奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「朝のSHRの時間だ。
全員、席に着け」
今日もいつもと同じ様に、いや、山田先生もいない中で朝のSHRの時間が始まった。
しっかし、千冬姉は一体、何をする気なんだ?
先日、千冬姉は話し合いをしている俺たちに対して『大人を頼れ』と言ってきた。
しかし、一体何を考えているのか分からず俺たちは悩んでしまった。
「あ~、実は今日は連絡事項がある」
「?」
どうやら何か連絡事項があるらしい。
もしかすると、それは昨日のことに関することかもしれない。
「川神……先生のことだが、全員知っている様にしばらくは怪我の為に休職することになっている」
千冬姉は全員に那々姉さんが入院していることを改めて告げた。
そのことを確認させられたクラスの空気は一気に暗くなった。
あの時は束さんの発言で中傷が巻き起こったが、その後の戦いで箒が見せた涙や雪風の鈴から箒を庇った姿を見て多少払拭されたのだ。
「そこでしばらく川神の紹介で二人ほど技術指導者として学園に来てもらうことになった」
「え……」
千冬姉は予想外の発言をした。
何と那々姉さんの紹介で彼女の代理が着任することになったらしい。
那々姉さんの代理って……
そんなことが出来る人間がいるのか?
はっきり言えば、そんな大役が務まる人間がいるとは俺には考えられなかった。
何せ千冬姉と同じくらいの実力者である那々姉さんと同じ実力を持つ人間がいるとはにわかには信じられないのだ。
て、よく考えたらガチの戦争をしていた那々姉さんと互角な千冬姉の方がおかしいのか?
今更ながら「深海棲艦」と長い間文字通りの死闘を繰り広げていた那々姉さんが強いのは説得力がある。
しかし、千冬姉はこの世界の人間であるのにそんな那々姉さん相手に互角に戦えるのは少し違和感を感じる。
まあ、「IS」相手に素手で戦いを止めてるからな……千冬姉……
と言っても、実際「IS」同士の激突をパーツ込みとは言え、仲裁していることから千冬姉と那々姉さんが互角に戦えるのは規格外という意味では納得するしかないのかもしれない。
むしろ、それ以上このことを追求する方が無駄だろう。
でも、一体どんな人たちが那々姉さんの代理になるんだ?
結局のところ。那々姉さんの代わりを出来る人間なんて考えられない。
「誰だろ?」
「川神先生の代役って?」
「厳しいのかな?」
「でも、いくら何でも急過ぎじゃない?」
「なんか、おかしいね……」
周囲の生徒たちもこの急な出来事を不思議がり始めた。
いや、きっとこれは臨海学校が終わってから燻っていたものが爆発してるのだろう。
突然の臨海学校の中断。
それだけで何かが起きていると感じている人間がいるだろう。
待てよ……
『急過ぎる』?
俺は生徒の一人の言葉に何か引っかかるものを感じた。
確かに周囲の生徒の言う通り、今回のことは急なことだ。
『きっと今までより厳しいことになる』
「!?」
千冬姉は昨日、俺たちに『厳しいことになる』と言ってきた。
それはつまり、今回のことを示唆しているのではないだろうか。
千冬姉のあの発言は対深海棲艦の訓練を指導してくれる人間を寄越すということなのかもしれない。
……でも、だからといっての数の暴力相手に戦えることを想定出来る人間がいるだろうか?
しかし、那々姉さんの紹介とは言え、本気であの「深海棲艦」に通用する訓練を行える人間がいるのか不安だった。
先日、俺たちはこの世界の危うさを考えさせられたが、その根底には「IS至上主義」が存在している。
きっと新しい指導官が現れたとしてもまともに取り合ってくれないだろうし、高を括ってくる可能性も出てくる。
那々姉さんの紹介と言っているが、それでも俺は不安だった。
「では、今からその二人を紹介させてもらう。
お二方、入ってきてください」
千冬姉はどうやら外で待っているらしい件の二人に入室を促した。
「おう!入るぜ!」
「ん?」
ここ数日で聞き覚えのある妙に勇ましい声がそれに応えた。
そして、扉を開き入ってきたのは
「今日から特別技術指導官として赴任した「天田 龍」だ!」
「同じく、「龍驤 翔子」や。
よろしくな」
「「「「!!?」」」」
服装はスーツ姿と変わっていたが先日出会ったばかりの眼帯をしている人と関西弁のちょっと幼く見えるツインテールの人たちだった。
「ね、ねぇ……一夏……あの二人って……」
隣の席のシャルが目の前の二人を見て俺に確認を求めてきた。
「あぁ……どう見てもあの二人は……
というか、間違いなく一人は……龍驤さんだよな……」
もう片方は兎も角としてもう一人は名字からしてもどう見ても龍驤さんだった。
「どうしてあの二人が!?」
セシリアは動揺を隠すことが出来ず言葉が震えていた。
むしろ、俺の方が聞きたい。
いや、正確にはどういう経緯で来たのかを知りたい。
「まさか……教官の言っていたのは……」
ラウラは何となく先日の千冬姉の言葉の意味を察したらしい。
「あぁ……
どうやら、そうらしいな……」
俺たちはようやく千冬姉の言葉の真意が理解出来た。
成る程、確かに俺たちが悩む必要はなかったらしい。
あの二人ならば、確りと深海棲艦への対策をしてくれるだろう。
「そこの喋っている奴ら!!」
「「「「!?」」」」
そんな風に俺たちが彼女たちの登場の衝撃に相談しているといきなりもう一人の艦娘(確か、天龍さんだった)にビシッと名指しされた。
「新しい教官の紹介中に私語とは……いい度胸してるじゃねぇか?」
「あ、えっと……その……」
天龍さんは男勝りの口調で俺たちが私語をしていることに怒りを露わにした。
あれ?この人こんな性格だったのか!?
