奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「しかし……
どうすれば強くなれるんだ……」
「そんなことアタシに訊かないでよ……」
「そんなこと知ってましたら、とっくのとうに雪風さんにわたくしたちは勝てていますわ……」
「うん……」
雪風と別れ臨海学校から帰ってきてからしばらくして、俺たちは金剛さんに言われた『強くなって雪風を助けて欲しい』という言葉を噛みしめて全員で訓練後のミーティングをしているが、どうすればいいのか分からず行き詰ってしまっている。
「だよな……
せめて、那々姉さんがいてくれたらな……」
「そうね……」
この場に那々姉さんがいないことが本当に悔やまれる。
元々、俺たちは那々姉さんと雪風のお陰で強くなれたも同然だ。
もし、あの二人の訓練がなかったら間違いなく俺たちは先日の「深海棲艦」との戦いで死んでいただろう。
だけど、その那々姉さんも雪風もいない。
完全にどん詰まりだ……
あれだけ『強くなりたい』と意気込んだのにこの体たらく。
これじゃあ、情けなくて仕方がない。
「せめて……あのビット……「艦載機」の動きを再現できればそれに合わせて訓練が出来るが……」
ラウラが具体的な案を出してきた。
ラウラの言う通り、それが考えられる最も効果的な訓練法だろう。
もし、俺たちが雪風を助けたいのならば少なくてもあの艦載機と呼ばれる敵の兵器の対処に慣れるのは第一歩だろう。
「セシリア、何とかならないの?」
鈴はこの中で最もあの艦載機の戦い方に最も近い攻撃が出来るセシリアに再現可能かどうかを訊ねた。
「……お恥ずかしい話ですが、無理ですわ……
数も一機一機の運動性も、反応速度もわたくしの「ブルー・ティアーズ」を圧倒的に上回っていますわ……」
「……嘘でしょ……」
「本当のことですわ……
雪風さんの『十倍は持って来い』という発言もあれを見たのなら納得できますわ……」
セシリアは期待に応えられないことを無念そうに語った。
プライドの高いセシリアが専門分野で負けを認め、自信を喪失していることからこの路線は諦めるしかないだろう。
「完全にお手上げね……」
鈴は自分たちの不甲斐なさを嘆いた。
「そもそも「IS」の数は限られているから、あんな大群を相手にする戦いは想定外だからね……」
シャルは「IS」の特性上からこの状況が予想外であることを発言した。
シャルの言う通り、「IS」の数は限られている。
それに加えて、今まで「IS」と同等の敵が、それも大量に襲来するなんてことは誰もが考えられなかったことだ。
「……そう考えると「銀の福音」のあのエネルギー弾が一番有効な手段かもしれん……」
「う……」
唯一、複数の敵を一気に迎撃出来る手段としてラウラはあの「銀の福音」を挙げた。
確かに間違なく、「銀の福音」のあのエネルギー弾幕は「深海棲艦」の艦載機相手にも対処できるだろう。
「でも、確か凍結なんでしょ?」
「ああ……」
しかし、肝心の有効打とも言える「福音」は暴走した機体として凍結処分らしい。
仮に世界中が巻き込まれる戦いになる可能性があることを考えると響いてきそうだ。
「あと考えられるとしたら……
篠ノ之さんの「紅椿」だね……」
「……っ!」
「……そうだな」
「そうですわね……」
「………………」
シャルが挙げたもう一つの「深海棲艦」のあの艦載機という数の暴力に対する有効な手段である箒の「紅椿」に対して、鈴は顔をしかめ、セシリアとラウラも納得はしていた。
確かに「紅椿」の「空裂」は複数のビームの弾幕を斬撃として発射できることから明らかに相性がいいだろうし、加えて高機動形態を自由に切り替えることが出来ることから殆どの敵の追撃から逃げられるだろうし、相手を攪乱出来るだろう。
恐ろしい程に全てに当て嵌まっている。
「何言ってんのよ……
あんな奴がいなくたってどうにか出来るわよ……」
「お、おい……鈴……」
未だに鈴は箒に対して反感を抱いている。
仮に箒が何とか落ち着いたとしてもこの蟠りがある限りはどうにもならないだろう。
「言っておくけどね、一夏……
アタシからすれば、未だに納得が出来ていないのよ……
フン……!今は先生の看病でもしていればいいわ……!!」
「………………」
鈴は那々姉さんを殺しかけた箒のことを許せないでいる。
しかし、何だかんだで那々姉さんの『箒との時間を少しでも取り戻していきたい』という願いを尊重して我慢している。
恩師の仇である相手を恩師は憎んでおらず、愛している。
そんなやるせなさが鈴を苛つかせているのだろう。
「……しかし、こう考えますと……」
「僕たちの世界って……」
「ああ……かなり危ういな……」
「そうね……」
「…………………」
「深海棲艦」の脅威の片鱗を目の当たりにして『雪風を助けたい』と思い、考える度に俺たちはこの国の危うさと迫りくる脅威の双方を理解した。
「……確か、「IS」の影響で色々な軍事費とかって削られているんでしょ?」
「ああ……今までは気にもかけなかったが、実際「白騎士事件」以前と比べたら大幅に削られている」
「なのに「IS」は一部を除いて複数の敵を想定していない……」
「非常にまずいですわね……」
そう。あの「白騎士事件」の影響で既存の兵器は弱者の烙印を押され、「IS至上主義」の台頭と共に兵器の開発や生産、軍事費は『税金の無駄遣い』という言葉を使われて大きく削られている。
