奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第37話「攻守の是非」

「加賀、周囲には?」

 

 山田さんから「進撃」の命令が出たことで私達は進み、加賀には引き続き周囲への警戒を行ってもらっている。

 

『今の所は見えないわね。

 でも、最初の部隊がやられたとなると……

 いいえ、さっきの部隊が既に報告している可能性もあるから油断は禁物よ』

 

「そうね。みんな、よく気を配って」

 

『『『『はい!』』』』

 

 加賀の言う通り、恐らく先の二隻はただの見張りだろう。

 見張りを倒したとなると戦況の推移で考えられることは三つ。

 一つ目は単純に他の隊に情報を持ち帰られるよりも先に倒したことで不意打ちが可能になったという事だ。

 しかし、これを確証もなしに考えるのは楽観的だろう。

 

 間違いなくバレているわね……

 

 確実に敵には既に私たちの強襲は悟られている。

 見張りを倒したことから考えられるのは二つ目の戦況の推移は見張りが戻らないことへの不信だ。

 見張りは斥候と同じで情報を持ち帰るのが仕事だ。

 それが戻らないとなると確実に警戒感を募らせ、確認を取りに来るだろう。

 つまり、比較的に敵に露見されている可能性が高いという事だ。

 

 それならまだ時間はあるけど……

 

 ただ、これならばまだいい方だ。

 あっちも敵襲を半信半疑で思っているのならば迎撃の態勢もそこまで整っていないということだ。

 少なくても、鋼鉄の扉に激突する様な真似はしないで済む。

 

 スリガオ沖の様な状態なら最悪ね……

 

 攻め手において最も最悪なのは既に相手がこちらの進行経路を把握しており、万全の状態で待ち構えていることだ。

 そうなれば、陣形が取れていないのはこちらで、陣形は一気に脆くなる。

 それを私はこの命を以って経験している。

 そう。見張りや斥候を倒したことで生まれる最後の戦況の推移とは見張りや斥候が既に自軍に私たちの存在を知らせているということだ。

 これは最悪の状況だ。

 何故なら、敵が罠を張り巡らしている場所へと自ら足を運ぶも同然のことだからだ。

 そもそも攻め自体がその危険性を孕んでいることだが、それがより現実に近付いている状態なのだ。

 

 本当に細心の注意を払わないと……

 

 今の勝利はまさに一時の勝利だ。

 もしかすると、それが更なる脅威を連れてくるかもしれない。

 ただ勝たないといけないことから、その脅威に向き合わなければならないという矛盾でもある。

 勝つという事は新たな戦いに挑むという事であり、敗北への入り口でもある。

 だからこそ。勝ち続けることは難しく、そして、怖いものだ。

 

『でも、良かったね。

 山田さんがちゃんとした人で』

 

 そんな風に全員が勝ったことへの警戒を抱いていると皐月が呟いた。

 

 

『えぇ。

 進撃することの恐ろしさを理解してくれている方が提督なのは喜ばしいことです』

 

 朝潮が続いた。

 彼女の言う通り、山田さんは進撃することで生まれるであろう痛みを分かっている。

 少なくても、将としての器を持っているのは確実だ。

 

『雪風もわざわざ意地の悪いことを私たちに聞こえる様に言うなんて……

 大人になったわね』

 

 次に鳥海が雪風がわざと私たちにも先ほどのやり取りが聞こえる様にしたことを評価した。

 あの時、雪風は単純に聞けば、人でなしの様にも思える発言をしたが、その真意は山田さんに覚悟の是非を問うだけでなく、私たちに山田さんへの反感を抱かせないことだ

 古来より、将とは時として兵を駒の様に扱わなければならない時がある。

 当然駒扱いされた側にとってはたまったものではない。

 しかし、そうしなければ勝機を失い、ただでさえ少ない勝ち筋を失いジリ貧になり、更なる被害を招く可能性もある。

 

『……雪風、山田さんがそう言う人だと証明してくれたわね』

 

 翔鶴が言う様にあの意地の悪い発言は山田さんが迷うことが出来る人間だと言うことを私たちに分からせることだ。

 駒扱いされた兵士が辿る道は二つ。

 一つは士気低下による戦線離脱。

 一つは破れかぶれの突撃。

 前者は戦線の維持が不可能となり、後者は相手に損害を与えられるが、戦いを勝利に持って行くことは難しく、仮令、生き残ったとしても士気は二度と上がることがなくなる。

 けれども、敢えて雪風が山田さんに将としての在り方を問うたことで士気の低下は防げるようになったのだ。

 

『少なくとも、死中に活を求めるに値する人ね。

 やっぱり』

 

 加賀の一言が答えだった。

 将は時として非情な決断を迫られる時がある。

 しかし、それが本当に捨て駒になるか、逆に形成を逆転させる存在になるかは将の器以上だ。

 どれだけ苦渋に満ちた決断でもその心中や経緯を常に察する余裕を持つ人間は限られている。

 ただ捨て駒扱いされた兵士は逃げるか、死に急ぐだけだ。

 けれども、将の器が発揮されればそれはその将を『勝たせてあげたい』と思い、時に勝利をもたらすことになる。

 

