奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「千冬姉!?どういうことだよ!?」
織斑さんが私に一週間後の作戦、戦いへの参加を要請してきたことに対して一夏さんは難色を示した。
いや、彼だけではない。
「そうですわ!
どうして雪風さんが!?」
「私も納得いかない!!」
「僕も……!!」
「教官!!」
他の四人も私の為に抗議の声をあげてくれた。
彼女たちは本気で私を引き止めようしてくれていた。
それを見て私は胸が苦しかった。
「……雪風はこの中で唯一「IS」を使え、なおかつ「深海棲艦」との戦いを経験している。
彼女のその経験と知識は重要なんだ。これが最善の選択なんだ」
織斑さんは自分の握力で拳を壊しそうなぐらい握りしめていつもの反論を断固として受け付けないという雰囲気を消して彼らに言い聞かせた。
彼女もまたこんなことは言いたくなどなかったのだ。
「だけど……!!」
一夏さんはそれでも自分の敬愛している大切な姉に抗い続けた。
それが彼にとって、いや彼らにとってどれだけ大きいものなのかということを私は感じた。
「……いいんです。一夏さん」
「え……」
「お姉様……?」
そう思ってくれている織斑さんと一夏さんたちのことを見続けて私は辛くて仕方がなかった。
だから、私は自分の本心を打ち明けようと決めた。
「……わたしにとって、「深海棲艦」との戦いは避けられないものです。
もし、ここで逃げたら私は一生自分を許せず後悔するだけです。
だから、私が参加するのは強制でもなく、自分の意思です。
ですから、もういいんです」
「なっ!?」
「雪風さん!?」
「アンタ、何を!?」
「雪風……」
私にとってはこの世界で得られた束の間の仮初めで歪んでいるとはいえ平和の中の平穏は捨てがたいものだった。
だけど、もうそれは捨てる時が来てしまった。
もしここで逃げれば私は一生後悔する。
両方とも私の本音だ。
何よりも
……この人達が生きるこの世界を守りたい
私に短い間だったとはいえ平和を享受させてくれたこの人たちの世界を「深海棲艦」なんかに滅茶苦茶にされたくない。
たったそれだけで私は戦いたいと願っている。
「それに私は艦娘……いえ、元とは言え、軍人です。
なら、戦うことは私の務めです」
「何だよそれ!?」
私は自分の生まれた理由と生きてきた意味をぶつけた。
私の手の中には戦う術と守る力、役目がある。
それだけで私は恵まれている。
「お姉様!!なら私も……!!」
ラウラさんは私が軍人であることを理由に戦うと主張すると自分も軍人であることを理由に私と共に戦うと言ってくれたが
「ダメです」
「え……」
私はそれを拒絶した。
「あなたはドイツ軍の軍人です。
そして、この場にいるあなた方は「代表候補生」で各国に所属する人間です。
あなた達の命はあなた達だけのものではありません。
だから、一緒に戦うことは許しません」
「お姉様!?」
「アンタ!?」
「雪風さん……」
ラウラさんは軍人と言っても、あくまでもドイツ軍の人間だ。
そんな彼女をこれからの戦いに手続きも踏まないで参加させるのは問題になる。
いや、彼女だけではない。
この場に「代表候補生」に何かあればそれこそ国際問題に発展する。
私はそれを口実に彼女たちを戦いから遠ざけようと決めた。
「何でだよ!?
どうしてそんなことを言うんだ!!」
「………………」
この中で何処の国家にも機関にも所属しているわけではない一夏さんは私の言葉の意味が分かっていない様子だった。
良かったです……
今の一夏さんが冷静じゃなくって……
私は今、一夏さんが冷静じゃなくって良かったと安堵している。
今、私が彼女たちに向かって言った口実は彼女たちには通用するが、「代表候補生」ではない一夏さんには通用しない。
だけど、そのことに彼らは気付いていない。
今の彼も彼女たちも冷静ではないからだ。
本当によかった。
特に一夏さんはこういうところに頭が回るのでばれないか心配だった。
「雪風……!!
