奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
今回、大鳳提督と雪風提督に対して不快な思いを感じさせる可能性のある描写が存在します。
最新鋭でなおかつ優れた能力を持つ空母として大鳳を選んだのですが、本当にすいません。
ですが、どうしても今話において必要な描写なので彼女のことを使わせていただきました。
本当にすいません。
「雪風ちゃん、どう調子は?」
地上から10メートル以上離れた上空で更識さんからの通信が入ってきて空を飛んでいる感想と状態について訊ねられた。
「えっと……何と言うか、初めて沖を走った感覚を思い出します」
比較的速度を出していないとは言え、空を実際に飛んでいると言う今までにない経験の中で私は初めて沖に繰り出した時のちょっとドキドキとした緊張感と好奇心を掻き立てられるワクワクが混ざったような気持ちに包まれていた。
私が沖に繰り出したのは呉に到着してからのことだ。
あの頃は磯風や私の父親代わりで初恋の人でもあった後の艦娘の「連合司令」となった佐世保の司令と離れ離れになってから少し寂しくて心細かったが、ようやく「二水戦」や「第十六駆逐隊」にも馴染んできてのことだった。
そんな時に艤装を纏っての初めての沖におっかなびっくりだったけれど、神通さん指導の下の初めての全速での航行は天津風じゃないけれど、風が気持ちよくて最高だった。
「へえ~……やっぱり、雪風ちゃんでもそういう時は緊張するんだ?」
私が緊張していることが意外だったのか、更識さんはそう言った。
彼女は私のことを何だと思っているのか。
確かに中華民国時代においてはあの数々の戦いを経験して生還し続けたことから、一種の伝説扱いもされていたにはいたが、本来の私はそんなだいそれた人間じゃない。
「当たり前ですよ。
そもそも私は――――――」
あの頃の私のことを話題に出そうとした時
『ほな、雪風大丈夫やって』
『雪風、とっと来なさい』
「………………」
まだ私が「十六駆逐隊」、いや「二水戦」において
「……どうしたの?」
あれは私にとっての二人のお姉ちゃんとの初めての沖での演習だった。
最初、十六駆は私とお姉ちゃんと、もう一人の陽炎型の姉である三番艦の黒潮お姉ちゃんの三人だった。
私が初めての沖での演習でおっかなびっくりで中々、海上に出なかった時に黒潮お姉ちゃんは朗らかに、お姉ちゃんはしれっと催促してきた。
黒潮お姉ちゃんとは僚艦としての付き合いは短かくはあったけれど、私が姉の中で「お姉ちゃん」と呼んでいた二人しかいない姉の一人でもあった。
「……いえ、なんでもありません。
とりあえず、私だって緊張はするんですよ?」
再びセンチメンタルになり、それが原因で昨日のようなことが起きるのはまずいと思って、私はすぐに気持ちを切り替えた。
「ごめんごめん。
昨日の雪風ちゃんの操縦技術と雪風ちゃんの先生のこと思い出すとね……ついね」
「はあ~……」
たった三日間ではあるが、私は更識さんと言う人が本当に成長した時津風なんじゃないかと思えてきてしまった。
となると、布仏さんは天津風と言うことになるのだろうか。
面倒見のいい天津風が何かと時津風に振り回される感じがまさにそれだったし。
ちなみに私とお姉ちゃんはそういう時には言うと、私はおろおろしてしまい、お姉ちゃんは要領がいいので少し呆れながら我関せずと言った感じだった。
「さてと……じゃあ、私が下で待機しているから降りてきてね」
「わかりました」
そんな余裕が多少ある中で更識さんはそう言って、あっという間に降りていった。
「ふ~……」
更識さんが着地したのを確認すると私はあまり根を詰めすぎると昨日のようなことが起きると学んだことから息を吐いて、肩から力を抜いた。
「よし……!」
心の準備が完了し、私は地面スレスレの所に水面があることを意識して下に降りようとした。
―ゴーー
私がイメージすると下から上に吹き上げるかのように風が鳴るのが耳に入ってきた。
どうやら降下は今のところ、順調らしい。
だが、ここで焦ったり、気を抜いては昨日のような失敗に繋がると考えて集中力を切らさないようにした。
そして、30秒後に
「ふ~……」
ようやく着陸を終えた。
「うん、これで飛行操縦の初歩も完璧ね」
私が無事着地に成功したことに更識さんは満足気だった。
どうやら、彼女の言葉通りならば私は飛行の基本をこなすことができたらしい。
「今はゆっくりだけど、後は身体が慣れてくれば自然と動きにキレがうまれるわ」
「やっぱり遅いですか……
でも、そう言ってくれると励みになります」
私自身、今の降下は遅すぎると思っている。
しかし、慣らしていくことで急上昇、急降下ができるとなれば、やはり反復練習から来る努力は大事なのだろう。
とりあえず、自主訓練ができるようになるのならば上昇と降下の反復を繰り返そう。
と私は訓練に対して計画を練り、「二水戦」時代の影響でうずうずしていたが
「ま、これで私が教えることはもうないかしら」
「……は?」
更識さんのその言葉に私は思わず、間の抜けた声を出してしまった。
「あの更識さん……
失礼ながらあなたの言っていることの意味が解らないのですが……」
戸惑いながら私は訊ねると
「だから、基本動作はこれで終わりよ?」
「はい!?」
私はぎょっとして素っ頓狂な声を出してしまった。
「ま、待ってください……!
