奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「……随分と手厳しいな」
今日、一夏たちの実力と素質を測る為に訓練を施した天龍のやり方に私は一言そう漏らした。
あのやり方は下手をしなくても相手に色々なものへの不信を抱かせるやり方だ。
そして、下手をすれば相手の心を潰す。
「……あれぐらい、やってやらなきゃならんだろ?」
そんな私の発言に対して彼女は困った様に頭を掻いた。
どうやら、ある程度の自覚はあったらしい。
「……そうだな。
むしろ、感謝している」
ただ私は彼女の行いには感謝している。
もし、あのままだったら間違いなく一夏たちはこれから死に行く様なものだ。
しかも、最悪それだけではすまない。
死ぬだけでなく、仲間の残した可能性すら潰すか……
もし、一夏たちがこのまま戦えば恐らくだが自分が無駄死にするどころか、仲間の死すらも無駄死にする可能性がある。
失われた生命は二度と取り戻せない。
そんな中でその生命が残したものをどう受け継いでいくのかが残された者がしてやれることなのだろう。
これは決してヒューマニズムでもなく、生きることと戦うことで重要なことなのかもしれない。
優しさと甘さの違いか……
単純に他者の為に怒り、悲しみ、喜び、思いやれる心は優しさだろう。
けれども、その優しさが度を超えて自分だけでなく周囲の生命や心まで危険に晒した時にはそれは「甘さ」となってしまうのだろう。
「まっ、俺からすればこのまま心が折れてくれた方がいいがな」
「………………」
天龍は憎まれ口を叩いた。
どうやら彼女は敢えてあそこまできついことを言って一夏たちの心を折ろうとしたらしい。
恐らく、それが彼女にとっては当たり前なのだろう。
「あなたは……
いや、あなた方は優しいな」
この人たちは敢えて一夏たちの心を折ってでも戦いから遠ざける為に戸惑う言葉を投げかけたのだろう。
『やる気のない奴は去れ』。
よく相手の自尊心や強迫観念に付け込む卑怯な手段として使われる言葉だが、この人は本来の意味で使ったのだろう。
「こんなんで心が折れるのならこの先、生き残れねぇし、戦場じゃ使い物にならねぇ。
そんな奴らはいらねぇんだよ。
たったそれだけだ」
本音であり偽りである言葉を彼女は告げた。
確かに戦力としては一々、戦場で戸惑う人間なんてものはいらないだろう。
だけど、それ以上にこの人はどうしても戦えない人間を戦いに送り出して死なすことをしたくないのだろう。
羨ましいな……
私は川上や雪風と同じ様に相手を危険から遠ざけようとして嫌われることや社会的に孤立することを恐れない彼女の姿勢が羨ましかった。
私は教職員であり、本来ならば生徒を守る役目なのに今までそれにすることを出来なかった。
ラウラに関してはアイツが何を望んでいるのかをちゃんと理解出来ず、アイツのコンプレックスを刺激してしまった。
「銀の福音」に対してもあんな軍事用ISを子供たちに対処させるという本来ならばあってはならないことなのに止めることも出来なかっただろうし、「深海棲艦」が現れなければ雪風の戦術は正しく、私の戦術は間違っていた。
……姉らしいことも出来なかった……
何よりも私は姉として失格だ。
「白騎士事件」のこともそうだが、私は弟に顔向け出来ないことをした上にそれを隠している。
「モンド・グロッソ」の時でようやく、姉らしいことが出来たと思えば、弟を置いて家を空けていた。
そして、本当のことを言えずに結局は一夏を「IS」に巻き込んだ。
ちゃんと説明しておけば一夏は巻き込まれずに済んだのにだ。
「……おい?
