奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「……そろそろですね」
「そうだね……」
「?
何がですか?」
最初のル級との戦闘の後、再び別の個体のル級との戦闘を経て艦隊は中心部へと進み、そろそと正念場に近いことを私と阿武隈さんは予感した。
「……来た!
艦隊から入電!
敵艦隊に正規空母の影ありです!」
「!」
「正規空母……!?」
山田さんに私達が考えていたことを告げようとした矢先、扶桑さんからの入電が入り、阿武隈さんが強い口調で敵に正規空母、ヲ級が所属していることが報告した。
「遂に中心部に到達ですね……!」
「え!?そうなんですか!?」
ようやく、この作戦が終わりに近づいていることが決定付けられた。
「はい。
この規模の深海棲艦の海域ならば正規空母が奥で見つかったのならば、そこが中心部です」
「そうなんですか……」
そう。
まだ浸食の進んでいない海域ではその巣の主は空母ヲ級が担っていることが多い。
そのことから、ヲ級が現れたということはどうやら中心まで辿り着いたと考えてもいいだろう。
相当、一週間前の打撃が堪えていますね
中心部に辿りつくまでヲ級に出くわさなかったのは恐らく、一週間前の戦闘で壊滅一歩手前にいったからだろう。
私や金剛さん、シャルロットさん、篠ノ之さんとの戦闘もそうだが、各自が戦った結果、ここまで減らせたのだ。
いけます……!
「山田さん。
ここを乗り切ればこの海域は解放直前です」
「……!はい!」
私は山田さんに最後の一踏ん張りであることを告げた。
「阿武隈さん。
敵の戦力の詳細は?」
「ヲ級二隻、ル級一隻、ホ級一隻、ハ級二隻だよ!」
「!」
「お、多い……」
阿武隈さんの口から出てきた敵艦隊の編成に私はあることに気付いてしまった。
一週間前の……
一週間前の「銀の福音」の件で一夏さんが襲われていた「深海棲艦」の艦隊とこの中心部にいる敵の艦隊の編成は同じなのだ。
まさか……
あれが本隊だった?
私が一週間前に壊滅させた「深海棲艦」。
もしかすると、あれがこの海域における本隊だった可能性がある。
道理で戦力の回復が想像以上に遅れている訳です……
はっきりと感じたが、今回の作戦ではいくら何でもヲ級が少な過ぎた。
本来ならば、一週間前の各自の戦闘を踏まえてもヲ級は兎も角としてヌ級はもう一、二隻はいてもおかしくはない。
しかし、今の情報で確信がいった。
本隊がやられて海域の支配力が著しく弱まったんですね
私達がここまでこれといった苦戦をしないで済んだ理由。
それは「深海棲艦」の支配力が弱まり、増殖能力が落ちていたのも理由だった。
一週間前に倒し切れていたら……
いや、それを言うのは間違ってますね……
私は一週間前の状態ならばこの海域の「深海棲艦」を一掃し、海域を浸食されずに済んだのではと頭に浮かんだが、それを止めた。
あの状況では今の情報は入ってなかったうえにそもそも、それ以外の敵の状態もこちらの体制も整っていなかった。
そんな状態で出撃するのは危険すぎる。
それよりも今は……!
「山田さん」
私は勝利への期待と一週間前の出来事への後悔を感じながらも山田さんに声を掛けた。
「はい!
みなさん。「複縦陣」でお願いします!」
「わかりました。
扶桑さん!「複縦陣」をお願いします!」
『わかったわ!』
山田さんは「複縦陣」を選択した。
それは敵に正規空母が二隻いることからの判断だった。
単純に攻撃面を重視すれば、「単縦陣」でもいいが、それでも。ヲ級がいることを考えれば防御面も考慮しなければならない。
「頑張ってください!!」
「「『はい!』」」
この場にいる私と阿武隈さん、そして、艦隊の面々を代表して扶桑さんが応えた。
この作戦における最後の戦いが始まった。
◇
「皆、聞いた?
「複縦陣」よ!」
『『『『『はい!』』』』』
ヲ級二隻にル級一隻。
それだけでも気を引き締めなければならない状況だ。
しかし、それ以上に私達が気を引き締めなければならない理由があるのだ。
ここを乗り越えればこの海を解放できる……!!
それは目前に存在する勝利だ。
ここで勝つという事は作戦そのものの成功を意味する。
それに気を昂らせない艦娘はいない。
加えて、作戦が成功する意味も大きい。
山田さんを勝たせてあげられる……!
初めて提督役をこなしている山田さんに勝利をもたらすことが出来る。
山田さんは『勝たせてあげたい』と思えた指揮官だ。
本当にそう思える指揮官は稀だ。
そんな彼女の初陣を苦いもので終わらせずに済むかもしれない。
それが今の私達の原動力となっている。
「準備完了!
加賀、翔鶴!
いつも通り、ごめんなさい……けれど!」
『分かってるわ』
『私もです!』
山田さんが下した「複縦陣」の陣形を形成し終え、私は今日四度目となる最後の出撃を加賀と翔鶴に願った。
『いつも通り、皆、お願い』
『第一次攻撃部隊出撃!』
彼女たちも今日、最後となる攻撃を実行した。
彼女たちは同時に先ほど以上の緊張感を以って弓矢である艦載機を放った。
先ほどと異なり、正規空母二隻。
油断をすれば、妖精さんの命と勝敗に関わってくるのだ。
「朝潮!皐月!
