奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

250 / 332
第15話「龍の逆鱗」

「ほら行くで!!」

 

 先程と打って変わって攻撃的な龍驤さんの姿勢に俺たちは少しプレッシャーをひしひしと感じた。

 

 第一波は何が来るんだ……!?

 

 迫り来る艦載機。

 俺はそれの最初の攻撃の前触れを前にして相手の初撃を予想しようとした。

 後、一分もしないうちに始まるであろう龍驤さんの攻撃に警戒した。

 前から来るか、それとも先ほどみたいに上から仕掛けてくるのか。

 

 前か……!

 

 艦載機たちは軌道を変えることなく俺たちに向かってきた。

 全く上から来る気配がないこととある程度のラインを越えたことからどうやら前から来ることがわかった。

 

「みんな、避けろ!

 前から来―――!」

 

 俺は目から判断した情報とハイパーセンサーから手に入れた上空の情報から全員に前に集中することを呼びかけようとしたが

 

「―――!?」

 

 目の前の艦載機から分離された爆弾が俺たちに向かって猛スピードで直進してきた。

 その爆弾は機体の速度による慣性とそれ自体の推力が合わさった合成速度により俺たちに避ける隙を与えてこなかった。

 

 「逆落とし」……!?

 

 それは那々姉さんと雪風が得意とする必殺の戦術だった。

 

「ぐわっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「っ……!」

 

 それを理解したのが遅過ぎた。

 俺たちは「AIC」を発動したラウラ以外はまともに喰らってしまった。

 

 飛行していてロケットランチャーみたいなのをぶっ放すんだから、これぐらいは出来るのか……!

 

 「逆落とし」を受けたことに俺たちは衝撃を受けるよりも悔しさを感じた。

 雪風や那々姉さんも「IS」という高速飛行を可能とするツールを使っていることで「逆落とし」を可能としている。

 それならば小型でもロケットランチャーを持っていて高速飛行を可能としている「艦攻」ならそれは可能だろう。

 俺は雪風と那々姉さんと過ごしてきたのにそこに考えが至らなかったことに迂闊さを感じた。

 

 これが戦場だったら……!

 

 戦いに惜しいなんて言葉がないことを自覚し、今のが本当の戦いでの初撃だったらと考えて焦りを感じた。

 もし今のをまともに喰らっていたら総崩れになって第二波で確実にやられていた。

 

 やっぱり、まだ抜けていないか……

 

 何となく自分が完全に当事者意識がない気がしてきた。

 それが自分の生死だけではなく仲間の生死を分けることになるのにだ。

 

「……どりゃあ!」

 

「……鈴!」

 

 俺とシャル、ラウラが逆落としからの困惑から抜け出せていないと鈴がいきなり前に出た。

 

「……!」

 

 よく見てみると鈴の機体の損傷は軽く、爆炎は俺たちの目にあるよりも前に立ち籠っていた。

 

 衝撃砲でロケット弾を撃ち落としたのか……!

 

 鈴はあの一瞬で避けられないと判断してあえて前に出てロケット弾を衝撃砲で破壊したのか、爆発による爆風を防いだのだ。

 

 そうだ……

 この中で雪風の「逆落とし」を一番最初に破ったのは……

 鈴だ!

 

 この中で雪風の必殺ともいえる「逆落とし」を最初に打ち破ったのは鈴だ。

 勿論、相性の良さと言う点ではラウラの「AIC」も「逆落とし」を封じているが、鈴はそれを技能で打ち破った。

 しかも、鈴はただ防御するだけではない。

 ロケット弾の誤爆による黒煙を煙幕にしてそれを反撃に利用した。

 

 これ……

 雪風の戦術だ……!

 

 思えば、雪風も鈴とラウラ相手に同じ手を使ってきた。

 グレネードを相手に投げつけることでその煙を利用することで相手の視界を一時的に奪い反撃する。

 雪風がしていた戦術を鈴は今、自分の戦術として使ったのだ。

 

「へえ~、中々やるね。

 その臨機応変さは大切だよ!」

 

 龍驤さんは鈴のその強襲を称賛した。

 しかし、それでも怯みも傲りもせず、新たな艦載機を展開してきた。

 

 っ……!

 鈴の援護に駆け付けたいのに……!

 

 先ほどの艦載機と一緒に同行していたらしい戦闘機に集中して纏わりつかれて俺は動きが取れなかった。

 どうやら俺が接近しなければ戦力的に無価値になることを理解しての戦術らしい。

 

 これがこの人たちの戦いか……!

 

 相手の特徴を把握してそれぞれに合った対策を直ぐに講じて施し効果を上げる。

 俺と言う将棋の駒で香車みたいな動きのする奴の動きを封じて戦場における価値を0にする。

 戦いながらもそれが同時に行える龍驤さんの技量に俺は圧倒された。

 

「残念だけど、臨機応変なのは―――」

 

「……!!」

 

「あなたや彼女だけではありませんわ!!」

 

「……!セシリア!」

 

 龍驤さんに向かっている鈴を援護する形でセシリアがそう叫んだ。

 

 そうか……!

