奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「皆さん、準備は出来ていますか?」
『ええ』
『はい』
『もちろん』
『出来てるわ』
『問題ないです』
『うん!』
私が確認すると全員の「応」という返答が返って来た。
流石だ。
誰もが既に戦う準備が出来ている。
「山田さん、ここからはあなたの番です」
「え!?もうですか!?」
既に艦娘の調子や心の準備がいいのを見届けると私の役割を終えたことを確認し私は山田さんに任せた。
「あくまでも、提督は山田さんです」
「で、でも……一体、何をすれば!?」
いきなりのことに彼女は困惑するしかなかった。
彼女の性格から余計な心配をかけて睡眠不足を招くことで集中力や判断力を失わせることを防ぐためとはいえ、隠されていた本人にしてみればそれも無理もないことだ。
ただ、知識面に関してや元々「IS学園」に関わっていることからある程度の軍人としての適正はあるので、あえて言わなくても問題はないと思っている。
「山田さん、落ち着いてください。
今回は私と阿武隈さんが具体的な戦術案を出していきます。
山田さんはその中から最善だと思うものを選んでくれるだけで十分です」
「えぇ!?
で、でも……!!」
何よりも今回は本格的な指揮を取らせるわけではない。
私と阿武隈さんがなるべく選択肢を絞り、その中から山田さんが最善手だと思うものを選択してもらうだけだ。
元々、完全な素人ではないことや以前、鈴さんとセシリアさん相手に悠々と勝ったことからそれは可能だ。
「えっと、山田さん?」
「は、はい!」
そんな緊張と改めて自分の方に背負うものを実感し混乱している山田さんがに阿武隈さんは心配そうに訊ねた。
「私ってその……
一水戦の旗艦なんですよ……」
「?それって、川神先生と同じ……?」
「えっと……
二水戦の旗艦にはなれませんでしたけど、立場としては同じくらいです」
阿武隈さんは慌てている山田さんに自分が「一水戦」の旗艦であることを告げた。
その際に「二水戦」という全ての水雷屋にとっては花形の旗艦になれなかったことを自嘲するが、私からすれば、「一水戦」も十分、すごいと思える。
「神通と比べるとちょっと頼りないと思いますけれど、頼ってください」
「………………」
彼女は自分も水雷戦隊を率いる長であったことを主張し、彼女に自分を頼ることで不安を振り払って欲しいと伝えた。
「山田さん。
阿武隈さんは最高の指揮官の一人です」
「ゆ、雪風……それは…………」
「最高の……指揮官……?」
私は山田さんが最も安心出来る事実を伝えることを決めた。
「彼女はあの「キスカの奇跡」を成し遂げた一人です。
必ず、あなたの支えになってくれます」
「「キスカ」の…………奇跡?」
「もう!だから、それは木村提督の!!」
私は阿武隈さんの恐らく、これから誰も成し遂げることも出来ないであろう最高の武勲を挙げた。
「「キスカの奇跡」は救出戦にも関わらず戦死者を出さなかった前代未聞の作戦です」
「えぇ!?一人も!?」
「ちょっと雪風ちゃん!?話、聞いてる!?」
私はかいつまんで山田さんに「キスカの奇跡」を説明した。
「キスカの奇跡」は本当に奇跡としか言い様がないないものだった。
本来、撤退戦や救出戦は多大な犠牲が出るものだ。
歴史上、撤退戦の上手い人間を「逃げ弾正」等の一見すると褒めているのか、褒めていないのか分からない異名等で呼ぶこともあるが、撤退戦の上手い人間が真の戦上手と言われるのは間違いない。
それでも、それは『撤退戦の割には犠牲者が少ない』という場合だ。
そもそも、戦いの中で味方が一人も死なないこと自体があり得ない。
けれども、阿武隈さんたちはそれをやってのけてしまった。
余りのことにそれを聞いた時、私は与太話か過大宣伝かと思ってしまったほどだ。
本当に彼女たちが起こした奇跡は信じられないものだ。
「でも……私達……!」
「?」
「……そうですね」
しかし、そんな奇跡を起こしたのに彼女は悲痛な表情を浮かべていた。
彼女が何故、そのような表情を浮かべているのかは私は理解出来てしまう。
一度目の断念で……
命を絶ってしまった負傷兵の人たちを忘れられる訳がないんですよね……
あの作戦は一度目は断念した。
濃い霧があの作戦には必要不可欠だった。
しかし、当初は発生していた霧が晴れたことで断念せざる状況に陥り、戻らなくてはならなかった。
そのことから味方の足手まといになると思い詰めた負傷兵たちが自ら命を絶ってしまったのだ。
それを知った時の阿武隈さんたちの自責の念と後悔は想像を絶するものだろう。
私にそのことを話してくれていた初霜ちゃんからも同じものを感じ取れた。
「ですが、そんなあなただからこそ参謀の一人として頼めるんです」
「……!」
阿武隈さんは輝かしい栄光ではなく、助けられなかった人々を忘れないでいる。
そんな彼女だからこそ、私は私の目の前で三人の妹を奪ってきたあの参謀たちと同じ事はしないと信じられる。
「それに初霜ちゃんも、潮ちゃんも曙ちゃん、そして私の妹たちも言っていました。
あなたの下で学び戦うことが出来てよかったと」
「………………」
最後に私はこの世界で未だに力を貸してくれる戦友や共に生き残った戦友、そして、磯風たちを含めた彼女の旗下で学び戦った妹たちの言葉を伝えた。
彼女たちにとって「一水戦」の旗艦であった阿武隈さんは紛れもなく誇りであった。
きっと、それはどの駆逐艦がどの軽巡に対しても思うことだろう。
それでも私にとっては妹たちや最後の戦友であった初霜ちゃんの上官であり、教官が彼女であって良かったと心の底から今、実感できた。
「……雪風ちゃん」
「はい」
「……ありがとう」
「いいえ」
今のやり取りで完全に阿武隈さんの目の色が変わった。
これで全ての条件が整った。
「山田さん」
「は、はい」
雰囲気が完全に変わった阿武隈さんの様子に山田さんは戸惑いを覚えた。
「少し、頼りないと思うけどよろしくね」
「え!?
