奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第34話「勝たせる意味」

「みんな、調子はどう?」

 

『私は大丈夫よ』

 

『加賀さんと同じです』

 

『私もです』

 

『問題ありません!』

 

『大丈夫だよ!』

 

 旗艦として、しばらく経った後に全員の様子を私は確認した。

 初めて扱う「IS」、余り馴染みのない海域、そして、新しい指揮官。

 それら全てを考えると訊ねるのは当然のことだろう。

 

『山田さんについて、みんなどう思う?』

 

 そんな中、加賀が山田さんの印象を訊ねた。

 本来ならば、作戦中に指揮官について訊くべきではないだろう。

 しかし、雪風や金剛、龍驤と共に彼女を推薦した一人として確かめておきたいのだろう。

 

「そうね……失礼だけど、第一印象としては頼りないといったところね」

 

 私はあえて、失礼だと思うが山田さんに対して最初に抱いた感想を口に出した。

 山田さんは少しオドオドしていてどんな相手にも緊張してしまう点があるのがわかる。

 一見すると、軍の中でやっていけるのかと思えるほどだ。

 

『確かにそれは……』

 

『ちょっと……』

 

『………………』

 

『反論できないね』

 

 全員が私と同じ意見らしい。

 何よりもあの規律に厳しい朝潮までもが無言の肯定をしてしまっている。

 やはり、山田さんの第一印象としては少々、頼りないといったところだろう。

 

『ですが―――』

 

 しかし、そんな中で朝潮が何か言おうとしている。

 それはきっと私達全員と同じ意見だろう。

 

『―――だからこそ、安心して任せられます』

 

『……そうね』

 

 朝潮はそんな山田さんだからこそ、安心して従えると主張した。

 それは朝潮の最期が関係している。

 朝潮は聞いた瞬間、全員が死ぬ準備をし始めた作戦に参加させられた。

 そのことから人一倍、上に立つ人間の資質には敏感だ。

 それは雪風も同じだろう。

 その朝潮が『任せられる』と言うのだ。

 決して悪くはない人選だろう。

 

『それに逆に支えたくなるよね!』

 

 続いて、皐月は山田さんを『支えたくなる』と言った。

 それは私も同意見だ。

 山田さんは気弱だ。

 しかし、そんな彼女だからこそ私たちで支えたくなると思える。

 この『支えたくなる』と言うのは本当に重要だ。

 確かに続いていきたいと思える強さも提督には必要だ。

 一見すると、後者の方が優れていると思われるが、実際は両者に大きな差はない。

 両方とも同じくらい重要なのだ。

 

『ええ。

 後、同じ「マヤ」繋がりで私見が入るけど、山田さんはそれだけじゃないと思います』

 

 鳥海は続いて姉の摩耶と同じ名前ということを外しても山田さんには何か煌めくものがあると語った。

 それが最も重要だ。

 最初のうちは自分たちの命が関わると言うこともあって戦士はどの上司の下でも渋々戦うことで支えることが出来るが、次第に不満が溜まり、士気が低下していく。

 『支えたくなる』と『支えるしかない』のでは全く違うのだ。

 

『少なくても、責任を途中で放棄する様な人ではありませんね』

 

 翔鶴は山田さんがそう思える理由を話した。

 彼女の言う通り、山田さんは少なくても途中で物事を放り出す様な人間などではないだろう。

 『支えたくなる人間』とは責任感があることが大前提なのだ。

 山田さんは戸惑ってはいたが、それでも『辞めたい』とは言ってこなかった。

 

『それは私も保証するわ。

 彼女、私が来るまで自分の教え子である雪風とその友達を守る為に殿をしていたわ』

 

 そして、それを証明する彼女の行動として山田さんがただ一人残り、殿を続けていたことを加賀は例に出した。

 山田さんは初めて「深海棲艦」という未知の恐怖に遭遇した際に自らも命を落とすことを百も承知で教師として生徒の退路を維持するためだけに残っていたらしい。

 そのことから彼女が責任感の強い人間であることは理解出来る。

 何よりもあの加賀が認めているのだから、相当のものだろう。

 

