奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

243 / 332
第8話「舞う龍、眺める龍」

「さてとだ……

 待たせたな。オッ始めるか」

 

「おう!」

 

「ええ!」

 

「いきますわ!」

 

「はい!」

 

「!」

 

 この訓練の目的を聞き終わり、天龍さんは獰猛な眼光を片目に宿らせ訓練を開始すると言った。

 突然の宣言に少し戸惑ったが、それでも俺たちは構えた。

 

 そう言えば……

 どんな戦い方をしてくるんだ?

 

 よく考えてみれば俺たちは雪風や那々姉さん以外の艦娘の関係者と戦うのは初めてだし、見たこともない。

 そうなるとどんな戦い方をしてくるか気になってしまう。

 

「おい。何をボーっとしていやがる?」

 

「え?」

 

 俺が艦娘の戦い方について考えているとその声が近くで聞こえた。

 

「!?」

 

 まるで鮫が笑っているかのような笑顔が目の前に来ていた。

 

「うおっ!?」

 

「一夏!?」

 

「一夏さん!?」

 

 直後に鋭い斬撃が襲い掛かるも俺は辛くも避けることが出来た。

 

「へえ~?

 今のを避けるか。中々いい反応だな」

 

 大方の予想通り、天龍さんは何時の間にか俺たちの懐に入り込んでいた。

 まさかいきなり接近を許すとは思わず周囲に動揺が走った。

 

「でもよ……

 だからといって余所見はどうかと思うぜ?」

 

「え?」

 

 天龍さんは俺が回避したことを評価しているがそれでも何かを減点要素があることを仄めかした。

 その直後だった。

 

「きゃあ!?」

 

「ぐっ!?」

 

「セシリア!?」

 

「鈴!?」

 

 突然、爆風が訪れて二人の悲鳴が響いた。

 

「おっと!」

 

「ぬぅ!」

 

 速い!?

 

 ラウラが右腕を伸ばそうとした矢先、天龍さんは直感なのか直ぐに身をかわし後ろへと下がった。

 

「くっ……!?」

 

「よっと!

 中々いいぜ?」

 

 その避けた先にシャルが「ガルム」を叩き込むがそれも難なく天龍さんは回避した。

 

「このぉ~!!」

 

「うおっと!?見えない攻撃かよ!?」

 

 次に鈴が衝撃砲をお見舞いしようとするが、天龍さんは身体を傾け直撃を避けた。

 

「!」

 

 俺はある物を目にして天龍さんに掛かった。

 

「あ~、その根性は認める。

 でもな~……」

 

「!?」

 

 そんな俺を見て天龍さんはそう言って

 

「少し殺気を隠すのと視線を誤魔化しな!!」

 

「きゃあ!?」

 

「!?セシリア!?」

 

 「ブルーティアーズ」を展開していたセシリアを砲撃した。

 

「てめえも止まるんじゃねえ!!」

 

「なっ!?ぐおっ!?」

 

「一夏!?」

 

 俺が連携が崩れたのとセシリアが攻撃を受けたことに動揺していると天龍さんは雪風と同じ様にロケット弾を発射してきた。

 

「お前もだ!!」

 

「きゃあ!?」

 

「鈴!?」

 

 今度は鈴が天龍さんに蹴散らされた。

 まさか、開始から俺は兎も角として「IS」初心者である天龍さんに代表候補生である二人までダウンさせたことに俺たちは目を疑った。

 

「……はあ~……中止だ」

 

「え……」

 

「中止って言ったんだよ。

 ほら、全員集合!」

 

「え!?

