奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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雪風……
改二……
どんな姿に……!!


第30話「世界の見え方」

「さぁて、そろそろ出る頃かな?」

 

「そうだな」

 

 彼女たちは授業が始まる前に仲間たちのことを気遣っていた。

 あの臨海学校から一週間が経ち、深海棲艦をあの海域から一掃する作戦が始まろうとしている。

 

 恐らく……

 終わりが見えない、いや、終わりのない戦いが始まるんだろうな……

 

 私は楽観している訳ではないが、雪風達ならばあの海域の敵は一掃してくれる気がした。

 しかし、それでもこの戦いはほんの序章に過ぎないことは想像できた。

 そもそも雪風たちも作戦で何とか航路や陸地は取り戻すことは出来るらしいが、完全に倒し切れず、未だに戦っているらしい。

 

 日常が非日常にか……

 変に「IS至上主義」が悪化せねばいいがな……

 

 当たり前であった平和が、いや、束の言葉を借りれば『平等はないが、少なくとも建前で平等で平和な世界』が崩れていくことになるだろう。

 その際に求められるのは力だ。

 そして、この世界で一番の力は今の所、「IS」だ。

 だが、この世界の現状を考えると不安だった。

 ただでさえ「IS」に強い信仰どころか、狂信に近いものを抱いている人間が実際に分かりやすい人類の敵に挑むというのは下手な英雄願望や救世主願望や特権意識を助長しかねない。

 慢心によるさらなる被害の拡大が考えられる。

 

 それに……力に溺れた者はそれに依存しがちだ

 

 加えて「IS」を至上とするのは裏を返せば「IS」に依存しているということだ。

 もし万が一、「IS」が負けることになれば、絶対的なものが壊れていき心が折れることになる。

 

 色々と彼女たちに失望を抱きかねんのも不安だ……

 

 何よりもそんなこの世界の歪みを目の前の二人を含めた艦娘たちに見られる事が嫌だった。

 純粋に人々を守り、救い、助けようとしている艦娘たちの在り方は美しく尊い。

 そんな彼女たちが自分たちと同じ様に戦う力を持っていながらも驕っている「IS」の使い手たちを見ればどうだろうか。

 

 束……

 心の底からあの日、貴様を止めれなかった自分が恨めしいぞ

 

 こんな世界の一端を造ってしまった一人として私は後悔している。

 力はある方がいい。

 しかし、その力で人類の寿命を延ばすことになったが、果たして、それがいいことだったのか不安でたまらなかった。

 もし、「IS」がなかったらなかったで戦う力はないことで滅びは急激なものになるだろうが、それでも、醜いものになるのか不安だ。

 

 下手をすると「IS」によって虐げられていた男たちが終末論者になりかねんしな

 

 「IS」による「女尊男卑」は間違いなく男性を名実共に苦しめてきた。

 制度的な不平等は確実に在るが、中には気に入らない男をでっち上げで訴える等、今まで人類が歩んできた人権思想とは何だったのかと思わせる様な蛮行そのものだった。

 確かに「IS」が世に出る前には女性が虐げられてきた「男尊女卑」が歴史上に多くあるのも事実だ。

 しかし、それを理由に自らを正当化している不合理的な差別の何処に正しさがある。

 それらが積み重なっていく結果、男の中には鬱屈としている面々もいる。

 そんな希望のない世界と未来で生きる人間にとっては「深海棲艦」という存在は全てを壊す救済者にすら見えるだろう。

 そして、それらは世界中で暴動やテロを起こしていくことになる。

 それは呪いにも等しい。

 

 彼女たちはどう思うのだろう……

 

 ある程度、私は彼女たちにこの世界の実情を話したつもりだ。

 それでも不安で仕方がなかった。

 

「千冬、何暗い顔してんだ?」

 

「……いや、すまない。

 お前たちに色々と背負わせていると思ってな……」

 

 天龍は私が暗い顔をしていると気付き、気にかけてきてくれたが、私は彼女たちがこの世界の歪みを知っていくと考えると耐え難かった。

 今のうちに言っておくべきなのかもしれないが、私の今の考えは他人からすると杞憂なのかもしれない。

 だから、言うべきか悩んでしまう。

 