「じゃあ、みんなは納得ということね?」

 

 私は全員に山田さんが提督を担うことへの是非を訊ねた。

 

『問題ないわ。

 私の目はそこまで節穴ではないわ』

 

『はい!この世界で初めての提督になってくれて良かったと思います!』

 

『同じ「マヤ」の名前の人……

 それもあって良かったです』

 

『雪風も選んでいるんです。

 私も信じます!』

 

『僕もあの人に任せたい!

 そして、支えたいよ!』

 

 全員の意見が一致した。

 どうやら山田さんの第一印象は合格らしい。

 

「そうね。じゃあ、みんな。

 その山田さんの……いいえ、提督のためにも最初の戦いは勝利で収めましょう」

 

『了解したわ」

 

『はい!』

 

『必ず勝利を!』

 

『大切な戦いです!』

 

『頑張ろうね!』

 

 私は山田さんの初めての戦いに勝利を持ち帰ること全員と誓い合った。

 折角、提督を引き受けてくれたのだ。

 そんな彼女の最初の作戦を苦い敗北と勝利で終わらせるつもりなどない。

 

 それに……

 あの人、優しい人でしょうしね……

 

 何よりも山田さんは優しい人というのがわかる。

 そんな彼女だからこそ、自らの指揮下にいる艦娘が傷付くようなことがあれば自責の念に駆られる。

 彼女にそんなものを背負わせるようなことは避けたい。

 

 全員が帰還するのが大前提ね

 

 何時か、あの世界の戦いと同様に誰かがいなくなっていく。

 それは戦いにおける当たり前のことだ。

 しかし、それでも私達は今回のことは別に違う誓いを立てていた。

 

『今度こそ雪風を悲しませない』

 

 どれだけ私たちが先に逝ってしまったことで雪風を悲しませたことだろうか。

 しかも、私達はもう一度出会えた。

 だから、一度、取り戻せたものを再び奪われるなどという悲しみをあの子に背負わせる訳にはいかない。

 どれだけ現実を理解していなかろうが、無茶であると言われても私たちは必ず全員で生き残る。

 それが私たちの誓いだ。

 そして、それは山田さんにも言えることだ。

 こちらが一方的に彼女に時として辛い目に遭う役目を任せたのだ。

 なら、せめて彼女が辛い経験をしないで行ける様にすべきだろう。

 

 何れにしても……

 少なくても最初から雪風と山田さんを不安にさせてはいけないわね

 

 目的は結局全て同じだ。

 全員で生き残る。

 目指す道が同じなら、こんな出だしで躓いてる場合なんかじゃない。

 

『扶桑、十時の方向。

 発見したわ』

 

「ええ、伝えて」

 

『わかったわ』

 

 そして、今から山田さんの提督としての初めての指揮が下されることになるだろう。

 

 

『こちら、加賀。

 偵察機が敵を発見したわ』

 

「えぇ!?もうですか!?」

 

「山田さん、落ち着いてください」

 

「す、すみません」

 

 早速、扶桑さんたちが敵を見付けた旨の加賀さんからの入電が入った。

 山田さんはある程度の予想通り心の準備がまだ出来ていないらしく慌てていた。

 

 と言っても……

 自分が戦うのと他人の命を預かるのでは違いますからね……

 

 けれども山田さんが悪い訳ではない。

 他人の命を預かると言うことは自分の命以上に重いものだ。

 それについては私が一番、嫌というほど分かっているつもりだ。

 

 それが軍人の定めなんですけどね……

 

