奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「よっし!
みんな補給は済んだ?」
「はい」
「シールドエネルギー」と装備の補充が出来たことの確認を訊ねられて俺たちは完了している旨を伝えた。
「そうか、それは良かった」
龍驤さんはそれを聞いて満足した。
それを見て、俺たちはこのまま訓練を開始すると思った矢先だった。
「あの、すみません」
「ん?何や?」
シャルが龍驤さんに声を掛けた。
「あの……龍驤さんは「艦載機」の補充をしなくていいんですか?」
「え?」
「あ、そういえば……」
「したの「エネルギー」の補充だけよね?」
「大丈夫なんですか?」
シャルの指摘で俺たちはそのことに気付いた。
確かにそうだ。
「艦載機」は一種のビット兵器の様なものだ。
セシリアの「ブルー・ティアーズ」を見れば分かるが、「ビット兵器」は壊れた場合はその都度、予備を使わなくてはならないはずだ。
それなのに龍驤さんはそれをした素振りが全く感じられない。
「あ~、それは大丈夫や。
というよりも、それはうちらも驚いたことやな……」
「……?」
「どういうことですの?」
その疑問に対して、龍驤さんは問題がないと答えたが何処か歯切れが悪かった。
と言うよりも、何か彼女にとっても予想外なことが起きているらしい。
「あ、そうやった。
丁度、一機分空いてるから今から見せるね」
「?」
龍驤さんは何か思い付いた様子で俺たちに何かを見せようとしてきた。
「ほら、見て見て」
彼女は右手の掌上にして俺たちに差し出してきた。
一体、何をするつもりだろうか。
「ほら!」
「?」
すると彼女の手に「艦載機」が一機展開された。
彼女はそれに対して何かすごいことの様に胸を張っているようだが、その彼女の興奮ぶりに少し違和感を感じた。
「あの……
何をそんなに興奮しているんですか?」
俺たちが困惑しているとシャルが代表して訊ねた。
「今のって、ただ「艦載機」を一機展開しただけよね?」
「そうですわ……
「IS」に搭載されている装備を展開するのはごく当たり前のことなのでは?」
シャルに続いて鈴とセシリアがそのことを指摘した。
その通りだ。
今、龍驤さんがやって見せたのは俺たちにとっては「IS」の装備を展開させるという基本動作だ。
そのことを見せられても特段驚くことじゃないはずだ。
「う~ん、違うんや」
「?
違うとは一体?」
龍驤さんは俺たちの指摘に対して、『それは違う』と答えた。
一体、何が違うと言うのだ。
「この「零式艦上戦闘機」はたった今、再構築されたばかりの新品やで?」
「「「「「……はい?」」」」」
どういうことだろう。
今、この人はとんでもないことを言ったような気がした。
「あの……すみません。
もう少し、分かりやすく……」
俺たちが混乱しているとシャルが再び訊ねてくれた。
「あ~、分かりやすく言うと。
君らの持っている「IS」と違ってうちの「IS」はエネルギーさえあれば、「艦載機」を補充してくれんや」
「「「「「はあ!!?」」」」」
その衝撃的な告白に俺たちが本当の意味で思考が止まりそうになった。
「何よそれ!?」
「展開じゃなくて生産!?」
「ありえん……!!?」
一斉に全員が龍驤さんの常識とかこの世の森羅万象の理を崩しそうな発言に思ったことをぶつけた。
当たり前だ。
この人は今『エネルギーから物質を生成する』というとんでもないことをやってのけたらしい。
全員が驚くのも無理はない。
「いや、まあ……
一応、うちらの存在がいる時点で強く否定できんけど……」
「どういうことですの?」
俺たちの驚きに理解を示しつつも自分たちの存在を理由に彼女はそれを否定できないと返してきた。
「うちらって……
艦船が竣工した時に同時に他の物質とかそういうの関係なしに生まれてくるようなもんやし」
「あ……」
彼女たちの出生を語られて俺たちはそれ以上何も言えなかった。
彼女たちは厳密には人間ではない。
そのことに心ならずとも触れてしまったことに俺たちは申し訳なさを感じてしまった。
「こらこら、そこで沈んだ顔をせんといて。
そもそも生まれが人間と違ってもうちらは気にせん。
それに人と結ばれた艦娘もいるらしいしな」
「え!?」
そんな思い空気になろうとした矢先、龍驤さんは俺たちに気にしないでいいと言ったが同時にもう一つ衝撃的な発言をしてきた。
「『人と結ばれた』って……」
「ん?何や、君たち?
