奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「………………」
「ちょっと、何そんな暗い顔してんのよ」
「あ、叢雲ちゃん」
今日の訓練が終わり、いよいよこの後に明日の作戦の説明と出撃する面々を発表することへの心の準備をしていると叢雲ちゃんに声を掛けられた。
「いえ、何でも―――」
私は昨日の件を周囲に広めて金剛さんのことをさらに傷付けるのを避けたくて黙ろうとした。
「はい。『何でもない』ない訳ないでしょ?」
「―――うぐっ!?」
しかし、そんなことはすぐにばれてしまった。
「あんたねぇ。
本当にこういうことで嘘つくのは下手なんだからやめときなよ?
逆に心配することになるわ」
「う……」
「で、それって金剛さんのこと?」
「な!?何でそれを!?」
叢雲ちゃんは何の迷いもなく私が今抱えている悩みを言い当てた。
「そりゃあ、あんたのことを可愛がっている金剛さんが今回は珍しくあんたと絡まないし、あんたも微妙に避けてるんだからそれぐらいは分かる奴には分かるわよ」
「え」
どうやら私と金剛さんとの間に生じた気まずさは一部の艦娘には筒抜けだったらしい。
「で?何があったの?」
「え!?いや、それは……」
叢雲ちゃんの追求に私は狼狽えてしまった。
今回のことは大ぴっらに話すべき内容じゃない。
もし話して噂が広まれば金剛さんの名誉と心がさらに傷付くことになる。
それは何としても避けたい。
「……もしかすると、佐世保の提督と榛名さんに何か?」
「いえ!?二人は無事で―――!!
―――あ!?」
「……そういうことね」
またしても私は同じ失敗をしてしまった。
「あぁ!!私の馬鹿ぁ!?」
「ちょっと!?
何しようとしてんのアンタ!?
やめなさい!!」
「放してください叢雲ちゃん!!
一度ならず二度も同じ失敗をして自分を許せないんです!!」
「だ~!!この真面目お人好し!!?」
自分の迂闊さと学習のなさに憤り、壁に頭を打ち付けようとしたが、叢雲ちゃんに羽交い締めにされて止められてしまった。
「て、何しているんですか二人とも!?」
「ぽい!?」
「あ!朝潮!夕立!
良いところに来たわね!!
早くこの馬鹿を止めるのを手伝って!!」
「はい!」
「わかったっぽい!」
私たちが廊下で騒動を起こしていると通りかかった朝潮ちゃんと夕立ちゃんの二人が叢雲ちゃんに言われるままに私を抑えた。
「はあはあ……!」
「まったく……!
何してんのよ、アンタは!?」
「雪風?どうしたんですか?
とりあえず直ぐに自分を責める様なことはしてはいけません」
「二人の言う通りだよ」
「うぅ……すみません……」
少し落ち着いてから三人に手間をかけさせたことに私は申し訳なさを感じてしまった。
「叢雲。
どうして雪風はこんな行為に及んだのですか?」
「あぁ、それね。
金剛さんといざこざ―――
―――、って言っても、両方とも変に相手のことを考え過ぎね」
「あ~……
そういうことですか」
「ぽい?」
「ちょっと!叢雲ちゃん!
何で言うんですか!?」
朝潮ちゃんは私が落ち着いたのを見届けると叢雲ちゃんに事の顛末を訊ね、叢雲ちゃんの説明に対して何かを納得している様子だった。
私はこの話題と噂の広がりを止めるために抗議しようとした。
「だったら、そうやって直ぐに誰もが止める様な馬鹿なことはしないことね」
「うぐっ!?」
しかし、叢雲ちゃんに壁に頭を打ち付けようとしていたことを指摘されて黙らされてしまった。
「成る程。つまりは雪風は金剛さんの名誉を守ろうとしていたけれども、それを叢雲の話術や洞察力にハマって隠せなくなってこの様なことになったと?」
「そうよ」
「うぐ~……」
加えて、真面目で理解力があるうえに、ある意味、この研究機関にいる面々の中で金剛さんと並んで付き合いの長い朝潮ちゃんにも完全にばれてしまっている。
「ほ~ら?
どうするの雪風?
隠し事したり、一人で抱え込んでいるとあんたのことを心配するお人好しの面々が次々と考察し合って逆に金剛さんのことを苦しめることになるわよ?」
「なっ!?それ脅迫ですか!?」
「叢雲ちゃん……
少し、怖いっぽい……」
「満潮と霞を思い出します……」
叢雲ちゃんのほぼ脅迫にも等しい発言に私だけでなく、朝潮ちゃんと夕立ちゃんまで戦慄した。
確かに嘘を吐くのが下手な私では周囲に憶測を生み出し、余計に混乱を生み噂を広めてしまうだろう。
「で、実際どうなの?」
「うぅ……」
彼女はトドメに圧を掛けてきた。
私から退路を奪い、そして、力技で押す。
恐ろしい。
「叢雲ちゃんの想像通りです……
その……金剛さんに訊かれて司令と榛名さんのことを教えて……
その……」
これ以上、噂がバレるのを恐れ、観念した私は渋々、昨日のことを話した。
「やっぱりね……」
「そういうことでしたか……」
「ぽい……」
三人は私の説明に納得と同情を示した。
どうやら責める様なことはしないらしい。
「ま、それは仕方ないんじゃないの?」
「いえ、仕方ないなんてことは……!」
「はい。そこが馬鹿よ、アンタ」
「え……」
私が『仕方のないこと』という言葉に反論すると叢雲ちゃんは私を馬鹿だと言ってきた。
「いい?