最強とか思われたが故の致命的な欠点だ。
こういうのって……
本当に大事なんだな……
本当に削っちゃいけないことを削ると、いざ問題が起きると手遅れになる。
俺たちはそれを痛感させられた。
「……でも、このまま何もしない訳にはいかないよ……」
「シャル……」
俺たちが暗い未来に俯きそうになっているとシャルがそう言ってきた。
「雪風を助けたいのは当然だけど、この世界は僕たちの世界だよ……
それなのに雪風はこの世界を守ろうとしてくれている……
このまま何もしない訳にはいかないよ」
シャルは『雪風を助けたい』という想いも抱いているが、同時に雪風が守ろうとしているのが俺たちの世界でもあることにも言及した。
シャルの言う通りだ。
「深海棲艦」に対して雪風は因縁があるのは理解している。
しかし、それ以上に雪風はそもそもこの世界の人間じゃないのにこの世界を守ろうとしてくれている。
そんなあいつを放っておくことなんてできない。
「当たり前でしょ?」
「えぇ……そもそも自分たちの世界は自分たちの手で守らないといけませんわ」
「お姉様の為にも……!」
「ああ……!」
全員の意見はシャルと同じだ。
本来ならばこの世界を守るのはこの世界の人間がすべきことだ。
それなのにあいつは守ろうとしてくれている。
「だが……それでも……」
「どうすれば強くなれるのでしょう……」
「あ~!!また振り出し~!!」
「う~ん……」
「だよな……」
結局のところ、全員の結束が高まっただけで何も進展はなかった。
そもそも、一応ただの学生に過ぎない俺たちがこの世界の脆さを嘆いたとしても結局はそれをどうにか出来る力なんて存在しなかった。
「専用機持ち」だって……
ただのパイロットだと……
俺たちに共通しているのは「専用機」を所持しているというだけだ。
しかし、それは開発方針を自由に変えられるという訳でもない。
「友達一人助けられないんじゃ……
何が「専用機持ち」だよ……」
「一夏……」
「一夏さん……」
元々、「専用機」なんてものには興味がなかった。
偶々、70億人いる人類の中で男性で唯一「IS」を起動できただけで俺はそうなっただけだ。
それでも今はこの力があってもたった一人の友達すら助けられない。
この世界じゃ「専用機」は憧れのものらしい。
だけど、そんなものを持っていても大切な友達一人を助けられないのならありがたくなんてない。
千冬姉や那々姉さんみたいに強かったらな……
「IS」があっても千冬姉や那々姉さんみたいに強くなかったら意味がない。
あの二人は確かに強い。でも、それはあの二人自身の力であって、「IS」の力じゃない。
俺たちはただ「IS」を持っているだけだ。
何時の間にか……俺も大切なことを忘れていたな……
「IS学園」に入学したばかりの時、俺はセシリアに決闘を挑まれた際に女であるセシリアに何時の間にか少し引き下がっていた。
「IS」という存在による価値観を俺自身も少しだけ蝕まれていた。
大切なのは自分自身の強さなのにな……
俺は「女」が「IS」を使えるから勝てないと考え、その内、「IS」が使えていくうちに自分も何時の間にか何もかも出来ると無意識に感じていた。
ちっさい人間なのにな……
ただの小さな人間なのに何時の間にか何か出来る人間だと俺は勘違いしていた。
助けたいのに助けられない。
そんなことがあるのに知らなかった。
そして、それがどれだけ辛いのかも知らなかった。
「……何をしている。馬鹿ども」
「千冬姉……」
「千冬さん?」
「教官?」
「あ、ちょっと」
「三人とも……!」
「……織斑先生だ。
馬鹿ども」
俺たちが自分たちの無力感に打ちひしがれていると千冬姉が声を掛けてきた。
「貴様ら、まだ学生の分際で自分たちの力だけでどうにか出来ると思っているのか?」
「っ!?」
「なっ!?」
開口一番に千冬姉は俺たちに対して、自分たちだけで考えることに悩んでいることを要するに『馬鹿』だと言ってきた。
「ちょっといくら何でも……!!」
「たとえ、織斑先生だとしても今のお言葉は許せませんわ!!」
「二人とも!!」
「落ち着け!!」
千冬姉の余りの言い様に鈴とセシリアが怒りを露わにした。
二人の反応は二人を止めているとシャルやラウラだけでなく、致し方ないものだと思った。
何故ならば、千冬姉は雪風に戦うことを頼んだ人間だ。
そんな人間が今の発言をすれば反発を生むのは火を見るよりも明らかだ。
「……話を最後まで聞け。
全く、貴様らはどうして自分たちの力だけでどうにかなると思っているのだ」
「え……」
しかし、千冬姉はそれを涼しい顔でいなした。
「……貴様らは学生だ。
なら、少しは大人の力を頼れ。この私でも一人じゃ出来ないことが多くある。
……そして、すまなかった。今まで私たち大人はお前たちに頼り過ぎた」
「千冬姉!?」
千冬姉は俺たちに『大人を頼れ』と言い、同時に謝罪してきた。
それを見て、全員が呆気に取られていた。
「……貴様らが強くなりたいと望むのならば、少し待て」
「?」
「それはどういうことですの?」
そして、千冬姉は次に何か意味が込められた言葉を投げかけてきた。
「何れ分かる。
それまで英気を養っておけ。
きっと今までより厳しいことになる」
「……?」
千冬姉は少し苦笑いをしながら言った。
一体、何が始まると言うのだろうか。