何を浮かない顔をしてやがるんだ?」
「いや……」
私の自責の念を感じ取ってか、天龍は声を掛けてきた。
しかし、臆病な私は川神以外に事実を話すことが出来ず、誤魔化そうとした。
嘘を吐き続けた結果、一夏も教え子も守れない私。
嘘を吐いてでも危険に他者を巻き込まうとしない彼女。
余りにも違い過ぎる。
「あ~、全く……
そういうことかよ」
「?」
私の様子を見て天龍は仕方なさそうにしていた。
「おい、千冬。
気負い過ぎだ。お前もアイツらも平和な世界で生きてきた人間だ。
厳しさに慣れてなくていいんだよ。
むしろ、その甘さは大切な宝物として大事にしておけ」
「……!しかし……!!」
天龍は私たちの「甘さ」、いや、私の「甘え」を善しとしてきた。
しかし、それでは私は結局のところ彼女たちに甘えていることになることから拒否するしかなかった。
私のやっていることはただ嫌われることを恐れているに過ぎない卑怯者のすることだ。
「……分かってねぇな。
別に『そのままでいろ』って言ってんじゃねえ」
「……?」
窘める様に彼女は言った。
「俺たちの世界じゃそんなことを考えられる余裕なんて久しく忘れちまったよ」
「それは……」
雪風によって語られてきたが、彼女たちの世界は余りにも過酷だった。
既に海を奪われ資源の枯渇は時間の問題。
何時襲ってくるか分からない海の怪物たち。
しかも、陸にいてもいずれ訪れる敵の上陸と空襲。
そんな世界では「甘さ」を持つことすら許されないのだろう。
「だから、羨ましいんだよ……
俺らはお前らが……」
「!」
天龍は私に『羨ましい』と告白した。
同時に自分がどうしようもない思い違いをしてきたことに気付いた。
「きっとこれからは強い奴は強いまんまだが、弱くはなかった奴らは弱くなっていく……
だから、今のうちにこの平穏を大切にしておけ」
「………………」
天龍の言わんとしていることを私は理解してしまった。
「優しさ」とは一種の強さなのだ。
今まで、ある程度の安全や生活への保障があったことで人々にはゆとりが出来ていた。
恐らく、これからの世界でも本当に強い人間は変われずにいられるだろう。
しかし、本当に強くない人間はどうなるだろう。
きっと何人かの心は荒み、優しさというものを忘れ、それを「甘さ」と言って捨てることになっていくだろう。
「変わってもいい……
だがな、優しさを忘れんじゃねぇ……」
天龍は優しさが求められることがなくなることを言及しながらも、それでもこの平和の中で培い、育んできた「優しさ」という感情を忘れることはあってはならないと説いた。
それは決して変えてはいけないことなのだろう。
「それにな……この世界の雪風の友達に生きて欲しいと思っているし、雪風のことを助けて欲しいとも思っている」
「……?
雪風のことをか?」
天龍は少し寂しそうに呟いた。
そんなことは分かっている。一夏たちだって雪風を助けたいと思い努力をしている。
それはかわりないはずだ。
「……俺ははっきり言えば雪風を救ってやりたい」
「『救う』……だと?」
天龍の口から出てきた『救う』という言葉。
一体、何をどうして『助ける』のではなく、『救う』という言葉が出てきたのか分からなかった。
「……雪風はある意味、「呪い」に囚われてやがる」
「「呪い」だと?」
「呪い」という全く予想もつかなかった言葉に私は戸惑いを覚えた。
『雪風が呪われている』。
それはどういうことなのだろうか。
「……あいつはな。
自分が親しくなった人間は自分を置いて逝ってしまう……
そんな強迫染みたものに囚われてやがるんだ」
「!?」
雪風が抱えているとされる「呪い」。
その意味を理解して私は衝撃を受けた。
「馬鹿な!?それはただの―――!!」
私はそれを否定したかった。
そして、それが意味することに私は憤りを覚えた。
それは「呪い」なんかじゃない。
「ああ、そうだ。
んなもん、「呪い」でも何でもない。
ただのアイツの思い込みだ」
天龍は私が感じ取った答えを肯定した。
その通り、それはただの雪風の思い込みだ。
自分で自分を縛り、ただそう思い込んでいる。
そんなものはただの妄想だ。
そして、それが「呪い」という形になっていることの意味はたった一つだ。
「だがな、実際にアイツは心の底でそれを恐れてしまっていやがる」
「!?」
天龍はそれでも雪風が抱えている心の闇に触れた。
「意識しているのか、無意識に感じているのかは分からねぇ。
でもな、アイツが恐がっているのは……事実なんだよ」
