奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第7話「やっていく」

「よし、お前らかかってこい」

 

 俺たちが後ろに引かないことを悟ると早速天龍さんは俺たちに『全員でかかってくる』ことを求めてきた。

 

「あ、ちょっと待ってください!」

 

「シャル?」

 

「ん?何だ?」

 

 そんな風に全員が挑もうとした矢先、シャルが天龍さんに待ったをかけた。

 

「あの……さっき、あなたが言っていた『あなたの都合と僕たちの都合』って……

 あなたの都合はISの実力試験なのはわかったんですけど、僕たちの都合は?」

 

「あ……」

 

「え?それって、アタシたちが訓練を受けることじゃないの?」

 

 シャルはどうやら天龍さんの語った『都合の一致』について訊ねた。

 鈴はただ訓練を受けさせてもらえるということだと考えていた様子だった。

 

「お~?

 割と細かいな。

 そうだな…お前たちが参加した時の役割分担の為だ」

 

「アタシたちの……?」

 

「役割分担?」

 

 

 天龍さんは俺たちに役割があり、それを担って欲しいと言ってきた。

 一体、それは何のことだろうか。

 

「はっきりと言えば、俺はてめえらが直ぐに「深海棲艦」の艦載機と弾幕相手に対処できるとは思っちゃいねえ」

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

 天龍さんは俺たちにストレートに即戦力にならないと言ってきた。

 

「何をそんなに驚いていやがる?

 言っておくけどな、歴戦の艦娘でもあれらを回避するのは至難の業だ。

 出来るとしてもそれこそ雪風や時雨ぐらいだ」

 

「!?」

 

 天龍さん曰く、あの艦載機を乗り越えるのはほぼ不可能だと言ってきた。

 確かにあの大群や降り注ぐ嵐の様な砲弾に俺たちは勝てる自信がない。

 

「だから、てめえらには大将首を狙ってもらう」

 

「大将首?」

 

 天龍さんは俺らに『大将首を狙え』と言ってきた。

 一体、何なのだろうか。

 

「「深海棲艦」が艦隊を組んでいるのは知ってるよな?」

 

「あ、あの……

 それは何となく……」

 

 以前、俺たちが遭遇した時、「深海棲艦」は常に集団を組んでいた。

 どうやら、あの集団をこの人たちは「艦隊」と呼んでいるらしい。

 

「その中で「旗艦」という艦隊の司令塔を担っている奴がいるんだ。

 てめえらにはそいつを叩いて欲しい」

 

「え?」

 

「そんな奴がいるの!?」

 

「意外だ……」

 

 俺たちは「深海棲艦」の司令塔の存在に驚いた。

 あのよくわからない連中にそんな存在がいたことが信じられなかった。

 

「ああ、そいつを倒せれば相手の指揮系統は混乱する。

 恐らく、他の味方も戦いやすくなるだろうし連中が旗艦を守ろうとして陣形が崩れるかもしれねぇ」

 

「そうなんですか……」

 

「少しだけだが展望が見えてきた」

 

 僅かながらに見えてきた「深海棲艦」との戦い方に俺たちは希望を抱けた。

 

「ああ、それとな。

 最も重要なのは()()()()だ」

 

()?」

 

()?」

 

 天龍さんの口から出てきた「姫級」と「鬼級」という新たな単語に俺たちはまたしても耳を傾けた。

 後者は兎も角として「姫」というのは何となく可愛い響きだった。

 

「所謂、その辺りの海域を占拠していやがる親玉だ」

 

「敵の親玉……」

 

 それを聞いて、何となくその「姫級」と「鬼級」が倒すべき存在であることを理解した。

 

「そうだ。

 何せそいつらを倒さない限りは「()()()()」はそのままだ」

 

「「変色海域」……?なんだそりゃ?」

 

 またしても出てきた専門用語らしき言葉。

 言葉通りかと色が変わっている海域と取れる。

 

「「変色海域」てのは所謂、「深海棲艦」が占拠した海だ。

 文字通り、海の色が真っ赤になっていてそこにいると「深海棲艦」は強くなるし、増殖率も桁違いだ」

 

「海が真っ赤!?」

 

「しかも、「深海棲艦」が強化されるだと!?」

 

 「変色海域」…

 想像していた通り、海の色が変わっている海であったが決してそれだけではなかった。

 どうやら、その場にいる「深海棲艦」を強化し、さらには数も増やしていくらしい。

 

「そうだ。

 だから「変色海域」が発生した場合は即座に叩かなきゃならねえ。

 しかも性質の悪いことに、こいつ徐々に広がりやがるんだ」

 

「!?」

 

 最悪なことに「変色海域」はその場だけの問題ではなく、広がっていくらしい。

 つまりは「深海棲艦」が強くなり、数までも増えていく海域が広がっていくということだ。

 

「しかもな。

 この海域の最深部にはある程度の戦力しか投入できねぇんだ」

 

「え……」

 

「それはどういうことですの?」

 

 更なる「変色海域」の厄介さが出てきそうで俺は嫌な予感がした。

 ただでさえ「深海棲艦」の数は爆発的に増え、「深海棲艦」を強化し、しかも広がっていくという「変色海域」にまだ何かあるらしい。

 

「……前にお前らが襲われた時に通信が出来なくなっただろう?」

 

「え、ええ」

 

