奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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ようやく、この章も終わります。
長かった……


第110話「新たな決意」

「どうしたんだろう?」

 

「まだ一日あるはずなのに……」

 

「何かあったのかな?」

 

 急遽まだ一日あるはずの臨海学校を突然取りやめ帰ることになり学園の生徒たちは残念がる者や不思議に思う者、困惑する者が多くいた。

 その中で最も多いのは困惑だった。

 やはり、これから先の予定がいきなりなくなったことへの疑問が強いのだろう。

 

「織斑君、何か知らない?」

 

「え?あ、あぁ……

 悪い。俺も分からない。

 それと……ちょっと機密事項があって昨日のことはあまり口外できないんだ……」

 

「ふ~ん、そうなんだ。

 ごめん」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 急に何か知らないかと訊ねられたが、俺は誤魔化した。

 どうやら一部の人間は昨日、俺たちが参加した緊急事態が今のこの状況に関わっているのかと思ったらしいが、本来の目的と一致しないことから、俺はそのことには嘘を付いた。

 

 ……平和だな……

 

 俺は自分が知っている事実と今、目の前に生徒たちとの認識の違いに大きな隔たりがある気がした。

 

 ……この海の何処にどれだけの危険があるのかわからないな……

 

 俺と彼女たちの見えている海が違っていた。

 彼女たちが見ている海はただ綺麗で豊かな海だ。

 だけど、俺たちが見ている海はあの破壊をもたらす怪物たちが潜んでいて何時何処で姿を現すのかが分からない魔の巣窟の様なものにしか感じられなかった。

 

 これを雪風の世界の人たちは何十年も……

 いや、今もこんな気持ちで……

 

 俺は今も海に潜んでいるであろうあの怪物たちの存在がもたらす恐怖と不安を感じて、この異常が日常となってしまった雪風たちの世界の人々の気持ちを想像した。

 地球の七割を占める海。

 そんな広い世界の何処に潜んでいて何時襲ってくるのか分からないという恐怖と不安は想像を絶するだろう。

 雪風が三十歳だったということから、少なくとも、あちらの世界ではこの状況が三十年以上も続いているはずだ。

 

『強くなってくだサイ』

 

 昨日、金剛さんは俺たちに出来ることはそれだけだと言ってきた。

 たったそれだけしか俺たちは雪風にしてあげられない。

 

『本当のことを言うと……

 僕……怖くて……しょうがない……』

 

 金剛さんが去った後にシャルは俺たちに自分の心を打ち明けた。

 意外だった。

 てっきり、シャルのことだから雪風を失いたくないと考えてそんなことを思わないでいたと思っていた。

 

『僕……雪風に生き残る為に敵に爆弾を落とす様に言われたんだけど……

 僕……出来なかった……』

 

 シャルは自分も死ぬか生きるかの状態だったのにそれが出来なかったと言った。

 

『金剛さんが言っていた様な覚悟を僕は持てなかったんだ……!』

 

 シャルは蹲って告白した。

 シャルは俺と違って殺そうとした相手の顔を見て躊躇してしまったのだ。

 

『それで……あの大きな帽子を被った人に首を掴まれて……

 殺されそうになって……!死にたくないって思って……!

 でも、僕がやらなかったから雪風も金剛さんも死にそうになって……!

 篠ノ之さんが来なかったら……僕は……!!』

 

 シャルはもう主語も時系列も無茶苦茶な言葉を吐き続けた。

 殺されかけた恐怖。

 殺すことへの恐怖。

 殺さなければ大切な誰かを殺される恐怖。

 それらごちゃ混ぜになっていた。

 そんなシャルのことを誰も責めることなんて出来なかった。

 いざ、自分がそうなった時に自分がどう思って行動できるなんて保証は誰もしてくれないし、何処にもないのだ。

 

 千冬姉が言っていたな……

 『命を奪うことへの重み』って……

 

 昔、千冬姉は特別に俺に日本刀を持たせてくれた。

 あの時、千冬姉は俺に刀の重みを通して命を奪う力が刀には在り、それを忘れるなと言っていた。

 俺は意識せず命を奪ってしまった。

 自分の命を守る為とはいえ、相手を殺した。

 

 『悪魔みたいな奴らなんだから同情するな』なんて……

 割り切れねぇよ……

 

 艦娘の人たちの話によると「深海棲艦」には対話が通じず、有無を言わさず一方的に殺しにかかってくるらしい。

 最早、「悪魔」や「化け物」と言っても過言じゃないだろう。

 まるで映画やTVに出てきそうなエイリアンやらモンスターだ。

 きっとそんな相手に躊躇なんてしていたら昨日俺やシャルが経験した様に俺が死ぬか、他の誰かが死ぬことになるだけだ。

 でも、殺すことが怖くて仕方がない。

 

 人の形をしているだけでこれって……

 俺って……馬鹿だよな……

 

 相手が人間と似ているから殺せない。

 それは裏を返せば、そうじゃなかったら殺せるということになってしまう。

 もし相手が人の形をしていなければ簡単に奪っていいなんてことはないはずだ。

 命はそんなに軽いものじゃないはずだ。

 

「ねえ、そう言えば陽知さんはどうしたんだろ?」

 

「あ、確かに……」

 

「昨日から見てないね」

 

「……!」

 

 生徒たちは雪風が姿を現さないことを気にし始めた。

 雪風は今、俺たちとは別行動だ。

 山田先生と一緒に他の艦娘と共に研究機関に行って「初霜」の修理と他の艦娘たちの訓練を行うことになっている。

 

「……織斑君、何か知らない?」

 

「ああ……

 ちょっと、昨日の騒動で「IS」が少し壊れて修理しに行っているらしい。

 しばらくはあっちに行ってるって。

 でも、無事なのには変わりない」

 

「え!?本当!?」

 

「でも、良かった……無事で……」

 

 今度は本当のことを言った。

 雪風の「初霜」が昨日の「福音」の攻撃で壊れてしまったために一度、研究所で修理する必要があった。

 

 何度も何度もボロボロにしても……

 俺たちを助けてくれたんだよな……

 

 「初霜」は雪風の友達である初霜と呼ばれる艦娘と同じ名前らしい。

 そんな思い入れの深いであろう名前を持つ機体なのに雪風はその機体と一緒にボロボロになっても俺たちを助けて続けてくれた。

 

 だから、力になりたい……!

