奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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 ようやく、導入部が終了しました。
 ちょっとこの作品における一夏や箒に関わるオリジナル要素が存在します。
 どうか、ご了承ください。


第12話「模擬戦終了。そして……」

「……勝負ありか」

 

 更識のとどめの一突きが決まり雪風の「シールドエネルギー」を0にして勝敗が決した。

 

「お嬢様があれだけの「賭け」に出るなんて……」

 

 布仏は長年見てきた主人である更識が「賭け」に出たことに驚愕していた。

 彼女の言う通り、更識は「賭け」に出た。

 あいつは雪風が何か(・・)をすると考えてわざとそれに乗る形で自らの奥の手の一つである「水蒸気爆発」を起こすために雪風の頭上を飛び越えると言う溜めを作り、本命であるナノマシンの散布を行ったのだ。

 そして、雪風が追い討ちのとどめのロケット弾を発射した瞬間にそれらを一斉に振動させて大爆発を引き起こしたのだ。

 

「だが……更識も危うかったな……」

 

「はい」

 

 「賭け」に出た。

 それはつまり、それしか打開策がなかったのだ。

 さらに彼女にとって悪いことに更識は雪風の背後にまさかあれだけの対空砲火や機銃が存在しているとは思っていなかった。

 そのため更識の「シールドエネルギー」もあと少しで尽きていた。

 仮に更識に冷静さと覚悟がなかったら勝負は本当に解らなかったはずだ。

 

「機体の特殊性に助けられたな……」

 

 あれが更識の「霧纏いの淑女」じゃなかったら、あの戦い方はできなかった。

 もちろん、雪風も一応は「専用機」だ。

 しかし、「霧纏いの淑女」は専用機の中でもかなり特殊な部類のものだ。

 「ISの生みの親」のあいつ(・・・)が設計したものを除けば、あそこまで完成されたものはない。

 

「………………」

 

 私は雪風の戦う姿を頭に再生して唖然とした。

 初手の正確無比な早撃ちによる飛行封じ。

 不利有利を見極めての迅速な戦術の切り換え。

 相手の戦術を踏まえての「逆落とし」。

 相手を「賭け」に追い込む読み合い。

 

「相手が更識じゃなかったら―――いや、それを考えても是非もないか」

 

 脳裏に浮かんだ「もしも」に対して、私は無意味だと考えてそれを切り捨てた。

 相手が自分よりも優れていることなんてよくあることなのだ。

 問題は如何にしてそれを乗り越えるかなのだ。

 それのその考えは他ならない雪風自身への侮辱になってしまう。

 

 だが……あれ(・・)を起動させたとなると……やはり、あいつ(・・・)の力が必要だな。

 

「布仏、すまんが私はこれからあいつ(・・・)に電話を掛ける……後は頼むぞ」

 

「はい。分かりました」

 

 私は布仏に後を託すともう一つすべきことのためにその場を跡にした。

 

 

 

「負け……ですか……」

 

 しばらくしてから私は自分が負けたことを理解した。 

 あの私が罠を用意した時から更識さんはあの爆発を狙っていたのだ。

 だからこそ、あの「賭け」に出た。

 

 本当に実力だけではなく勇気も持っている人ですね……

 

 今、心の中では負けて悔しいと言う感情よりも私を下した相手に対する敬意の方が大きかった。

 負けてこれだけ清々しい気分になったのは何時以来だろうか。

 

「雪風ちゃん、立てる?」

 

 私が敗北の余韻に浸っていると私を下した尊敬すべき相手が手を伸ばしてきた。

 

―ギュー

 

「ありがとうございます。更識さん。

 まさか……あんな隠し玉を用意しているとは思いもしませんでしたよ」

 

 その手を掴んで私は立ち上がり彼女の奥の手に対してそう言うと。

 

「ああ、あれは「清き熱情」って言って、水をナノマシンで気化させて「水蒸気爆発」を起こす奥の手の一つよ」

 

「……何と言うか、本当に規格外の能力ですね」

 

 更識さんの語ったあの爆発の正体に私はどういう顔をすればいいか困ってしまった。

 ある意味、彼女の「奥の手」は水と言う物質の特徴を単純に活かしたものでありそれが理論上できれば理想的と言う感じだが、それは現実に可能にすると言うのが困難であると言うのは私たちの「酸素魚雷」に通ずるものはあるにはあるが。

 