誰だって失恋なんてしたら傷付くのは当たり前なの。
アンタじゃなくても誰が言っても傷付くわ」
「う……それは……」
彼女の言っていることはご尤もだ。
失恋の辛さは他ならない私自身が知っている。
どう伝えられても傷付くのは当たり前だ。
けれども何か傷付けないで済んだ方法はないのかと考えてしまう。
「……それとも、金剛さんの好きな相手と妹……
佐世保の提督はそんなつまらない男なの?」
「!?」
そんな私に叢雲ちゃんはそう問いかけた。
「金剛さんにとって佐世保も……
榛名さんも大切な人よ。
そんな人たちのことを簡単に割り切れると思うの?
金剛さんのことをそんな薄情な人だと思っているの?
そっちの方がおこがましいわよ」
「……!そんな訳が……!」
彼女の物言いに私は考えるよりも否定した。
金剛さんにとって司令と榛名さんは決してそんな人間じゃない。
そのことは司令を好きになった一人の女として、そして、同じ人を好きになった一人の女として譲れない。
そして、恋は叶わなかったが、私と同じ様に彼を愛し、妹を大切に想っている金剛さんも決して誰かに軽くみられるような人ではない。
「なら、仕方ないでしょ?
そんな男を恋して破れた……
誰だって悲しむし、苦しむし、泣くわよ」
「あ……」
叢雲ちゃんの一連の言動で私は金剛さんにどう言っても悲しませてしまうことを理解させられた。
「……そうですね。
雪風、あなたが悪い訳ではありません。
何よりも本当のことを言えたあなたに対して金剛さんは感謝していると思います」
「それは……ですが……」
確かに金剛さんに対して変に誤魔化して、嘘を吐けばそれこそ彼女を侮辱することになる。
いや、彼女だけではなく、司令と榛名さんたちにも言えることだ。
それでも私は割り切れなかった。
「雪風ちゃん」
「夕立ちゃん……?」
そんな叢雲ちゃんと夕立ちゃんの擁護を受け容れられずにいると夕立ちゃんが話しかけてきた。
「一人で抱え込んじゃいけないっぽい!」
「え」
唐突に彼女は私にそう言ってきた。
「雪風ちゃんしか出来なかったかもしれないっぽい。
でも、だからといって全部雪風ちゃんが悪い訳じゃないっぽい!
皆、金剛さんも話をしてくれた雪風ちゃんを責めたりなんてしていないよ!
うんうん!そんなことはしたくはないよ!」
「夕立ちゃん……」
夕立ちゃんは昨夜のことは私にしか出来ないことであったと言い、そして、そのことで夕立ちゃんも金剛さんも含めた全員が責めないと言ってきた。
「その通りです。
いえ、それよりも……謝らせてください。雪風」
「え?」
夕立ちゃんに続いて今度は朝潮ちゃんが肯定し、尚且つ私に謝ってきた。
「……あなたに私たちは色々なことを背負わせてしまいました。
その結果、今回の様な悲しみや苦しみを与えてしまいました。
あなたが悪いと思うのならば、それはつまりそれを背負わせてしまいました私たち全員が悪いということになります。
ごめんなさい」
「!?
や、やめてください!
頭を上げてください!朝潮ちゃん!」
朝潮ちゃんは今回の様に私にしか出来ないことで私が罪悪感を抱くと言うのならば、それはそうさせてしまった自分たちに責任があると言ってきた。
そのことに私はただ頭を上げてもらう様に言うしか出来なかった。
「そういうことよ、雪風」
「?」
「あんたは自分で全部背負っていれば全員を傷付けず、守れると思っている様だけどそれは逆よ。
あんたを苦しめてしまった。
たったそれだけでお人好し全員が傷付き苦しむことになるのよ」
「!」
叢雲ちゃんの一言が私に大きく突き刺さった。
「それとも、アンタ。
私らのことを馬鹿にしてんの?
自分がこうすれば皆、傷付かないで。
それで私ら全員が平然としていられる薄情者だと思ってるの?」
「そんな訳……!!」
「なら、そういうこと。
アンタと違ってこっちは先に沈んだけど多分、あたしがアンタでも同じことをしていた。
要するに生きてきた時間と環境が違う、たったそれだけで全部アンタに押し付けられるほどお気楽な性分じゃないのよアタシらは」
「う……」
叢雲ちゃんの発言で私は自分の傲慢さに気付いた。
私は何時しか自分で全て背負っていた気になっていた。
「叢雲の言葉は多少乱暴ですが、私も大体同じ意見です」
「夕立もだよ!
そんな風にして雪風ちゃんに生きて欲しくないよ!!」
「叢雲ちゃん……朝潮ちゃん……夕立ちゃん……」
三人の私の無意識の在り方への否定に私はそれ以上何も言えなかった。
いや、それ以上に何処か救われた気がした。
何時の間にか、自分だけが背負うしかないと思い込んでいたと。
それを支えてくれる友達や仲間がいてくれる。
そのことを思い出すことが出来たのだ。
「……でも、金剛さんにどう顔を合わせればいいでしょうか……?」
しかし、それでもこれから金剛さんにどう向き合えばいいのか本気で分からなかった。
「大丈夫よ。
何せ、お人好しは沢山いるわ」
「?」
そんな私の懸念に叢雲ちゃんはそう答えた。