初対面では割と気さくな一面しか見せてなかったのに、一転してこんなに厳しい人とは思わず反応に困ってしまった。
「よし決めた。
その根性を叩き直す。
四人とも、放課後にグラウンドに集合だ!」
「「「「え~!!?」」」」
まさかの赴任直後にペナルティを課されるとは思わず俺たちは驚愕した。
お、おかしいな……
辛い訓練も厳しい訓練も『何時でも来い!』と思っていたのに……
いざいきなり来るとこんなに動揺するなんて……
那々姉さんや雪風の訓練で厳しい訓練には慣れているつもりだったし、強くなれるのならば絶好のチャンスだとも思っていた。
それなのにいざ相手に言われた途端に俺たちは動揺してしまった。
◇
「う~ん……」
「どうしたの雪風ちゃん?」
「あ、夕立ちゃん。
何というか、天龍さんと龍驤さんは上手くやってくれているのかと考えちゃいまして……」
夕立ちゃんに声をかけられて今日から「IS学園」に教官として赴任することになった天龍さんと龍驤さんのことが心配になった。
経験に関してはあの二人は私には劣らないと思っているが、それでもこの世界の常識をちゃんと踏まえて行動出来ているか不安だった。
まあ、確かに一度にいきなり一気に転入は目立ってしまって逆効果ですよね……
仕方ないとはいえ、仕方ありませんが……
あの二人が「IS学園」に赴任したのはこれから私たちが「深海棲艦」と本格的に戦うまでの隠れ蓑として「IS学園」に保護してもらうためだ。
一夏さんたちが私のことを探らなければいいんですが……
もし、あの二人と顔を合わせれば、間違いなく彼らは二人に私のことを聞くだろう。
そうなると、彼らをこの戦いに巻き込みそうだ。
私は戻れませんから……
私はあの学園に戻れない。
もしあの日常を思い出せば、きっと私はあそこにいたいと思って未練を残してしまう。
そうなれば、学園の人たちも艦娘の皆が優しくして私を戦わせまいとしてしまう。
「深海棲艦」との戦いが続いていくのに私だけが平穏に生きることは出来ない。
だから、私はあそこに戻る訳にはいかないのだ。
「う~ん、でも確かに天龍さんが生徒の人たちに厳しくしちゃいそうっぽい?」
「あ。やっぱり、そう思いますか?」
夕立ちゃんは私の懸念に対して同じ見解を示していた。
彼女の言う通り、天龍さんが「IS学園」の生徒たちを片っ端からしごいていきそうな姿が想像できてしまった。
何せ……私たちの時代で現役だった軽巡の中で「二水戦」の旗艦の最古参ですからね……
気さくな性格で忘れがちだが、天龍さんは「二水戦」の旗艦を務めた軽巡の中で古参中の古参だ。
面倒見が良かったり、何かとからかわれたりしているが、多分軽巡の中で最も獰猛という言葉が似合うのは彼女だ。
「Hey!ユッキ―!夕立!
何を話しているデスカ?」
「金剛さん!」
「あ、金剛さん!
実は天龍さんと龍驤さんが「IS学園」で上手くやっていけるのかと思いまして……」
金剛さんが話に加わってきたので、私は彼女にあの二人が上手く溶け込めているかへの懸念を告白した。
彼女たちの人格に関しては別に疑問を抱いていないが、いきなり目立ち過ぎるのが厳禁な役目を個性的過ぎる二人が溶け込めるか少し心配だった。
「Oh!成る程!
But!それはDon’t mind!」
「え?」
金剛さんは私の質問に即座に答えた。
「天龍も龍驤も何だかんだで面倒見がいいですし、Communication skills(コミュニケーション能力)がありマス!
ですから、大丈夫ネ!」
「あ、はあ……
それなら大丈夫ですけど……」
私よりも彼女たちとの付き合いが長いうえに艦娘全体の長である金剛さんの評ならば、大丈夫だろうと私は納得することにした。
◇
フ~……何とかバレずにすみマシタ
ユッキーが私たちの目論見に気付いていないことに私は安堵した。
もし、天龍たちがあのBoy & girls を鍛えに行ったとしたら怒りますヨネ……
実は天龍と龍驤の二人には深海棲艦との戦いを想定した訓練を彼らに課すことを頼んでいる。
これは駆逐艦以外の全ての艦娘で示し合わせたうえでの計画だ。
本来ならば、こんな余裕はなく全員で深海棲艦との戦いに当たるべきだと思うが、それでもここにいる全員だけでこの世界を守り切れるかは不安だった。
だから、これは未来に対する保険であり、投資でもあった。
何よりもあのGuysを焚き付けたのは私なので、少し位は彼らに助け舟を出したかったのだ。
But……二人の配慮には頭が上がらないネ……
しかし、今回の件で自ら進んでこの役を買って出てくれた二人には頭が上がらない気持ちだった。