの忠告で何かしらの打開策を考えられる猶予を得たとして「希望」をもらったと告げた。

 

 そうなんです……

 「希望」は待つものじゃないんです……

 見付けたり、作るものなんです……

 

 多くの人々は私たちのことを「希望」と言った。

 でも、本当の「希望」とは「絶望」の中を彷徨いながらもそれを理解しながらも諦めないで足掻いていくものなのだ。

 

「……だけど、作戦は予定通りに行った方がいいわ」

 

「ああ、そうさせて欲しい」

 

 加賀さんはそれでも出来るだけ早くの「深海棲艦」との戦いを急いだ。

 いずれにしても今ある敵の戦力は出来る限り削っておいた方がいい。

 

「……それと雪風」

 

「………………」

 

「え……」

 

 織斑さんは私の方を見てすまなそうな顔をした。

 それを見て私は『この時が来たか……』と彼女の言おうとしていることを知り、覚悟を決めた。

 

「……お前にも参加して欲しい」

 

「え!?」

 

「……はい」


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