奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「困ったことになりマシタ……」
「はい」
「ええ……」
「そうね……」
金剛さん、加賀さん、私、扶桑さんの四人は暗い顔と声でため息交じりの言葉を漏らした。
初めての作戦が成功に終わり、倉持に帰還した私たちは犠牲者なしという真に喜ぶべき戦果を得たというのに素直に喜べなかった。
「山田さんに才能と素質はあった……
けれども、適正はなかったわね……」
「ぐっ……」
加賀さんは一見すると誤解と反発を招きかねない言葉で現在、私達が直面している課題を断じた。
「危うさのない指揮能力、支えたくなる将器……
その二つを兼ね備えているというのに……」
扶桑さんは続いて非常に残念がっていた。
恐らく、この中で、いや、今いる艦娘の中で山田さんを最も気に入っているのは彼女だ。
山田さんの優しさと勇気。
その二つを彼女は旗艦として戦い直に感じた。
最も彼女と共に戦いたいと願っていたのだろう。
しかし、山田さんは優し過ぎるために戦いには向いていなかった。
仮令、意思があるとしても無意識のうちに深い傷を負ってしまうのだ。
「この世界の人々の「価値観」を完全に履き違えていたわ……」
加賀さんはこの世界の人々の在り方を履き違えていたことへの迂闊さを恥じた。
私達は彼女の言う通り、自分たちの尺度で心の何処かでこの世界の人々は戦いに次第に慣れていくものだと楽観視していた。
長い間、戦いのない世界と常に「深海棲艦」との戦いを意識せざるを得ない私達の世界。
その二つの世界の価値観に大きな隔たりがあるのは当然なのに、私達はそれを完全に理解していなかった。
この世界の人々と私達の世界では「戦い」に関する価値観が違ったのだ。
この世界では「戦い」は『避けることが許される』……
けれども、私達の世界での戦いは『避けることが許されない』……
余りにも違い過ぎます……
この世界では戦いとは「戦争」だ。
戦争はあくまでも国益の奪い合いによる衝突が避けられない状態で起きるものだ。
だからこそ、何時かは交渉という方法で互いに戦いを辞めることが出来る。
しかし、私達の世界での戦いは「生存闘争」だ。
最初から話し合いをすることが出来ず、相手は一方的に此方を蹂躙し、殺戮し、滅ぼしにかかる。
一種の災害なのだ。
少しでも、戦う意思を失くしただけで滅ぼされる。
待ってもくれない。
交渉の余地もなく狂気ですらない。
そのことをこの世界の人々は知らずにいられた。
それはとても尊いことだ。
「下手をすると軋轢も生じてくるわね……」
「………………」
扶桑さんはさらに深刻な表情を浮かべた。
彼女が懸念していること。
それは戦いに対する価値観の相違による戦いと引いては戦いへの協力を呼びかける私達への嫌悪だ。
戦いに慣れていない人や戦いを知らない人にとっては私達の様な戦う存在はそれだけで恐怖の対象にも思える。
敵ではなくても、戦いを知らない人々にとっては戦う人間はそれだけで未知の怪物に思われてしまう。
「でも、私達だけではどうにもならないわ……」
続けて、加賀さんが現実的な考えとしてこの世界の人々が戦ってくれないとどうにもならないと語った。
彼女の言う通り、私達艦娘の数は限られている。
となるとこの世界の人々が戦ってもらうことも最低限の条件なのだ。
しかし、現実とは物資や戦力だけが勝利をもたらすのではない。
心理的なことも考えなくてはならないのだ。
今回の山田さんの様に……
それは山田さんが証明してしまっている。
能力に優れているが、彼女は長年培われた価値観により戦いを長期において行うことが出来ない。
仮令、理性でどれだけ無理矢理納得させようとしても困難なのだ。
加えて、利他的で優しい義務感の強い山田さんですらこうなのだ。
この世界の、少なくても平和な国で生まれた人々の大半がこの現実と向き合えるのかと言えばそれは不可能だ。
「……それでも、やってもらわなければなりマセン」
「「「!!?」」」
そんな風にこの世界の人々の価値観についての課題によって暗礁に乗り上げ動こうにも動けずにいると金剛さんがそう告げた。
「金剛さん?」
「あなた、まさか……」
私達は珍しく重い、いや、彼女にしては冷たい声音で出てきたその言葉に疑問を抱いていると加賀さんは何かを感じ取ったらしい、
「この世界はこの世界に生きる人々が守るべきデス」
「「!?」」
「で、ですけど……!」
金剛さんは私達が懸念していることへの不安を無視する様にそう断じた。
確かに彼女の言っていることは正しくはある。
しかし、それはつまるところ、戦うことに対して文句を言う人間が出てきてもそれに耳を貸さないという彼女の意思表示にも等しい。
よりによって金剛さんが……
私は、いや、加賀さんも扶桑さんも彼女の考えに愕然とさせられた。
あの明るい彼女が下手をすれば『人でなし』と非難される様な事を言ったのだ。
「ユッキー……
提督はどうデシタ?」
「!?」
彼女は私に「司令」のことを出してきた。
「提督は優しい人デシタ。
それでも、彼は戦ってくれマシタ。
どんなに苦しくても……それは何故デスカ?」
「それは……」
金剛さんは声音は冷たいが強く優しい眼差しで私に問いかけてきた。
彼女の言う通り、司令は優しかったのに提督として最後まで戦ってくれた。
それがどれだけ責任感と優しさに溢れる彼にとって辛いものであるのかは理解出来る。
「金剛……それは下手をすれば『提督も苦しんだのだから、この世界の人々も苦しむべきだ』と言っていると捉える人も出てくるわよ」
「!?」
「加賀……!」
「………………」
加賀さんは金剛さんの発言の問題点を指摘した。
金剛さんは自分が想いを寄せていた司令が耐えたのだから、この世界の人々も耐えるべきだと主張してるも同然なのだ。
しかし、それは裏を返せばこの世界の人々も彼と同じ様に苦しみながら戦うべきだと意味にも聞こえ、最悪、『あなた達も苦しめ』と受け取られる可能性もある。
「確かにそう思われても仕方ありマセン。
But、これは何時かは突き付けなくてはならないことデス」
「「………………」」
「そうね……」
けれども、金剛さんの指摘に私と加賀さんは黙るしかなく、扶桑さんは肯定した。
「……ユッキー。
これだけは忘れていけマセン。
この世界を守るのは本来ならばこの世界の人々の役目デス。
私達はこの世界の人間ではありマセン。
それを忘れてはいけマセン」
「!」
金剛さんは今まで見たことのない重々しい表情で私に告げた。
私達はあくまでも外の存在であり、この世界を守るべきなのはこの世界の人間の役目であると。
「私達は確かに戦いマス。
それでも、この世界の人々が戦いを放棄してそれが理由で滅びると言うのならば、それはこの世界の人々の選択デス。
ならば、私達も私達の選択に従いマショウ」
最後に金剛さんはこの世界の人々の選択に委ねると告げた。
そして、彼らが選んだ選択と私達の選んだ選択の末に生まれた結果に身を委ねるべきだと彼女は告げた。
少し、ザ〇ボット的な感じになりそうで怖い