「……安心しろ、千冬」

 

 天龍は私に自信満々に答えた。

 それは今の作戦への確信なのだろう。

 

「俺らはお前を信じている」

 

「……何だと?」

 

 しかし、出てきたのは意外な言葉だった。

 

「……悪いけど、雪風の話を聞く限りだとお前たちの世界から「深海棲艦」を一掃することは出来ないと思っている」

 

「そうやな。

 それに戦いによって生まれてくる色々な問題も出てくると思う」

 

「う……」

 

 天龍も龍驤も戦いが永遠に終わらず、そして、そこから生じていく、いや、それによって今まで溜まりに溜まっていったこの世界の歪みの大きさを承知していた。

 

「だけど、それでも俺らは戦うんだよ」

 

「……!」

 

 しかし、それを承知の上で天龍は戦うと言った。

 

「そうや。

 人間を信じられんで艦娘なんかやってられるか」

 

 

「………………」

 

 続いて、龍驤さんも人間を信じているからこそ戦うと告げた。

 

「どうして……そこまで……」

 

 私はこの世界を変えてしまった一人として彼女達に訊ねた。

 そこまで人を信じられるのか分からなかった。

 

「……俺らの世界にだって「歪み」はあった」

 

「?」

 

「そうやな。

 帝国主義っちゅうもんがあった。

 そのせいで所謂、この世界で言う「第一次世界大戦」なんてもんに発展しとるし、「深海棲艦」がいないこの世界では「第二次世界大戦」なんてもんになっとる。

 それにうちらの世界でも「艦娘」をただの兵器に思っとる人間もいたで?」

 

「……!

 なら、どうして……」

 

 二人が語った自分たちの世界の「歪み」。

 それはこちらの世界でもあったことだ。

 ただ違うのはそれが「深海棲艦」の存在によって起きるはずだった事象が起きなかったということだった。

 加えて、彼女たちを人として扱わない人間もいたらしい。

 

「んなもん、決まっとる。

 好きな人間も仰山おったからや」

 

「!」

 

 しかし、龍驤の言葉は余りにも単純なものだった。

 

「そういうことだ。

 仮に嫌な奴がいたとしてもだ。そいつとそれ以外の好きな奴をひとまとめにすれば、それこそ自分の好きな連中を侮辱するのも同然だ。

 だから、俺らは信じるんだよ」

 

「敵わんな……」

 

 余りにも基本的なことを忘れていた。

 

 私も……同じだったということか……

 

 私は今の彼女たちの言葉で自分もまた「IS至上主義」の人間と似たようなことをしていたことに気付いた。

 確かに今のこの世界では「IS」を使えない男を弱者だと決めつけ馬鹿にし、虐げる様な女も少なくはない。

 そして、それによって苦しめられ怨み、妬み、憎む男達も比例しているだろう。

 しかし、それが全てじゃない。

 それらが全てじゃない。

 それらを全てだと考えるだと考えることこそが間違いなのだ。

 

 川神……

 お前は……すごいな……

 

 同時に私は親友の強さに改めて気付かされた。

 川神にとっては「白騎士事件」以降は地獄だったはずだ。

 愛している人間たちの愚かさを見てどれだけ辛かったことだろう。

 それなのに彼女は決して諦めず見捨てることはなかった。

 諦めずに一夏や更識、話を聞く限りだと少しばかり「女尊男卑」に染まりかけていた凰を鍛えあげた。

 

 艦娘だから……というわけではないな

 

 同時にそれは艦娘だからこそ出来ることではない。

 ただ心のままに彼女はこの世界を、人を信じ続けたのだ。

 

 私と一夏を生んだ世界……

 束にとっては窮屈な世界……

 

 私と一夏を生んだのは文字通りこの世界だ。

 そして、束にとってはこの世界が窮屈な世界であるということも理解出来た。

 

 ◇

 

「やはり、来ましたか……」

 

