奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「全く、お前はいつもいつも心配をかけて……!!」
「……すみません。お父さん」
中国から帰国した後に演習をした時ぶりに再会した私に父は勝手に病室どころか、病院まで抜け出したことに対して大目玉を食らわせてきた。
そのことに対して、私は何も言い返せなかった。
「那々!!
お前が子供の頃から面倒見がいいことは分かっている……
しかしだな……いくら何でも自分の事を省みなさすぎだ!!」
「……ごめんなさい」
二十三年近く私のことを愛してくれている父親の言葉だけに私は心苦しかった。
この人と母は本当に心の底から私のことを愛してくれている。
私の本当の姿を知らないとは言え、この無償の愛を注いでくれる父と母には私は頭が上がらない。
「……しかし、第四世代の新型か……
これから、忙しくなるな……」
「………………」
父は一通り私を叱ると親としての役目を終え、この国の防人としての顔を見せ始めた。
「前々から思っていたが……
あの博士は世界を引っ掻き回すことしか出来ないのか?
いくら妹へのプレゼントとはいえ、世界のミリタリーバランスやパワーバランスを一瞬にして崩壊させかねない様なものを誕生日プレゼント感覚で渡すのは勘弁して欲しいところだ」
父は篠ノ之先輩の今回の行動を頭を抱えた。
「そうですね……
これから箒ちゃんの所属も考えないと……」
「ああ……しかも、第四世代機となれば世界中が血眼になって求めるだろうな……
それに日本のあの子の開発が遅れそうだ……
不憫でならない……」
父は箒ちゃんがどの国の「代表候補」になるかでも悩んだ。
加えて、一夏君や表向きは雪風の影響で専用機の開発が遅れている日本の代表候補生に不憫だと漏らした。
「……本当にお父さんは「IS」に対してはそこまで嫌悪感を抱いていないんですね……」
日本の「代表候補生」に対する父の態度を見て私はこの人が世の男性や軍事(防衛)関係者が抱いている「IS至上主義」や「女尊男卑」から来る不遇への憎しみに囚われていないことに安堵した。
「当たり前だ。
確かにああいった人間に思うところはなくはないが、制服を支給された時からそういった人間も守ることも決めたんだ。
自衛官がそんなことを気にする暇なんてないよ。
まあ、予算を減らされて守る力を少なくさせられるのは流石に文句は言いたいがな」
「ぷっ」
父は自衛官としての矜持を示しながらも愚痴を少し混ぜて私を笑わせに来た。
私は前世では軍人であった者としてもに自衛隊関係者としてもこの人を尊敬している。
本当にこの人の娘に生まれて来れたことは幸せだ。
「……ただ一つはっきりと文句を言いたいことがあるとすれば、「代表候補」などという軍人に片足をツッコんだことをまだ15にもなったばかりの子供たちにやらせていることだな」
「………………」
この人はそのことに対して憤りを持ってそう答えた。
「今度の作戦にしてもそうだ。
軍用の「IS」の暴走の鎮圧などそもそも子供たちにやらせることじゃない。
「IS」がスポーツ程度ならそれはそれでいいが、兵器としての「IS」に子供を関わらせること自体がおかしいだろう」
「……そうですね」
父は本心からそう言った。
それは防人としての誇りからくる義憤だった。
「防衛学校の生徒たちはそういった気概で来ている……
だが、半ばスポーツに近い「IS」を目的としている生徒相手なのにそれを平然と大人が任せることは狂っている。
……それに本来ならば、私はお前に自衛隊や軍、防衛に関わって欲しくなかった」
「……お父さん」
父の目は申し訳なさそうにしながらも、それでも愛情に満ちた目で私に語り掛けてきた。
「……俺はな……那々……
お前や母さんが陸にいるから海を守ろうとする気になれるんだ……
父であり夫である俺が危険なことを引き受けるからこそお前たちを少しでも危険から遠ざけて安心して暮らせるならいいと思っている。
自衛官になった時の情熱は幾らか枯れたが、それでもお前たちの存在のお陰で定年までは現役でやっていこうと思える。
案外、親なんてそんなものだ。
子供が幾つになっても親は親だ。だからこそ、お前よりも年下の子供たちが戦うことが気に食わん」
「………………」
父は少し自嘲気味であるが父親としての妻子へと向ける愛情の深さを以って私が防衛関連に関わって欲しくなかった本心を打ち明け、同時に他の子供が戦いに関わることへの嫌悪感を見せた。
よく考えてみればこの人は私が神通としての記憶を取り戻す前から私が自衛官になることに反対していた。
それは父親として我が子を危険から遠ざけようとする愛情そのものだった。
「……お父さん……
実はあなたに隠していることがあります」
父の愛情を改めて知った私は益々この人と母を偽ることが出来ず、もう本当の自分を打ち明けることを決めた。
もしかすると、これからの戦いで自分と父のどちらかが何時命を落とすのかもしれない。
だから、せめてこの人たちには私の秘密を知ってもらいたかった。
そして、彼らの判断に任せたかった。
「なんだ?