 

 そんな風に色々と背負っているのに、それでも他人を助けようとする雪風の力に俺はなりたい。

 そして、それは俺だけじゃない。

 

『でも……僕……

 雪風を見捨てられない……』

 

 あれだけ怯えていたシャルは怖いにも拘わらず雪風を見捨てたくないと意思を示した。

 

『そうですわね……

 それに喧嘩別れなんて嫌ですわ』

 

 シャルに続いてセシリアは雪風とのお別れがあんな形になるなんて嫌だと語った。

 彼女に意思に全員が肯いた。

 

『アタシ……

 このままアイツに力になれないなんて思われるのが悔しい。

 だから、次会う時には絶対に認めさせてやるんだから……!!』

 

 鈴は少し素直じゃなかったが、反骨心剝き出しで雪風の力になることを宣言した。

 悔しさをばねにしてそれでも友達を助けたいと願えるあいつらしいやり方だ。

 

『私は……

 お姉様に教えてもらった「生命」の在り方を忘れない。

 そして、必ずお姉様の力になってみせる!!』

 

 最後にラウラは無念そうに呟いた。

 本当ならば俺たちの中で真っ先に雪風の力になりたいとなりふり構わずに行動する奴だ。

 あの「生命」を軽んじていたラウラが「生命」を考える様になり、その「生命」を大事にして戦いたいと願っていた。

 

 だから、雪風……待ってろよ

 

 雪風はこんなことを決して望んでなどいないだろう。

 だけど、そんなことを簡単に飲み込める程、俺たちは大人じゃない。

 

 再会した時にはお詫びとして一発芸ぐらいしてもらうぞ

 

 そのことを全員に話したら全員が賛成した。

 どうやら腹が立ったのは満場一致だった。

 

 お前が帰ってくる場所は……絶対に守る

 

 今のあいつは帰って来れない。

 それでもあいつが何時帰ってきてもいい様に帰ってくる場所を守ってやることぐらいは俺たちにだって出来るはずだ。

 強くなってあいつを助けられるまでになるのは遠いだろう。

 それでも、それぐらいのことぐらいはしてやりたいんだ。

 

 

 

『そう……

 雪風ちゃん、それでいいのね?』

 

「はい」

 

 一夏さんたち「専用機持ち」と一般の生徒たち、山田さんを除いた教員たちが集まっているバスを目に入れながら私は旅館の二階の窓の前で私は事の顛末を更識さんに伝えた。

 

「元々、私は戦うことが役目です。

 それにこの世界の人間じゃない私を匿ってくれたあなた方に何かを恩を返せるのなら今だと思っています。

 ただそれだけでいいんです」

 

『……本当にいいの?』

 

 私が今、出来ることはこれぐらいだ。

 この世界は確かに少し歪んでいるのかもしれない。

 

「前にあなたも言いましたよね?

 『自分が当主という立場にいるから守れるものがある』って……

 あなたのいうその立場が今の私なんです」

 

『……そう言われたら返す言葉がないわね……』

 

 私は卑怯な言い回しでそう返した。

 更識さんはある意味、私と同じ立場だ。

 私と同じ様に自ら戦いに身を投じてそれで後ろにいる人たちを守ろうとする。

 だから、彼女ならこの言葉だけで分かってくれるだろう。

 

『……かたな』

 

「え……」

 

 私の説得が無理だと理解してしばらく黙っていると彼女は唐突にそう言ってきた。

 

『「楯無」は更識の当主名。

 「刀」に奈良県の「奈」で「刀奈」。

 それが私の本当の名前よ』

 

「……!?」

 

 なんと彼女の「楯無」という名前は彼女の本名ではなかった。

 そして、「刀奈」という名前が彼女の本当の名前だったのだ。

 

『……それが今、私にしてあげられること。

 大切な友達なんだから、本名を知っていて欲しいわ。

 餞別よ、受け取って』

 

「……更識さん……」

 

『もう……更識じゃなくて、「刀奈」って呼んでよ?』

 

「あ、ごめんなさい……刀奈さん」

 

 彼女のくれた名前で私は彼女にそう返した。

 彼女は私に本当の名前を教えてくれた。

 これは彼女を心の底から「友」だと認めてくれた証拠だろう。

 

『ありがとう。雪風ちゃん。

 あなたのお陰で私の心の中に在った心細さが薄れたわ。

 あなたがこの世界に来てくれて本当によかった』

 

「刀奈さん……」

 

 きっと彼女もまたずっと戦ってきたのだ。

 彼女の守りたい者の為に。

 

『武運を祈っているわ』

 

「ありがとうございます。刀奈さん。

 この世界で出来た最初の友達があなたで私も良かったです」

 

『また会いましょう』

 

「はい」

 

 彼女のもう一つの餞別をもらい私は新たに決意した。

 

「絶対に守って見せます」

 

 既に戻れない日常。

 それでも、その中で生きる人々の日常を私は守りたい。

 

 今度こそみんなで生き残って、今度も守って見せます……!

 

 もう一度出会えた人々も、この世界で出会った人たちも、この世界の人たちも必ず守って見せる。

 それがこの戦いにおける私の意思だ。


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