「ちっ!驚くかと思ったのに残念。

 よく生きているね、君?」

 

 父や病院関係者、箒ちゃんがいない中、ある程度予想できていたが、篠ノ之先輩が訪れてきた。

 開口一番に私が予想していたことに毒づき、怪我と無茶に対するに皮肉をぶつけてきた。

 

「あっちの世界での最期は身体の大部分を失ってもしばらくは戦っていたのであの程度死ななかったら安いものです。

 父や母、雪風、箒ちゃんを悲しませたのは心苦しいですが」

 

「うわ……引くわ」

 

 私は彼女の皮肉に対して最後の戦いのことを持ちだして答えると彼女は引いた。

 

「ところで珍しいですね。

 あなたならば、雪風たちと「深海棲艦」との戦いに興味を持ってそちらの方を観察すると思ったのですが……

 どうしてここに?」

 

 単純に私は先輩に対して、彼女がここにいる理由を訊ねた。

 彼女にとっては「深海棲艦」と艦娘との戦い程、今、この世界で最も興味を引くものはないだろう。

 

「あ~、それについては何となくだけど予想付いているし、データも撮れてるしね。

 後は記録を見ればこの天才にはどうでもいいことだし」

 

「……あなたの頭の中は数式しかないんですか?」

 

「この世界の全ては大体は数式で分かってしまうものなのだよ」

 

 呆れる程にこの天才、いや、天災は私の中における彼女が言うであろう想像通りの答えを返してきた。

 実際、この人の前ではこの世界全てはただの数式の塊にしか映っていないのだろう。

 

「それで?

 私に会いに来たのはお見舞いでも、揶揄いだけという訳ではないでしょう?

 なんですか?」

 

 私はそろそろ本題に入って欲しいところで彼女に訊ねた。

 

「う~ん。じゃあ、言わせてもらうけど。

 君ってさあ、どうしてそこまでこの世界に愛着を持てるの?」

 

「………………」

 

 先輩は何時もよりもかなり煙たそうに私に問いかけた。

 

「……やはり、そういうことですか」

 

 何となくだが、今ので彼女が何を以って私を毛嫌いしてきたのか理解出来た。

 

「君も、それにあの旗風とかもそうだけど本当によく分からないよ。

 あそこまで他人の為に、いや、異物相手にしてやろうと思えるのか理解出来ないよ」

 

 彼女は私達艦娘が人間とは異なる出生をしているのに人間を助けようとする姿勢が信じられないのだ。

 それはきっと彼女にとっては他人事ではないのだろう。

 

「それはあなたと違ってどうでも良くないからですよ」

 

「……どういうことかな?」

 

 私は単純な答えを突き付けた。

 

「一週間前にあなたはこう言いました。

 『人類の歴史の中で平等であった試しはない』と。

 それはあらゆる意味で人は、そして、全ての生命は不平等であることです」

 

「……何が言いたいの?」

 

 私は一週間前に言った彼女の持論をぶつけた。

 明らか居直りにも近い彼女の言葉だ。

 

「……簡単なことです。

 それは同時にあらゆる意味で人はそれぞれ違うということです。

 あなたの様にこの世界がどうでもいい人もいれば、私の様にどれだけ苦しくてもこの世界が好きな人間もいるということです」

 

「!?」

 

 先輩は言葉で動揺した。

 今まで、彼女に対する物理的圧力に対して乗り越えてきたことで僅かながらの反応を与えることは出来てきたが、ようやく大きな衝撃を与えられた。

 彼女自身の言葉が彼女に傷を与えた。

 まさか、自分自身の言葉が自分の在り方をそのまま揺らがせるとは思いもしなかったのだろう。

 

「ムカ……つく……」

 

「………………」

 

 私の出した一つの在り方への答え、それも自分が出した言葉が帰って来た衝撃。

 何故、この人は世界最高峰の頭脳やら、肉体を持ちながらもそんな簡単なことに気付けなかったのだろう。

 

「ムカつく!ムカつく!ムカつく!!