それでいいのか!?」
「………………」
彼は理屈ではどうにもならないと考えて情に訴えてきた。
いいなんてことはない。
本当はもっと平和を楽しみたかった。
でも
「……いいんです。
これは私にとって譲れない想いです」
「!?」
彼らに譲れない想いがある様に私にもそれがある。
彼らが私のことを大切に想う様に私もまた彼らを大切に想っている。
「お前は―――!!」
「………織斑、下がれ。他の四人もだ」
「―――千冬姉!?」
未だに食い下がろうしている一夏さんを見て織斑さんが声をあげ、彼らに部屋から出ていくように指示した。
「今のお前たちは冷静ではない。
だから、出ていけ」
「なっ!?」
織斑さんの突き放すかの様な発言に彼ら五人が絶句した。
今まで、織斑さんは口調が高圧的ではあったが、それでも彼らを突き放す様な発言はしてこなかった。
「……なん―――!!?」
最も衝撃と悲しみを感じているのは一夏さんだった。
きっと、今まで彼は織斑さんに厳しいことは言われてきたが、それでもこの様な拒絶する様な発言は受けてこなかったのだ。
私もですから……
それは私もだった。
不知火姉さんは厳しかったがそれでも私を頼りにしてくれていた一面があった。
姉に拒絶されるなど、相当応えるのは当たり前だ。
「……一夏、みんな、出よう……」
「―――シャル!?」
そんな中、シャルロットさんが全員にそう促した。
「どうしてだよ!?」
「いいから!今は部屋を出よう!!」
「お、おい!?」
「デュノア!?」
「え!?ちょっと!?」
「えっとその……!?」
シャルロットさんは一夏さんとラウラさんの腕を掴むとそのまま無理矢理引っ張って行って彼らを連れ出し、鈴さんとセシリアさんも混乱していたこともあって後を追って出て行った。
「……いいのか?雪風」
「………………」
五人が部屋から出ると武蔵さんがそう問いかけてきた。
「……仕方ありませんよ。
あの人たちを巻き込む訳にいきませんから」
「……だが、大切な友達なんだろ?」
武蔵さんは私の発言に彼らが私の『友達』であることを踏まえて私が彼らを拒絶した側面があったことにちゃんとお別れをしなかったことを咎めた。
「……だからこそですよ。
だから、出来る限り遠ざけたいんですよ……」
私にとっての「友達」というのは今まで戦友しかいなかった。
彼女たちはそもそも戦うことを自分たちで決めていた。
だから、それが普通だった。
でも、彼らは違う。
彼らは「深海棲艦」との戦いを義務付けられている訳ではない。
きっと、これから戦いが長引けばそんなことを言っている暇もなく、彼らも身を投じぜざるを得ないかもしれないが、それでも私はそれを出来る限り先送りにしたいのだ。
「……そうか」
武蔵さんはそう言って理解してくれた。
胸に……穴が空いちゃいました……
だけど、何故だろう。
胸がこんなにも空しく感じるのは。
きっとそれは
今まで……「お別れ」はいがみ合った事なんてなかったですからね……
今まで突然の死などの別れは経験はしたことはあったが、喧嘩別れなどで終わったことは一度もなかったからだ。
「シャル!!離せよ!!」
「デュノア!!」
俺は自分とラウラを無理矢理引っ張って連れ出したシャルの腕をようやく振り払うことが出来た。
どうやらシャルもここまでが限界だったらしい。
「どうしてだ、シャル!!
どうして邪魔をしたんだ!?」
俺はもう訳が分からないのと雪風に拒絶されたことへの戸惑いでつい、シャルに噛みついてしまった。
「……仕方ないよ。
みんな、冷静じゃなかったんだから……」
「そ、それは……」
シャルは俺たちがあの場にいても埒が明かなかったことを理由に連れ出した。
そのことは俺も分かっている。
俺自身も今、自分が冷静じゃないのは十分承知している。
「……それにもしかしたら、あのままいたら……
きっと僕たちは後悔することになったと思ったから……」
「「後悔」……?
一体、何だよそれ?」
シャルの言う「後悔」という言葉の意味が分からなかった。
今の俺にとっての「後悔」はこのまま雪風を戦わせることだ。
あの時、雪風は『まだここにいたい』と言っていた。
あれは紛れもないあいつの本心のはずだ。
そんな雪風を放っておくこと以上の「後悔」があるだろうか。
「……もしかすると、僕ら……
酷い喧嘩別れで終わってた可能性があるよ」
「え……」
「喧嘩別れ?」
シャルは俺たちと雪風が喧嘩別れで終わる事を危惧していたらしい。
「……僕らも雪風もどっちも譲れないでしょ?
それに……雪風っていざとなれば自分が嫌われ者になってでも嘘を吐いて相手を助けようとする可能性があるよ……
そうなったら、最悪の終わり方をしてたよ……」
「……!?そ、それは……」
「う……」
シャルの言う通りだった。
雪風はそう言う人間だ。
平気で自分を犠牲にする。
何よりも
『一夏さん……
と嫌われてでも相手を遠ざけ守ろうとすることを「優しさ」と言える。
間違いなく、俺らに嫌われることを覚悟で突き放してくる。
クソ………
何か出来ないのかよ……
俺たちが無力感と悲嘆にくれている時だった。
「おや?どうしましタ?」
「え……?」
やり場のない怒りをかき消す様な明るい声が聞こえてきた。
「あなたは?」
「金剛さん?」
それは艦娘全員が慕っていた金剛と呼ばれる人だった。