もしかするとうちらのことをただの兵器やと思った?」
「いえいえ!?
ですけど……」
「人間と結婚って……」
「でも……確かに人間と同じですし」
「ありえない話ではないな……」
「何よりもロマンがありますわね」
『人と結ばれた』。
それはつまり、『艦娘と人間が結婚した』という事実に他ならない。
俺たちはそれを予想しなかった。
しかし、よく考えなくても彼女たちには俺たちと同じ様に心がある。
ならば、普通に恋をするのは不自然なことではないはずだ。
「あ、そう言えば……
雪風さんは『初恋の人』のことを語っていましたわね」
「!?」
「何!?」
「え!?雪風が!?」
セシリアが打ち明けた雪風の「初恋の人」という言葉に俺とラウラ、シャルの三人は驚いてしまった。
まさか雪風に初恋の人がいるなんて思わなかったからだ。
「……そうか。そういうことだったのね……」
「鈴……?」
対して、鈴は衝撃を受けるよりも何か納得しているかの様な反応だった。
「あの……!!
お姉様の初恋の方とは一体……?!」
「ちょっと、ラウラ!?」
雪風の初恋の相手と言う衝撃的な存在に対してラウラは動揺し龍驤さんに詳しいことを訊ねた。
その行動にシャルは彼女を止めようとした。
……そりゃあ、気になるけど……
雪風の初恋の人と言うのは実際、俺も気になる。
でも、これを聞いて果たしていいのだろうか。
……て、よく考えたら雪風って実年齢三十歳なんだよな……
恋愛の一つや二つは経験しているか……
雪風は俺たちよりも倍近く生きている。
つまりは千冬姉よりも年上だ。
恋愛ぐらいしているのはおかしくないはずだ。
そりゃあ、あれだけ美少女で優しくて強かったら……
惚れる男は多いよな……
俺から見ても雪風はいい女だと思える。
今の姿の美少女ぶりもそうなんだから大人だったらとんでもない美人だろうし、性格も優しいうえに、その上心身ともに強い。
どう見たって男は放っておけないだろう。
「う~ん。
でも、うちからこれ話してもいいのかな……」
ラウラの追求に珍しく龍驤さんが困り顔をした。
当然だ。
これは極めてプライベートかつデリケートな内容だ。
本人がいないのに、いや、本人がいなくてもいても、本人の了承があったとしても他人が話すのはマズいだろう。
「……あ~……しゃあない。
多分、このままにしてたら訓練に身に入らんやろ?
ちょっとだけやぞ?
ただし、雪風にも追求しないことと気付かせないこと、後、口外無用やぞ?」
「本当ですか!!」
このままだとラウラを含めた俺たちが訓練に集中できないと判断して、龍驤さんはこのことを雪風本人に訊かないことや耳に入れさせないこと、決して周囲に漏らさないことを条件にして話すと言ってきた。
「じゃあ、かいつまんで言うと……
雪風の初恋は……淡いもので終わったというべきやな……」
「え……」
「終わったって……」
「あの雪風が!?」
龍驤さんが語った雪風の初恋の結末をオブラートに包んだ言い方に俺たちは理解出来なかった。
だって、あの雪風がだ。
絶対に男女共学なら秘密裏にやってそうな付き合いたい異性ランキングではベスト10には間違いなく入ってそうなあの子がだ。
どれだけの競争率なんだ……
確かに見た所、艦娘の人たちは美女・美少女だらけだ。
しかし、雪風の初恋が実らなかったことが信じられないのだ。
「だって、しゃあないもん。
あの人は……雪風のことを妹か娘の様にしか見てなかったんやから……」
「え……」
俺たちの驚きに龍驤さんは辛そうに答えた。
「『妹か娘』……?
