奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
ちょっとそっちの方が成長した雪風て感じなので
第1話「歪みとの接触」
「全員、揃ってますねー。それじゃあ、SHRを始めますよー」
教壇に立った山田さんがにっこりとしながらクラス全体に声をかけた。
私は生まれて初めての普通の学生生活の初日に少しだけだが緊張感を覚えている。
まさか、(恐らくだが)一度死んでから学校に行くことになるとは思いもしなかった。
また、私は自らが我が儘で作った苗字の都合上、出席番号が後ろで席もそれに合わせて後方にある。
この席は私にとっては好都合だ。
なぜならば
この位置なら護衛対象を二人とも自然に目に入れられます
この席からは私の護衛対象である織斑さんの弟さんが二時から三時の間、篠ノ之博士の妹さんは一時辺りの方向。
まさに地の利を得ているのに等しい。
さらに幸いなのは
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いします」
―………………ー
「はい」
山田さんにとっては不幸なのかもしれないがクラス中に満ちるこの空気が私が織斑さんの弟さんに視線を向けるのに違和感を感じさせないことだ。
このクラスに集まる生徒たち全員がある緊張感に包まれていることで奇異と好奇の目を私の護衛対象の一人に向けているのでこのクラスに同化している私が織斑さんの弟さんに視線を向けても問題がない。
まさに天の時を得ているに等しい。
いや、この場合はニュアンスが違うが人の和を得ているとも言えるかもしれない。
「うぅ……じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。
えっと、出席番号順で」
ただ私以外から反応がないのが山田さんには気の毒なのだが
『皆さん、あたしの指示に従ってください。
んぅう……従ってくださぁいぃ!』
なんとなくだが、私が師を失ったと同時期に「奇跡の作戦」を成し遂げた「一水戦旗艦」阿武隈さんを思わせる。
仮にここが「二水戦」なら……この反応は先ずないですね……
もう一つ、クラスの状況を見て私が思ったことはここが「二水戦」だったらこんな感じにはならないだろうと言うことだ。
神通さんは普段は優しくて初対面では阿武隈さんと同じくらい頼りなさげに思えるが、たった一日でそれが「誤り」だと考え直させられるのが「二水戦」の新人の恒例行事だ。
実際、私とお姉ちゃん、黒潮お姉ちゃんが初めての神通さんと対面した時は
『優しそうな人みたいだね』
『なんか頼りなさそう』
『まあ、気楽にいけそうでええやんか?』
とそれぞれなめてかかったが、その一日後に気を抜けなくなったり、天津風や時津風が来た時には経験則上から二人に『気を抜くな』と忠告したほどだ。
また、神通さん自体が礼儀正しい性格であったことから「二水戦」の艦娘たちは基本的には礼儀作法にはかなりしっかりしている(ただ、霞ちゃんはかなり口調がきついが)。
と言った環境で育ったことから「教師」と言う目上の人間が声をかけたのに無反応と言うのは私はできない。
しかし、二水戦時代の影響で返事を出してしまったことで少しだけだがクラスの人間の何人から視線が集まってしまった。
しかも、よりによって護衛対象の織斑さんの弟さんにも。
幸い、篠ノ之博士の妹さんは未だに織斑さんの弟に視線を向けているが。
仕方ないとはいえ……いきなり目立ってしまいましたね……
人の情に反しないためとは言え苦労するものだ。
教室に変な緊張感が漂い、副担任の呼びかけにたった
その原因である俺、織斑一夏も声を出そうとは思ったが余裕がなかったので断念したが。
だって、クラス中の人間から視線が集まっているのに声をかけるなんて度胸は俺にはないぞ。
しっかし、あの茶髪のセミロングの子……勇気あるな……
俺は唯一、山田先生に返事をした女子のことを眺めながらただ感心してしまった。
彼女が注目されているわけではなかったが、それでもこの空気の中で声を出すなんて相当勇気のいることだ。
また、その影響からクラスの何人かが俺に向けていた視線を彼女に変えた。
俺も彼女の声に反応して彼女に視線を向けてみると、観察してみると彼女の容姿は非常に整ったものだった。
恐らくだけど、何と言うか芸能人とかの高嶺の花ではないけれど十人に訊いたら十人が「美少女」と答えるほどに可愛い子だった。
実際、クラスの何人かは俺と同じ感想を抱いているのかのようだった。
俺としては少しでも自分に集中している視線が彼女に向けられるのなら助け舟に等しいが。
「―――くん。織斑一夏くん!」
「は、はい!?」
と俺が少しとはいえ、安堵感を覚えていると大声で名前を呼ばれてとっさに声を裏返して返してしまった。
―クスクスー
すると、笑いをこらえる声が聞こえてきた。
ただでさえこのクラス、いや、この学園で唯一の男子学生と言うだけで目立っているのにさらに悪目立ちしてしまった。
せっかく、あの少女のおかげで少しは注目が薄れたと言うのに。
「あ、あの、大声出しちゃってごめんなさい。
お、怒ってる?怒ってるかな?ごめんね、ごめんね!
