奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「は?」
「今、何て……?」
「あなた達の負け……?」
「それって……」
「我々の勝ち……?」
「そうやで、君たちの勝ちや」
龍驤さんの告げたこの訓練の結果を理解出来ず俺たちは全員で訊き直した。
「そ、そんな訳ないでしょ!?」
「そうですわ!!」
「どう見たって「エネルギー」が尽きたのは僕たちですよ!?」
「我々の負けです!!」
しかし、そのことに俺たちは納得が出来なかった。
昨日の件で勝利や敗北の形には意味がなく、負けた後のことを考えなくてはならないことも知った。
けれども、今回の件は完全にこっちの負けだ。
なのにこの人たちは『自分たちが負けた』と主張しているのだ。
「あ~、それについてはごめんな」
「へ?」
龍驤さんは申し訳なさそうに言ってきた。
「実は最初の時点でうち脱落しててそのまま君らの勝ちやったやわ」
「「「「「………………え~!!!?」」」」」
衝撃的な事実に俺たちは大声を上げてしまった。
「それどういうこと!?」
「何時のことですの!?」
鈴とセシリアの二人が詳しく訊ねようとした。
「あ~、それはそこの織斑くんの一撃や」
「え?俺……?」
唐突に龍驤さんに名指しされて俺は困惑してしまった。
「確かに一夏の最初の一撃で僕らは流れを引き寄せられたけど……」
「その後の我々―――
―――デュノアと私の油断は……」
龍驤さんの指摘に対して、シャルとラウラが顔を暗くした。
どうやら、二人とも自分たちが龍驤さんの罠に引っかかったことに対してかなり自責の念を抱いている様だった。
「い~や、そこじゃないよ」
「?」
龍驤さんは落ち込む二人に、いや、俺たち全員にそう言って否定した。
「うちはあの織斑君の一撃で死んでた」
「え……?」
「死んでた……?」
龍驤さんの思わぬ発言に全員が固まった。
「……織斑君。
もし、あの時君が「零落白夜」っちゅうのを使ってたらうちはどうなってた?」
「え?
それは―――あ!?」
「そうやで?
今頃、うちの上半身と下半身はお別れをしておったで?」
「「「「!?」」」」
龍驤さんは軽い調子でもし俺が「零落白夜」を叩き込んでいた場合の自分の話をした。
「そうなったら「艦載機」の子らも帰る場所なくして殆ど生きて帰って来れんし、天龍も危うかった」
「全くだぜ。
あれだけ格好つけておいてあれはねぇだろ?」
「あっははは……ごめん」
龍驤さんは完全に自分が負けていることを認めた。
「なら、どうして訓練を……?」
「そうよ。
昨日はあっさりと終わったのに……」
しかし、それでも疑問が残る。
どうして今回は負けがこんなに早く決まったのにすぐに訓練を終わらせなかったのかということだ。
「ああ、それは……
お前らの総合的な能力と成長を見ておきたかったからだ」
「俺たちの……」
「総合的な……」
「能力と成長……?」
それに対して天龍さんはそう答えた。
「そうだ。
本来なら俺たちの負けで終わらせたかったが、昨日お前らが龍驤相手に見せた成長ぶりと今回の織斑の一撃を見てもう少しだけ様子を見たかったんだよ」
「俺たちが成長……?」
天龍さんはそう続けた。
確かに一日目の天龍さんとの訓練に比べたら龍驤さんとの訓練はマシな方だろう。
それでもそこまで注目に値するのだろうか。
「そうだ。
一人ずつ、話していく。
一人目に凰」
「え!?アタシから!?」
「そうだ」
天龍さんは俺たちの成長への疑問を無視していきなり鈴を指名した。
「お前は中々いい攻撃ぶりだった。
その攻めっぷりを仲間を守る為の盾にしろ」
「え!?」
確かに鈴が天龍さんを引き付けてくれたから……俺らは戦えたよな……
天龍さんの言う通り、鈴の攻撃は俺たちを守っていた。
鈴がいたからこそ俺たちは先に龍驤さんに専念することが出来ていた。
「だが、お前を誰かが守る必要もある」
「え……」
同時に天龍さんは鈴を守る誰かが必要だと言及した。
「次にオルコット」
「はい……!」
次に名前を呼ばれたのはセシリアだった。
「今回は余り目立ったことはなかったがお前の射撃は前に出る奴の生存率を上げることになる。
それと……ビットだったか?
あれは普段はお前自身と仲間の身を守る為に使え。
そっちの方が攻撃に使うよりもこれからの戦いで重要になってくる」
「わかりましたわ」
セシリアは今回の訓練で目立つことはなかったが、それでもセシリアの高い狙撃能力による堅実さはありがたい。
それにレーザー兵器であることから破壊力はなくても「深海棲艦」相手に打撃が通る可能性もある。
そう考えると相手を牽制すると言う点ではセシリアの存在はかなり大きいだろう。
「次にデュノアとボーデヴィッヒだが……
今回の件でそこまで自分を責めるな」
「「え……」」
セシリアの総評を終えると今度はシャルとラウラの番になった。
天龍さんは龍驤さんの自爆にはまった二人に対して、二人が落ち込んでいるのを見て自分を責めない様に言ってきた。
「言っておくがこれは慰めじゃないぜ?
