奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第42話「それぞれの戦い」

「みんな、「単縦陣」よ!

 いい?」

 

『ええ』

 

『はい!』

 

『分かりました』

 

『はい』

 

『うん!』

 

 私は今回の作戦で二回目となる「単縦陣」による戦闘。

 皆は前と同じ様に声を出したが、その声色はさらに緊張感が増していた。

 

 ……やっぱり、戦艦とヲ級以上の敵が来ると緊張するわね

 

 全員がこんなに緊張するのは敵に戦艦がいるのが理由だ。

 一撃でこちらを戦闘不能にまで追い込む可能性のある存在。

 警戒しないはずがない。

 

 でも……それだけじゃないのよね

 

 しかし、私達が気を引き締めているのはそれだけではない。

 

 山田さんを勝たせたいのよ……!

 

 

 もう一つの理由。

 それは山田さんを勝たせたいからだ。

 元々、この作戦の始まりからそう思っていたが、先ほどの意思を聞いてそれが一層高まったのだ。

 

 あの人が出してくれた勇気を無駄にはしないわ……!

 

 山田さんは勇気を出してくれた。

 私達は少ししか接していないが、彼女が優しいのは分かる。

 そんな彼女が誰かを傷付けるかもしれないことへの不安や恐怖に耐えながら出してくれた勇気。

 その勇気を絶対に無駄になどしたくないからこそ、私達は戦う。

 そして、彼女の勇気が間違っていないことを証明したい。

 それが今の私達を後押ししている。

 

「加賀!翔鶴!」

 

『出来ているわ……

 翔鶴』

 

『はい!』

 

 私は戦艦の動きを封じる初手である二人に最早、頼り切りになってしまっているが、声を掛けた。

 加賀は冷静だが、意識が高揚しているのが感じ取れ、そして、それに続こうとしている翔鶴も同様であった。

 

『第一次攻撃部隊、いきなさい』

 

『翔鶴、続きます!』

 

 先鋒と既に決まっている航空戦力が向かって行った。

 

 いつもごめんなさい二人とも

 

 私は心の中で二人や駆逐艦たちに詫びた。

 戦いにおいて機動力が重要となってくることからどうしても一番槍は航空戦力か駆逐艦だ。

 一番槍は殿軍を除けば、最も危険な役目だ。

 しかもただ危険という訳ではなく、勝っても負けても最初に死者が出る危険がある。

 

 空母にとっては艦載機は我が子同然……

 

 私も瑞雲を多少使っていることから分かるが、空母にとっても艦載機やそれに乗る妖精さんたちは大切な存在だ。

 戦いの度に彼女たちが死ぬかもしれない。

 辛い役目だろう。

 

 でも、そうしないと勝てない……!!

 

 けれどもそうしなければ勝てない。

 勝たなければ守ることが出来ない。

 山田さんが覚悟を決めたのだ。

 ならば私達もそれに応えなくてはならい。

 

 始まったわね……!

 

 敵の対空戦闘が始まり、周囲に砲撃の音と機銃の音、そして、少しずつ低くなっていく艦載機の音が聞こえてきた。

 敵にとってもこちらが本隊を攻める力を少しで削いでおきたいと決して有効ではなくても仕掛けている。

 それはこちらも同じことだ。

 

 彼女たちだけに任せるわけにはいかないわ……!

 

「皐月!

 加賀と翔鶴をお願い!鳥海と朝潮は私と一緒に!」

 

『うん!』

 

 私は先ほどと異なるが、空母の二人の護衛を皐月に任せ鳥海と朝潮を伴って前進することを決めた。

 旗艦である私が前に出る等、匹夫の勇と言われるかもしれないが、そうしなくては折角の単縦陣の意味がなくなる。

 あくまでも、単縦陣の効果は砲雷撃戦によって発揮される。

 むしろ、空母は的になってしまう。

 その為、水上戦力が率先して相手を叩く必要がある。

 

 でも……これは決して無意味なんかじゃない!

 

 しかし、山田さんの指示は無駄ではない。

 

『敵駆逐艦二隻沈黙!一隻大破!