いや、それはこっちの……」
阿武隈さんの発言に山田さんは逆に畏まっている。
山田さんと阿武隈さんの違いはやはり、何だかんだで自信の有無だろう。
阿武隈さんの場合は今回は戦艦や空母を差し置いていたことへの恐縮だ。
しかし、それは加賀さんや扶桑さん、加えて重巡である鳥海さんがいることで払拭できた。
彼女の場合は対人関係で弱気になることが大きな理由だ。
その為、自信はあるにはあるのだ。
対して、山田さんは自分自身への自信がない。
一夏さんへの謝罪の連続や「候補止まり」であったことへの劣等感……
やっぱり、何かあったんですね……
生来の繊細さもあるにはあると思うが、やはり、あそこまでの卑屈さには何かしらの苦い記憶があるのが見受けられる。
だからこそそういうことに理解のある阿武隈さんと……それとあの人にも山田さんの補佐を頼みたいんですよね……
阿武隈さんは良くも悪くも繊細だ。
だから、優しい潮ちゃんや初霜ちゃん。雷ちゃん、電ちゃんといった娘たちを育て共に戦えた。
そんな優しさを持つ阿武隈さんだからこそ、同じ様に優しさを持つ山田さんを支えられると思ったのだ。
それに……山田さんを見ることであの人の成長に繋がるはずです……
そして、同時にもう一人彼女の補佐を任せたい人に山田さんのそんな姿を見て、少しずつ成長していって欲しいとも思っている。
ただ……
この二人の問題点は片方が慌て出すと二人で慌て出して収拾がつかなくなりそうなところなんですよね……
一つ不安があるとすれば、山田さんは兎も角として阿武隈さんまでもが落ち着きを失くすと、もしくは覚悟を決めていないと誰かが止めない限りずっと慌て続けることだろう。
その為、あの人以外にもう一人補助が必要になってくる。
そこら辺に関しては……
慣れていってもらいますか
それも山田さんが提督役を慣れていく過程で解決するだろう。
本人の気質は変わらないと思うけれど、それでも一種の長所になるだろう。
恐らく、最初は短所にしか見えないが、その後長所に変わっていくだろう。
むしろ、増長されるよりもマシだろう。
でも……今は……
「山田さん。
一つ、皆さんに号令をかけてください」
「え?号令ですか?」
「はい」
私は山田さんにあることを頼んだ。
『……あれね』
『気が引き締まるわ』
『お願いします』
『あの言葉だけで戦えます』
『是非ともお願いします!』
『うん!あの言葉、大好き!!』
「うん!私も!!」
「え?え?え?」
私が山田さんにあの言葉を頼むことを聞いた瞬間、全員が期待に満ちた声で彼女にあの言葉をせがんだ。
ただ一人、その言葉を知らない山田さんはまたしても困惑している。
「山田さん。
提督には勿論、能力も問われます。
ですが、同時に艦娘たちの士気を高めることも仕事です」
「は、はあ……
それは何となくわかりますけど……」
提督役を含めた指揮官に求められるのは指揮能力や信頼できる人柄だけではない。
もう一つ、隊の士気を高めることも必要だ。
士気はそれだけに依存するだけならば危険だが、あって困るものではない。
時として、その士気の高さが蟻の一穴を作り出すことにもなる。
指揮官にはそれを上げる能力も求められる。
「で、でも……
一体、何をすれば?
その……私は……織斑先生みたいに……」
山田さんは私の『士気を高めて欲しい』という要請にどうすればいいのか困っていた。
それは至極当然だろう。
そもそも、簡単に士気を高めることが出来るのならば誰も苦労はしない。
加えて、山田さんはそういった適役は織斑さんだと思っている。
違うんですよ……山田さん……
そうじゃないんですよ……
一見すると山田さんの考えは間違っていない様にも聞こえる。
しかし、それは大きな誤解だ。
強い言葉と人格……
それだけじゃダメなんですよ……
よく勘違いされがちだが、強い言葉を使い強気でいくことが最も正しいとされている。
それは違う。
士気を高めるのに最も重要なのは懸命さだ。
そして、それは現段階で山田さんが一番持っている。
「大丈夫です。
山田さん、今から私があなたに言う言葉をそのまま皆さんにお願いする様に叫んでください」
「え?は、はい……」
既に山田さんは十分な素質を持っている。
それだけではない。
そして、彼女だからこそ言える言葉がある。
私は彼女の耳元であの言葉を囁いた。
「――――――。
では、お願いします」
「えっと……わかりました」
私はあの言葉を伝えた。
その言葉の重みを僅かに感じ取ったらしい山田さんは気を引き締めた。
「皆さん、お願いします―――」
山田さんの言葉に全員が耳を傾けた。
そして
「暁の水平線に勝利を刻んでください!!」
『戦艦扶桑、出撃いたします!』
『出撃します』
『翔鶴、出撃します!』
『抜錨!鳥海、出撃します!』
『駆逐艦朝潮、出撃します!』
『皐月、出るよ!』
祈りであり、願いであり、想いであり、誓いでもある私たちの何時もの言葉を皮切りに全員が出撃の掛け声を挙げて、次々と出撃していった。
それはこれから始まる長い戦いの始まりでもあった。
その戦いの先にある願いの果てにあるものの為に。