『なら、決まりね』

 

 山田さんは私たちの身を案じてくれている。

 なら、私たちの全てを投げ打ってでも勝利を持ち帰るべきだろう。

 駒ではなく私たちを一人の人間として見てくれるのならば、ここで奮い立たずして何が艦娘だろう。

 

『扶桑』

 

『……ええ、ようやく来たわね。

 山田さんに報告を』

 

『ええ』

 

 私たちが再度、勝利への決意を固めていると加賀が声を掛けてきた。

 どうやら、彼女たちの出番らしい。

 

『こちら、加賀。

 通常のヌ級一隻とその護衛にホ級一隻とイ級二隻を発見したわ』

 

 加賀は即座に山田さんたちに報告を入れた。

 

 ◇

 

「あ、入ってきた。

 軽空母一隻と軽巡一隻、駆逐艦が二隻の四隻らしいよ」

 

「え!?そんなに!?それに空母!?」

 

「ここは「複縦陣」かな?」

 

「そうですね。山田さん、「複縦陣」の指示を」

 

「は、はい……!!

 扶桑さん、加賀さん。「複縦陣」でお願いします!!」

 

『わかったわ』

 

 加賀さんから敵に軽空母とはいえ、空母がいることや軽巡がいることから阿武隈さんと私は状況の説明を後にして直ぐに陣形を「複縦陣」にすることを山田さんに告げた。

 空母がいることから一瞬でも判断が遅れることは避けなければならない。

 航空戦力の厄介なところはその機動力と展開力だ。

 一瞬の差で隙を突かれて囲まれ主導権を握られる。

 だからこそ、今は山田さんに直ぐにでも陣形の判断を出す様に指示したのだ。

 

「山田さん、今回は直ぐに指示を出したのは相手に空母がいたからです。

 空母は……というよりも、艦載機を搭載している敵には一秒の隙も与えるべきではありません」

 

「す、すみません……」

 

「あ!いえ……

 責めている訳じゃないんです。

 ただ空母が相手にいる場合はすぐに今回出した「複縦陣」か、若しくは「輪形陣」を選択してください」

 

「……どう違うんですか?」

 

「そうですね。

 二つとも「単縦陣」よりも対空戦闘に優れますが、違いは「複縦陣」は砲撃戦寄り、「輪形陣」が護衛向きといったところです」

 

「えっと……つまりは敵に航空戦力があったら使う方がいい陣形ということですか?」

 

「はい。その認識で大丈夫です」

 

 対空戦闘に向いている二つの陣形のそれぞれの違いを説明すると彼女は理解してくれたようだ。

 大まかな使い方と使いどころが分かってくれれば、後は二つの陣形の使い分けは経験で分かってくれるだろう。

 

「でも、どうして今回は「複縦陣」を?

 その……安全に行くのなら「輪形陣」の方が……」

 

 山田さんは今回、航空戦力を有する敵がいる中で、「複縦陣」を選んだ理由を訊ねてきた。

 彼女の言う通り、安全を優先するのならば防御向きの「輪形陣」の方がいいだろう。

 

「いいえ、今回はむしろ「複縦陣」の方が安全です」

 

「え!?」

 

 今回の様な状況では「複縦陣」の様な攻めの方がかえって安全になる。

 

「今回は比較的に敵の戦力が少ないです。

 こういった時は早めに相手を叩いておいた方が味方の損害が少なくて済みます。

 むしろ、下手に時間をかけると敵に反撃の機会を与えて思わぬ被害を被ったり、増援による挟撃の危機にも晒されます」

 

「な、成る程……」

 

 防御は確かに重要だが受け身がちになってしまう。

 確かに一局面や味方の救援が期待できる状態、相手の継戦能力のない状態では防御による長期戦が理にかなっている時もある。

 しかし、戦場やそれらを内包する戦役は流動的だ。

 しかも、相手は無尽蔵の兵力差を持つ「深海棲艦」だ。

 そんな相手に持久戦はジリ貧になり自殺行為だ。

 受け身とは相手に付け入る隙を与えるということでもある。

 そのことから早めに敵を倒しておけば味方の被害を減らすことにもなる。

 何よりも一番危険なのは目の前の敵と他方から訪れる敵による挟撃だ。

 そうなれば、一気に味方は窮地に陥る。

 先に叩けるのならば一気に叩く方が却って安全なのだ。

 

「はあ……私ってやっぱり……」

 

 山田さんは自分の認識が甘いと思ってしまったのか、再び落ち込んだ。

 

「いえ、山田さん。

 それはよくあることです」

 

「え?」

 

 私は直ぐにそれを止めた。

 

「戦いにおいて慎重になるのは当たり前です。

 何よりも生命の重みを理解しているあなたがそれを優先したがるのは無理もありません」

 

