奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第20話「刃の意味」

 天龍さんの割り込みの『訓練開始』の合図と共に、俺たちは直ぐに散開した。

 

 今度から二人がいない時にも気を付けないと……!

 

 いきなり、号令係まで変えてくるという不意打ちをしてきたのだから、今度は待っている間にもやってくる可能性だってあり得る。

 

 「IS」を展開したら訓練が始まっていると思っていた方がいいな……

 

 これからは事前に『準備をしておけ』と言われたら姿が見えなくても常に訓練を始めることを意識した方がいいのだろう。

 いいや、実際は「IS」を纏っていない状態で挑まれることになるだろう。

 

 ……とりあえず、今は目の前の二人にも集中しないと……!

 

 今は目の前の二人に集中しないといけない。

 一人は初日に完敗した相手。

 もう一人は一度、辛勝しその後に完敗した相手。

 そんな相手なのに今回は二人相手だ。

 しかも、龍驤さんの弱点だった近距離に弱いと言う点も今は天龍さんの存在でカバー出来てる。

 つまりは

 

 攻撃にさらに割いてくるってことだよな……!

 

 今まで防御に回していた「艦載機」を今度は攻撃に回してくるということだ。

 俺は龍驤さんの「逆落とし」と「艦載機」に警戒した。

 あれが決定打になるとは限らないが、それでもあれが原因でその後の展開が不利になる。

 

 何よりも……!

 

 前と違って一発でも喰らえば今回は反撃の目が完全に潰される。

 

 何故なら

 

「散開して的を絞らず、各自で攻めてくるか。

 まあ、これだけなら悪くねぇな」

 

「く……!」

 

 今回は天龍さんという龍驤さんを守る盾であり、剣がいるからだ。

 一昨日のことでわかる。

 あの人は中近戦のプロだ。

 少なくとも雪風よりも白兵戦に優れている。

 

「龍驤、悪いが少し離れる。

 それまで持たせておいてくれ」

 

「いいで?

 うちも昨日のことで十分反省材料は多いからな」

 

「わかった。

 行ってくるぜ」

 

 来る……!

 

 天龍さんは龍驤さんに少しばかり、傍を離れることを告げた。

 どうやら攻めに回ってくるらしい。

 そのまま天龍さんは

 

「くっ!?」

 

 鈴……!

 

 真っ直ぐ鈴の方へと向かって行った。

 どうやら、同じ様に中近戦に優れる相手でも経験で勝ることを考えて選んだらしい。

 

 しかも、そういうことか……!

 

 けれども、理由はそれだけじゃない。

 天龍さんはあえて、同じ様な相手を狙ったのはほかの四人とぶつかることで生じる戦場への影響と違いを折り込んでいるらしい。

 セシリア、ラウラに関しては龍驤さんがマークすることで近付けない状況を作り、パイルバンカーを除くと接近戦での決定打に欠けるシャルは後回しにし、加えて、俺は接近させさせなければ戦力外だと完全に把握されている。

 となると、突撃力と突破力のある鈴を封じることで龍驤さんを守るということを天龍さんは同時に行っている。

 

 マズイ……!

 

 俺はそれが意味することを理解して鈴の救出に向かおうとした。

 

「おっと!そうはいかんよ!」

 

「ぐっ……!」

 

 鈴の下へと向かおうとした矢先、「艦載機」が襲い掛かってきた。

 

「……やるやないか。

 ちゃんと、全体を見れてんな。

 でも、それに対しても次々と布石を打っていくのも戦いやで!」

 

「!?」

 

 龍驤さんは俺が動いた理由を把握しながらも、それをさせまいと確実に打ってきた。

 

 早くしないといけないのに……!

 

 俺が天龍さんの目的を叩こうとしたのを龍驤さんは防ぐ。

 俺は時間が無くなっていくことに焦りを覚えた。

 

 一人ひとりを潰していくつもりだ……!

