奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第22話「勝負の分かれ目」

「たあっ!」

 

「はあぁ!」

 

「……っと、厄介だね……!!」

 

 織斑がうちに一太刀浴びせた後、その一瞬の隙を突いてボーデヴィッヒとデュノアがかかってきた。

 

「行きますわ!!」

 

「っと!」

 

 さらにはそこにあの「艦載機」とよく似た装備の、確か、「ビット」というものを使ってオルコットも攻めてくる。

 うちがそれを見て「艦載機」を向けても今は落ち着いているらしく、避けるのと「ビット」をこちらに向けるのと光線銃で撃ってくるのを無理なくこなしている。

 

 一つ歪みが生まれると次々とか……

 

 蟻の一穴が堤を崩す。

 一度作られた歪みはそれが原因となって大きなものへと変わってくる。

 昔の人間はよく言ったものだ。

 

 これじゃあ「MI」を繰り返すな……

 

 今のはうちの油断が多少あった。

 

『相手も使ってくる可能性があるわ』

 

 加賀がそのことに言及してくれたのにうちは「IS」という装備の特性を把握しきれていなかった。

 そのせいでうちは「瞬時加速」によって一気に距離を詰められ両断されかかった。

 

 これじゃあ、初代一航戦の名が泣くね……!

 

 あれ程、『油断はしてはならない』と言っていたのにもかかわらずこの体たらく。

 これでは加賀にも蒼龍にも翔鶴にも、何よりも赤城と鳳翔に申し訳が立たない。

 

 これはちょっとマズいね……

 

 今、うちはかなり厳しい状況に置かれている。

 オルコットの「ビット」による見えない檻、デュノアの臨機応変な戦い、そして、何よりもこの中で一番接近戦だけは持ち込まれてはならないボーデヴィッヒを懐に入れてしまっている。

 

 一発捕まったら終わり……

 これ程、厄介なものはないね……

 

 他の二人は火力がないことから持久戦に持って行かなければ何とか突破口を見付けられるが、ボーデヴィッヒは違う。

 あの慣性を封じる停止結界は下手をしなくても鬼級や姫級の動きすらも封じ込める代物だ。

 

 あれ相手に前情報なしで初見で対処した雪風はやっぱりただ者やないな……

 

 うちら経験を積んだ艦娘でも初見で確実にはまりそうなあの機構を完全に対処した雪風の才能に呆れた。

 あんな芸当が出来るのは雪風くらいだ。

 本人は努力だとか訓練の賜物だと語っているが、はっきり言えばあれはそれに加えて雪風の才能があって出来ることだ。

 まさに努力する天才だ。

 

 と言っても、相性の差があるのはこっちにあるのにこのままじゃ格好つかんな……

 

 しかし、雪風と異なりうちは全方位から攻撃が出来るのに負けようとしている。

 これはかなり情けない。

 

 こりゃあ、腹を括らんとな

 

 うちは少し、ある賭けをすることを決めた。

 

 

 よし……!これなら……!!

 

 俺は龍驤さん相手に上手く戦っている三人を見て、あと少しで龍驤さんを倒すか艦載機の勢いが弱まって鈴を助けにも向かえる。

 

 ……クソ……それでも……俺は……

 

 けれども、俺はこの状態が悔しかった。

 あの三人には「深海棲艦」と戦う際に通用する戦い方が在るが、俺は単なる一発屋だ。

 美味しい所取り同然だ。

 それが役割なのだと何となく理解している。

 だけど、戦える奴が戦っているのを見て俺だけがチャンスをうかがうことしか出来ないなんて情けなくて仕方がない。

 

 あと少しだ……

 あと少し……!

 

 だからこそ、俺は鈴に対する攻撃が緩むその瞬間を今かと待ちかねた。

 どれだけ避けてばかりの自分を恥だと理解してもそれでも仲間が作ってくれたチャンスだけは逃すまいとした。

 それが出来なければ本当に何も出来ない奴の証拠だ。

 

「……ん?」

 

 そんな風に龍驤さんの様子を観察している時だった。

 俺はふとある事に気付いた。

 

「艦載機の数が……減っている?」

 

 それは龍驤さんの周囲を守っている艦載機の数が少なく、いや、離れていることだった。

 

 どういうことなんだ……?

