奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第21話「刃にかける意思」

 「瞬時加速」……

 あの距離で一気に間合いを詰めるか……

 逃げ場何て与えられねぇし、例の「零落白夜」を確実に叩き込めたら間違いなく一撃必殺だな

 

 龍驤にまさに一太刀を浴びせた織斑の姿を見て、俺は思わず、「IS」の応用の仕方に感心した。

 間違いなく、龍驤は今のでやられていた。

 そのことから、俺は今の織斑の戦闘における才覚に驚かされた。

 

 あの一振りだけであそこまでやる……

 成る程、雪風と多少は渡り合ったことはある

 

 更識や千冬、神通に教えられたが、あの織斑という男は雪風相手に刀一振りしかないのにそれなりに渡り合ったらしい。

 そう考えると、十分、奴には才能があるだろう。

 

 それに今ので何となく自分の戦い方を理解しやがったな?

 

 龍驤に一太刀浴びせた後に織斑は直ぐに後ろに下がった。

 それはつまり、刀では「深海棲艦」と戦えないことを理解したが、同時に自分の戦場における価値の重要さをある程度理解したということだ。

 恐らく、今、織斑が直ぐに後ろに下がったのは自分の為ではなく自分が出来ることをする為だ。

 自分の剣の力だけでは仲間を守ることが出来ない。

 仲間を守る為に自らを相手を倒す必殺の剣となり相手に叩き込む。

 今は居合で言う鞘にそれを納めたのだ。

 それだけが自分に出来ることだと彼奴は自覚したのだ。

 

 まあ、指揮官だってことには気づかない方がいいかもしれないがな

 

 しかし、これが自分が特別な存在だと気付くと人間は自嘲するか自惚れるかのどちらかになる。

 しかも、今回は男である自分を複数の女が守ろうとする。

 そんな男ではないが、色香に溺れて堕落する英雄は何人もいる。

 それを考えると案外、気付かない方がいいのかもしれない。

 

 ま、女を泣かせないのなら、今のうちに気付いた方がいいかもしれねぇが……

 そんな男だからこそ色男ともいうがな

 

 ただ話を聞く限りは本人は少し抜けているところがかなりの好青年らしいが、それでも少しは自覚した方がいいとは思う。

 

「余所見なんて余裕ね!!」

 

「っと!」

 

 俺が龍驤の方を見て全体の状態を確認していると凰が俺に掛かってきた。

 

「悪いな。と言っても、お前は単純そうだな」

 

「うっさい!」

 

「おっと!」

 

 俺の挑発に凰は乗ってきて攻勢を強めてきた。

 どうやらこいつはかなりの激情家だ。

 ただその言動を持ってもなお高い実力を持っている。

 

 神通の奴……戦争じゃないからこんな風に育てやがったな

 

 これが戦争だったらこいつは早死にしている。

 凰の戦い方から俺は何となくだが神通がこいつに施していた教育が分かった。

 恐らく、「IS」が競技みたいなものであったことから、こいつの欠点には目を瞑り長所だけは延ばしてきたのだろう。

 

 夕立みたいな奴だ

 

 こいつは夕立と同じ様な戦いをする。

 仲間を危険な目に遭わせないために一番槍を果たそうとする。

 そうすれば、仲間を守る盾になり敵を倒す槍となる。

 そんな奴だ。

 

「へ、お前みたいな奴、嫌いじゃねぇぜ」

 

「!?きゃっ!?」

 

 俺は刀で思いっ切り振り払った、

 こういう人間は俺は嫌いじゃない。

 ただ危うさがあるがそれでも嫌いじゃない。

 

 問題はこいつを死なせねぇ様にすることだな……

 

 俺は確信した。

 こいつは自分の感情と戦い方を抑えた中途半端な戦い方をした方が死ぬ可能性が高い。

 こいつにとってはこれが最大の武器だ。

 それを殺すのは明らかに逆効果だ。

 だからこそ、こいつを死なせない為の相棒の存在が必要になってくる。

 

 となると、例の件を進めるか……

 

 凰や織斑の周囲の今回の行動と成長を感じ取って、俺はある程度固めていたこれからの方針について進めることを決めた。

 

 何よりも、織斑の奴……

 他の連中よりも一番成長してるじゃねぇか

 

 俺は一日目の訓練でダメ出ししたことを織斑たちは直しており、その中で織斑が最も分かってきていることに嬉しさを感じた。

 

 こいつら、教え甲斐があるな……

 

 一癖も二癖もあるのにこいつらは成長出来ている。

 我が強いのにそれぞれの短所を超えてそれを長所に出来ている。

 本当に面白い連中だ。

 

 神通の奴が楽しそうに話すわけだ……

 

 神通はこいつらのことを認め、そして、褒めていた。

 確かに未熟なところがあるが、それ以上にこいつらは『伸びしろがある。』と。

 

 だから、お前はゆっくりと向き合え……

 

 俺は怪我と共に神通がまだ復帰できない理由にあいつがようやく向き合って欲しいと願った。

 まさか、あいつが姉どころか親代わりとして保護者になっているなんて思いもしなかった。

 どうやら本人は『失格』だと思っているらしいが、俺からすれば、むしろ、今まで多くのことを抱えてきたのによくやってきたと思える。

 今までが背負い過ぎていたのだ。

 

