奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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注意:神通さんの鬼教官設定が苦手な方は不快に感じる可能性があります。
 どうか、お気をつけてください


第7話「厳しさと愛情」

「とりあえず、いざ暴走した時の対応もこれでばっちりね」

 

「そうですね。本当に雪風さんはすごいですね。

 一日でこれだけの基礎をこなせるなんて」

 

 「IS」を展開した更識さんに付き添われて私は飛行における曲がり方と停止の仕方を指導してもらった。

 布仏さんは私のことを褒めるようだが私としてはまだまだだと思っている。

 

「い、いえ……!私なんて、神通さんに言わせればまだまだですよ!」

 

 いつになっても私の目標であり憧れである敬愛する私の師でもある「華の二水戦旗艦」に言わせたら本当にまだまだだ。

 

「……神通さん?」

 

 初めて口に出した私の師の名前に二人は反応した。

 

「私の……その、教官で目標です」

 

さっきの二の舞になってしまいそうだがちょっとぐらいは過去を語りたくなったので語ろうと思った。

 

「へえ~、雪風ちゃんの先生なんだ」

 

「とても強そうな方ですね」

 

 私が神通さんのことを簡潔に説明すると二人は神通さんのことを今日の私の訓練から想像したらしい。

 私を高く買ってくれるのは少しこそばゆいところだが、私を基準にして神通さんのことを想像してもらえるとなるのならば、どうやら私は弟子として彼女の名前を辱めずにすんでいるらしい。

 

「はい!何せ、「華の二水戦」の旗艦を長く務めあげた方ですので強いのは当たり前です!」

 

 二人の中における神通さんの評価が高くなっていることに私は気を良くして続けてそう言い放った。

 普段の態度は優しいお母さんやお姉さんみたいなものだけれど、戦場に立つ彼女はまさに「鬼百合」の名前に相応しい可憐さと苛烈さを併せ持った人であり、どれだけ時間が経っても彼女の下で「二水戦」として戦えたことに私は誇りを抱いている。

 

「どんな人でも神通さんの指導を受ければ精鋭になれます!」

 

「そ、それはすごい人ね……」

 

「で、ですね……一体、どんな訓練をしておられたんでしょうか?」

 

 私が興奮しながら力説していると二人は少し引き気味になった。

 だが、私はここで神通さんの訓練の特徴を簡単に言うことができる方法として「あれ」を選んだ。

 

「そうですね~……

 う~ん、やっぱり、たとえ旗下の駆逐艦の能力の差異で訓練の内容について妥協しないところでしょうかね?」

 

 神通さんの訓練について言えるとすれば、やはり「平等な厳しさ」こそが彼女の真骨頂だと断言した。

 

「え?でもそれじゃ、途中でリタイヤする人間が出るんじゃ?」

 

 と更識さんはどうやら誤解してしまったようだ。

 確かにこの言い方だと誤解されるだろう。

 

「いいえ、神通さんの訓練は一人が吐いたら他の子も吐くまでの厳しい内容を課すほどの厳しさを信条としています」

 

「「……は?」」

 

 私の一言に二人は唖然とした。

 まあ、こんなこと聞かされたら誰だってドン引きするだろう。

 よく神通さんもほとんど訓練に付き合っていたのに吐きもしないなと思ったほどだ。

 だけど、私からすればあの厳しさは当然だと思っている。 

 

「……それ例えよね?」

 

 更識さんは信じられないのか戸惑いながら訊いてきた。 

 だが、私は包み隠さずにいこうと思う。

 

「いえ、神通さんは常に個人個人の限界を見てそれよりも少し上の内容の訓練を一人一人にやらせる本当の意味での平等主義です。

 決して、実力が劣ると言う劣等感を抱かせることはあの人はさせません。

 おかげで「二水戦」の駆逐艦は大体、全員が吐い―――もごっ!?」

 

「雪風ちゃん、ストッオオオオオオオオオオオオオプ!!?」

 

「女性が平気な顔でそんなこと言ってはいけません……!!!」

 

 二人は私がこれ以上汚い言葉を口にしないようにと声を荒げながら私の口を塞いできた。

 そして、しばらくしてから

 

「はぁ……雪風ちゃん、それって本当のことなの?」

 

 と訊ねてくるが

 

「はい、本当のことですよ?」

 

 別に誇張もしてない本当のことなので私は撤回などするつもりはない。

 

「ねえ……雪風ちゃん、一応確認するけど……「艦娘」て文字からして女の子よね?」

 

「そうですよ?」

 

「えっと……じゃあ、「二水戦」の女の子たちて……全員、女の子?」

 

「そうですよ?」

 

「訓練の頻度は……?」

 

「「月月火水木金金」とたまに冗談のネタにされるぐらいのものでしたね」

 

 続けてくる更識さんたちの質問にも私は包み隠さずに答えた。

 