私、まだ二日しか訓練してないんですよ!?」
あまりにも短すぎる基礎訓練の期間に私は不安を隠せずに更識さんに再考を呼びかけるが
「いや……その……
雪風ちゃんは多分、納得してくれないと思うけど……
あなたの場合、これだけ覚えれば大丈夫なのよ」
「……え?」
更識さんはまったく 理由になっていない理由でこれ以上の基礎訓練を必要じゃないことを語ってきた。
だが、私が学んだ基礎中の基礎だけだ。
神通さんの下で鍛えられた私からすれば、これだけで終わりなど納得がいかない。
「雪風ちゃんって軍人よね?」
そんな納得のいっていないことを察したのか更識さんはそう言ってきた。
「ええ、まあ……一年間は前線は退いていましたが……それが何か……?」
私はなぜ今さらになって再びそんなことを訊ねるのか理解できずにいたが素直に質問に答えた。
「「IS」の操縦はね、「飛行操縦」とかの普通の人間が慣れない動きを除けば、後は大体は今までやってきた自分の運動の感覚を活かせばなんとかなるものなのよ。
例えば、白兵戦向きの「打鉄」なら剣道とかの間合いを把握できる戦い方を応用すればなんとかなるわ」
彼女は教本にも記載されていた「量産型の日本製白兵戦用IS」のことを例に出してきた。
「……え?それって……つまり……」
更識の説明で私は彼女が私に言わんとしていることが理解できた。
「そう、雪風ちゃんの場合は既に戦闘のノウハウが体や頭に叩き込まれてるからこれ以上のことは教える必要がないのよ」
と少し困ったような笑顔をしながら彼女は私の問いに対する明確な答えをはっきりと口に出した。
「で、でも……」
その道の実力者であるはずの更識さんが言うのだからそうなのだろうが、訓練を怠ることや自分が納得するまで訓練をしないといけない性質の私はそれでも訓練を求めようとするが
「じゃあ、雪風ちゃん。午後の一時から模擬戦だからそれまでゆっくり休んでね?」
「……は?」
だが、私に返ってきたのはとんでもない予定だった。
「も、模擬戦……?」
模擬戦と言うとあれのはずだ。
私たちで言う「演習」のことのはずだ。
いくらなんでも「IS」の性質上、「模擬戦」と言う「実戦」は今の段階ではありえないと思い、何かの聞き間違いかと思って訊ねたが
「そ、模擬戦よ。
アリーナで待ってるから
「て、本当に模擬戦ですか!?
いくらなんでも―――ん?
更識さんが涼しい表情で模擬戦が決定事項であることを突き付けてきた。
私はそれを時期尚早と考えて抗議しようとするが、更識さんの言いようが引っかかってしまった。
「ああ、模擬戦の相手は私だからよろしくね♪」
「………………」
物凄いにこやかで屈託のない笑顔で彼女はそう宣言した。
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」
私はたまらず絶叫してしまった。
更識さんの実力は彼女の出自や昨日の件である程度、測ることができる。
少なくとも素の戦闘経験ではこちらに分があるとは思うが、「IS」に関しては彼方の方が圧倒的なはずだ。
かなり失礼な例えではあるがこれは最新鋭の装甲空母である大鳳さんに練度の低い艦載機を積ませて、演習相手として機動部隊の代名詞の一航戦である赤城さんや加賀さんのどちらかに練度抜群の艦載機を積ませて初めての演習をやらせるようなものだ。
大鳳さんは最新鋭の装甲空母として、いつかは赤城さんや加賀さんたち相手に対抗し、なおかつ追い越せる潜在能力はあるが、彼女が着任する前からの一航戦の雄姿を知る私からすれば、さすがの大鳳さんでも練度が足りない状態では彼女たちには勝てないだろう。
実際、あの二人含めた南雲機動部隊や多くの艦娘や人間双方の人員を失ったあの「悪夢のミッドウェー」で数少ない生き残りで終戦まで戦い続けた飛龍さんと着任したばかりの大鳳さんが最初の稽古として演習を行ったが、結果は大鳳さんの完敗だった。
やはり、物量や能力の違いと言うのも第一だが、時には練度や経験がそれに勝る時もあることを痛感させられた出来事だった。
ただ行き過ぎた精神論だけは神通さんの弟子であり、中華民国で旗艦や訓練艦を務めたことから決して許すわけにはいかないが。
それに大鳳さんも一時は危険な目に陥ったときはあったが、それを乗り越えて戦歴を積み重ねたことで最終的には機動部隊の総旗艦として恥じない存在となり終戦まで戦い続けた。
何事も経験なのだ。
そんな練度がある意味、物を言うことを理解しなおかつ神通さん率いる最強の練度を誇る「二水戦」の中で育ってきた私からすれば更識さんの言葉は寝耳に水どころではない。
「ちょっと、更識さんそれは流石に―――」
私は少し、冷静さを失いながら再考を呼びかけようとするが
「て、いない!?」
当の本人はいつの間にか姿を消していた。
異論は断じて認めない。
そんな更識さんの意思を感じる瞬間だった。
ようやく、次回雪風の戦闘描写を書けます。
長かった……いかにして自然な流れでここに持ってくるまでが長かったです
そして、重ね重ね大鳳を愛する提督やファンの皆さま、そして、雪風にこう言った「例え」を使わせたことに対してお詫び申し上げます。
ごめんなさい。
決して、悪意や他意はありません。