「いや~……ここまで苦戦、いや、勝負が分からない勝負をしたのは何時以来かしら?」

 

 更識さんは本心からそう言って私との戦いをそう評価した。

 実際、更識さんは結構ボロボロだった。

 最初の「逆落とし」のおかげで短期決戦に持ち込めたのは助かった。

 あれが当たらなかったら長期戦になっていた可能性もあっただろうが

 

「いいえ、最初の砲撃が当たらなかったらあなたの圧勝だったと思いますよ?」

 

 私は今回、彼女に食い下がることができた最大の要因を口に出した。

 あの最初の一発で更識さんを地上に釘付けにしなかったら、彼女は空中に舞い上がって逆に主導権を握り、しかもあの「水蒸気爆発」による爆撃を何度も使っていただろう。

 

「でも、そうさせないのも戦い(・・)でしょう?」

 

 それでも更識さんは私のこと評価した。

 

「……それに私から言わせてもらうとね……多分、雪風ちゃんは空中戦にまだ不慣れなだけでそれ以外……

 いや、今の状態でも十分今年の入学生を圧倒するレベルよ?」

 

「ご冗談を……私なんてまだまだですよ」

 

 更識さんのその評価は私には確かに身に余る言葉で、また自分の過大評価ほど恐ろしいものはないことを知っている私はその言葉を否定しようとするが

 

「あら?それじゃあ、そんなあなたにあと少しで負けそうになった私はどうなるのかしら?」

 

「うぐっ!?」

 

 とかなりずるい手を使って私に素直にその評価を認めさせようとしてきた。

 

 神通さんと同じ手を使ってくるとは……

 

 私は更識さんのその手が神通さんとは目的は違うが手段が同じことから困ってしまい

 

「……解りました。

 ありがとうございます」

 

 と言うしかなかった。

 ここで彼女の賛辞を拒絶すれば彼女に対しての失礼にあたると考えて遠慮するのは辞めた。

 

「でも……やはり、今回の戦いでは多くの課題を見つけましたよ」

 

 それでも譲れないことはあるので私はそれだけはきっぱりと言おうと思った。

 

「本当に生真面目なんだから……」

 

 と更識さんは多少呆れながら呟いた。

 

「あと二週間以上()あるんですから当たり前です」

 

 と私はきっぱりと主張した。

 

「ふ~ん……二週間以上()ね……」

 

 彼女は私の言葉ににやにやとしながらもそう言ってきた。

 

「ねえ、雪風ちゃん……模擬戦って大事でしょ?」

 

 更識さんは続いて少し全ての計算通りにいったことに嬉しさを感じながら断言してきた。

 ちょっと二水戦時代の神通さんの手に乗った時の気持ちを思い出す。

 

「……そうですね」

 

 私はどこか釈然としないが肯定した。

 何もかも目の前の少女の計算の内だ。

 恐らくだが模擬戦をしなかったら私は「IS」の操縦に多少の不安を残していたはずだ。

 それを取り除くために彼女は模擬戦を行ったのだろう。

 

 ま、あと二週間以上()あるんです……!

 絶対、大丈夫!

 

 だが、おかげで私はとことんやる気を出せてしまった。

 

 

 

―prrrrrrrrrrrrrrrー

 

 更識と雪風の模擬戦を見終えた後、私は更識との事前のやり取りで決めたことを行うために秘密回線を使ってとある知合いに連絡しようとした。

 

―ピッー

 

 そして、相手からの応答が聞こえた後に

 

「はい、もしもし」

 

 いつ聞いてもたおやかで落ち着きのあると思う声がスピーカーから聞こえてきた。

 

「……織斑だ。

 久しぶりだな―――」

 

 相手の声を聞いて私は自分の名前を名乗り

 

「川神」

 

 そのまま彼女の名前を口に出した。

 私は川神の声が聞こえてきたことに安堵を覚えたことと後輩の声を聞けたことに嬉しさを感じた。

 私が電話をかけたのは「もう一人の世界最強」と言われるIS操縦者。

 川神那々その人である。

 

「はい。お久しぶりですね……

 織斑先輩」

 

 私の急な連絡に文句を言わずに彼女も久しぶりの会話に声に少しだけだが喜びを混ぜていた。

 

「どうやら元気そうだな」

 