 山田さんは少しでも味方に損害、いや、艦娘が傷付くことを恐れ、それを防ぎたいが為に慎重になりがちだ。

 それは将として大切なことだ。

 将にとって大事なことは先ずは生命の価値を知ることだ。

 それを知ることで軽率な真似はしなくなる。

 

「ですが、同時に選ぶことから逃げてもいけません」

 

「!?」

 

 しかし、だからと言って常に慎重な手しか打たなくなるのも問題だ。

 

「時には非難されることがあっても一か八かの賭けに出なければならない時もあります。

 阿武隈さんたちの様に」

 

「……え」

 

「………………」

 

 私は阿武隈さんたちが起こした「キスカの奇跡」が起きるまでの過程を例に出した。

 

「……山田さん。

 私たちね、あの作戦で一度救出に失敗したの……」

 

「は、はい……それは……」

 

 「キスカの奇跡」は阿武隈さんたちは一度は失敗している。

 

「……作戦成功……

 うんうん……犠牲者なしで撤退を成功させるためには濃い霧が必要だったんだけど……

 一度目の出撃時に晴れちゃったの……

 それで、一度目は引き返したの」

 

 普通ならば撤退作戦で犠牲者が出ないという事はあり得ない。

 

「……そしたら、周りから『見殺しにするのか!!』とか言われちゃったんだ……」

 

「!?」

 

 阿武隈さんたちは一度目の作戦の失敗で自分たちに向けられた心ない、いや、感情的になったことで生まれた罵倒を告白した。

 あの一回目の失敗で帰還した彼女たちを迎えたのはそういった非難の言葉だった。

 何も知らない人たちからすれば、彼女たちはキスカ島に残された陸軍の兵士たちを命惜しさに見捨てたと思われたのだ。

 事情を知らない人間はどうしても感情の方が先走ってしまう。

 仮令、それが誰よりも多くを助けたいと思って選んだ選択肢でもあってだ。

 

「そんな……」

 

 山田さんは阿武隈さんたちが受けた言った本人たちにとっては義憤なのだろうし、優しさから来たであろう数々の暴言について衝撃を受けていた。

 結果的に多くを助けたいと願い行動した。

 しかし、それでも理解を得られず非難されることもある。

 加えて、その助けたいという意思の存在すらも否定される。

 それがどれだけ辛いのか山田さんは阿武隈さんの表情から多少感じるしかなかった。

 

 本当の痛みは両方を知らないとわからないんですよ……

 

 責任ある立場の人間は常に選択肢を求められる。

 そして、その選択には常に痛みが付き纏う。

 ただ、それを理解してもらえないだけなのだ。

 

「山田さん。

 提督に推した私が言うのもどうかと思いますが、選ぶことから逃げることだけはしないでください」

 

「!」

 

 私は山田さんを推薦した。

 だからこそ、私が言わなければならない。

 最初からもう一つの選択肢を度外視した選択と決断はそれは思考の放棄であり生きることへの諦めだ。

 確かに考えないで済むのは楽な生き方だ。

 しかし、その痛みから逃げ続けた先にはろくなものが残っていない。

 安全ばかりを考えるのも、勝利しか求めないのも結局は道のりが違うだけで行き着く先は同じなのだ。

 だからこそ、考えることと選ぶことを止めてはいけないし信念を言い訳にしてはいけないのだ。

 

「……それと、考えることを止めなければ何処かで突破口は見付けられます」

 

「……!!」

 

「うん」

 

 何よりも選ぶことを捨て考えることを辞めるという事は自らの責任を放棄し、諦めへの道となり全てを捨ててしまうのだ。

 だからこそ、「諦めてはならない」のだ。

 自棄も楽観的な現実逃避も変わらない。

 自分を捨てて、背負うことから逃げているのも同じなのだ。

 

「……これも私が言うべきじゃないのは分かっています。

 これから、あなたには様々な選択を迫られ辛い思いをする時が訪れ続けます」

 

 自分から彼女にこの役目を任せたというのに押し付けがましくムシのいい言葉をぶつけている自覚はある。

 でも、そんな私だからこそ彼女に事実を伝えなくてはならない。

 

「ですが、その度に諦めずに考えることを放棄しなければ必ず展望は開けます」

 

「………………」

 

 本当の意味での「諦め」とは考えることをやめることだ。

 そうなれば希望は潰えてしまう。

 それだけは絶対に避けなくてはならないことだ。

 

「……わかりました」

 

「山田さん」

 

 彼女は私の意思を汲み取ってそう応えた。

 いや、違う。

 私だけではなく、他の艦娘たちの意思も受け取ってくれたのだ。

 

 ……山田さんは本当に有望ですね

 

 私は皮肉ではなく本当にそう感じた。

 普通、自分たちが傷付く指令を出す指揮官等誰もが厭う。

 しかし、山田さんは逆だ。

 むしろ、勝たせたいと願い、彼女が震えているとそれを止めたいと思えてしまう。

 彼女には安心感があるのだ。

 兵士にとっては最悪なのは自分たちのことを省みてもらえないということなのだ。

 山田さんにはそれが感じられないのだ。

 

 だから、任せられます

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