奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第27話「大きなもの」

 どう顔を合わせましょう……

 気負い過ぎるなと言われても……

 金剛さんにどう声をかければ……?

 

 今から明日の作戦決行の為の人選を発表することになっているが、その際にどう金剛さんに声を掛ければいいのか私は困ってしまっている。

 

「ちょっと、アンタ。

 まだ気負ってんの?」

 

「う……」

 

「まあまあ、叢雲。

 そんなに早く切り換えは出来ませんよ」

 

「それはそうだけど……」

 

 いまいち踏ん切りの付かない私に対して叢雲ちゃんは発破をかけるが、朝潮ちゃんが間に入ってくれた。

 

「そうだよ、雪風ちゃん。

 ここはいつも通りの雪風ちゃんぽくするのがいいっぽい!!」

 

「そ、そうですね……はい……」

 

「夕立!?それこそ禁句です!!」

 

 

「ぽ、ぽい?」

 

 夕立ちゃんは私の事を励まそうとしてくれたが、彼女の言う『いつも通り』と言うのは私にとっては二十年以上前のことであり、どう反応すればいいのか困ってしまった。

 

「まあ、こういうやり取りが出来るからいいんじゃないの?」

 

「そうですか?」

 

 叢雲ちゃんはそんな私たちのやり取りを見て大丈夫だと言ってきた。

 私たちが食堂に向かっている時だった。

 

「「あ」」

 

 心の準備が出来ていないのに金剛さんと鉢合わせしてしまった。

 

「こ、金剛さん……」

 

 

「ゆ、ユッキー……」

 

 私だけでなく金剛さんも戸惑っていた。

 あの金剛さんがだ。

 

「金剛」

 

「うぅ……」

 

「あ」

 

「加賀さん?」

 

 私たちが気まずくなっていると金剛さんの背後から加賀さんが姿を現した。

 彼女は何となくだけど金剛さんの背中を押している様子だった。

 

「金剛、頑張って」

 

「扶桑さん?」

 

 すると今度は扶桑さんが現れ彼女もまた金剛さんの背中を押した。

 

「……Thanks。二人とも。

 ……ユッキー」

 

「!

 はい!」

 

 加賀さんと扶桑さんに何か勇気づけられたのか、金剛さんは私に真摯な目を向けてきた。

 

「ごめんなサイ!

 ユッキー!」

 

「え……」

 

 金剛さんは私に対して頭を下げて謝罪してきた。

 

「金剛さん……?」

 

「あなたも辛いはずデスノニ……

 また、あなたに背負わせてしまいマシタ。

 ごめんなサイ!!」

 

「こ、金剛さん……」

 

 彼女は昨日の件で自らが傷付いているのに私もまた傷付いているからと言って謝ってきた。

 

「ほら、雪風。

 アンタも」

 

「あ……」

 

「戦艦の人にこのまま頭を下げさせたままのつもり?

 あ~あ、どれだけ偉くなったんだか」

 

「え!?いや、それは……その……」

 

「雪風。ここは叢雲の言う通りに」

 

「ぽい!」

 

「わ、分かりました……!」

 

 叢雲ちゃんの脅しとも言える発言で背中を押されて朝潮ちゃんと夕立ちゃんに手を引かれるままにようやく私も前に出れた。

 

「金剛さん」

 

「ユッキー……」

 

「ごめんなさい!!」

 

「What’s!?」

 

 私は彼女に謝ることが出来た。

 いや、謝ることが出来た。

 

「Why!?アナタが謝るんデスカ!?」

 

 私の謝罪に彼女は本気で疑問をぶつけてきた。

 

「それは……

 もし、私がもう少し誤魔化したり、傷付けない言い方をしたり、他に何か方法があったらと思うと……」

 

「No!

 それは違いマース!!

 アナタは本当のことを言ってくれただけデス!

 アナタは私を傷付けようとして言ったのではアリマセン!

 それだけで十分なのに一緒に悲しんでくれマシタ!!

 だから……!!」

 

「で、ですけど……!!私は……」

 

 金剛さんは私の主張に猛反論した。

 嘘を吐けば彼女を侮辱するのは分かっているが、それでも彼女を傷付けてしまったことが辛かった。

 そんな私に金剛さんは本当のことをただ伝え、そして、そのことで悲しんだ。

 たったそれだけで許すと言ってきた。

 けれども、私はそれで納得が出来なかった。

 

「はい。そこまで」

 

「叢雲ちゃん?」

 

「そうね、金剛も」

 

「か、加賀……」

 

 私たちの言い分と申し訳なさが平行線を辿ろうとしていると叢雲ちゃんと加賀さんがそれを止めに入ってきた。

 

「アンタねぇ……

 金剛さんが『いい』って言ってんだから、それを直ぐに受け止めなさいよ?」

 

「金剛もよ。

 雪風はあなたのことを思ってくれているのだからこれ以上はやめておきなさい。

 普段通りあなたでいることが彼女にとっていいことよ」

 

「で、ですけど!」

 

「で、デスガ!」

 

「「同じ反応をしない」」

 

「「はい……」」

 

 二人は相手が許しているのだからそれで十分だと言うが、それでも私たちは納得が出来ずに反論しようとしたが、同じ反応をしたことで二人に圧をかけられて黙らされた。

 

「雪風」

 

「扶桑さん?」

 

 私と金剛さんが叢雲ちゃんと加賀さんに圧されていると扶桑さんが声を掛けてきた。

 

「私もごめんなさい」

 

「え……?」

 

 今度は彼女が謝ってきてもう私は何が何やら分からなくなってきた。

 

「あなたにとっても……

 亡くなった人たちのことを訊かれるのは嫌なことなのに私はそのことを分かっていたのに山城のことを訊いてしまったわ……

 辛かったでしょうに……ごめんなさい」

 

「そんな……!

