奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
すみません
「戦闘海域の安全を確保。
進軍の是非を問われてます。
艦娘の皆は無事だよ!」
「本当ですか!?
よかった~……」
扶桑さんからの通信を受けて艦娘が全員無事であることを知り、山田さんはホッとしていた。
どうやら今度は初めての航空戦力を有している艦隊との艦隊戦に不安になっていたらしい。
いい指揮官になります……
私の知る限りでは最も理想的な指揮官は神通さんだが、山田さんの様な人も私もそうだと考えている。
初の作戦で常に慎重になれる人は稀だ。
大抵の指揮官は高揚感ではなく、興奮で冷静でいられなくなり暴走する。
少なくても現実を見てそこから逃げない山田さんは優れているだろう。
「阿武隈さん。
艦載機の方は?」
山田さんの適正を改めて感じながら、私は阿武隈さんに艦載機の被害について訊ねた。
「……二機だけ未帰投だって」
「……そうですか」
「?」
それを聞いて私は瞠目した。
こうなることは分かっていた。
そして、この世界に来てから幸いなだけであってこれが当たり前なのだ。
「あの……どうしたんですか?
艦載機が重要なのはわかりますけど……
その……何か問題でも?」
山田さんは私たちが重くなっていること理由が分からないらしい。
いや、正確には知らないのだ。
彼女にとっては艦載機は恐らくセシリアさんのブルー・ティアーズと同じものに見えるのだろう。
だから、この温度差も仕方がない。
「いえ、まだ空母の二人が健在なので大丈夫です」
「え?」
私はまだ大丈夫であることを伝えた。
「まだ……?
あの、それって……一体?」
私の言い方が気になり山田さんは深く訊ねようとした。
「……艦載機には妖精さんたちが乗っているんですよ」
「……え?
妖精……さん?」
私の発言に山田さんは呆気に取られた。
どうやら「妖精」という単語に彼女はかなりの違和感を抱いているらしい。
「あの……それって何かのコードネームですか?」
彼女は妖精さんの名前を何かしらの別名だと思ったらしい。
ただそれは当たり前かもしれない。
あ……そう言えば刀奈さんと布仏さん以外には話してませんでしたっけ?
よく考えてみれば、この世界で妖精さんについて語ったのは刀奈さんだけであることを思い出した。
元々、この世界に妖精さんがいる訳ではないので説明をする必要と方法がなかったので仕方なかったことだが、完全に失念していた。
「いえ、妖精さんです」
「え?あのそれは一体?」
「妖精さんは妖精さんです。
小人みたいな人たちです」
「えぇ!?
そんなファンタジーな!?」
私が妖精さんの説明をすると山田さんは狼狽えた。
どうやら英国などの伝承やおとぎ話に出てきそうな羽の生えたものを想像しているらしい。
「あ、いえ……そう
流石に羽とかは生えてませんよ?」
「あ……そうなんですか……」
念のために私は彼女がしているであろう誤解を解いておいた。
山田さんは少し落ち込んでいた。
『あの……進撃の是非を……』
「あ、すみません。
山田さん、進撃させてください」
「は、はい!
ごめんなさい!
進撃してください!」
『わかったわ』
本当なら妖精さんのことをもう少し詳しく話してから山田さんの判断を仰ぎたかったが、この作戦は速さが求められるため今回はあえて私が言う形で進撃の指示を出してもらった。
「あの……雪風さん……
結局、妖精さんと言うのは?」
彼女は指示を出し終えると私に改めて妖精さんのことについて訊ねてきた。
「はい。
妖精さんはこれぐらいの手の平に乗せられるぐらいの大きさの人で私達艦娘の戦闘補助や艦娘の装備の強化や製造などには必要不可欠な方々です」
「へえ……
すごい大切な人たちなんですね……
あれ?でも、見かけないような……?」
私がざっとした説明をすると妖精さんの重要性を理解してもらったが、同時に彼女たちを見ていないことへの疑問を抱いた様子だった。
「えっと……
どうやら、この世界に来てくれているのは艦載機や甲標的の妖精さんたちだけで……
それと妖精さんは普通の人には見えないんですよ」
「え?それって…」
それを聞いた途端、彼女は少し訝し目になった。
彼女がそう思うのも無理はない。
実際、私たちの世界でも軍の上層部の中には妖精さんの存在を疑う人間もいた上に、そもそも存在すら否定していた人間もいた。
彼女のは反応は尤もだ。
「はい。ですから、妖精さんが見える人は妖精さんたちに認められたこととなり、艦娘の提督である素質があることになるんです」
「えぇ!?
でも、それじゃあ……私!?」
「えっと、山田さんが提督代理なのはそういうことです」
「な、成る程……」
私は同時に彼女がどうして今、提督ではなく提督代理である理由も明かした。
艦娘の提督になるには妖精さんの存在を認識する必要がある。
ただそれが原因で妖精さんの存在を頑なに認めない人間もいたのも事実だ。
傍から見れば深海棲艦を打倒することの出来る可能性が最も高い艦娘。
その指揮官になれるということは英雄になれると思う人間も多くいただろう。
しかし、それには妖精さんの存在を知覚しなければならない。
妖精さんという自分に近く出来ないあやふやな存在を見ることが出来る選ばれた司令たちにやっかみを持つ人々が出るのも必然だった。
その為、信じたくない人間もいたのだろう。
……でも、磯風や浜風の命を奪った事は許しませんよ……
理解は出来ても彼らに同情する気はなかった。
彼らはただ艦娘の提督に選ばれなかったという屈辱から生じる劣等感から司令を妬み、彼に協力しないどころか私の愛する妹たちまで奪ったのだ。
一夏さんも下手をしたらそうなっていたかもしれませんね……
私は一夏さんが男性で唯一、「IS」を扱えたという点に司令と似た境遇になっていた可能性を感じた。
たったそれだけで彼は世界中から注目を集め、そして、「IS学園」に入学というこの世界の人間にとっては特別待遇と「専用機」という特権を得た。
周囲からの嫉妬を持たれるには十分、過ぎる理由だ。
「あれ……?