 軽巡、二隻小破!』

 

 敵に陣形の効果はなしと見ていいわね……!

 

 既に敵の陣形は意味を為していない。

 第一次攻撃部隊による雷撃と続く爆撃は艦載機を持たない敵に大打撃を与えた。

 その結果、敵は回避行動をとらざるを得なくなり、砲撃戦を満足に行える状態ではなくなった。

 

 いける……!

 

「行って!瑞雲!」

 

 私はもう一つの主力の武器である瑞雲を放った。

 水上爆撃機であると同時に観測機の役目を瑞雲は果たす。

 これで全ての条件が整った。

 

「主砲!副砲!撃てぇ!」

 

 私は敵のル級に向かって接近しながら通常の砲撃を仕掛けた。

 敵は私の砲撃に気付いているが、それでも爆撃への回避に注意を傾けざるを得ず、反撃することは不可能であった。

 

「―――!!」

 

 先ずは一撃……!!

 

 主砲は外れたが、副砲は命中した。

 ル級は右腕に損傷を負い、その戦力を完全に活かせなくなった。

 

「―――!」

 

「―――!」

 

 旗艦の危機に随伴艦である二隻のホ級が私に向かってきた。

 

 仲間意識か、本能なのか……

 

 「深海棲艦」が何を考えているのかは分からない。

 あれは巣を壊されそうになった蜂が見せる様な防衛本能に似たものなのか、仲間を想っての行動のどちらなのだろうか。

 ただ、二つ解かることは敵わない相手にでも挑んでも勝ちを諦めないということだ。

 

 でも……既に……!

 

 しかし、既に勝利は決まっていた。

 

「鳥海!朝潮!

 お願い!」

 

『『はい!』』

 

 私は既に控えていた二人に前に出ることを求めた。

 

 三川艦隊と二水戦……

 伊達じゃないわね

 

 軽巡二隻に駆逐艦と重巡。

 単純に考えれば、後者は兎も角、前者は負けてそうにも思える。

 しかし、朝潮も鳥海もそんな単純な考えに当てはまる様な艦娘ではない。

 

『甘いです……!!』

 

「―――!?」

 

 朝潮はあの「二水戦」、神通の教え子だ。

 それも彼女が期待を寄せていた雪風とは違う意味での陽炎と並ぶ愛弟子だ。

 ただ一回り、艦級が上というだけで危ういはずがない。

 その証拠に彼女は次々と軽巡の砲撃を危うさもなく回避し続けている。

 

 雪風は時雨と同じ様に直前……

 朝潮は余裕ということね

 

 天才といえる雪風は天性の回避力と一見、そうは思えないが信じられない頭の回転で直前に起きた出来事への対処を可能とする人間や艦娘離れした戦いで相手に無理矢理隙を作る。

 対して、朝潮は常に危なげのない戦いを意識して余裕を持った戦い方をする。

 結果、敵の軽巡の攻撃はかすることもなく、外れていく。

 

 対して、鳥海は……!

 

『よぉく、狙って!』

 

「―――!?」

 

 重巡であることの利点、戦艦に次ぐ射程を持つことで相手を近付けさせないうちに倒す。

 しかも、その戦い方には全く隙が無い。

 相手が避けたと思えば、すかさずそこに撃ち込んでいく。

 

 夜戦だけが三川艦隊の強さじゃないということね……

 

 鳥海はあの三川艦隊の中心だ。

 第一次ソロモン海戦において一方的に勝利を収めたあの艦隊の。

 しかし、ただ夜だけ強いという訳ではない。

 通常の艦隊戦でも強いということがわかる。

 

 「二水戦」と「三川艦隊」……

 よく考えてみなくても、とんでもない面々ね……

 

 今更ながら、「二水戦」と「三川艦隊」に所属していた二人がいることに私は驚かされた。

 加えて、「一航戦」までいる。

 もうこれ以上の戦力を求めるとすれば、経験を積み終えた武蔵を投入するぐらいしかないだろう。

 

 でも、私も負けられないわね……!

 そうでしょう、山城、皆……!!