お願いね!」
『はい!』
『うん!任せてよ!』
私は今回の艦隊護衛を担っている朝潮と皐月の二人に声を掛けた。
今回の作戦では潜水艦が現れなかったことで雪風の危惧は杞憂で終わり、朝潮は兎も角として皐月の見せ場はなかった。
しかし、今回の戦闘は別だ。
「盾」が必要になる時が来た!
それは今まで攻めがこちらに届くことはなかったが、今からはその可能性があるということだ。
軽空母一隻の敵ならば、ほど完封出来るが、正規空母、それも二隻となるとそれは不可能だ。
倍の戦力がある純粋な機動部隊でもない限りは。
故にこの戦いは空母の二人と同等に朝潮と皐月の二人が重要になってくる。
その役割、「盾」はこの二人だ。
それにとっておきも必要になってくるわね……
同時にこの戦いにおける最大の決定打となる策が完成するまでは二人に粘ってもらう必要がある。
ル級がどう動くか……
ル級がどう動くかによって、私の動きも変わる。
戦艦の対空能力は私もそうだが、並の水上戦力よりは圧倒的に上だ。
となると、ヲ級の傍らにいる可能性もある。
しかし、同時に旗下の駆逐艦と軽巡だけではなく自らも攻めてくる可能性もある。
どっちにしてもとっておきが決定打になるわね
けれども、どちらにしてもこの戦いにおいて取っておきが最大の打撃になることに変わりはない。
ただ使う機会は慎重に見極めなければならない。
『第一攻撃部隊。敵航空戦力と交戦。
状況は七分の勝利と言ったところね』
「わかったわ」
しばらくして、ヲ級二隻が放った航空戦力と此方の攻撃部隊が激突し、此方側が航空優勢を得たことを把握した。
来た……!
互いの影がぶつかった後、敵の半数がこちらに攻め寄せてきた。
やはり、ヌ級の時とは異なり、さばききるのは不可能なのだろう。
「主砲!副砲!
撃てぇ!」
私はヌ級の時と同じく、三式弾を放った。
その後、展開された三式弾の炎によって敵の撹乱に成功した。
「鳥海!」
『はい!』
それを見計らって鳥海と共に前に出た。
ル級は前に出ていない。
相手は守りに入っている。
それはこっちにとっては攻めなくてはならないということだ。
「いきなさい!瑞雲!」
私は航行しながら瑞雲を発進させた。
来たわね……
私達が向かっていくのを見て、敵の艦載機の一部が引き返し私たちを止めようとしてきた。
それを把握して私はしてやったりと感じた。
戦力の二分化は兵法に於いて最悪手の一つよ!
敵の艦載機は私達を追いかけてきた。
しかし、それはつまり、自分たちも追いかけられる側となることだ。
『やっちゃえ!!』
駆逐艦二人だからってあの二人を舐め過ぎよ!!
敵は半分の戦力で加賀と翔鶴を落とせると考えていたのだろう。
しかし、それは余りにも彼女たちを舐めている。
恐らく、背後では皐月と朝潮の二人が加賀と翔鶴の艦載機と共に残っていた敵を壊滅しているはずだろう。
船団護衛を何度も行ってきた二人と一航戦を担った二人に対して、それは明らかに舐めている。
対して、こちらは
対艦の機体には護衛は必須よ!
相手は私達を落とすために艦爆と艦攻を向けてきた。
しかし、それは自殺行為だ。
前に進むだけ……!!
背後で護衛機なしの敵機が次々と撃墜されていくのが感じ取れた。
私達が初戦を制した理由。
それは朝潮と皐月の存在だ。
防空戦闘に優れている二人が空母の傍らにいることでこちらは空母護衛に用いる艦戦を私達を追いかける敵の航空戦力の追撃に回すことが出来た。
前の状況は……
私は前の状況を確かめた。
駆逐艦は制した……
軽巡は大破……ル級は小破……!
いける……!!
加賀たちの艦載機の攻撃によって、敵の水上戦力は壊滅した。
これで私達の切り込みも成功するだろう。
瑞雲が軽巡を落としたわね
さらに私の瑞雲が軽巡を落とし、ヲ級を護衛する力は完全に崩れた。
でも、油断は出来ない……!
しかし、それでもまだ敵にはヲ級とル級という強力な戦力が残っている。
今から、本当の意味での正念場になる。
今……!!
既に敵にル級以外の水上戦力がいなくなったのを見て、今こそとっておきを使う時だと直感した。
「鳥海!!」
私はこの作戦におけるとっておきである鳥海に『その時が来た』ことを告げた。
『はい!!』
それを聞いて、鳥海は前に出た。
そして、彼女は
『行きます!!』
残っている敵の水上戦力、ル級へと向かって飛んで行った。
私達の「とっておき」。
それは水雷戦力として、この中で特化している鳥海が「IS」の特性を活かして敵の最大戦力に向かって突貫することだ。
「―――!?」
ル級は鳥海が向かってくることに混乱している。
当たり前だ。
そもそも、重巡洋艦が航空機と同等以上の速度で突っ込んでくる。
信じられないことだろう。
「そこぉ!!」
そして、このとっておきが生んだ好機を私は見逃さなかった。
「主砲!副砲!撃てぇ!!」
今日、最後となるであろう砲撃を私はヲ級に向けて砲撃した。