 どうして君はこの世界にそんなに愛着を持てるの!?

 こんなつまらない世界に!!

 そんなに強いのに!!」

 

「………………」

 

 彼女は本当の意味で感情的になった。

 いや、違う。

 今まで取り繕ってきたものが薄れたのだ。

 それに対して、私は否定出来なくもなかった。

 確かにこの世界は「IS」の誕生による社会形態や思想が変わってしまっている。

 そういう面を考えると違う世界の記憶を持つ私の発言は異常に思えるし、私自身、時にこの世界の歪みに憤りや嘆きを覚える時がある。

 

「つまらない世界を変えて何が悪いの!?

 生物学的に違う相手を守る価値なんてあるの!?

 君にとって、耐えられるの!?」

 

 先輩に……そして、一夏君を同類に……

 そして、雪風に興味を持っていたのはそういうことですか……

 

 彼女はまくし立てる様に共感を求めてきた。

 やはり、彼女は私たちや「深海棲艦」とルーツは異なるが、同類なのだ。

 

「……つまらない世界ですか。

 でも、それはあなた個人の見解です」

 

「ぐっ!?」

 

 私はそう答えた。

 いや、そう答えるしかなかった。

 確かに私だってこの世界に思うところがない訳ではない。

 しかし、それでも壊そうという気にはなれない。

 

「先輩、これは後輩としての助言です。

 このままだとあなたはずっと一人ぼっちですよ」

 

「うっさい!!」

 

 私のその一言を先輩は大声で遮った。

 でも言わなくてはならなかった。

 織斑先輩はこの人と友人である。いや、正確にはこの人にとっては同じ生物なのだろう。

 けれども、世界の見え方が違うし接し方も異なる。

 そうなると二人は必ず対立することになる。

 そうなればこの人はずっと一人だ。

 

「君って本当にムカつくな。

 ちーちゃんとも分かり合えるし、箒ちゃんもいっくんもどうして……」

 

 彼女は私に対しての感情を正直に話した。

 彼女が私を嫌うのは恐らく自分にとっての同類である存在が私の様な生物学上異なる存在と絆を深めているのが理由だ。

 

「……先輩、箒ちゃんは」

 

 それでも、やはりとも言うべきかこの人は箒ちゃんだけは歪んではいるが愛してはいる。

 織斑先輩や一夏君と言った血縁上の他人とは異なり、唯一箒ちゃんという妹には執着している。

 

「あなたとは違いますよ」

 

「!?」

 

 そこに私は少しだけ、少しとはいえ彼女にとっての歪みは見出せる気がした。

 彼女の自論で言えば、織斑先輩や一夏君を大切にするのは生物学的には人間と異なる存在と言う点では同じだからだ。

 しかし、そこに箒ちゃんは当てはまらない。

 仮令、同じ父とは母の間に生まれた両親と言えども、箒ちゃんは先輩とあの姉弟と同じ存在には入らない。

 

「そういった基準だけで世界を見ることしか出来ずにいたらあなたは何時か箒ちゃんすら捨てることになりますよ」

 

 それは僅かな可能性。

 この天才にも多少なりの他者への、正確には違う存在への愛があるということだ。

 

「……つまらない。帰る」

 

 私の最後の指摘を受けると先輩は帰って行った。

 

 ……もう少し気付きなさい

 あなたもただの人間なんですから

 

 その背中姿に私は自分なりの感想でしかないが、何処か寂しさを感じた。

 

 雪風と真逆ですね……

 

 同じ天才でも雪風と先輩は真逆だった。

 方や他者を愛し他者に愛されながらも失っていく孤独を感じながらもそれでも愛を忘れなかった天才。

 方や最初から他者への愛を知らず、それを理解せず孤独の何たるかを知らずに自らの矛盾と他者の見せる愛に苛立ちを募らせる天才。

 

 ……天才だからこそ気付けないものですね

 

 全部、自分が正しい。

 そう思えるのが、そう思える程の頭脳が彼女の孤独を深め、孤独に気付かせない。

 そして、『つまらない』とすら思えてしまえる。

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