 

 彼女たちが誇る名前を持つ様に私もまた西村艦隊の一員だ。

 愛する妹や戦友たちに応える様に私も攻める。

 

「―――!!」

 

 ボロボロになっても向かってくるわね!

 

 既に大破状態になっている駆逐艦が少しでも私の接近を遅らせようと私の前に立ちはだかった。

 私を足止めすることでル級の離脱か、反撃の時間を稼ごうとしているのだろう。

 

「でも……航空戦艦の武器は主砲と副砲だけじゃないのよ!!」

 

 しかし、それは無意味だ。

 何故ならば、既に彼女たちは飛んでいる。

 

「―――!?」

 

 イ級は上空からの爆撃でトドメを刺された。

 そう。何も私達の武器は自慢の主砲や副砲だけではない。

 私達、航空戦艦の武器は水上機も含まれている。

 

 日向だったら今のをにやけながら喜びそうね……

 

 もし、今のが日向だったら彼女は瑞雲のことを仕切りに自慢し尽くすだろう。

 しかし、足りないトドメを行ってくれる。

 それもまた瑞雲の強みだ。

 

「―――!!」

 

 イ級の残骸の後ろでル級が吠えた。

 それは仲間が倒れたことへの怒りか、それとも反撃を行うことへの咆哮なのかはわからない。

 

「……もう、遅いわ」

 

 既にそれは遅かった。

 確かにイ級の存在で私の前には一瞬、死角が生じただろう。

 しかし、今この場においては私の目は両の目に付いているものだけではない。

 

「狙いは既に教えてもらっているわ!!」

 

「―――!?

 

 私は自慢の主砲と副砲で、もう一つの自慢できる存在である瑞雲が教えてくれたル級の位置に砲撃を叩きこみ、ル級にそれが直撃したのが感じ取れた。

 観測機の役割は「弾着観測射撃」によって相手に大打撃を与えることだけではない。

 相手が死角になって見えないところにいても、それを教えてくれる目にもなってくれるのだ。

 そして、戦艦や巡洋艦はそこに叩き込むのだ。

 

「扶桑さん!」

 

「二人とも、無事みたいね?」

 

 私は今回の戦闘における最大の懸念を打ち破った後、後ろから近付いてきた鳥海と朝潮の無事を訊ねた。

 

「はい!

 こちらは相手の射程の外から撃ち込んでいたので」

 

「愚門だったわね」

 

 やはり、鳥海は危うくもなく軽巡を倒したらしい。

 古い例えであるが、油断のない鳥海は桶狭間で奇襲の効かない今川軍の様なものだ。

 負けることが難しいだろう。

 

「朝潮は……」

 

 対して、朝潮の方を見ると

 

「はい!

 この通り、大丈夫です!」

 

 鳥海と同じく全く問題はなかった。

 

「……すごいわね」

 

 私はそう言うしかなかった。

 時雨や朝潮と同じ二水戦で彼女の妹である満潮を見てきたことから、駆逐艦には何人かの格上殺しがいるのは理解しているつもりであるが、ここまでとは改めて驚かされた。

 

 流石はあの三人の姉ね……

 

 私は西村艦隊で共に戦った彼女の三人の妹を思い出した。

 納得のいく強さだ。

 

「いえ、神通さんと比べればこの程度!」

 

「……そうね」

 

 朝潮には傷がなかった。

 恐ろしいことに朝潮は軽巡相手に完勝したらしい。

 彼女は神通と比べると今回の敵は弱いと言ったがそれは納得だ。

 神通の訓練には付き合わされた山城ですら泣きそうになっていた。

 

 ……満潮、朝雲、山雲……

 あなたたちの姉は強いわね

 

 私は彼女の妹たちにそう呟いた。

 あの強い三人の姉だと言うことに納得がいった。

 朝潮が不覚を取ったのは仲間を助ける為だったということも聞かされているだけに本当に強い子だ。

 

「山田さんに入電するわね」

 

「はい!」

 

 私は今回のことで心配しているであろう山田さんに連絡を入れることを決めた。


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