 ただそれは軍人ならば立場が違っても誰でも背負うものだ。

 上官ならば、部下の命を預かることで直接それを実感させられる。

 しかし、背負っているものは結局は兵士も同じだ。

 兵士の前には敵がいるが、横には仲間がいて、そして、後ろには守るべき多くのものがある。

 そこに大差はない。

 みんな同じだ。

 それが見えるか見えないかの違いなのだ。

 

 やっぱり、この人を選んで正解ですね

 

 私は今のを見て山田さんを提督に推したことを正解だと確信した。

 彼女の人の命の重さを理解している。

 責任感の在る彼女だからこそ私は提督を任せられる。

 

 でも、今は……

 

「山田さん。先ずは加賀さんに戦力を訊ねてください」

 

「は、はい。

 あれ?そう言えば……

 どうして通信が出来るんですか?」

 

「!」

 

「そう言えば……」

 

 山田さんに加賀さんから敵の戦力を確認する様に求めると彼女はふとそう呟いた。

 確かに彼女の言う通り奇妙だ。

 以前、「IS」を使った時は通信が通じず、連携が取れなくなってしまった。

 

 「IS」の違い……

 いや、それなら私の「初霜」も同じ条件に……

 

 一瞬、艦娘の持っているものと一夏さんたちものが違うことで「深海棲艦」の術数にはまってしまったのかと思ったが、それならば私の「初霜」も同じ事になりそうな気がした。

 

 「初霜」は本当に違うらしいですね……

 

 考えられるとすれば「初霜」が前者にも後者にも当てはまらないということだろう。

 

 もう少し、情報を集める必要がありますね……

 

 この発見についてはもう少し検証が必要だろう。

 

 でも、その前に……

 

 私はその前にすべきことを見付けた。

 

「山田さん、すごいじゃないですか」

 

「え……」

 

 それは山田さんがこの発見をしたことを賞賛すべきだと感じた。

 今のことに気付けたのは本当にすごいことだ。

 

「今のことに気付けたという事は注意深いという証拠ですよ。

 本当に大事なことです」

 

「うん!ちゃんと気付けるのはいいことだよ!」

 

「え……そんな……えっと……」

 

 私と阿武隈さんは山田さんが「通信を行えた」という事実を直ぐに発見したことだった。

 指揮官には判断力と勇気、人柄も求められるが、同時に注意力も求められる。

 得られた情報から多くの事実を可能な限り手に入れる。

 そうすることによって危機を回避し突破口を切り開く糸口も見付けられる。

 

 ……予想以上ですね

 

 山田さんの予想以上の才能を見て、提督に向いていることを確信を得た。

 

『三人とも、早く指示をちょうだい』

 

「す、すみません……!!」

 

「すみません、加賀さん。

 敵の艦種と数は?」

 

 山田さんの注意直の高さに強い期待感を抱き、高揚感を抱いていると加賀さんに指示を乞われた。

 

『駆逐艦、イ級が二隻ね』

 

「わかりました。

 他に敵影は?」

 

『いないわ』

 

 加賀さんに他に敵影はないのかと訊ねると、彼女は『いない』と答えた。

 それを聞いて私は彼女が言うのならば問題ないと判断した。

 

「山田さん。

 ここ「単縦陣」で行きます」

 

「一列になる陣形ですか?」

 

「はい」

 

 どうやらある程度の陣形を理解しているらしい。

 これは助かる。

 

「今は敵の数も少なく艦種も強くないので攻撃に特化している「単縦陣」で行きましょう」

 

「わ、わかりました!

 皆さん、「単縦陣」でお願いします!」

 

『了解!』

 

 山田さんは私が指示した通りに「単縦陣」の指示を出した。

 

 先ずは私と阿武隈さんがこんな風にある程度の具体的な指示の内容を出していき、陣形の意味や使い方を覚えていくことにしてもらう。

 

 今は基本だけで……!

 

 何れは独りで決断を下してもらう必要が出てくる。

 それまでの間に私と阿武隈さんの二人、そして、もう一人の彼女が支えていくつもりだ。


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