奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
第1話「新しき訓練」
「成る程。ある程度は「艤装」と変わりませんね」
「はい」
他の学生たちと別れてから「倉持」の研究施設に来たあとに私たちは残された時間が少ないことから、早速「IS」の訓練を始めた。
すると、全員が元々イメージを抱きやすいことから難なく展開することが出来た。
これなら、「艦娘」としての戦いは出来ます
「IS」は自らが思い描いた動きをする。
これならば、水上での戦いに慣れている私たちの従来の戦い方は何とか可能だろう。
「でも、良かったぽい!
これなら戦えるぽい!」
「……あんたの口癖ってたまにちょっと不安になるわね……」
「確かに……」
「うん……」
「そうだね……」
「ぽい?」
「あはは……」
流石の天才肌の夕立ちゃんは既に手応えを覚えている様子であるが、彼女の口癖の影響か周囲が困惑してしまっている。
彼女が「IS学園」に来たら……
間違いなく『わかったのか、わかっていないのかどっちなんだ!?』ていうツッコミの嵐ですね
何となくその光景を思い描いて私は微笑ましかった。
「しっかし、まあ……
まさか駆逐艦に俺たち軽巡が教えられるとは……
何が起きるかわからねぇな」
「……恐縮です」
「こらこら、天龍。
それは言ってはいけないクマ」
「うん。そうだよ、雪風ちゃん。
むしろ私にはもっと教えて……」
「わあ~!?
阿賀野ちゃん!落ち込まないで!!」
本来ならば駆逐艦の私が教えることなどなかったのに立場が逆転して軽巡の皆さんに教えていることに私と軽巡の皆さんたちは複雑だった。
特に阿賀野さんは事あるごとに落ち込んでしまっている。
……阿賀野さんは精神面を鍛えないといけませんね……
恐らく、この中で軽巡であるのに駆逐艦の私よりも実戦経験が少ないことを阿賀野さんは気にしてしまっている。
何よりも最新気鋭の軽巡であったのに就役後に戦っている期間が短かったことを必要以上に気に病んでしまっている。
「これなら、何とかなりそうね。
雪風ちゃん、本当に成長しているわね」
「……そんな、古鷹さん……
私なんてまだまだですよ」
「いや、古鷹の言う通りだ。
よし、雪風。後で飲み明かそ―――」
「だから、すぐにそっちに持って行かない!」
「雪風は学生ですわよ!?」
「少し不安になってきました」
那智さんは隙を見せると直ぐに私を飲みに誘おうとする。
確かに私もあっちでは飲んではいたが、流石にこっちでは学生の身なのだから知られたら神通さんに叱られるだろう。
……那智さん……
学園でもやっていけるでしょうか……
一応、「IS学園」でしばらく匿ってもらう予定ではあるが、那智さんの酒好きを考えると間違いなく学生たちに悪影響だろう。
……織斑さんたちに任せましょうか……
一夏さん曰く、織斑さんは割と私生活面では割とビールを飲みまくるらしいので那智さんなどの酒好きの方々に関しては彼女に任せた方がいいのかもしれない。
「しかし、使える装備が以前とあまり変わっていないのは本当に幸いだ」
「せやな。
これなら、何とか直ぐに戦えるな」
「そうですね。
それに艦載機のみんなも変わっていないわ」
「そうね」
「でも、不思議ですね。
どうして妖精さんたちはいてくれるんでしょうね?」
「確かに……」
武蔵さんが兵装が大体同じであることに安堵していると翔鶴さんが艦載機の中に妖精さんたちがいることを不思議に思っていることを口に出した。
意外にも艦載機の中には以前と変わりなく妖精さんたちがいて、同じように操縦していた。
篝火さんや山田さんたちには見えていない様子ですし……
間違いなく彼女たちですね
妖精さんたちと久しぶりに会話をしていると篝火さんと山田さんたちは不思議に感じていたらしく、どうやら彼女たちには見えていない様子だった。
そのことから篝火さんは彼女たちの艦載機を『高性能な人工知能を搭載したビット兵器』だと勘違いしている様子もあった。
……夕張さんや明石さんがいたら助かるんですけどね
この場に工学に詳しい夕張さんと明石さんの二人がいないことが悔やまれる。
もしあの二人がこの場にいてくれれば、「IS」の整備や装備の改修などにおいてかなり大きな助けになってくれたはずだ。
それに未だに私の「初霜」や私たちの「IS」にはわからないことが多くある。
その調査もしてくれるはずだ。
私たちと一夏さんたちの「IS」には違いがありますからね……
やはりとも言うべきか、艦娘の「IS」は人間には使えない。
そうなると何かしらの理由がそこにはあるはずだ。
「Hey,ユッキー!