奇策や奇襲ってのは相手が予測できないからそう言うんだ。
「奇をてらう」ってのはそういうことだ。
仕方のないことだ」
「ですが……!!」
「それじゃあ……!!」
天龍さんは今回は『予測出来なかったのだから仕方ない』と言うがそれでも二人は納得しなかった。
「だったら、次からは予測できるようになったな?」
「「……!!」」
「いいか?よく勘違いされがちだが世の中の名将や愚将の違いはな、するべきことをするかしないかだ。
出来ることをしないで負ける奴は愚将だが、出来ないことを出来ない奴は違う。
今回は初めての戦術なんだから見抜ける奴は稀だ。
だから、次からは気を付けろ」
天龍さんは二人に「奇襲」や「奇策」は相手が予測できないからこそ使ってくると主張した。
そして、それに引っかかることは決して恥ではないと伝えた。
むしろ、基本を確りやらない人間の方が恥だと語った。
「次……ですか……」
シャルは重い口調で『次』という言葉に反応した。
「そうだ。
何よりもお前らはツイてる」
「?」
「ツイてる?」
続けて天龍さんはそう言った。
「そうだ。
訓練で次から気を付けるべきことを知れたんだ。
これ以上ツイてることはないぜ?」
「「「「「!!」」」」」
天龍さんの言葉に全員があることに気付いた。
そうか……戦場じゃあ……『次』は……
天龍さんが言いたいことは戦場では『次からは』なんて言葉がないということだ。
そうか……
「努力」とか……そう言う意味じゃないんだ……
訓練が大事なのは分かっている。
しかし、それは「努力」とかそういう熱血青春ドラマとかに出てくる美辞麗句からくるものじゃない。
訓練は前以って自分に何が欠けているのかを知る機会だということを改めて知った。
「どうやら、今のでわかったな。
デュノア、お前のその場、その場で対応できる判断力は良いところだ。
確りと伸ばせよ」
「はい」
「ボーデヴィッヒ。
お前は主力、護衛、支援を全部こなせる。
特にあの機構は仲間を守ったり助けることに優れている。
それが決定打になる時もあるから励めよ」
「はっ!」
天龍さんのフォロー、いや、事実の言及により自信を失くしていた二人も調子を戻し素直に評価を受けた。
それを見て、俺は安心した。
「最後に織斑」
「はい……!」
最後に名指しされ俺は身構えた。
「今回の訓練で最も成長していることが読み取れたのはお前だ」
「……俺ですか?」
意外な評価に俺は驚いた。
「そうやな」
「そうね」
「そうですわ」
「そうだね」
「そうだな」
「え!?満場一致!?」
天龍さんの発言に続いて出てきた賛同一致の発言に俺は困惑した。
「当たり前やろ?
今回、君が決定打を叩き込んだんやで?
文句の付け所がないやろ?」
「それはそうですけど……」
確かに天龍さんと龍驤さんの主張通り今回の訓練で勝敗を分けたのは俺の一撃かもしれない。
だけど、あれは本当に運が良かっただけだと思う。
だから、納得が出来ないのだ。
「それと評価すべきなのはその後だな」
「え……その後……?」
「そうやで?」
しかし、そんな俺の感情を汲み取ったのかの様に天龍さんはもう一つ評価すべき点として、あの一撃の後を上げて龍驤さんもそれに続いた。
「織斑。
あの一撃の後、お前は無暗に突入しなかった。
それはあの状況を広い視野で見ようと無意識のうちにやっていたことだ。
中々、出来ないことだぞ」
「え……
だけど、あれはあくまでも俺には「零落白夜」しかないと思って……」
あの時、俺がああしたのは俺にはああするしか方法がなかったからだ。
だから、そうすることしか出来ないからだ。
「ちゃうちゃう。
それでいいんや」
「……?」
「そうだな。
むしろ、頑張った」
「?」
「どういうことですの?」
セシリアのは、いや、他の皆も天龍さんのその言葉に反応した。
一体、俺は何を頑張ったと言うのだろうか。
「よく耐えたってことだ」
「耐えた……?」
俺たちの疑問に天龍さんはそう答えた。
「そうだ。
織斑、いや、お前たちは仲間想いなのは分かっている。
それだけに仲間が戦っているのに自分一人が何もしないでいることは苦痛なはずだ」
「「「「「!」」」」」
天龍さんは俺が一撃目を当てた後の心情を言い当てた。
「確かに仲間が戦っているのに何もしないで突っ立てる奴は俺は怒る。
だが、仲間を信じて、仲間を助けたい、仲間と共に戦いたいという気持ちと焦りを抱きながら自分が動くべき時を待って耐える奴は俺は立派だと思っている。
織斑、よく頑張ったな」
「……っ!はい……!」
俺は天龍さんの言葉で幾らかの無力感が晴れた。
「いいか、お前らの機体ははっきり言えば「深海棲艦」との戦いには向いていない。
だが、今から違う機体にするなんて無理だろう。
だから、少しずつ自分の役割を知っていけ。
いいな?」
「「「「「はい!!」」」」」
天龍さんの最期の言葉に全員が大きな声で答えた。
少なくても、一日目とでは全然違う終わり方だった。
「よし!じゃあ、今から校庭十周だ」
「「「「「……え?」」」」」
と綺麗に締まりそうになった矢先に天龍さんはそう告げた。
「当たり前だろ?
今、「IS」はボロボロで、しかもこれから戦う戦いは五時間とかざらだぞ?
これぐらいはほんの小手調べだ」
「あ~、あとうちら負けたから倍の二十周走るからそれで堪忍な」
「「「「「え~!!!?」」」」」
その突然の告白に俺たちは一斉に声を上げるしかなかった。