奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「マズいですね……」
「ああ、マズイ」
「マズイ……」
「マズいね」
「マズいな……」
生徒会長室にて先ほど秘密裏に送られてきた今回の作戦の結果とその後に発覚した課題にこの場にいる俺と龍驤、千冬と轡木さん、楯無の五人は重い表情をした。
それは作戦の成功という喜ばしい情報がありながらそれを喜べない課題が出てきたのだ。
「山田先生なら何とか出来ると思ったのだが……」
千冬はこの中で一番頭を抱えていた。
どうやら、指揮官として真耶が選ばれたことは予想し期待していたらしい。
何せ、あの神通や雪風、加賀が買っているんだ……
それぐらいの素質はあるんだろうな……
ようやく、夜になって届いた倉持からの連絡で真耶が提督になったことに対して俺は『そう言えば、妙に三人が称賛してたな』程度の感想しかなかったが、蓋を開けてみれば三人の評価以上の人物であったことを思い知らされた。
だからこそ、今回のことが重いんだよな……
雪風や神通から聞かされていたが、想像以上に真耶は優し過ぎる人物だった。
元々、この世界の日本において戦争も死も遠いものでしかないのだから慣れていないのは当たり前だが、このままだと慣れるよりも先に真耶の心が壊れかねない。
確かにゆっくりと慣れさせることが出来れば重畳だが、その時間があるのかすら分からない。
加えて、今いる最高の指揮官が真耶であることを考えれば真耶が戦えないのは致命傷に等しい。
他に適任がいるかと言えば、はっきり言えばいないに等しい。
ああ……クソ……!
今なら、あの時と違って被害を最小限に留められるってのによ!
しかし、頭で分かっていてもあの時と違って大きな悲劇を招かずに済む機会を失いかけていることに俺は内心苛立った。
俺らの世界では「深海棲艦」が現れた時に体制が整っていなかったことで多くの犠牲者と被害を出した。
けれども、この世界で既に俺たちが知っていることでその犠牲を少なくすることが出来る。
なのにこの世界ではその機会を活かすことも出来ないかもしれない。
それが腹が立って仕方がない。
「仕方ないって。
この世界とうちらの世界じゃ辿ってきた道が違うんや。
今から慣れろって言うのも難しいし、残酷や」
「そうだな……」
龍驤の言葉で多少は冷静さを取り戻すことが出来たが、焦りは俺らだけではなく、周囲にも存在しているのが感じ取れた。
「我々が三度経験している異常事態とは全く違うのだね……」
轡木さんはため息交じりでどうやら俺たちが来るまでに起きた異常事態に対する向き合い方と異なることへの悩みを漏らした。
「……当たり前やで。
あくまで君らの経験していたのは一時的な破壊活動……テロだよ。
鎮圧さえできれば恐怖や悲しみ、怒りは残るけど戦争と違って重圧は残らない。
時間も規模も違うんやから、仕方ないことや」
「そうか」
龍驤は学園が直面していた三度の危機をそう断じた。
確かに破壊工作、つまりはテロも死や破壊、悲しみ、憎しみをもたらすという点では戦争と変わらないだろう。
しかし、それでも突発的に起こるのと何時までも続くのでは違う。
そこが戦争とテロとの違いなのだろう。
「となると、新しい指揮官だけど……
どうします?」
俺たちが現状を嘆いていると楯無が前向きな発言をした。
その通り、今、この場で俺たちがすべきなのは提督になり得る人材を発見することだ。
真耶程の人材じゃなくていい。
ある程度、彼女が休めることが出来る代理を全うできる精神力と能力と人柄があればいい。
「織斑先生。君は?」
轡木さんは千冬さんに声をかける。
それに対して、千冬は
「お言葉ですが、私は向いていないと感じています」
毅然と自分が向いていないことを断じた。
「……何がですか?」
楯無は彼女の余りにも早過ぎる判断にそう返した。
「私は確かに「IS」に関わる人間ならばある程度は「世界最強」としてある程度の権威が使える。
だが、雪風を始めとした艦娘と比べれば私はひよっこ同然だ。
そんな私が「IS」を信奉する人間が望む高圧的な態度で臨めば、余計に増長して下手をすれば共同戦線すら危うくなる」
「う……」
そうなんだよな……
この世界じゃ千冬の知名度が逆に足枷になっちまってる……
千冬は極めて冷静に自分が指揮する立場になることへの弊害を説いた。
神通から聞かされたが、この世界での千冬の知名度と人気は信じられないものらしい。
そして、「IS」の絶対性も。
ただ、だからこそ問題なのだ。
崇拝者は勝手に自分たちの理想を崇拝の対象に押し付けることがある。
加えて、崇拝者の名誉が傷付くようなことがあれば、まるで自分が傷付けられたかの様に怒り出すことも多くある。
最悪、崇拝者の為だと言って暴走して破壊活動を行う時だってある。
つまりは千冬が少しでも艦娘に頭を下げたり、教えを乞う様なことをしていれば、その信仰を侵されたと思い暴走することになる。
武蔵なら相方として悪くねぇんだけどな……
恐らく、千冬と組めるのは武蔵だろう。
千冬のことをあいつは笑いながら相棒として組み、何だかんだで千冬もそれを善しとするだろう。
そのことからうまい具合に回ってくれるとは思う。
しかし、武蔵だけとなると千冬を指揮官にする赤字を大幅に上回る。
何で悉く、相性が悪い面々しかいねぇんだ
楯無も十分、組織の長としての才覚はあることから指揮官を任せることは出来ると思うが、学園の生徒会長、加えて暗部の長も務めている。
どうやら、この世界には俺達の世界以上に人間同士の争いも激しいことがうかがえることから楯無を推すのもマズいだろう。
真耶と言い、千冬と言い、楯無と言い個々の能力は高いのに外因、内因問わずに致命的な欠点を抱えている。
「他の教員は?」
「特にめぼしい方は……」
「そうか」
例の三人以外に人材はいないかと訊ねても、指揮官を務められそうな人材はいないことを告げられた。
「……俺たちの時と違って調べられる母数が限られているのも要因だからな……」
まさに天を仰ぎたくなる気持ちとはこういうものだろう。
犠牲者を減らせる機会なのにそれを行える人的資源が限られる。
天の時、地の利はあるが、人の和がない。
「どれくらい相手が待ってくれるかな……
て、ところかな?」
龍驤はそう言ったが
「んなもん、一番期待しちゃいけねえことだ……」
龍驤が一番理解してくれていることだが、俺はその一言に悪態をつくしかなかった。
「……こうなったら、二人だけは頼りなかったけどこうするしかなかった」
「?」
「何ですか?」
自分の言っている言葉の問題点を自覚していた龍驤は諦める様に言った。
「おい、龍驤……
お前、まさか……」
嫌な予感がした。
恐らく、非人道的ではないがかなりの大博打を考えていることを俺は感じた。