奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第13話「勝利の合間」

「しっかし、まあ……

 龍驤相手に初戦とは言え勝つなんてな」

 

「……本当に勝ちか?」

 

 龍驤と一夏たちの訓練を見守っていると天龍は少し感心した様な笑みを浮かべていた。

 しかし、それは意外という感じではなかった。

 私はそんな天龍と龍驤の姿を見て疑いの言葉を掛けた。

 

「ああ、ありゃあ龍驤の負けだ。

 味方の救援もなし護衛もなし。

 あの距離じゃ、空母一隻じゃ長期戦は無理だ」

 

 天龍は私の疑問に対してあっけらかんと答えた。

 確かにビット兵器を主軸とした機体ならばあの距離まで詰められれば逃げ場もなくなり一気に不利になる。

 

「こうみると、「IS」っていう競技に適しているのは航巡か航戦だな」

 

「……あくまでもスポーツとしてか……」

 

 天龍は「IS」というスポーツの中では空母はあまり適していないことを公言した。

 しかし、それはあくまでもスポーツでの話だ。

 

「当たり前だろ?

 空母ってのは言わば海に浮かぶ基地だ。

 実際の戦争じゃ他の艦船と比べれば戦略に及ぼす影響が段違いだ」

 

「……そうだな」

 

 天龍の言う通りだ。

 

 「IS」も「戦艦」も「戦闘機」も一つの戦力としては優れていてもそれはあくまでも戦術、「個」の戦力だ。

 しかし、「空母」は違う。

 「空母」は海上基地となり、多くの戦力を内部に保持することで「戦略」として、つまりは「群」の戦力となる。

 そもそも運用と目的のコンセプトが全く異なる。

 その中で最も戦局を左右するのは後者だ。

 加えて、「IS」誕生以前は大型空母一隻で一国の軍隊を壊滅させることが出来ると言われていたほどだ。

 

「ま、何よりも……

 たった一日であれだけ伸びたのは予想外だったな」

 

 天龍は嬉しそうに龍驤の敗因を述べた。

 

「……当たり前だ。

 彼奴らならそれは出来る」

 

 私は彼女の指摘に対してそう答えた。

 自分でも偉そうであることは理解している。

 しかし、一夏たちは成長出来る連中だ。

 だから、今回のことは不思議でもない。

 

「まあな。

 あれだけ落ち込む発言をしたが……

 それを本人たちが気付かないうちに乗り越えてくれたのは嬉しい限りだ」

 

 そんな私の一見何様のつもりだと思える発言に対して、天龍は笑って流した。

 

「……特にあの一夏だっけか?

 アイツ、割と色男らしいな?」

 

「……遺憾ながらな」

 

 天龍はニヤニヤとした表情を浮かべながら一夏の周りの女子から寄せられる恋愛感情について言及した。

 どうやら凰やオルコットがあいつに抱いている感情を感じ取ったらしい。

 

「まあまあ、落ち着けって。

 色男ってのはあくまでも男女の関係だけじゃねえ。

 友人と言う意味でもだ」

 

「……鋭いな」

 

 天龍の言う「色男」という概念を理解して改めて私は彼女の慧眼に驚かされた。

 

「あの集団はあいつが中心だ。

 あのラウラって奴は兎も角として少なくとも鈴音、セシリア、シャルロットの三人はあいつに何かしらの思い入れがあるだろ?

 つまりはあいつが動けば他の三人は否応なしに動くだろ?」

 

「……ラウラは入らないのか?」

 

 天龍は一夏の親しい仲間の中で分かりやすい凰とオルコットの二人は未だしもその中にデュノアを挙げていたのが予想外だった。しかし、それ以上に予想外だったのだがその中にラウラが入っていないことだった。

 そのことを理解していることに流石だと驚いたが一応、念の為に訊ねた。

 

「ん?だって、あいつ、どっちかというと雪風のことを慕ってんだろ?

 そういう奴、結構俺らの仲間にもいたしな」

 

「……まあ、それはそうだが……

 それならどうしてデュノアが一夏の方に入っているんだ?

 分かりにくさはラウラと同じだと思うが?」

 

「あ~、シャルロットの方か。

 ま、あいつは友情以上のものを感じてはいねぇな」

 

「……そこまでわかるのか……」

 

 天龍が僅かながらの期間で雪風のことを強く慕っているラウラは兎も角として、デュノアが一夏に恋愛感情を抱いていないことを理解していることに感心してしまった。

 まさか、ここまでわかるとは。

 

「……まあ、俺も凰とオルコットとは同類だからな」

 

「……何?」

 

 そんな私の疑問に対して天龍はあっさりと答えた。

 

「……同じとは?」

 

「いや~、いたんだよ。

 俺らの世界にもああいう朴念仁が」

 

「……そうか」

 

 どうやら天龍もまた凰やオルコットの様に好きな男性がかなりモテる、しかもかなりの鈍感男だったらしい。

 

「ま、いい男に惚れる女が出てくるのは当たり前だな」

 

 ただ天龍はその朴念仁に対してそこまで苛立ちは感じていないらしく、自分の他に惚れる人間がいるのは仕方ないと割り切っているらしい。

 

「だが、それが弱点にもなる」

 

「……そうだな」

 

 天龍は凰とオルコット、加えて友情を抱いているデュノアの信頼がもたらす危うさを指摘した。

 

「お前の弟はあの連中の精神的支柱だ。

 俺たちで言う「旗艦」だよ」

 

 艦娘の彼女が言う「旗艦」という言葉の意味がどれだけのものなのか察することが出来た。

 

