奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「扶桑さん。
今の状況は?」
最初の戦闘が終わったことに対して阿武隈さんは今の艦隊の状況について訊ねた。
『敵の戦力の殲滅を確認したわ。
味方の消耗は私と鳥海の弾薬だけ。
阿武隈、提督に進撃か撤退かの是非を』
「はい。
山田さん、どうします?」
「え!?
え、えっと、どうすればいいんですか!?」
彼女にとっては予想外過ぎるほどまでに初戦で早く終わったことで困惑し出した。
「山田さん。
今回は味方の被害が皆無に等しいです。
扶桑さんに敵の気配がないかを訊ね大丈夫でしたら進撃する様に言ってください」
「わ、わかりました!
扶桑さん、他に敵影は!?」
これに関しては仕方がない。
彼女が全てが初めてのことなのだ。
私が具体的な助言を出すと彼女は従った。
『加賀の情報からいないと断定できます』
「で、では、その……し、し、進―――!!」
扶桑さんの報告を受けてそのまま『進撃』を言おうとしたところ、彼女は緊張の重圧感から直ぐに言えなかった。
「山田さん、少し落ち着いてください。
強く言わなくていいですから」
「―――!
わ、わかりました。
えっと……進撃してください」
『わかりました。
みんな、次に行くわ』
このままで緊張と自己嫌悪の板挟みの余りに塞ぎ込んでしまうと考えて私は彼女に落ち着くように言い、尚且つ、なるべく強がらなくていいことを伝えた。
彼女はそれに従ってくれた。
「山田さん」
「は、はい!
ご、ごめんなさ―――!!」
扶桑さん進撃した後に私が声をかけると彼女は動揺し謝罪しようとしてきた。
どうやら、今のことで怒られると思っているらしい。
「いえ、それでいいんです」
「―――え」
けれども、私はむしろ彼女の姿に安堵を覚えた。
「勝利に浮かれるよりも慎重に指示を出してくれるのは私たちにとっては嬉しいことです」
「私もそう思うよ」
私も阿武隈さんも山田さんが勝利に浮かれない姿に益々、期待感を募らせた。
「いいですか、山田さん。
怖がることは決して悪いことではありません。
特に今は他人の命を預かっているんです。
怖がるのも無理はありません」
「うん。私もキスカ島で同じだった。
もし、失敗したらと考えると本当に怖かった。
それに一度目の撤退が原因で亡くなった兵士の人たちのことを考えると怖くてしょうがなかった」
私たちは山田さんに怖がることは決して間違っていないことを告げた。
特に他人の命が関わってくるのだ。
怖いのは当たり前だ。
「それに怖がることが出来るという事は、あなたは他人のことを思いやれる優しさがあるという証拠です」
「!?」
私は最後に彼女のその一面を指摘した。
他人の命が関わっていることに怖がれる。
それは彼女の根底に優しさがある証拠だ。
「少なくとも、あなたの様な人の下で戦えるのは私にとっては喜ばしいことです」
「雪風さん……」
少なくても、兵士の命の重さを理解している山田さんと戦えるのは私にとっては大変喜ばしいことだ。
それを理解している人と理解していない人の下で戦うのでは全く違う。
「……この話はここまです。
今、山田さんが抱いているであろう疑問について説明させていただきます」
「はい」
山田さんを励ますことはこれで終わりにして、次に私は彼女が抱いているであろう疑問について話すことを決めた。
「一つ目に恐らく、山田さんはどうして今回の戦いが直ぐに終わったのか?
と思っていませんか?」
「あ、はい……
あの何というか……
まさか、こんなにもあっさりと終わるなんて思わなかったので……」
やはり、山田さんは初戦がこんなにも早く終わったことに懐疑的らしい。
しかし、それも無理もないことだ。
あれだけ、緊張していたのに三十分も経たないうちに終わってしまったのだ。
「今回は駆逐艦、それもeliteでもない二隻でしたからね」
「「elite」?」
私は「elite」の名前と艦級と数を答えた。
「「深海棲艦」には色々な艦種がいますが、その中で今回扶桑さんが遭遇したのは駆逐艦のイ級でそこまで強くない種類だったんですよ。
それで「elite」と言うのは元から強い個体なのか、長い戦いを経て成長したのかはわかりませんが、通常個体よりも強い真っ赤な目をした個体です」
「え!?