 

 二人の狙い。

 それは俺たち五人の各個撃破だ。

 天龍さんは俺たち五人が散開したことを見て、先ずは龍驤さんに近付かれたらマズい相手とし鈴を足止めするつもりだ。

 しかし、それだけじゃない。

 他の面々を龍驤さんが足止めすることで連携が取れない状態にし、それを天龍さんが狩っていく。

 しかもそれに気付いた俺を足止めし続ける。

 

 連携が完成されている……!!

 

 両方とも、お互いが攻撃と防御双方をこなしている。

 天龍さんが龍驤さんを守る為に攻め、その天龍さんが万全な状態で戦えるように今度は龍驤さんが俺たちを攻めて守る。

 

 『攻撃こそ最大の防御』とかってのは本質じゃねぇんだな……

 

 そんな言葉があるが、俺はそれが物事のことを一方からしか見ていないことであることを理解した。

 攻撃も防御も表裏一体であり、防御するために攻撃をし、攻撃をする為に防御する。

 それを一つのことしか考えていては勝てないということを今のやり取りで理解させられた。

 

 ……待つのはダメだ……

 見付けろ……

 

 このままチャンスが来るのを待ち続けていたら、鈴は脱落し次々と仲間が倒されていく。

 つまり、このままチャンスをうかがってばかりで待つのは論外だ。

 

「……!」

 

 集中した結果、俺はあることに気付いた。

 

 ……やってみるか

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ『ダメだ』と弱気になりそうだったが、俺はそれに賭けようと決めた。

 

「……!!」

 

「ん?」

 

「一夏さん!?」

 

「何を!?」

 

 俺はそれを行うために龍驤さんへと向かって行った。

 

 攻撃と防御が同じものなら……

 きっと、上手くいく!!

 

 俺は攻めることを決めた。

 元々、天龍さんが俺たちを各個撃破しようとしているのは龍驤さんに近付けさせない為だ。

 だから、一人でも組み付けば天龍さんもそれを止めるはずだ。

 

 それにこのままだと俺は何も出来ないで終わる……!!

 

 加えて、俺には「雪片」しかない。

 もし、このまま何もしなければ結局何も出来ずにやられる。

 それこそ、何のために自分がいるのかすら分からない。

 

 千冬姉や那々姉さんみたいに……!!

 

 俺には銃を扱ってきた経験も知識も技術もない。

 だから、尊敬する実の姉と姉貴分の様になるしかない。

 千冬姉は俺と同じ様にこの一振りだけで最強になった。

 那々姉さんは剣にも通じる舞を見せた。

 俺が出来るのは二人の攻めと守り、その双方を一つの剣にしてみんなを守るだけだ。

 

「成る程ね……

 やっぱり、君。そう言う目は持ってるね。

 ある意味、大成したら……

 でも―――」

 

「……!」

 

 龍驤さんは俺の選択のある程度の正当性を認めてくれたしい。

 しかし

 

「―――それぐらいは読めてるよ!!」

 

「……っ!」

 

 やっぱりか……!!

 

 簡単には突破させてくれなかった。

 待ち伏せとして「艦載機」を展開してきた。

 それは昨日の一度目の訓練と同じ状況だった。

 後ろには先程まで俺に付いていた艦載機もいる。

 完全に挟み撃ちの状態に俺は陥った。

 もう引き返すことは出来ないだろう。

 

 だったら……!

 

 前にも後ろにも、そして、僕にも上にも逃げ場所はないだろう。

 だから、俺がすべきなのは

 

 突破口を無理矢理でもこじ開けることだ……!