 だから、今は俺たちがその分を抱えてやるよ

 

 あいつが保護者として妹分に向き合える様に俺たちがあいつの分までこの世界の教え子を指導し守っていく。

 俺たちはそう決めた。

 

 お前や雪風だけが背負う必要なんてないんだよ

 

 雪風も神通もこの世界で出来た大切な繋がりを守ろうとしている。

 俺たちにはまだこの世界で守るものは出来ていないが、それでも、今はあいつらの大切なものを守ることぐらいはしていきたい。

 

「先生の斬撃よりも繊細さはなさそうなのに……重い……」

 

 俺の斬撃を避けた凰はそう評した。

 どうやら、この世界でもあいつは荒々しい戦いは健在ではあるが、この世界で習得した剣術はまさに優雅らしい。

 二水戦の荒々しさとこの世界で得た剣術の組み合わせ。

 少し見てみたいものだ。

 

「ま、確かに道場的な剣術は習っていないからな。

 それでもアイツよりは古株だからな」

 

「え!?」

 

 対して、俺は生まれた時から一緒に持っているこいつと二水戦の荒々しさも相まって太刀筋が粗い。

 

「で、てめぇは攻めなくていいのかよ?

 粘っていいのか?」

 

「……!

 気付いていたのね……!」

 

 俺は凰の今の狙いに言及した。

 今のこいつは性格の割にはガンガン攻めてこない。

 確かにかかってくるが、それでも決定打を狙おうとして来ない。

 

 成る程な……

 猪突猛進ながらも感じることと自分のすべきことはわかっている……

 神通の奴、こいつを育ててる時楽しかっただろうな

 

 目の前の相手の戦いの才能に俺は驚かされた。

 こいつは単純だが、それでも止まらないだけで曲がり方はわかっている。

 先は読まないが、今を見る力は十分にある。

 

 龍驤を織斑たちが倒すのを待って粘るか……悪くねぇぞ

 

 こいつは果敢に挑むことで俺をこの場に釘付けにしている。

 恐らく、俺よりも自分の力量が下と判断して。

 

 ちゃんと仲間を信じてるな……

 

 今、俺は少しだけだが嬉しく感じた。

 こいつがこの状態で粘れるのは仲間が龍驤を先に倒しその後に助けに来る。

 仲間を心の底から信じているからこそできる証拠だ。

 

 だけどな……!!

 

 しかし、勝敗関係なしに俺たちにだって譲れないものがある。

 

「……!?」

 

「甘え!!」

 

 俺は剣で鳳を切り払い、凰が慌てて後ろに下がったのを見計らって魚雷を発射した。

 

「ぐっ!?」

 

 それを見て、凰は例の空気中の圧力を操作することで魚雷を封じた。

 

 便利だな……

 

 俺はその機構を見てそう感じた。

 攻撃面では「深海棲艦」相手に少し効くか怪しいが、それでも爆弾や魚雷、弾丸の一部を止められるか、威力を抑えられるのは防御面においては紛れもなく優秀だ。

 

 加えて、この反応速度……

 鍛え甲斐があるな……!

 

 神通には悪いが、俺もこいつを育てたくなった。

 こいつの才能は成長させたくなる。

 

 でもな……!

 

「っ……!?」

 

「!!」

 

 今の魚雷の誤爆で生まれた煙の中、俺と凰は同じことを考えていたらしくお互いに剣を構えていた。

 

「仲間を信じているのはてめぇらだけじゃねぇぞ!!」

 

「がっ!?」

 

 既にあちらがかかってくるとよんでいたことから俺の方が先に身体を動かしていたこともあり俺の剣の方が先に凰を斬った。

 

「お前は織斑たちが龍驤を倒してこっちに来ると信じているが俺は龍驤は粘るか織斑たちを倒す。

 その二つを信じてる!!」

 

「!?」

 

 凰には悪いが、こいつと違って俺は二つの可能性を信じている。

 一つ目に俺が凰を倒してそのまま龍驤を助けに行く可能性がある。

 そして、二つ目に龍驤が俺なしで織斑を倒すということだ。

 

 あいつは強ぇ……!

 それぐらいは出来る!

 だが、念には念を……!

 

 龍驤が勝つ可能性も十分考えられるが、それだけでいいはずがない。

 だから、

 

「てめぇをここで倒すぜ!」

 

 今、こいつをここで倒す。

 そうすることで勝利をより確実なものとする。

 

「やってみなさいよ……!」

 

 俺の宣言に対して凰も負けじと立ち上がってきた。

 どうやら、今のでこいつも俺をここで足止めすることへの気力を高めたらしい。

 

 ま、今はこいつらを鍛える為だけを考えるか……!!

 

 その姿勢を見て、俺はこいつらが面白くなってきたが同時にある事実から申し訳なさも感じた。

 事実を話したらどうなるかと考えたが、今はそれはどうでもいい。

 今、大事なのはこいつらに戦場でどう考え行動し仲間を大事にして信じる力を教えることだ。

 

「行くぜぇ!!」

 

 だからこそ、こいつらのその強さに応え、それを乗り越える、いや、ぶつけることで更なる高みを目指すのだ。

 


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