 あ、はい!」

 

 天龍さんは何処か残念そうにしてから中断を宣言した。

 俺たちは一瞬戸惑ったが、彼女に言われるままに駆け寄った。

 

「……とりあえず、今の手合わせでわかったことがある。

 それぞれ言っていく。先ずは織斑だったか?お前だ」

 

「は、はい!」

 

 妙に天龍さんは機嫌が悪そうだった。

 その迫力に俺たちだけでなく全員が圧された。

 

「最初の俺の不意打ちをうまく対応できたのはいいが、戦いの中で敵から目を反らすんじゃねえ。

 視野を広く持つことだ。

 後、視野を広くすることと目移りすることを混同するんじゃねえぞ?」

 

「……はい」

 

 天龍さんは最初に俺が避けたことは評価するが最初に不意打ちを食らいそうになったこと自体を叱った、

 同時に俺の視野が狭いことを指摘した。

 

「それとだ。

 凰とオルコットだったか?

 お前らは積極的に攻めに掛かるのはいいが、織斑に対して敏感になり過ぎだ」

 

「「なっ!?」」

 

「……?」

 

「あ~、言っちゃった……」

 

「?」

 

 次に天龍さんは鈴とセシリアの積極的な戦い方は褒めたが俺がやられた際に止まったことに注意した。

 そのことに二人は動揺したが、俺とラウラは二人の動揺の意味がわからなかった。

 

「……まあ、気持ちはわかる。

 そういうことなんだろ?それと……今のでわかった。苦労するな。

 だが、お前らはそれが露骨過ぎる。

 感情を抑えねえと自分だけじゃなく自分の大切な人間含めた周囲まで危険に晒すぞ」

 

「?」

 

 天龍さんは一瞬、何かを把握して二人に共感を示したが、二人に対して再び怒り始めた。

 

「……次だ。

 デュノアとボーデヴィッヒだったか?

 お前らは基本的に失点はない。

 だが、ここにいる全員が共通していることをしやがっている」

 

「共通している……」

 

「何ですか、それは?」

 

 次にシャルとラウラに対しては俺を含めた三人よりも反省点がないらしい。

 しかし、それでも俺たちと同じ様なミスをしたことに天龍さんは指摘した。

 

「それはだな。

 仲間が一々、攻撃を受けた度に気にし過ぎだてめえら」

 

「え!?」

 

 天龍さんの発言に全員が耳を疑った。

 

「一々、仲間が攻撃を受ける度に反応して止まってんじゃねえよ。

 んなことしてたら、命が幾つあっても足りんぞ」

 

「何よそれ!?

 仲間を見捨てろっての!?」

 

「お、おい鈴!?」

 

 天龍さんの物言いに鈴が噛みついた。

 確かに天龍さんの言い分だとまるで仲間が倒れても気に掛けるなと言っている様に聞こえた。

 

「だから、お前は……

 あ~、もういい。多分、お前のそれは一度や二度では直らねえな……」

 

 天龍さんは鈴の言葉遣いが直らないことに呆れて諦めた様子だった。

 しかし、彼女は鈴のその反発に対して全く動じていない様子だった。

 

「何よ!?」

 

「……言っておくがな。

 なら、何でてめえは織斑が最初の攻撃をかわした後に俺の攻撃を喰らいやがった?」

 

「え……」

 

 天龍さんはどすの効いた声で訊ねた。

 

「あの時、俺は……「瞬時加速」だったか?

 あれで一気に距離を詰めた後にてめえらは俺が仕込んだ「逆落とし」を喰らったよな?

 どうしてだ?」

 

「そ、それは……」

 

 鈴とセシリアが喰らった攻撃は「逆落とし」だった。

 

「もしてめえらが冷静に考えられたら避けられただろ?