 

「!?」

 

 このまま前に向かって道なき道でも何でも作ることだ。

 俺がしようとしていることに気付いた龍驤さんは直ぐにその場を離れる仕草を見せたが

 

「そこだ……!」

 

「なっ!?」

 

 俺はこの一瞬を逃したら何も出来なくなると考えて前に飛び込んだ。

 

「「神速」……!?」

 

 俺はこの間合いで「瞬時加速」を使った。

 いや、最初からこのつもりだった。

 普通にやっていれば上からの爆撃で俺はやられていた。

 それは前からの「逆落とし」でも同じだ。

 だから、それも間に合わないぐらいのギリギリまで詰める必要があった。

 

「ぐっ!?」

 

 俺は斬ることではなく、当てることを意識して「雪片」を振り払った。

 

「……っ!?」

 

 結果、「瞬時加速」による加速度による運動エネルギーも加わりその衝撃で龍驤さんを吹っ飛ばした。

 

「今だ!!」

 

「「「!!」」」

 

 それを見て、俺は他の三人に指示を出した。

 

「ぐ……まだまだ!!」

 

 しかし、龍驤さんも直ぐに立ち上がった。

 

 あれ喰らって立ち上がるって……

 やっぱり、強い……!

 

 俺は手に残る衝撃を感じながらそう感じた。

 どれだけ「IS」に絶対防御があったとしても、エネルギーから生じる衝撃は消し切れない。

 その痛みに耐えている姿に俺は驚いてしまった。

 

 ギリギリのタイミングで直撃は避けた……!

 

 完全に避け切れないと判断して龍驤さんは少し体に余裕を持たせてダメージを防ぎ、尚且つ微妙に身体をずらして直撃を避けていた。

 

 この人……接近戦が不得意って言っているのに……

 

 龍驤さんは、いや、雪風を始めとした艦娘は白兵戦は専門外だと思えた。

 元から剣を器用に扱っている様にも思える天龍さんや俺の知る限りじゃおじさんのところで剣を習っていた那々姉さんは兎も角としてこの人たちの白兵戦への慣れ方は早過ぎる。

 

 適応力が高いというよりも……

 むしろ、これがこの人たちにとっての普通か……

 

 思えば。雪風も明らかに砲撃を主軸なのに近接戦闘の相手に対して何度も避けている。

 つまりは彼女たちにとっては白兵戦による攻撃は苦手だが、「避ける」という防御を応用する形で避けているのだ。

 容易に回避できる彼女たちの実力がそうでないと生き残れないという熾烈さを嫌でも理解させられた。

 

 よく考えなくても……

 「零落白夜」を使わないと勝てないのもマズいな……

 

 加えて、俺は今の一撃で龍驤さんを倒し切れなかったことと最初に深海棲艦に襲われた際の出来事を思い出して危機感を感じた。

 あの最初の「深海棲艦」との遭遇時に俺は何度もアイツらに剣を叩きつけたがびくともしなかった。

 それは当然だ。

 戦艦はおろか、普通の船相手に刀、しかも、人間の腕力と刀で切れる筈がない。

 

 となると、マジで俺には「零落白夜」しか有効打がないな……

 

 他の四人には火器を補充できる余裕がある事から何とかやれるが、俺の場合はこの一振りだけだ。

 

 となると一撃で決める必要がある……!

 

 今は訓練だ。

 だから、「零落白夜」は使うべきじゃない。

 でも、今みたいに必中の距離になったらそれを必殺にする必要が出てくる。

 

 ……あの感触を……

 また味わうのか……

 

 俺はあの感触を思い出して寒気を感じた。

 自分も死にかけたとはいえ、俺は初めて肉を貫いて相手を殺した。

 昔から千冬姉に言われた命の重みだが、敵であっても味方であってもそれは同じだろう。

 

 でも……そうしないと自分だけじゃなく、周囲も殺すことになる……!

 

 俺は自分に言い訳をしたくなかった。

 だから、その覚悟、いや、割り切りをしようと決めた。

 

「……っ!」

 

「早いねぇ……

 ええことや!」

 

 龍驤さんは俺が直ぐに後ろに下がったことを褒めた。

 

 俺に出来ることは一太刀を浴びせることだけだから……!!

 

 「零落白夜」は「深海棲艦」も一撃で倒せる。

 だから、俺はその為に一度下がることにした。

 何度も何度も戦うために。


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