 セシリアの奴、鈴がロケット弾を迎撃したのを見て直ぐに鈴の前の煙を使ったのか!

 

 セシリアは既に煙の中で全ての武装を展開していた。

 それは少なくても前の訓練の時よりは早かった。

 

「その艦載機みたいなのは……結構、便利そうやね。

 いざとなれば、仲間を守る為の盾にもなりそうや……

 でも―――」

 

 セシリアの「ブルー・ティアーズ」が周囲を守りながら鈴は龍驤さんに真っ直ぐ向かおうとしていた。

 

「―――うちの娘らの方がお利口さんなんやで!!」

 

「!?」

 

 龍驤さんは巻物の様な物を取り出してそれを大きく広げた。

 

「なっ!?」

 

「まだ、そんなに!?」

 

 全て展開していた訳ではなく艦載機が次々とまるで陰陽師が式神を召喚する様に現れた。

 

「……中々、悪くなかったで。

 切り換えのよさ、気迫、判断力。

 だけど、それだけじゃ足りんで!!」

 

「ぐっ!?」

 

 新たに現れた艦載機はセシリアの「ブルー・ティアーズ」を粉砕し、反撃の狼煙を完全に消し去った。

 

「それとうちは軽空母や。

 しかも、その中でも結構、旧いで?

 うちより搭載数が多くて強い連中は仰山おるで!!

 敵にも味方にも!!」

 

「!?」

 

 龍驤さんの衝撃的な発言に俺たちは絶句した。

 こんなに強い人がそんな風に謙遜とかなしで自分より強い存在がいることを公言したのだ、

 それだけでこの人たちの言う「これからの戦い」がどれだけのものか想像も出来なかった。

 

「ほら!ぼさっとしない!」

 

「!?

 しまっ!?」

 

「鈴!?」

 

「鈴さん!?」

 

 自分たちの反撃が潰えたことに動揺してしまった鈴はそのまま爆撃をもろに喰らってしまい、先ほどの先制攻撃よりも大きな煙に包まれた。

 それを見て、誰もがこの訓練はここで終わってしまったと思った時だった。

 

「!」

 

「どりゃぁあああああああああああああああ!!!」

 

「……!」

 

 鈴の叫びが響き渡り煙の奥で未だに鈴が前に進んでいることが理解出来た。

 

「……っ!」

 

「まだまだですわ!」

 

 鈴が攻撃を食らいながらも前に進もうとする声を聞いてか、セシリアも残っているミサイルとライフルで龍驤さんの回避場所を制限して援護した。

 煙がミサイルの衝撃で少し晴れると龍驤さんの動きが緩やかになっているのと鈴がまだ前に進んでいるのが見えた。

 

「……っ!」

 

「……ギリギリやったわ」

 

 鈴の双刀は龍驤さんの肩に触れたが、龍驤さんは機銃を叩き込み鈴の残り少ない「シールドエネルギ-」を削り、戦闘不能に追い込んだ。

 

「……でも」

 

 それを見ていた俺たちは何時の間にか、後先考えずに前に進んでいた。

 

 鈴とセシリアがあれだけ頑張ったんだ……!

 ここでおちおち足止めなんて喰らってたまるか!

 

 鈴は諦めずに前に進んみ、セシリアもそれに応えた。

 それを無視したら俺たちは仲間じゃなくなる。

 

「こりゃ、虎の尾を踏んだかな?」

 

 龍驤さんは俺たちの様子を見て呟いた。

 

「だけど、君らもまだまだや!

 軽空母の、それも特に艦載機が少ないうち一人相手にここまで苦戦している様ではこの先生き残れんで!!」

 

 けれども龍驤さんもまた怯んでなかった。

 

 本当にこの人は……

 幼く見えるのに何ていう気迫だよ!

 

 時折、見せる器の大きさは感じられたが、本当にこの人は信じられない程に大きい。

 そんなこの人が「軽空母」と呼ばれる空母の中で一番艦載機の所有数が少ないなんて計り知れない。

 

 それでも……!

 

 この人は俺たちを殺そうとする敵じゃない。

 ただ俺たちがそっちの方へと足を踏み入れる門を守る番人だ。

 この人を乗り越えない限りは門か中か外かは分からないけど入れない。

 

 それがどれだけ過酷かなんて……分かるなんて簡単に言えないけど……!!

 

 そっちがどれだけ過酷かなんて想像も出来ないし、分かるなんて俺には言えない。

 

 だけど、雪風ともう一度会う為にもにも……!!

 

 だけど、門をくぐらないと雪風には二度と会えない。

 あの優しい人間は俺たちを巻き込まない為に二度と俺たちと関わらない様にする。

 そんなのは嫌だ。

 だから、強くなってもう一度会う。

 

 ……ありがとう、鈴、セシリア

 

 それを気付かせてくれたのは鈴とセシリアだった。

 あの二人の気迫は雪風ともう一度会う為のものだった。

 それでようやく俺も気の迷いが取れた。

 

 行くぞ!!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。