 それは誰でも―――!!」

 

 扶桑さんは私に無事だったとはいえ山城さんの安否を尋ねたことを謝罪してきた。

 そのことに対して私は同じ妹を持つ姉として、もし私が彼女の立場だったらと考えると仕方のないことだと理解して彼女は悪くないと言おうとしたが

 

「でも、決めたことなの」

 

「―――え」

 

 彼女は何かの決意を固めていた。

 

「これからは私たちも話していくわ」

 

「……?

 それはどういうことですか?」

 

 彼女の真意が掴めなかった。

 一体、彼女たちは何を決意したと言うのだろうか。

 

「皆からあの世界での出来事を訊かれたら知っている限りのことは私たちも話していくということよ」

 

 

「え!?」

 

 そんな扶桑さんの言葉を足す様に加賀さんが言ってきた。

 

「あなたは確かに最後まで戦い抜いてくれたわ。

 でも、だからと言って全部あなたが話していく必要なんてないわ。

 私は序盤で沈んでしまったから何とも言えないけれどもそれでも出来る限りのことをさせて頂戴」

 

「加賀さん……扶桑さん……」

 

 加賀さんと扶桑さんの二人、いあ、少なくとも戦艦や空母、恐らくは巡洋艦も含めた彼女たちの間でそう決まったらしい。

 彼女たちはそうやって私を支えてくれると言ってくれているのだ。

 

「ほら、何やってんのアンタは?」

 

「叢雲ちゃん……」

 

 私が加賀さんと扶桑さんを含めた多くの人たちの支えを感じ取っていると、叢雲ちゃんが再び背中を押してきた。

 

「戦艦二人、空母一人に頭を下げさせておいてこのままウジウジしているのかしら?」

 

「う、ウジウジ!?」

 

「そうですね。

 雪風は何時の間にかそこまで立派な身分になったのですね。

 二水戦同期として、鼻が高いです」

 

「あ、朝潮ちゃん!?」

 

「雪風ちゃん、弱気になったか偉くなったぽい?」

 

「夕立ちゃんまで!?」

 

 叢雲ちゃんを皮切りに朝潮ちゃん、さらには夕立ちゃんまで加わり、皮肉と言う励ましを頂いてしまった。

 

「………………」

 

 三人の激励、多くの人の支え、そして、一人の誠意。

 それらを受けて私はしばらく黙ってしまった。

 

「……ありがとう、皆。

 ありがとうございます、お二人とも。

 そして、金剛さん……」

 

「ユッキー……?」

 

 ようやく、私も本当の意味で彼女に向き合える。

 そう理解して私は

 

「ごめんなさい!!」

 

「!?」

 

 ただそう言いたかったことを伝えた。

 

「……それと、もう大丈夫です」

 

「!!」

 

 そして、もう大丈夫だとはっきりと伝えた。

 

「金剛、まだ雪風に心配させるつもり?」

 

「それでもいいの?」

 

「加賀……扶桑……」

 

 私の最後の言葉を聞いて驚いていた金剛さんに加賀さんと扶桑さんが声を掛けてきた。

 『それでいいのか?』と。

 

「……Thanks,二人とも」

 

「!」

 

 それを受けて金剛さんは二人に感謝した。

 そして、

 

「ユッキー。

 立派になりましたネ」

 

「金剛さん……」

 

 私に成長したと言ってきた。

 

「私ももう大丈夫デース!」

 

「!!」

 

 同時にいつもの明るさを取り戻した。

 

「そう。確かにpainful(辛くて),sad(悲しかった)……

 デスガ!それ以上に嬉しいのですカラ、もう大丈夫デース!!」

 

「はい!」

 

 彼女は自らの心の中にある苦しみ、悲しみ、切なさ。

 それら全てを認めながらも、二人の幸せに喜びを感じることを見せてそれを乗り越えた。

 

 敵わないですね……

 

 私はそう思った。

 ある意味、私も同じ男性を好きになったことから恋敵と言っても過言ではないが、どうやってもこの人には勝てないと感じた。

 それ程までにこの人は大きいのだ。

 

「それでは皆さん!

 Follow me!」

 

「ねえ、雪風……

 何か金剛さんいつも以上に明るくない?」

 

「……恐らく、今まで抑えていた明るさが一気に爆発しているんでしょう。

 この人は嘘を吐けませんから」

 

「「はあ~……」」

 

「何ですか、そのため息と呆れ顔は!?

 加賀さんまで!?」

 

 叢雲ちゃんは復活した金剛さんの姿に呆気に取られていたがあれは無理しているのではなく今まで溜まりに溜まった金剛さんの明るさが一気に爆発したものだと私が説明すると叢雲ちゃんだけではなく加賀さんまで呆れてきた。

 しかも、私と彼女を見比べながら。

 

「言わぬが……ね」

 

「そうね……」

 

「だから、どういう意味ですか!?」


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