「……雪風さんの並外れたセンスの秘密がわかった気がします……」

 

「そりゃあ、これだけの娘に育つわね……」

 

 二人は駆逐艦、いや全海軍の中でも訓練の厳しさで恐れられる「二水戦」のとある一面を知って戦いた。

 いや、確かに「二水戦」の訓練の日々は身内の私でも決して『楽だった』とは思えないし言えないけれど、そこまで恐れなくてもいいだろう。

 それに私、いや、私だけでなく、私たち「二水戦」にとってはあの厳しい訓練の日々はかけがえのない日々であった。

 

「まさか……女の子でも容赦しない人が川神先輩以外にも……

 いや、織斑先生も容赦しないけど……」

 

「いや……「IS」なんて使い方一つで多くの人間が危険にさらされるんですから、それこそ軍人と同じで男女の別なく訓練は厳しいんじゃ?

 それと川神さんて、川神 那々さんのことですか?」

 

 私は織斑さんについては最初にまだお互いのことについて知らないで出会った時の対応からある程度は察することができたが、そんな織斑さんを差し置いて先に名前が出てきた川神さんの名前が少し興味を抱いたので訊ねてみると

 

「そうよ。

 資料にも書いてあったと思うけれど、「もう一人の世界最強」と呼ばれている人よ。

 あの人に一度だけ稽古つけてもらったけれど……はっきり言って死ぬかと思ったわ……」

 

 相当厳しかったのか、更識さんは少しゲンナリした顔でそう言った。

 

「確かにあの時のお嬢様は今まで見たことのないほどにお疲れでしたね」

 

 と布仏さんが苦笑混じりにそう言うと

 

「疲れたなんてレベルじゃないわよ!!

 しかも、あの人、ようやく私が訓練を終えると

 『私の訓練を受けた娘たちはこれを一年以上、休みなく立派にやり遂げましたよ?

 しかも、あなたより年下なのに』とか追い打ちかけて来たわよ!?

 あの人の訓練を一年以上続けられる子がいるのよ!?

 信じられる!!?」

 

「は、はあ……どこの世界にも神通さんみたいな人はいるんですね……」

 

 余程、川神さんの訓練の内容が厳しかったのか、いつも飄々としている印象が強く、何事も落ち着いていて弱音を吐きそうになさそうな更識さんが狼狽しながら私と布仏さんに訴えてきた。

 私はただただ神通さんと川神さんの姿が重なって思えてくのと同時に

 

「でも……なんか、それを聞いたら安心しちゃいました」

 

 なぜか安堵してしまった。

 

「……え?」

 

「安心ですか……?」

 

 私の予想外な反応と言葉に二人は呆気に取られていた。

 

「更識さんほどの人にも厳しい訓練を課すと言うことは川神さんと言う人は……

 「IS」の力を決して盲信している方とは思えないんです」

 

「……あ」

 

「確かに……」

 

 私の予想する更識さんの実力は「IS」が使えて、しかも学生と言うことで「IS学園」に睨みを効かせることもできるとは言え、この年齢で諜報機関の長を務めるには伊達や酔狂では無理であるのは当たり前だし、先ほどの専用機の能力を考えればかなりのものなのは窺える。

 当然ながら、更識さんは裏打ちされた努力もしているはずだ。

 そんな更識さんをして、『きつい』と言わしめる指導を課す川神さんは恐らくだけど、「IS」ではなくそれを使う「人」を観る人間なのだろう。

 「IS」はあまりにも強力で使い手がどうしても自分自身が強くなったと錯覚してしまうというのはこの世界の「女尊男卑」からも十分理解できることだ。

 そのために「IS」をスポーツ感覚でしか見ないというどこか都合のいい楽観的な一面があることに危うさを私は感じている。

 だからこそ、川神さんのような人がいたことに安心できた。

 

「少なくとも……神通さんは私たちには厳しいけれど、それには優しさもありましたし、

 厳しさの理由には少しでも私たちにも生き残って欲しいという思いから来るものでした。

 恐らくですけど、川神さんも同じだと思います」

 

 私たち「二水戦」は最強の水雷戦隊(・・・・・・・)だった。

 それは厳しい訓練あってのことであったが、そもそも私たちが「最強」であることを求められたのには私たちが「切り込み部隊」であるからだ。

 「二水戦」は戦場においては一番槍であり、一番槍は最も死亡率が高い役目でもある。

 そんな役割を担う部隊の旗艦だからこそ、神通さんはその危険性を良く知っている。

 だからこそ、私たちには戦果を挙げるだけでなく、常に生き残ることを第一とした訓練をあれほど叩き込んでいた。

 それでも生き残ったのは私一人だけだった。

 だけど、私はあの人に鍛えられたことで生き残ることができたと強く胸を張って言える。

 「奇跡の駆逐艦」と言う名前に虚しさを感じる時があってもそれで神通さんの名前を守れるのならば私はそれでいいと思っている。

 少なくとも、私と同じくあの人に鍛えられて「あの作戦」にも参加した「二水戦」の古参であり一時は「二水戦臨時旗艦」を務めあげ最後まで戦い続けた彼女もそう言うはずだ。

 