じゃあ、私たちが戦ったのはそんなに強くなかったんですか!?」
「恐らくですが、「銀の福音」なら通常個体の二個艦隊なら倒せますけど、「elite」以上の強さの個体が半数以上ならば苦戦は必至だと思います」
私は「IS」の中で最も「深海棲艦」相手に優位に立ち回れる「銀の福音」で「elite」の強さを比較した。
「IS」は軍事用と競技用で分けられているので戦力差はバラバラであるが、「銀の福音」は恐らく「深海棲艦」に単騎で戦える数少ない機体だろう。
前回は突然の奇襲と一夏さんたちの存在、搭乗者の意識がなかったこともあってまともに戦えなかったが、爆撃機何機分の火力を持ち、大量の弾幕を張れるあの機体はそれだけの戦力を有している。
しかし、これが「elite」以上が相手となると別だ。
「銀の福音」でも「elite」が半数以上占めている艦隊には苦戦するだろう。
何よりもそれだけの規模の艦隊ならば間違いなくツ級や複数の機動部隊も有しているだろう。
「え!?その「elite」以上の敵がいるんですか!?」
「………………」
山田さんは私の口から出てきた数少ない情報から「銀の福音」が苦戦するよりも「elite」以上の敵の存在に気付き驚愕した。
……やっぱり、この人凄いです
改めて、私は山田さんが洞察力に秀でていることに感心させられた。
少ない情報から事実を掴めるのは中々難しいことなのだ。
ちゃんと物事をよく見れる人です……
私は山田さんは冷静ではなくても、色々な角度から物事を理解出来る人だと実感した。
「はい。「elite」の上には黄金の瞳を持つ「flagship」、そして、それすらも超える存在が……います」
「……雪風さん?」
「………………」
私は山田さんの質問に答える様に「flagship」、そして、それを超える悪夢たちの存在に言及した。
私自身にとっては忌々しい記憶でしかない最悪の悪夢。
「……つまり、今回は敵戦力が強力ではなく、それに加えてこちらの戦力が圧倒的だったということです」
「な、成る程……」
私はあの悪夢を思い出して冷静さを失わない様に簡潔に今回の勝因を話した。
今回は敵がそこまで強くなく、数が少なかったことで扶桑さんと鳥海さんの射程内で片が付いたのだろう。
扶桑さん程の人ならば、目測で当てるなど容易いことであろうし。
「次に山田さんにもう一つの提督の仕事を教えさせていただきます」
「もう一つの仕事ですか?」
「はい。これはある意味で最も重要な役割です」
私はもう一つの本題に入ることにした。
そして、これから私が話すことは最も重要なことだ。
「艦隊戦後に進撃するか撤退するかの選択です」
「!」
それは進撃か撤退かの決断だ。
「艦隊戦は一つの作戦内で複数回あります。
提督はその度に艦隊の損失を損傷を把握していき、撤退するか進撃するかの判断をすることが求められます。
今は大丈夫ですが、弾薬や燃料の残量、艦娘の状態が中破か大破かを考慮して選んでもらうことになります」
「そ、それって…」
「はい。つまりは本当の意味で提督の決断が艦娘の命に関わってくると言うべきことです」
「!?」
艦隊の進退は本当の意味で艦隊の命が関わってくる。
「戦場では私達で何とかできます。
しかし、それはあくまでも戦術規模でのことです。
そこに入るか出るかについては提督の肩にかかってくることです。
それだけは確りと覚えておいてください」
「……はい」
私はこれだけは厳しい口調ながら伝えた。
他のことに関しては多少は甘く言ってもいいが、これだけは別だ。
「……山田さん、それともう一つ」
「?
何ですか?」
私は山田さんの弱点からもう一点だけ言っておく必要があると思った。
「……私たちを想う余り、直ぐに撤退を選択しないでください」
「え!?」
それは彼女の優しさから下してしまうであろう指示だ。
「私たちのことを考えるのなら中破でも撤退させたいと思うのも無理はありません。
しかし、中破ならば時として前に進ませなくてはならない時もあります」
「で、ですけど!?」
山田さんは優し過ぎる。
恐らく、中破状態になった途端にこれ以上艦娘たちが傷付くのを恐れて撤退命令を出してしまう。
しかし、それだけではだめだ。
「大破進軍は以ての外ですが、中破で尚且つ作戦成功の一歩手前の時は進撃することも考えてください」
「そ、それは……」
私も一駆逐艦としての立場ならば仲間の命の方を優先したい。
しかし、指揮官としては、時として作戦遂行の為に怪我人がいたとしても無理をして前に進める必要がある。
一度作戦成功まで至った作戦で失敗すれば、間違いなくその作戦は敵は警戒し二度と通用しなくなる。
そのことから艦娘の身を案ずるだけが提督の仕事ではない。
時にはそういったことを含めて背負っていく必要がある。
と言っても……それを尊い犠牲などという言葉で言い繕いたくないですが……
ただそこで犠牲者が出た時、それをどう受け止めるか覚悟しておいた方がいい。
それは自分にだけは言い訳しないことだ。
少なくても命を預かる立場としては己だけでもそれは肝に銘じるべきだ。
「……すみません。
ただ、決断を迫られた時は相談はしてください」
山田さんは優しさ故に勝たなければならない時に退いてしまう可能性が高い。
そして、危険性の戦い進軍を下すことを彼女は自分一人で抱えてしまう。
そんな時だからこそ、誰かに頼ることは必要だ。
……後孔明は誰にでも出来ることですから
どんな決断にもその時、その時の状況が複雑に絡み合っている。
批判されることはあっても、結果だけで責めるのは誤りだ。
そして、それを自分独りで抱えることもだ。
「わ、わかりました……」
山田さんは辛そうに答えた。
言い過ぎましたか……
彼女の性格上、今回の発言は苦しくて当たり前のことだ。
何を言っても、傷付くのは当たり前のことだ。
それでも今回のことは言わなければならないことだ。
それに撤退させてそのまま逃げられるということではありませんしね……
加えて、撤退するから直ぐに逃げられるほど敵は甘くない。
むしろ、撤退する時が最も危険なのだ。
山田さんには慎重さがありますし、物事をよく見る力もあります……
ここに多少の勇気が加われば恐らくは……
何れは山田さんも決断力に優れた指揮官になる。
しかし、同時に決断を迫られる時も来る。
そんな時までに彼女には強くなり、そして、そこまで行くまでの間を、いや、そこから先まで支えていきたい。
私はそう考えている。
実際、中破で撤退できるし沈まないけど……
これが実際の戦闘だったらと思うと各媒体の提督たちも苦悩していると思います