 で、その次だ。

 残りの二人も仲間が攻撃を喰らって反撃が遅れた。

 その結果、陣形が崩れた。

 これが一対五じゃなくて五対五かそれ以上だったらてめえらはどうするつもりだったんだ?」

 

「!?」

 

 天龍さんはこの訓練の結果が見せたこれが本当の戦闘だったらと言う恐ろしい予測を突き付けた。

 

「それとだ。

 織斑。お前の仲間との連携を取ろうとしたのは悪くねえ

 だが、予想外なことが起きたからと言って既に引き返せねえところまで行ったんだからそのまま攻めろ。

 そうしなきゃもう一つどころか死体が浮く、いや、海の底に沈んでいくことになるぞ」

 

「っ!?」

 

「要するにだ。

 てめえらは仲間を想い過ぎて逆に仲間を危険に晒してやがるんだ」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 天龍さんの衝撃的な指摘に俺たちは反論できなかった。

 

「危険に……」

 

「ああ、そうだ。

 もし自分が倒れれば仲間が助けに行く。

 仲間が倒れたら直ぐに助けにいく。

 その結果、連携も摂れなくなって大きな隙が生まれる。

 言っておくが連中の中には平気で相手を人質にして誘い込む奴らもいる。

 その時にてめえらはわざわざ釣られるのか?」

 

「ぐっ……」

 

「それとだ。

 もう一つ、てめえらの行動は仲間を大事にしているとは思えねえ。

 お前ら、仲間を信じてねえだろ?」

 

「え……?」

 

「そんなことは!?」

 

 天龍さんのトドメの一言に鈴は答えられず、セシリアが代わりに反論しようとした。

 

「……織斑は最初の俺の攻撃を避けた。

 そのことに関しては俺も驚いている。

 なのに、凰とオルコットはそれを理解出来ず一人善がりな心配をして俺の存在を忘れやがっただろ?

 しかも、その後に残りの二人も迎撃が遅れた。

 極め付けはオルコットが攻撃されたことに折角の攻撃の機会なのに織斑は止まりやがった。

 てめえらは仲間が作ってくれた攻撃の機会を無駄にして勝つことを忘れやがった」

 

「!?」

 

 天龍さんの俺たちの『仲間を信じていない』という言葉の事実の羅列に俺たちは何も答えられなかった。

 

「……いいか?勝たなきゃ死ぬんだ。

 しかも、自分一人だけじゃなく仲間もな」

 

 冷たいその言葉に俺たちは何も言い返せなかった。

 それはもしもこれが本当の戦場だったらということを想像してしまったからだった。

 

「……今日の訓練はこれで終わりだ。

 明日は龍驤が稽古を付ける。

 それまでの間に今の言葉を考えておけ」

 

 天龍さんはそう言って今日の訓練の終わりを告げた。

 

 俺は……仲間を信じていないのか……?

 

 『仲間を信じていない』。

 そんなことはないはずなのに俺はそれを否定できなかった。

 

 

「あ~、天龍の奴、手厳しいなぁ~」

 

 うちは天龍が雪風の友達をどう判断するのかを確かめるために偵察機を飛ばしながら眺めていた。

 結果は天龍の勝ちだった。恐らくだが、このまま長引いても天龍の圧勝だろう。

 しかし、この偵察機は便利だ。

 まさか、視覚的な情報やそれら以外の情報をここまでは伝えてくれるのは驚いた。

 

 まあ、ああでもしない限りはあの子達死んでまうからな~……

 

 天龍の発言は一見すると相手を突き放し否定する冷たくて人でなしの言葉だったが、間違ってはいない。

 確かに仲間を心配しない人間は人でなしだ。

 しかし、時としてその仲間想いの心が原因で他の仲間を死なすことになるのも戦場の理だった。

 それを天龍は今のうちに叩き込みたかったのだろう。

 

 軽巡やからな~……

 

 天龍は軽巡だ。

 自分の教え子や部下たちが死んでいくことを嫌でも認識せざるを得なかった。

 だから、戦場で少し隙を見せてしまう可能性があれば、それを直ぐに取り除こうとする。

 

「ま、これで転んだままの子たちじゃないはずや」

 

 今、落ち込んでいるあの少年たちだが、恐らく復活するだろう。

 何故なら

 

 仲間想いの子たちやからな……

 

 あの子たちは良くも悪くも思いやりがある優しい子たちだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。