「はい」

 

 確かに「深海棲艦」が現れた時に突然、千冬姉たちとの通信が遮断された。

 今では「深海棲艦」の影響だとは分かるが、天龍さんの話し方だとそれだけじゃないのがわかった。

 

「お前らも分かっていると思うが、あれは連中の仕業だ」

 

「う……」

 

「やっぱり……」

 

 やはり「深海棲艦」の仕業だった。

 一体一体が軍艦並みの装甲と火力、しかもそれが大軍で押し寄せ、よく分からない縄張りまで作っていくのにジャミングまで仕掛けてくる。

 うんざりするほど厄介な特性を持っているのにこれでもかとまたしても出てきた。

 

「だがな、それは連中がただ海に現れただけだ」

 

「え?」

 

 しかもそれだけでは終わりではなさそうだ。

 

「連中が支配し始めて「変色海域」が現れた途端に潮の流れや大気が荒れまくって、海域が迷路みたいになりやがって大勢では入り込めなくなりやがる」

 

「はあ!?」

 

「何よそれ!?」

 

 今、とんでもない事実をこの人は言った。

 「変色海域」では投入できる戦力が限られてくるらしい。

 つまりはこちらも戦力を集中させてゴリ押しで倒すことが出来なくなるらしい。

 しかも、それに加えて

 

「そんな少人数で敵地に飛び込むなんて自殺行為ですわ!?」

 

 魔境と化した「変色海域」に少人数しか入れなくなるというどう考えても自殺行為にしか感じられないことでしか攻略できないらしい。

 

「そうだ。だから、ある程度の海域を少しずつ攻略していって一つずつ解放してから本丸に挑まなけりゃいけねえ。

 他の味方はその間に「深海棲艦」が外に出ないように見張りをしておくが必要がある」

 

「う、うん……」

 

「理不尽ね……」

 

 俺たちは最初、戦い方の展望が出てきたことで希望を感じていた。

 しかし、ようやく気付いた。

 これは希望ではなかった。

 これしか出来ない唯一の方法だったのだ。

 

「だがな、ある意味ではお前の存在は希望なんだ」

 

「え……」

 

「私たちが希望?」

 

 俺たちが落胆していると天龍さんはそう声を掛けてきた。

 

「確か、てめえら「一対一(さし)」の勝負に強いんだってな?」

 

「え?えっと……」

 

「強いというよりも……」

 

「「IS」はそもそも数が限られていましたので同じ実力の相手を複数想定することがないだけでしたので……」

 

 天龍さんは俺たちが「一対一」の勝負に強いと言ってきたが、実際のところそれは合ってるけど正確には違う。

 俺たちは今まで「一対一」のい戦い方しか出来なくてやって来れなかっただけだ。

 それを俺たちは昨日の相談で自覚させられた。

 

「あ~、うん。

 そこは仕方ねえ。

 だがな、それでもてめえらにそれが出来ることは間違いじゃねえんだろ?」

 

「え……」

 

 俺たちがただ「IS」の性質上からそれしか出来なかったことを打ち明けると天龍さんはバツが悪そうにした後に俺たちに笑いかけてきた。

 まるでそれが特別なことの様に言った。

 

「いいか?

 俺たちは良くも悪くも軍人だ。

 それも「一対多」や「多対多」の戦いしか専門にやってこなかった。

 でもな、てめえらは違う。「一対一」の戦いに特化している。

 だから、姫級や鬼級とすら戦える可能性があるんだ」

 

「!」

 

「出来ねえことでうだうだしてんじゃねえ。

 出来ることをしやがれ。

 艦載機や敵の弾幕は俺たちが何とかするし、龍驤との訓練や実戦で身に付けろ。

 てめえらは最初は自分達で出来ることをしていけばいいんだ」

 

「出来ることを……」

 

 天龍さんは俺たちに出来ないことを嘆くことよりも出来ることをやっていけと言った。

 そして、それは自分たちに出来ないことだと言ってきた。

 

「まあ、要するに……

 てめえらの力を貸してくれや」

 

 最後に彼女は俺たちに力を貸してくれと言った。

 どう見ても俺たちの方が力を借りているのに、この人は俺たちに力を貸して欲しいと言ってくれた。

 まるで俺たちにはこの人たちを助けられる力があるのだと感じられた。

 

「……それとだ。

 雪風を助けてやって欲しい」

 

「?」

 

「雪風を?」

 

「そうだ」

 

 天龍さんは最後に俺たちに『雪風を助けて欲しい』と言ってきた。

 

「それは勿論ですわ」

 

「そうだね。

 僕たちは―――」

 

「……そうじゃねえんだ」

 

「え……」

 

 元々雪風を助けたいこともあって俺たちは戦おうとしている。

 確かにこの世界を守りたい気持ちがあるが、漠然とした人類の危機よりも知っている友達の為になら強く戦える。

 でも、天龍さんは何か俺たちが思っていることとは違う意味で雪風を助けて欲しいと語った。

 

「……彼奴に二度と同じ悲しみを背負わせねえでくれや」

 

「!?」

 

 天龍さんはそう答えた。

 天龍さんの言う通り、雪風の悲しみとは恐らく何かを失っていく悲しみだ。

 しかし、その悲しみを背負わせないことでどうしてそれが雪風を助けることになるのかわからなかった。


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