 この状況で守りを捨てるなんてことを……

 

 今、龍驤さんは極力守りを薄くするようなことは避けたいはずだ。

 特に「停止結界」持ちのラウラだけは一番近付けたくないはずだ。

 それなのにこの状況で守りを少なくするのがわからない。

 

 鈴の方にはいないか……

 

 念のために鈴の方を確かめたがそこに艦載機の影はなかった。

 どうやら攻撃に回している訳ではないらしい。

 

 おかしい……

 

 しかし、この異様な状況に警戒感が取れることはなかった。

 何が狙いなのか、本気で分からない。

 その時だった。

 

「!?」

 

 俺は今までの経験から上空を確認した。

 

「なっ!?」

 

 そして、俺の想像通りの光景が上空に広がっていた。

 

「おっと!?」

 

「よし、捕まえた!!

 デュノア!!」

 

「うん!」

 

「っ!?」

 

 しかし、シャルとラウラの二人はそのことに気付かず、龍驤さんを捕らえてトドメを刺そうとしていた。

 龍驤さんは慌てているふりをしていた。

 

「シャル!ラウラ!

 そこから離れろ!!それは罠だ!!」

 

「え?」

 

「何だと……?」

 

 俺は一連の行動が龍驤さんの罠であることを二人に告げて離れる様に指示した。

 

「……へえ~。よく気付いたね。

 でも……もう遅いよ?」

 

「「「!?」」」

 

 しかし、時すでに遅し。

 その直後。

 

「うわ!?」

 

「がっ!?」

 

「「!?」」

 

 龍驤さんとシャル、ラウラのいる場所から爆炎と衝撃が走り三人の姿を包んだ。

 

「シャル!!ラウラ!!」

 

「そんな……自分を囮に!?」

 

 龍驤さんの狙い。

 それは自分を二人おびき寄せる餌にして、自分を相手が捕まえた直後に自分を巻き込むことを前提の上で二人ごと爆撃に巻き込むという自爆戦術だった。

 俺とセシリアは余りのことに驚愕している時だった。

 

「きゃあ!?」

 

「!?」

 

「鈴さん!?」

 

 爆音と共に鈴の悲鳴が突然響いてきた。

 何があったのか分からず鈴の方へと視線を向けた矢先だった。

 

「え」

 

 俺の目の前に見覚えのあるそれは迫って来ていた。

 そして、それはそのまま俺に

 

「がっ!?」

 

 直撃し俺は吹き飛ばされた。

 しかし、それで終わる事はなかった。

 

「悪くねぇ、目だった」

 

「なっ!?」

 

 その声と共に俺はこの訓練の敗北を悟った。

 

「どらぁ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 そして、予想通りに天龍さんの攻撃を受けてしまった。

 今のトドメで俺は「シールドエネルギー」を失い、俺の敗北は確定した。

 

 セシリアは……

 

 天龍さんに倒されたことで鈴が負けたことを理解し俺はセシリアの方を見た。

 するとそこには

 

「くぅ……」

 

「セシリア……」

 

 ダウンしているセシリアがいた。

 どうやら、彼女も俺と鈴と同じ様に今ので敗けてしまったらしい。

 

「お~し、訓練終了。

 いたた……」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「あはは……何とか」

 

 俺たちが負けたことで訓練の終了が告げられた。

 龍驤さんの様子を見ると彼女の「IS」もかなり煤けている。

 どうやらあの自爆同然の攻撃は彼女にとってもかなりリスキーなものだったらしい。

 

「まあね……

 まあ、あれしかあの状況突破できんかったし」

 

「?」

 

 龍驤さんは少し申し訳なさそうに答えた。

 

「まあ、あの爆炎から艦攻を送り込むなんて荒業はお前ぐらいしか出来ねぇよな」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 天龍さんの告げた鈴を襲ったとされる攻撃の衝撃の正体に全員が驚愕した。

 

 そうか……!

 龍驤さんはシャルやラウラを巻き込んで倒すか行動不能にするんじゃなくて目くらましであの爆撃をしたのか!?

 

 龍驤さんの本当の狙いはラウラとシャルの撃破ではなく、鈴に足止めされて動きを封じられている天龍さんを呼び戻すために「艦攻」を送り込むための偽装だったのだ。

 

 完全にやられた……

 

 完全に俺たちは二人の連携にやられた。

 警戒すべきとかそういった次元の問題ではなかった。

 自爆を目くらましに使うなんて思いもしなかった。

 しかも最低でも二人をしばらく行動不能にし手傷を負わせられる。

 加えて

 

 ラウラの「AIC」を母艦に使っても艦載機を動かせる……

 

 もしラウラに捕まってもセシリアの「ブルー・ティアーズ」よりも自律性が上である龍驤さんの艦載機ならば作戦は揺るがない。

 

 ……完敗だ……

 

 間違いなく、俺たちはそう思った。

 

「じゃあ、訓練の結果を言うよ?

 この訓練、うちらの負けや!!」


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