どうしましたカ?」
「金剛さん……」
私が私たちの「IS」の謎について考えていると金剛さんが声を掛けてきた。
「……いえ。
ちょっと、私たちの「IS」とこの世界での一般的な「IS」の違いを考えていて……」
「Hum……
成る程、そういうことデスネ。
確かに我々の様に突然出て来たものではなく、元からあるものですしネ。
気になるのも仕方ありマセン」
「はい」
私の個人的な疑問に金剛さんは理解を示してくれた。
それともう一つ気になったことがあった。
後、まさか妖精さんたちともまた会えるとは思いませんでしたね……
それは妖精さんたちの存在だった。
何と、空母等の艦載機には彼女たちがいたのだ。
これは驚かされた。まさかこの世界でも彼女たちに出会えるとは思わなかった。
「では、皆さん。
次は艦載機からの攻撃の回避を想定した演習を行います」
「ああ、そうだな」
「確か、この「れーざーぽいんたー」というものを付けてやるんでしょう?」
「はい」
私はかねてから彼女たちに渡していた「レーザーポインター」を装着する様に伝えた。
この世界と私のいた世界を比べた上での利点の一つとしては訓練をする際に無駄使いを極力抑えられることだと思う。
あの「レーザーポインター」などは訓練をより実戦に近付けるものだ。
「空母の皆さん。
よろしくお願いします」
「了解!」
「ええ」
「任せて」
「はい」
私は空母の皆さんに艦載機の出撃をお願いした。
彼女たちの艦載機には小型のレーザー照射機が搭載されている。
それを機体の中の妖精さんたちが作動することによって、深海棲艦の航空部隊を再現してもらっている。
この方法がこちらの機材を使うよりも効率がいいだろう。
『うわ……
本当に一機一機がちゃんと動いている……すごい……』
試験場を別室で眺めている篝火さんが艦載機の動きに圧倒されている。
彼女からすればこれだけの機体が小型化していて機敏な動きをするのは衝撃的だろう。
セシリアさんの「ブルー・ティアーズ」でも四基……
それの十倍ですからね……
戦術が違うので何とも言えないが、セシリアさんの「ブルー・ティアーズ」でも四基が限界なのにこちらは軽空母の龍驤さんでも四十機以上の搭載数を誇っている。
しかもそれが完全に自立した動きをしているのだ。驚くのも無理はない。
どちらかというとセシリアさんと似ているのは扶桑さんと熊野さん、筑摩さんですかね
ただ単体での射撃能力を考えるとセシリアさんはどちらかと言うと航空戦艦や航空巡洋艦の方に近いだろう。
だから、空母と比べるのは違うだろう。
「駆逐艦、軽巡、重巡、戦艦の皆さん、これから防空訓練を行います」
「はい!」
「ああ!」
「ええ」
「Yes!」
私はこの訓練の主体となる駆逐艦、軽巡、重巡、戦艦の皆さんにこれから行う訓練についての説明を行うことにした。
「「IS」は想像力によって飛行することが可能です。
ですので、不慮の事故を防ぐ為にも今回は今までの戦いや訓練を強く念じて動かしてください」
私は飛行しない様に念を押した。
「IS」は「艤装」と異なり飛行という能力を有している。
ここで問題なのはそれが想像するだけで出来てしまうことだ。
もし、慣れていないのに浮遊してしまえば混乱して暴走する可能性がある。
「万が一、浮いてしまった場合は直ぐに私に連絡して、私が傍にいくまでその場で落ち着いてください」
「わかった。
ここではお前が先生だからな?頼むよ、先生?」
「あはは……恐縮です」
まさか、駆逐艦の私が同じ駆逐艦どころか軽巡や重巡、さらには戦艦や空母まで指導することになるとは思いもしなかった。
彼女たちは何とも思っていないとは思うが、私は緊張して仕方がなかった。
「雪風!
ここで臆することはありません!」
「朝潮ちゃん?」
私が少し気後れしていると朝潮ちゃんが叱咤してきた。
「あなたは神通さんの教え子です!
ですから、神通さんに教えられた通りで大丈夫です!」
同じ「二水戦」の同期として彼女は最も効果のある励まし方をしてくれた。
……そうですね。
神通さんも託してくれたんですから
一夏さんたちと別れた後、私は包帯でぐるぐる巻きながらも病院から抜け出してきた神通さんと再会した。
その際にしばらく療養する必要があり、私に艦娘の皆さんの指導と訓練を頼むと言ってきた。
だから、その期待に応えたい。
今は神通さんには休んで欲しいですし……篠ノ之さんとの時間を少しでも取り戻して欲しいです
神通さんには今は安静にして欲しいのと篠ノ之さんと少しでも一緒にいさせてあげたい。
彼女は私に休学扱いになった篠ノ之さんを一人にしたくないと言ってきた。
私自身もようやくわだかまりがなくなったこともあり、篠ノ之さんには今まで孤独だったのだから神通さんと一緒にいた方がいいと思っている。
だから、神通さんへの恩返しとして、二人に束の間でもいいから平穏を送っていて欲しい。
「……ありがとう。朝潮ちゃん。
皆さん、私が駆逐艦ということで多少の不満……なんてことは抱えてはいないと思われますが、それでもこの場では指導者として当たらせて頂きます」
きっと、この人たちは私が駆逐艦だからという色眼鏡という理由で気にすることはないだろう。
この世界に来てから落ち込み続けている阿賀野さんにしてもただ経験が私よりも少ないというだけでそれでも強くなろうとする決意はある。
それでも念のために言わせてもらった。
「おう!
「二水戦」の年長者としてはまけられねぇぜ!
見せてみろ、雪風!「二水戦」の意地ってのをな!」
この中で「二水戦」をかつて率いていた天龍さんは私に「二水戦」としての流儀を見せろとぶつけてきた。
「Yes!天龍と朝潮の言う通りネ!
ユッキーは遠慮はなしネ!!」
「「水雷屋」だけが厳しい訓練を積んできたことと思わないで……
雪風、構わないで来なさい」
すると、戦艦組と空母組も負けじと続いてきた。
「雪風、ええか?」
「……わかりました!!
では、空母の皆さん!お願いします!!」
全員の本気を確かめ私は防空訓練の開始を告げた。