でも、艦載機には……?」
「………………」
どうやら彼女も気付いたらしい。
「……はい。
当然ながら乗っています」
「!?」
私は本来ながら追撃の指示を出す前に言いたかった、いや、言うべきであった事実を突き付けた。
それを聞いて彼女は顔色を変えた。
「す、すぐに助けないと……!!?」
彼女は考えるよりも先に救助の指示を出そうとした。
「……ダメです」
「!?
雪風さん!?どうして!?」
私は彼女を制止した。
「……一隻と一機とでは優先順位が違い過ぎます。
ここで探し続けて人員を割けば艦隊の戦力は一気に落ちます」
「!?」
私は自分でも嫌になる発言をした。
もしこれが船一隻分の人間が対象になるならば作戦の成功率が少しでも下がるとしても救助を急がせるべきだろう。
しかし、一機となればそれは別だ。
これが数日間に亘る作戦で広い範囲での戦いならば救助する余裕がある。
けれども、今回の作戦では一機を助ける為に艦隊全体の行動を遅らせる余裕がないのだ。
「……山田さん。
これが戦争です。
誰も死なない戦いなんてないんです」
「!?」
私は早いと思ったが言うしかないと告げた。
誰も死なない戦争なんてどこにもない。
だからこそ、平和は尊い。
山田さんは今まで私達艦娘しか知らなかった。
艦娘が無事であることに安堵している彼女にこんなことを突き付けるのは間違っている。
けれども、後で知らされて後悔する方がこの人は苦しむと私は感じたのだ。
「……あと、艦載機が回収出来て翔鶴さんと加賀さんが無事なら生還は可能です」
「……!
本当ですか!?」
「はい」
しかし、私はそれでももう一つの事実も伝えた。
艦載機等の妖精さんは母艦と機体が無事なら資源があれば生還出来る。
そこだけは私にとっても救いでもある。
「ですが、あくまでも機体が無事であることが条件です」
「……!?」
山田さんなら問題ないと思うが、私は自分自身への戒めを込めて決して絶対ではないと告げた。
訓練中はどうやら本気ではない為に機体が壊れても妖精さんたちは無事らしいが、実戦ではそうではない。
「……わ、私は……」
山田さんは震え出した。
当たり前だ。
何時の間にか、味方が撃墜、いや、戦死しているかもしれない。
それも自分の指揮している艦隊でだ。
責任を感じてしまうのは無理もない。
「……いえ、山田さん。
今回はあなたの責任ではありません」
「え……」
私は彼女に言うべきことがあった。
「彼女たちの救助よりも作戦を優先したのは私です。
ですから、今回のことは私に咎があります」
「雪風さん!?」
私は自分が彼女に進撃する様に告げたことから、今回の件に関しては私に咎があると彼女にはっきりと告げた。
彼女は今の事実を知らなかった。
その状況で彼女を動かしたのは私だ。
ならば、その咎は私にある。
……そんなことで救われるものや意味がないのも百も承知ですが
結局のところ、失われた命が帰ってくるわけではない。
私はただそれしか妖精さんたちに報いることが出来ないと思ったからそうしているだけだ。
それで何かが変わる訳でもないが、それは私の義務だ。
「無理ならしばらく休んでいても大丈夫ですよ」
「……!」
今の山田さんの状態を見ると彼女にこれ以上の指揮を強いる訳にはいかない。
後で知ることになることとは言え、誰かの、味方の死を知った彼女にこれ以上の心理的な負担をかけさせるわけにはいかない。
……不知火姉さんが陽炎姉さんを慕っていた理由がわかります
私は今のこの状況を考えて陽炎姉さんを強く慕っていた不知火姉さんの気持ちが理解出来た。
陽炎姉さんがもし、今の山田さんの立場なら、恐らく今のことを知ってもなお前に進もうとする。
それも私の忌むべき恥知らずな参謀たちと異なり本当の意味で背負いながら周囲を励まして。
そんな彼女と共に在り続けたからこそ、不知火姉さんも強く惹かれたのだ。
「……いえ、大丈夫です。
やらせてください」
「!?」
「山田さん……」
でも、山田さんは私の想像以上のことをしてきた。
これには私だけではなく阿武隈さんも驚愕させられた。
「……ありがとうございます。
雪風さん、大丈夫です」
「………………」
私は本当の意味で山田さんに驚かされた。
ある程度は山田さんのことは信じていた。
しかし、それでもこんなにも強いとは思っていなかったのだ。
少し、休ませてからならば立ち直れるとは思っていたが、まさか、直ぐに向き合えるとは思わなかったのだ。
「……わかりました。
よろしくお願いします。
それと……ごめんなさい」
私は山田さんに指揮を任せることを願うのと同時に不意打ちに近い形で彼女の心を傷付けたことへのお詫びをした。
「いいえ。
大丈夫です」
山田さんは強くそう返した。
……本当に強い人です
改めて私はそう感じた。