奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第43話「何処にいる?」

「入電です。

 敵艦隊、殲滅。

 艦娘は無事です!」

 

「……そうですか……

 良かったです……」

 

「……はい」

 

 扶桑さんからの報告が入り、艦娘の無事と敵艦隊の殲滅が確認できた。

 彼女たちのことだから、遅れを取ることはないと思っていたが、それでも戦艦という重い一撃を放ってくる相手がいたこともあり、多少は不安だったが安堵した。

 

 山田さんの決意を無駄にしないで済みました……

 

 私は扶桑さんたちの活躍で山田さんの決意が無駄にならなかったことに安堵した。

 今回、初めて彼女が選んだ選択なのだ。

 それが苦い結果になることだけは避けられた。

 

「山田さん。

 先ほどの決断は間違っていませんでした」

 

「え!?そ、それは……」

 

「うん」

 

「うぅ……でも……」

 

 私達は艦娘が無事であっても妖精さんたちのことを考えて、自らの判断が誤っていたのではないかと考える山田さんに間違っていなかったことを伝えた。

 彼女の判断は決して間違ってなどいなかった。

 仮に慎重になって「輪形陣」を使っていたら、その分船速は鈍り、戦闘も長引くことで戦艦による一撃を受けて誰かが中破かそれ以上の被害を受けていた可能性もある。

 そう考えると彼女の下した「単縦陣」の指示は間違ってなどいなかった。

 

 ただ……結果が伴って良かったです……

 

 私は今回の彼女の決断に結果が伴っていて良かったと感じた。

 もし、今の戦闘で誰かが、特に装甲空母ではない加賀さんが中破以上に追い込まれていたら、一気に作戦の成功の可否にまで追い詰められていた。

 

 結局、どっちが正解かなんかという明確な答えがある訳じゃない……

 でも、結果によって決まる……

 

 今回の作戦には当然ながら失敗する可能性も存在していた。

 もし失敗していたら山田さんは全て自分のせいにしていただろう。

 

 恐らく、彼女の過去に何かしらの原因がありますね

 

 山田さんが自信を持てないのはそれが原因だろう。

 彼女自身は教えられた基本を確りと守り、加えて決して増長しない。

 その時点で十分過ぎる程に優秀だ。

 しかも、全ての自分の決断に責任を感じ、そこから逃げだそうとしない。

 しかし、それこそが彼女最大の弱点でもある。

 必要以上に物事を抱え込んでしまい、自信を持てなくなる。

 

 それと神通さんと織斑さんを比較対象にし過ぎなんですよね……

 

 彼女の優しさ以外に原因があるとすれば、それは彼女の近くに規格外の天才がいたことだ。

 文字通り最初の「世界最強」と名を馳せた織斑さん。

 そして、その織斑さん相手に互角に渡り合い続けた神通さん。

 そんな二人の傍にいれば否応なしにも自分が劣って見えてしまうものだ。

 むしろ、劣等感のあまり歪まなかったのを評価されるべきだ。

 

 あの二人が凄過ぎるだけで山田さんも十分、すごいんですよ……

 

 本当に山田さんは色々ない意味で不憫だ。

 

 神通さんが同僚って……割と大変かもしれません……

 

 上官が神通さんならば、安心するが同じ立場ならばそれこそ劣等感を感じるかもしれない。

 

「山田さん。

 どうします?進撃しますか?それとも撤退しますか?」

 

 私は彼女に訊ねた。

 今、この場で彼女は提督だ。

 それももう少しすれば、名実共に提督の第一歩を踏む。

 だからこそ、彼女に次々と判断を仰いでいく。

 そうすることで彼女に判断することになれてもらう。

 

「わかりました。進撃を」

 

「……!はい」

 

 今のやり取りで着実に彼女がその力を見せているのが私には見えた。

 既に彼女はその片鱗を垣間見せていた。

 

 

「今日なんだな……」

 

「そうね……」

 

「いや、正確には今、この瞬間も……」

 

「どうなってんだろ……」

 

「お姉様ならば万が一にも不覚は取らないとは思うが」

 

 俺たちは恒例となった訓練に入る前に今日、いや、あの海で繰り広げられている戦いにそれぞれが考えを巡らせていた。

 最早、特訓という言葉すらこの世にないと思えるほどに毎日訓練をしているが、今日はそんなことを忘れてしまうほどだった。

 

「おう、どうした?

 元気がねぇな」

 

「……いや、その……」

 

 俺たちが雪風が戦っているかもしれないという考えの中にいると、天龍さんが声を掛けてきた。

 

「あの……天龍さんは心配じゃないんですか?」

 

「ん?何がだ?」

 

 俺たちは天龍さんがいつも通りなのを気にして訊ねた。

 何も知らない俺達が訊ねるのもおかしい気がするが、彼女が平然とまでは言わないがどうしてそこまで平気そうなのか不思議だったのだ。

 普通、仲間が命を懸けて戦っているというのにそこまでいつも通りでいられるのだろうか。

 

「まあ、心配してないって言うのなら嘘だな。

 今回は初めて扱う装備で戦うんだ。

 もしかすると、何かしらの不具合が生じるかもしれねぇ。

 そこら辺は心配だな」

 

「え?そっちですか!?」

 

「皆さんのことはどう思っているんですか?」

 

 

 天龍さんの見解に俺たちは呆気に取られてしまった。

 確かに彼女たちからすれば、多少違和感のある装備である「IS」を使うことへの不安はあると思う。

 しかし、心配をするのなら普通、仲間に対してじゃないのだろうか。

 

 

「ま、そうだな。

 確かに少しは心配する。

 だがな、今回戦っている面々だと思う奴らを考えるとあまりそこら辺は心配しねぇんだよな」

 

「?」

 

「え!?