もしかすると紹介したい人でも出来たのか!?
お父さん、悲しいぞ!?」
「……違います!」
父は娘の人生最大の告白に対して私に恋人がいるのかと冗談か本気か訊ねてきた。
そうだったらどれだけ嬉しいことか。
しかし、それはきっと叶わないことだ。
……提督はもういませんから……
私が心の底から恋い慕った相手はもうあらゆる意味で遠い存在になってしまった。
それは悲願と此岸であり、世界と世界であり、過去と未来という意味でもだ。
「じゃあ、どうしたんだ?
お前の場合はどんなに秘密を抱えたとしてもやましいものじゃないだろ?
何をそんなに思い詰める?」
「それは……」
一度話すと決めたばかりなのに改めて父の私への理解を聞かされて私は再び迷ってしまった。
本当にこの人は父親として優し過ぎる。そんなこの人に私は拒絶されることが恐かった。
前世の記憶を持っているなんて……
怪物と変わりませんよね……
私は間違いなく幼い頃から「川神 那々」だった。
ただ「神通」という存在もまた私だ。
私自身はそれを割り切っているし、「川神 那々」という人間だとはっきりと言える。
しかし、目の前の父とこの場にいない母はどうだろうか。
私自身は彼らの娘だと思っている。
彼らからすれば、私は娘の皮を被った別人だと思わないだろうか。
「……お父さん。
今から、話すことは決しても悪ふざけでも冗談でもありません。
どうか、聞いてください」
「那々……」
それでも私は両親にこれ以上隠し事をしたくなかった。
「……わかった。
聞かせてくれ」
「お父さん……」
父は私の気持ちを汲み取って私の告白を受け止めてくれようとしている。
「……ありがとう。お父さん」
私はこの時点で報われた。
結果的にどうなろうとこの人は私にとっては父だ。
私はそう思って生きていける。
「……私には前世の記憶があります」
初めて私は父に自分に前世の記憶があることを打ち明けた。
艦娘や深海棲艦などといったことを省いて私はそれだけを伝えようとした。
「……それは本気で言っているのか?」
「……はい」
父は一瞬、私が何を言っているのか理解出来なかった様子であったが、すぐに冷静さを取り戻して私が本気なのかを訊ねた。
「……私の記憶が戻ったのは7年前……
その時からずっとお父さんにもお母さんにも……
他の人たちにもずっと隠し続けてました……」
私は父が信じても信じなくてもただ事実だけを述べた。
「………………」
父は私のことをジッと見詰めているだけだった。
私がおかしくなったとでも思っているのだろうか。
「……一つだけ聞きたい。
お前は那々なのか?」
「……それは……お父さんたちが決めることです……」
意外にも父はゆっくりと私のことについて訊ねてきた。
そのことに対して私はそう答えるしかなかった。
私自身は自分のことを「川神那々」だと思っている。
しかし、彼らからすれば私が『本当に自分たちの娘なのか?』と悩むのは無理もない。
人格の形成において、「記憶」は重要なものですから……
人間が人格を形成する上で「記憶」は重要な位置を占めている。
人間は幼少期から思春期の間にあらゆる経験や環境から影響を受けて人格を形成する。
そして、その影響は「記憶」と言われる。
私は既に「記憶」から僅かながらも影響を受けていた節があった。
両親からすれば、それは不愉快なことだろう。