 私は後輩でありかけがえのない友人でもある彼女が変わりないことが嬉しくて仕方なかった。

 川神とは中学時代からの付き合いで、当時荒れていて周囲から恐れられていた私に対しても先輩後輩の礼儀は多少はあったが対等に接してきてくれた人間だった。

 また、面倒見がよく包容力もあり小学生の一夏の世話も看てくれてもいた。

 そのため、一夏も川神のことを「ナナ姉ちゃん」と慕っていた。と言うか、姉の私よりも懐いていた時もあった。

 言っておくが、川神だって怒ると怖いのだ。それなのに「あの差」はなんだ。

 

「はい。おかげ様で……織斑先輩もご壮健で何よりです」

 

 彼女もまたそう返礼した。

 川神はISを纏えば「華の鬼武者」などと言われてはいるが、それ以外の時は武家のお嬢様とも言えるほどお淑やかで包容力のある女性だ。

 だが、彼女が変わりないと言うことは

 

「その様子だと中国の代表候補のこともしごいているらしいな?」

 

 日常運転で彼女があっちで教官をしている代表候補を鍛えていると言うことだろう。

 川神と言えば、厳しい訓練のイメージが強すぎることから彼女が教え子を厳しく育てていることは容易く想像できてしまいからかい半分で訊ねた。

 

「ごく普通(・・)の訓練をしているだけです。

 まあ、多少子供っぽいところはあるので嗜める程度のことはしてはいますが……」

 

 川神はいつものように少しムキになって私の軽口を否定はしているがその後に少し困ったような声で躾けている事実を認めた。

 どうやら、あちら側での弟子は相当やんちゃらしい。

 

「あいかわらずだな」

 

 彼女の変わらない様子に苦笑いしてしまった。

 

「ところで……今日、私に電話をかけて来たのは一夏君のことですか?」

 

 彼女はさり気なく話に移ろうしていた。

 それは間違ってはいないが。

 

「ああ、そうだ……

 すまんな、お前にも苦労をかけてしまって……」

 

 来月辺りに川神は帰国する。

 理由としては日本政府の意向によって一夏の護衛を「IS学園」に所属することで行うためである。

 彼女ほどの人間が傍にいるとなれば、一夏を意味もなく敵視する者も迂闊には手を出せないはずだ。

 

「いいんですよ……一夏君は私にとっても弟のような子ですし……

 まあ、一夏君が本人の意思とは関係なしに「IS学園」に入学することになったことに関しては腹が立ちますが……」

 

 どうやら彼女は「この任務」に対しては不満はないが、そうなることになった過程に対しては苛立ちを感じているらしい。

 

「それに箒ちゃんも入学するとなるとそれこそ、あの子たちの「お姉さん」として頑張りませんといけませんね」

 

 川神は束の妹にも尊敬されていた。

 あの(・・)プライドの高い束の妹がだ。

 おかげで束の妹も川神には頭が上がらなかった。

 ただし、姉の束とは致命的に仲が悪いが。

 出会う度に束は拒絶オーラ全開の毒舌をかまし川神は笑みを絶やさないで毒舌をかます。

 しかし、弟分と妹分に対する感情は変わらないでいてくれるのは嬉しいところだ。

 彼女が個人的にも今回の任務に乗り気でいてくれるのは安心した。

 ただ、こいつが張り切ると必ず誰か吐くから不安だが。

 

「……あまり、張り切り過ぎるなよ?

 だけど……ありがとう。

 姉として、教師として本当に感謝している」

 

 彼女が本当に変わらないでくれる。

 世界が変わっても彼女は変わらないでくれる。

 これは本当に嬉しいことだ。

 

「それともう一つだけお前に頼みたいことがあるんだ……」

 

 だが、今回の私は「一夏の姉」としてだけではなく、こちが今回の本題であるもう一つの頼みごとがあって彼女に連絡をよこしたのだ。

 

「……もう一つですか?」

 

 私がもう一つ頼み事をしてきたことが予想外だったらしく川神は聞き返してきた。

 

「実はな……とある少女を「IS学園」で保護することになった……

 しかも訳ありでな……」

 

 私は今回の連絡の本題である「雪風」の保護を相談しようとした。

 雪風には「この世界」には私たち以外には味方がいないに等しい。

 だから、信頼できる人間は一人でも欲しい。

 そして、信頼できる人間としてこれほど相応しい人間は川神以外にいない。

 

「「訳あり」と言いますと……?」

 

 彼女は「訳あり」と言う言葉が気にかかったのかそれを追及してきた。

 

「詳しいことはこっちに来てから話す……」

 