 出撃しているメンバーを知らないんですか!?」

 

 天龍さんの口から出た彼女が今回出撃してる艦娘を知らないと言う事実に俺たちはまたしても驚かされた。

 

「当たり前だろ?

 何だお前ら?

 んなの作戦会議に出ていない俺達が知っていたらそれこそやべぇだろ?」

 

「え?」

 

「天龍さんの言う通りだな」

 

「ラウラ……?」

 

「どういうこと?」

 

 俺たちが天龍さんの反応に困惑しているとラウラが彼女の発言を肯定した。

 

「……情報が相手に知られる。

 それを警戒しているんですね?」

 

「「「「!?」」」」

 

「そうだ。

 わかってんじゃねぇか」

 

 ラウラの説明で彼女が編成を知らない理由を理解した俺たちは衝撃を受けた。

 

「情報って……

 敵は―――」

 

 鈴は敵に情報が漏れることへの危険性に少し懐疑的だった。

 確かに人間なら兎も角、相手はそういったことが出来そうにない「深海棲艦」だ。

 そんな相手に情報を隠す必要があるのだろうか。

 

「敵を舐め過ぎだ」

 

「―――!?」

 

 天龍さんは右目を鋭くしてそう答えた。

 そこにはいつも口調が男勝りであるが、朗らかさを垣間見せている姐御気質独特の親しみやすさはなかった。

 

「いいか?

 世の中には狩りをする動物がいるだろ?

 連中は確かに人間ほど戦術に秀でている訳じゃねぇ。

 だがな、アイツらだって先回りして相手を追い詰めたり、待ち伏せしたりする事だってあるだろ?」

 

「「「「!?」」」」

 

 天龍さんの説明に俺たちは息を呑んだ。

 確かに動物の中にだって、ただ獲物を追いかけるだけじゃなく先回りするものもいる。

 そう考えると「深海棲艦」が先回りしてくることだって十分考えられる。

 

「それに連中は近代兵器を使ってくる。

 十分、その可能性は考えらえる。

 注意しねぇと足元掬われるぞ」

 

「「「「「はい……」」」」」

 

 天龍さんの念押しに鈴は、いや俺達全員が肝に銘じた。

 確かに動物だってそうなんだし、兵器を使ってくる「深海棲艦」が情報を有効に使ってくることは十分考えられることだ。

 

「それとお前らは少し他人事だと思ってる節があるぞ」

 

「え!?」

 

「そんな訳ないでしょ!?」

 

「そうですわ!!」

 

「僕たちだって……!」

 

「どういうことですか!?」

 

 天龍さんのまるで俺たちが能天気だと言っているような発言に全員が憤慨し噛みついた。

 俺たちが他人事とはどういうつもりだろうか。

 俺たちは雪風のことを心配している。

 なのに他人事というのは納得が出来ない。

 

「あのなぁ……

 仲間の心配をするのはいいが、周りを見てみろ?」

 

 

「「「「「?」」」」」

 

 天龍さんは少し呆れ気味に俺たちに言った。

 一体、どうしたというのだ。

 

「……あ!?」

 

「シャル?」

 

「どうした?」

 

 その直後、シャルが何かに気付いたらしい。

 

「どうやら、デュノアは気付いたらしいな。

 言っておくが、お前らは既に半分戦場にいんだぞ?」

 

「え!?」

 

「それはどういうことですの!?」

 

 シャルが何かに気付くと、天龍さんは俺達が既に半分以上、戦場にいると言ってきた。

 どういう意味だろうか。

 少なくても、訓練を受けているとかの心構えではなさそうだ。

 

「お前ら、ここは何処だ?」

 

「……「IS学園」じゃ?」

 

 天龍さんにそう問われて俺はそう答えるしかなかった。

 

「馬鹿。

 そういうことを言ってんじゃねえ。

 『ここが何処にあるのか?』て聞いてんだよ」

 

「何処って……」

 

「それは……」

 

 改めて天龍さんに言われて俺たちは考えようとした時だった。

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 質問の意図を理解し俺たちは驚愕した。

 

「そういうことだ。

 ここら辺は海だ。

 要するに下手したらここら辺も戦場になるってことだ」

 

「そんな……!?」

 

 天龍さんの言う『半分戦場にいる』とは海辺にあるこの「IS学園」もまた「深海棲艦」の侵攻の標的になり得るということだった。

 つまりはここが戦場になるということだった。

 

「他人、それも仲間の心配をすることはいい。

 だがな、自分たちも既に片足突っ込んでることは忘れるな」

 

「……はい」

 

「わかりました」

 

「わかったわ」

 

「はい」

 

「は!」

 

 天龍さんの言葉に俺たちは頭が上がらなかった。

 同時に自分たちの認識が甘かったことも理解させられた。

 

 雪風の帰ってくる場所を壊されてたまるかよ……

 

 そして、それを聞いて俺たちはここも狙われる可能性もあることを実感し、俺達はここを守る義務もあると理解した。

 確かにほぼ強制的に入れられた学園だが、それでも既にここには愛着に近いものが俺には出来てしまっていた。

 何よりもここには雪風が帰ってくる。

 なら、俺たちもそのことを忘れない様にするべきだ。

 

「いい目になったな。

 よし、じゃあ、今回はお前たちには先輩になってもらうぜ?」

 

「「「「「「……え?」」」」」

 

 天龍さんの今回、3度目になる真意が読み取れない質問に俺たちは再び困惑してしまった。


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