え、どういう……」
「……君ら、前に夕立や朝潮と会ったよね?」
「え?あ、はい」
龍驤さんはそう訊ねた。
「……あの子たち、中学生かそれに入ったばかりぐらいに見えるやろ」
「……そうでしたわね」
確かに雪風と同じ「駆逐艦」と呼ばれる彼女の元同僚は中学生位に思える。
「……雪風はな。その中でもあの照月っていう娘の前に生まれた二番目に若い娘やったんや」
「……そういえば……」
「そんなことも言ってたわね」
あの面々の中でも雪風は若い方らしい。
しかし、生きている期間が彼女たちよりも長かったことから少し彼女たちよりも大人びているらしい。
「で、雪風の初恋の人って言うのはあいつが生まれた時に着任した提督やったんや」
「え、提督って……」
「かなり立場が上の人じゃないですか」
「……そうなのか?」
「……艦隊の指揮官よ」
「とんでもないお偉いさんじゃないか?!」
どうやら雪風の初恋の相手は彼女が生まれた時から一緒にいた人間でかなり立場が上だったらしい。
「そんなんやから、あの人は雪風のことを妹や娘の様に可愛がってたんや。
作戦の時は常に雪風が無事かどうかを気にしていて不安になるほどな」
その雪風の初恋の人は雪風のことをとても大切に想っていた人だったらしいのが龍驤さんの表情と言葉からうかがえる。
そして、善良な人物であったことが窺える。
「ただな……
それはあいつの欲しかった愛し方じゃなかったんや……」
「え……」
「あ……」
しかし、龍驤さんは表情を曇らせてそう言った。
そして、それがどういう意味なのか何となく俺たちは察してしまった。
「あいつの好きだった人は……
あくまでもあいつのことを妹や娘としか見ていなかったんや……」
「……っ!」
それは余りにも残酷な事実だった。
「酷過ぎますわ……」
「セシリア……?」
セシリアはそう言った。
「酷過ぎますわ!!」
「……!」
セシリアは雪風の初恋、いや、そもそも初恋にもなっていなかったかもしれない終わった恋の破れ方に強く抗議した。
「そうね……あたしもそう思うわ……」
「鈴……?」
セシリアに続いて、鈴も不機嫌になった。
「……それと、雪風にもう一度会いたい理由が出来ましたわ……」
「え……」
鈴の新たな決意に全員が衝撃を受けた。
「へえ~……
じゃあ、訓練を再開してもいいのかな?」
二人の反応を見て龍驤さんはそう訊ねた。
それに対して
「わたくしはいいですわ」
「あたしもよ……
アンタたちは?」
二人は龍驤さんの問いかけに対してそう返し俺たちの意思を確認してきた。
それに俺たちは
「ああ」
「うん」
「わかった」
二人よりも強い意思ではないが『応』と答えた。
「……そうか。
でも、一言言わせてもらうよ?
今回、仲間の秘密を話したんや……
少し厳しめにいくで」
「……!」
龍驤さんはあの余裕綽々な態度を拭い去りそう言った。
それは自分の口から仲間の秘密にしておきたかった話を話させたことへの苛立ちだった。
「……ええ!
それに対しては……!!」
「アタシたちは覚悟の上よ!!」
セシリアと鈴もそれを百も承知と答えた。
その気迫に俺たちは圧された。
「そうか……
ええ友達を持ったな……アイツ……
じゃあ、始めるで……!!」
そう言って。龍驤さんは開始と同時に艦載機を展開してきた。