我が子に愛情を注いでいたのは既に子どもは自分たちとは他人の人間の「記憶」を受け継いでいる。
親の目線からすれば、親は人格的に別人を育てていたことになる。
それは到底認められないものだろう。
「……本当にお前には……
その……前世の記憶とやらがあるのだな?」
「……はい」
父は私に対して、再度訊ねてきた。
きっと信じたくないと思っているのだろう。
私は最低の親不孝ものです……
私は箒ちゃんの保護者にもなれず、この人たちの子供にもなれなかった。
本当に私はどこまで中途半端なのだろうか。
「馬鹿なことを言うんじゃない」
「………………」
父は私を窘める様に言った。
恐らく、私が前世の記憶を持っていることを否定しようとしているのだろう。
父は私に前世の記憶があることを許せないから、存在を否定しているのだろう。
「……どうして、そんなことでお前は悩むんだ」
「え……」
しかし、次に出てきた言葉は私の予想していなかった言葉だった。
「お父さん……?」
私は少しだけ希望を抱いたが、それは淡いものだと喜びを抑えた。
だけど
「……お前は昔から変わっていない」
「え……昔と……?」
父は私が昔と変わっていないことを伝えてきた。
「……那々。お前はどうやらその記憶があるから俺や母さんがお前を『自分の娘じゃない』と思っているのだろうが……馬鹿にするな。
記憶があってもなくてもお前は変わっていない。
俺はこれでも仕事で家を空けることはあるが、それでもお前のことを見守ってきた人間だ。
これはお前を娘として育ててきた父親として確かに言えることだが、お前は俺たちが大切に育ててきた自慢の娘だ」
「お父さん……」
父は私が前世の記憶を持っていたとしてもはっきりと自分の娘だと言ってくれた。
「何だ?もしかすると今までお前を育ててきたお金が心配になったのか?
そんなもの気にするな。そもそもお前と言うかけがえの存在と一緒にいられるんだお金なんて関係ないぞ?」
「そんなこと……」
「ならそれでいい。
いいか、那々?
確かにお前は子供の時から他の子供たちより比べて大人びていた印象はあった。
でも、それだけだ。
俺たちが愛して育ててきたお前はここにいる。
それだけでいいんだ」
私は涙をこらえきれなくなっていた。
この人たちは私がどんな存在だとしても受け入れ無償の愛を注いでくれていた。
たったそれだけでどれだけ救われることだろうか。
「……お前は俺たちが親なのが嫌なのか?」
父は逆に聞き返してきた。
それに対して、私は
「ずるい質問です……お父さん……
そんなの……そんなわけある訳ないじゃないですか……!?」
絶対にそんなことがないことをぶつけた。
こんな善良で私のことを愛してくれている親のことを誰が嫌だと言える。
私は恵まれすぎている。
「なら、お前は俺たちの娘だ!
辛かったな、那々……
ずっと隠してて……」
「お父……さん……!!」
私は泣きじゃくった。
一度死んでもうこの人生で怖いものなんてないと思っていた。
しかし、それでもこの愛する両親から拒絶されるかもしれないという恐怖はあった。
だけど、もうそれすらなくなったのだ。
「……ほらな、お前は俺たちの娘だ。
本気で泣きじゃくってる……
ありがとう……那々……俺たちの娘として生まれて来てくれて……」
父は泣いている私にそう告げた。
私は何て幸せだろうか。