「……すごいのね、雪風ちゃんの先生って」

 

 更識さんは私の言葉を聞いて、先ほどまでの漠然としたものではない神通さんの確かな大きさを思い描いたらしい。

 

「はい!私の……いいえ、私たち、「二水戦」の自慢の先生です!」

 

 私は大きな声で心の底からそう言った。

 「二水戦」は厳しい訓練で何かと誤解されがちなことが多かったが、私たち「二水戦」にとっては一つの「家族」だった。

 もちろん、「連合鎮守府」において初めて出会った他の陽炎型姉妹たちも大切な「家族」であったが、呉における「二水戦」もまたかけがえのない「家族」そのものだった。

 「二水戦」は同型艦の姉妹同士だけでなく、あらゆる僚艦も全てが固い絆で結ばれている。

 生まれ故郷の佐世保で父親に等しい「司令」と少しの間だけど磯風や他の佐世保所属の人たちとも別れてから、呉に所属してからのしばらくは寂しくなった時があったこともあったが、それでもあの「二水戦」だから私はやってこれたと思っている。

 そんな「二水戦」を引っ張ってきたのは厳しいとされる神通さんであるが、彼女だからこそ私たちはやってこれた。

 神通さんは私たち、二水戦にとっては「師」であり、「目標」であり、「母」でもあった。

 

「更識さん、次の訓練はなんですか?」

 

 私は次の訓練に移ろうと思って話を切り終えようよとすると

 

「そう、じゃあ次は……て、今日はここまでのようね」

 

 更識さんはどこか嬉しそうな表情をした後に次の訓練に入ろうとしたが、いきなり今日の訓練の打ち切りを告げてきた。

 

「……え?」

 

 私はもう少し、続けられると思って訓練の継続を求めようとするが

 

―シューンー

 

「あ、あれ?」

 

 突然、身体が重くなった感じがした。

 これはまるで、燃料が少なくなって「艤装」を満足に使えなくなった時と同じだ。

 

「三時間か……すごいわね、初めての本格的な運用でここまで使えるなんて……」

 

「ですね」

 

「起動時間の限界ですか……」

 

 二人のやり取りで今日の訓練の終了の理由が理解できた。

 

「じゃあ、今日はここまでよ。

 お疲れさま」

 

 更識さんの言葉で今日の訓練は終わりを告げた。

 

 

 

「虚ちゃん……今日の訓練を見てどう思った?」

 

 雪風ちゃんの訓練を終えてから生徒会に戻り生徒会長としての仕事が一段落したので虚ちゃんに訊ねた。

 

「……そうですね。

 一言で言えば、『信じられない』ですね」

 

 虚ちゃんは簡潔にそう言った。

 

「そうね……普通なら三日間(・・・)かかることを彼女は一日、いや、たったの三時間(・・・)でものにしてしまったわ」

 

 雪風ちゃんが今日こなしたことは初心者なら、普通色々なミスをやらかして無駄に「シールドエネルギー」を浪費して三時間もぶっ続けでやる前に終わってしまうことだ。

 それなのに雪風ちゃんは高い集中力と想像力で高い操縦技術まで見せつけてさらには応用すらもしてみせた。

 雪風ちゃんが元軍人と言うことがあっても信じられないことだ。

 

「それだけ……雪風さんがいた世界が過酷だったのかもしれませんね……」

 

 虚ちゃんの考察に私は肯かざるをえなかった。

 雪風ちゃんの涙や叫び、そして、今回の訓練で知ることのできた彼女の「姉妹」や「先生」と言った彼女の過去にまつわる話からも彼女が私たちとは比べ物にならないほどに修羅場をくぐってきたことが解る。

 

「……明日、「飛行」の後に模擬戦をやるわ」

 

 私はそう言った。

 

「……それは早過ぎじゃありませんか?」

 

 それを聞くと当然ながら虚ちゃんは指摘してくるが

 

「いいえ……

 雪風ちゃんは恐らくだけど、感覚で全部覚える娘よ。

 だから、実戦をなるべくやらせた方がいいわ」

 

 そう言って、私は明日の予定を変えるつもりがないことを明言した。

 彼女はいわゆる「天才」と呼ばれる部類に入るはずだ。

 彼女の「師」もまた、きっとあれだけの素質には相当持て余されていただろう。

 

 本当は……私も心のどこかであの娘と戦いたいだけかもしれないわね……

 

 あと私情があるかもしれないが、今日、彼女と言う人間の一部分を垣間見たことで勝負したくなったのも理由の一つだが。




神通さんの厳しさと言うのは愛情だと個人的に思っています。

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