 さすがに「異世界の住人」、「艦娘」、「深海棲艦」等と言った普通なら荒唐無稽な内容を語るには直接じゃないときついだろう。

 だが、私が彼女に語ろうと思っている「訳あり」と言う意味は

 

「その少女は……あの(・・)未開放のコアを起動させた」

 

「……!それは本当ですか?」

 

 雪風の専用機「初霜」にある。

 彼女が起動させた「IS」は束の作ったコアを量産化させた際にどんな手段を使ったかは解らないがほぼオリジナルと同等にまで再現できた量産コアの一つだ。

 だが、スペックは最高であったがなぜか起動させることができずにその型はほとんどが「失敗作」や「欠陥品」扱いで廃棄が決定しその中の一つが「IS学園」の倉庫で埃を被っていたのだ。

 それがまるで持ち主が来たかのように雪風によって起動させられたのだ。

 しかし、それは雪風にとっては非常にまずいことだ。

 「オリジナルに近い量産機」。これほど、価値のあるものはないはずだ。

 もし、あれが起動したことがばれれば雪風は確実に各政府にマークされる。

 だから、先手を打って「最強の抑止力」となり得る川神に頼もうとしたのだ。

 言葉で例えるとかなり物騒だがつまりは「脅し」をかけるのだ。

 力を持つ者が私欲のために国家の意思や公共の利益に逆らうのはエゴかもしれない。

 だが、あの少女が実験体などにされると解っていて黙っていられるほど私は愛国者でもない。

 『科学の発展に犠牲は付き物』だと割り切ることができるほど合理主義者でもない。

 それに私は「IS」と言う存在を使って世界を歪ませてしまった人間だ。

 ある意味、贖罪なのかもしれない。

 

「更識にも個人的(・・・)に頼んである。

 裏は更識、表はお前と私がマークしておけば安心できる」

 

 私はあえて川神に個人的な依頼であることを伝えた。

 こうすることで彼女に『NO』と言う選択肢があることを伝えた。

 

「……楯無さんもですか。

 なるほど、確かにあの子が裏でマークしてくれるのならば安心できますね」

 

 と彼女は本人の目の前では決して見せないであろう教え子への信頼を見せた。

 そして、それが意味するのは

 

「分かりました……

 その少女のこともできる限りのことを尽くします」

 

 了承と言うことだ。

 

「そうか……!本当に何度もすまん……」

 

 私は重ね重ね彼女に礼を言った。

 彼女は「元」が付くとは言え「自衛官」だ。

 恐らく、政府が雪風のことを知ったら上からの命令で連行するように言われるはずだ。

 それなのに彼女は受けて入れてくれた。

 

「いいえ……

 人間の命よりも「IS」の発展が大事なわけないじゃないですか?」

 

 彼女はきっぱりとそう言った。

 

 きっと雪風がこの世界に生まれていたらこう言うんだろうな……

 

 私はやはり、川神と雪風の姿が重なって見えた。

 

「それでその少女は一体どんな子なのでしょうか?」

 

 どうやら川神は件の少女が気になったようだ。

 

「そうだな……更識との模擬戦の様子については後で映像で送る。

 で、性格は何と言うか……どこかお前に似ている」

 

 私は雪風と触れ合って今も感じた感想をそのまま彼女に伝えた。

 

「楯無さんとですか?それはいいですね……参考(・・)になります。

 それに私と似ているんですか?」

 

 更識……すまん……

 

 私は更識に心の中で詫びてから

 

「ああ……なにせはっきりと「IS」を『兵器』と断言して「女尊男卑」を『間違ってる』と言える娘だ」

 

 それが当たり前だとは思うがそれを言う人間がいないのが虚しい「この世界」の現実だ。

 私にもその罪があるので偉そうに言えないのがまた一層と虚しいのだが。

 

「それは……最近の女の子にしては珍しいですね?

 会ってみたくなりました。

 それでお名前は?」

 

 と雪風のことを聞いた彼女は期待を持ったらしく名前を訊いてきた。

 だから私は

 

「ああ、名前は―――」

 

 素直に

 

「「雪風」だ」

 

 そう告げた。

 恐らくだが「自衛官」である彼女ならばすぐに「伝説の駆逐艦」の名前の方を思い浮かべるだろうが。




 初霜の設定はほとんどオリジナルレベルの量産機です。
 実はこれはかなりこの作品の根幹に関わることになります。
 次回からようやく原作入りです。
 お待たせしました。

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