「「旗艦」には大きく分けて二つの種類がある。

 一つはドンと構えて司令塔となって周囲を指揮する奴。

 で、もう一つは自分から敵に突っ込んで周囲の士気を上げる奴。

 お前の弟は紛れもなく後者だ」

 

「だな……

 私もあいつが「司令塔」など想像できん」

 

 我が弟ながらあいつは良くも悪くも走り出したら一直線だ。

 そんな男が「司令塔」など考えるだけで笑えてくる。

 

「だろうな。

 あいつは軍人だったら佐官止まりだ。

 それ以上は誰かがお膳立てしなきゃならねぇ」

 

 容易に想像できる。

 一夏は強力な決定打にはなり得るがそれは優秀な指揮官の旗下にあってこそだ。

 だが

 

「でも、問題なのは……

 大将の器があるところだ」

 

「あぁ……」

 

 一夏は能力に反して人を惹きつけるところがある。

 本人はどう見てもエース向けの能力なのにあいつの気質故に周囲に与える影響は将棋で言うと飛車の能力を持った王将だ。

 つまりは

 

「あいつ……

 戦場で死ぬか、いや、死にかけるだけで他の連中の心も死にかねんぞ」

 

「……そうだな」

 

 一夏自身に何かあった瞬間の動揺はかなり致命的なものとなり、凰とオルコットに至っては再起不能になる可能性もある。

 それなのに本人は命を懸けなくてはならない立場にいる。

 

「「駆逐艦」や俺たち「軽巡」の様な奴なのに「戦艦」や「空母」の様な存在か……

 本人が無自覚なのもきついな」

 

「ああ……」

 

 加えて、一夏本人は自分の価値に気付いてないのも大きな問題だ。

 

「ま、それもだが……

 次からの訓練であいつらは龍驤にもう一度勝てるかな?

 いや、龍驤を倒したとしても他の奴らに勝てるかな?」

 

「……何?」

 

 一夏たちの在り方に対しての結論をある程度、出した後に訓練について言及した。

 どうやら、次からは龍驤も本気を出すらしいが、それ以上に何か含みを持たせていた。

 

「それよりも……

 俺がいないのもあいつらが勝てた理由だしな」

 

「……すごい自信だな」

 

 天龍の発言に私は驚かされた。

 確かに昨日の戦いぶりを考えれば、それは決して自惚れではないことは理解出来る。

 

「違ぇよ。

 むしろ、それが普通なんだよ」

 

「……?」

 

 しかし、天龍は私のその発言にそこまでの強気を見せなかった。

 

「空母に護衛がいないなんて方が異常だろ?」

 

「!?」

 

 私は天龍に言われて自分もまた「IS」の世界の常識に染まっていたことに気付かされた。

 人間大のサイズでしか彼女たちを見てこなかったことから私は彼女たちや「深海棲艦」が艦隊で戦うということを忘れていた。

 

「いいか?昨日、あいつらにも言ったが。

 今は訓練だが相手は一人で済むが、実戦じゃそれ以上だ。

 龍驤一人に勝っても俺と言う護衛や他の空母が加って艦隊が完成しちまえば勝率は下がる。

 それが俺たちの世界の常識だ」

 

「そうだったな……」

 

 天龍の言葉は自信ではなく、常識だった。

 

「ま、少なくともあいつらや他の「IS」を扱う奴らには何人かの俺らの仲間が付く。

 だから、簡単には死なせねぇ。

 それでも今回の勝利で浮かれるぐらいなら戦い潰すがな」

 

「……わかった。頼む」

 

 天龍の目は本気だった。

 それは彼女らにとっての当たり前にすら届いていないことへの証拠だった。

 それを見て私は

 

 この人なら安心だな……

 

 何処かこの人が一夏たちの教官役になってくれたことに安心した。

 

 川神……よく推薦してくれた……ありがとう

 

 艦娘の中で彼女が選ばれたのは川神の強い後押しがあった。

 

『天龍さんは私にとっての大先輩ですので大丈夫です』

 

 川神にとっては天龍は大先輩らしい。

 「二水戦」と呼ばれる川神が旗艦を務め、雪風も所属していた部隊の中で一、二を争う古参らしい。

 それだけでもかなりの適任だろう。

 そして、川神の人選は間違っていなかった。

 

 少なくともこの人ならば……

 生徒たちを下手に死なせるようなことはしないはずだ

 

 私は彼女に強い信頼を感じた。

 

「あの五人は兎も角門の前に立った。

 次は敷居を跨ぐかだ」

 

「……そうか……」

 

 気が遠くなるな……

 

 どうやら、今のでようやく入り口の前に立ったらしい。

 それ程までにこの戦いは想像を絶するものだ。

 

 ……出来るのならば、あいつらが本格的に戦いに参加する前に終止符が打たれれば……

 と思うのは身勝手だな

 

 私は教え子たちと弟がこのまま上達せず戦いに送り出したくない気持ちも抱いていた。

 本来ならば、私たちの出生を知られたくないことから一夏を「IS学園」に入れたも同然なのに、どうやらもうそれどころじゃないらしい。

 教師と姉ならば教え子や弟の意思を尊重すべきであるが、私はいざこうなってみるとあいつらが危険に晒されることに危機感を覚えた。

 それは暴走機や無人機の様な非日常的な出来事ではなく非日常が日常になることを自覚したが故のことなのかもしれない。

 それがあいつらの意思を無下にすることだと理解しながらも私は願ってしまっている。

 

 本当に教師として……姉として……中途半端だな……


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