「くっ……」
雪風の心の傷は明らかに私が想像していたもの以上に根深いものだった。
その歪んだ妄想を否定しても常に不安と恐怖が巻き起こり苦しみ続ける。
そして、幸せなことすらも恐れてしまう。
逃げることも癒えることも出来ない最悪の悪循環だ。
「その結果、アイツは自分の幸せを求めることも出来なくなっている。
その度に失うことを恐れてな」
「そんな……馬鹿な……」
雪風の幸せへの諦めがまさか、義務感や罪悪感だけではなく彼女自身の喪失への不安感から来るものだと思わなかった。
「……本当ならこの世界でなら少しずつだが時間をかけて何時かは癒えてたかもしれない。
だが、最悪にも「深海棲艦」が現れやがった。
あいつも俺たちもこの世界にとってもそれは決められなくなっちまったよ……」
この世界にいて少しは平穏に生きれればそれはゆっくりと時間をかけて癒されるはずだった。
しかし、それは迫りくる脅威によって妨げられた。
雪風は自らの義務感、艦娘やこの世界に求められるままに戦うしかなくなってしまった。
何処までも彼女はそれを繰り返さなくてはならなくなってしまった。
「だから、俺たちは決めたんだよ」
「?」
天龍は片目に強い意思を宿らせた。
「俺たちは誰一人欠けることなく生き残るってな」
「!」
余りにも無茶にも等しい言葉を彼女は告げた。
「アイツは戦いの中で置いて逝かれることを怖がっていやがる。
だから、二度とアイツの傷を抉る様な真似はしねぇ。
俺たちはそう決めたんだ」
戦場で、いや、戦争で誰一人欠けることなく生き残る。
そんな夢物語にも等しいことが実現できるとは思えない。
しかし、それを分かってでも彼女たちは二度と雪風を悲しませまいとそれだけの理由で戦うつもりらしい。
「だが、それだけじゃ足りねぇ」
「何?」
だが、彼女たちはそれだけでは不足だと考えた。
「俺たちが出来ることはあくまでも傷を開かない為だけの方法だ。
それじゃあ、アイツの心は守れても救えねぇ……
アイツの姉か妹がいてくれたら大丈夫だったんだがな……」
「!
彼女たちは雪風にとって大きな存在だったんだな……」
「ああ……
俺たちじゃアイツらの代わりは無理だ……」
天龍は無念そうに呟いた。
それは雪風を自分たちがでは雪風を救えないことへの無念だった。
「だから、お前の弟たちにも任せるしかねぇんだ」
「一夏たちが?」
彼女は雪風を救う役割を一夏たちに任せると言ってきた。
一体、アイツらに何が出来るのだろうか。
「……アイツらが生き残れば、雪風は本当の意味で「呪い」から解放されるんだ」
「……?!」
それを聞いて、天龍たちが一夏たちに望んでいることをようやく私は悟った。
「……『親しくなった人間でもいなくなることはない』……
それを一夏たちを使って証明するつもりか!?」
「……そうだ」
彼女らは『親しくなった人間がいなくなっていく』という雪風の心に呪縛するように付き纏う強迫観念そのものを破壊するために一夏たちを敢えて危険な場所に放り込み生き残らせようとしているのだ。
「実際、アイツらが戦力になるのも狙ってもいる……
でもな、そういった個人的な事情もあるんだよ……悪いな」
「………………」
天龍は詫びた。
雪風一人の心を救うためにだけに罪のない複数の人間を命を危険に晒す。
そんな天秤にもなっていない選択肢を選んだことへの彼女たちの罪悪感が胸中に存在しているのだろう。
「……いや、別にいい」
「何だと?」
だが、私はそこを気にしなかった。
「……うちの馬鹿どもはそんなことを一々恨まないだろうし、むしろ率先して行うお人好し共ばかりだ。
そこまで気に病むことはない。
というよりも止めても無駄だ」
そもそも一夏たちはそんなことで恨む様な連中ではないだろうし、友人の為だけに彼女たちに言われる前に行動する様な馬鹿ばかりだ。
むしろ、勝手に暴走する前にいい教官が見つかってブレーキ役が出来て助かった方だ。
「……だが、それは賭けだぞ?」
しかし、私は一つ懸念することがあり、天龍たちの考えを『賭け』だと断じた。
「……分かっている」
天龍はそれを十分に承知している様子だった。
間違いなく、彼女たちのその考えは賭けだ。
もし失敗すれば、今度こそ取り返しのつかない最悪の事態になる。
それはただ賭けたベットを失うだけではなく本当の意味で破綻になるからだ。
何故なら、その失敗は「呪い」の実現を表すからだ。
ちょっと、パワ〇ケ8のあるキャラから構想を得ました。