でもね、あのね、自己紹介「あ」から始まって今「お」の織斑くんなんだよね
だからね、ご、ごめんね?自己紹介してくれるかな?だ、だめかな?」
山田先生は突如、謝罪されている俺が気の毒に思えるぐらいの謝罪の嵐を巻き起こした。
どうやら、俺があの少女に注目している間に俺の番が回ってきたらしいが、どう見ても今回の件は俺が悪いのでかなり気が咎める。
と言うか、下心がないとは言え女の子に注目して上の空とか口に出したら第一印象最悪になりかねないことが理由の時点で罪悪感を感じるぞ。
下手したらナンパ男だぞ、俺。
「い、いや……あのそんなに謝らなくても……
そもそも俺が上の空だったのが悪いんですし……
自己紹介をちゃんとするので落ち着いて下さい」
とりあえず、自分の非をしっかりと素直に認めて『先生は悪くないですよ?』と言うことを遠回しに伝えてから、しっかりと自己紹介をすることをちゃんと伝えた。
「ほ、本当です?よかったです……
や、約束ですよ?」
それを聞くと山田先生は手を握って俺に何度も確認を求めてきた。
おかげで余計に俺に視線が集まってしまった。
だがここで引く訳にはいかない。
約束は約束だ。
うっ……
しかし、ここまで視線が集まるのは頭で割り切ろうとしても心はやっぱり言うことを聞かない。
いくら、女子に苦手意識を持っていない人間だってこれだけ注目とされれば堪えるぞ。
と言うよりも目の前の相手が女子であろうと男子であろうと関係なしに怖気つくぞこれは。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
とりあえず、社交辞令みたいに自己紹介して頭をぺこりと下げてから上げてみると、何やら女子たちが何か期待を込める視線を向けられていた。
これ以上、何を話せばいいんだ。
進退窮まった俺は目に入った久しぶりに見ることができた幼馴染である篠ノ之箒に助けを求めようとするが彼女はそっぽを向いてしまった。
孤立無援。
何と言うことだ。
くっ……!これなら、さっきあの女子に多少注目が集まっているときにやっていれば……!
背中に冷や汗を感じ、後悔しながら終われない自己紹介に俺は最後の手段として
「以上です」
―ドガラシャンー
ここで無理矢理自己紹介を終わらせた。
無理だ。言っておくが俺は
そんな俺に何かを求められても困る。
クラスの女子を見てみると、二人を除いてみんながずっこけたりポカンとしている。
その二人の中、一人は俺の幼馴染である箒だ。
未だにそっぽを向かれている。
なにか、俺は嫌われるようなことをしたのか。
そして、もう一人はさっきの茶髪の女子だ。
彼女は誰もががっかりしたり、唖然としたりしている中で俺に対して『仕方ないですよね?』と擁護してくれているような苦笑いを浮かべているだけだった。
どうやら、彼女は思いやりがあるらしい。
その気持ちはありがたい。
そんな風に後者の存在に救いを感じていたら
―パァン!ー
「いっ―――!?」
なんか既視感がありまくる一撃を頭部に食らった。
「……え?」
私は護衛対象が突如として何者かに頭部を殴られたことに目を丸くしてしまった。
て、敵襲ですか……!?
いきなりのことに私は一瞬、「初霜」を展開しようと織斑さんの弟さんの様子を見てみると
あ、あれ……?織斑さん……?
そこにはその護衛対象の実姉が立っていた。
「げえっ、関羽!?」
―パアンッ!ー
て、またですか!?と言うか、なんで関羽!?
姉弟のやり取りに私は反応に困ってしまった。
体罰自体は批判するつもりは毛頭ないが(私も二水戦時代に懲練とか食らってるし、旗艦時代や訓練艦時代に問題を起こした部下や教え子には懲練を課しているので)、いくら何でもやり過ぎなのではないだろうか。
私が戸惑いを覚えていると
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
え?それだけ?それだけの理由で体罰?普通は口頭注意ですませますよね?
と言うか、これ体罰に該当する問題なんでしょうか?
二度目の体罰の理由に私は納得がいかなかった。
と言うよりも一度目の体罰にすらも私は納得していない。
織斑さんは弟さんのことを特別扱いしないようにしているのだろうが、さすがにこれは厳しすぎる。
これでは逆の意味で特別扱いになってしまう。
恩人とは言え私は彼女に反感を抱いてしまった。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたのですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてしまってすまなかったな」
「い、いえ。副担任なのですからこれくらいはしないと……」
大人しすぎる山田さんと厳しすぎる織斑さん。
大丈夫なのだろうか、この組み合わせは。
「諸君。私が織斑千冬だ。
君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。
私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。
私の仕事は若干十五才を十六才までに鍛えぬくことだ。
それと「IS」を使うことの意味も伝えていくつもりだ。
逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
と軍隊顔負けの宣言の中に私は一つ
だが、そんな織斑さんの普通ならドン引き確定の発言なのに
「キャー!千冬様、本物の千冬様よ!」
うわ……さっきの件を見てよくそんな反応ができますね?
「ずっとファンでした!」
ファンですか……まあ、「IS」がスポーツ感覚ならそうなるかもしれませんね
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
……へえ~、北九州からですか?もしかすると、長崎県出身ですか?私は佐世保出身です
「私、お姉様のためなら死ねます!」
その威勢、鬼教官相手にどれだけ持つか見物ですね
織斑さんの人気にドン引きしながら私はクラスのその反応に心の中で茶々を入れた。
私も「華の二水戦」に配属が決定した時には多少浮かれて舞い上がった。
ちなみに磯風からは『子どもが子どもらしい反応をしているな』と笑われたが。
磯風とは彼女が生まれて私が竣工が終わって呉に配属されるまで一緒にいたが全く「姉扱い」してくれなかった。
と言うか、私のことを完全に「子ども扱い」していた。
で、当の本人だが
「毎年、これか……よくもこれだけお調子者ばかりが集まる……
この反応が来るたびに嫌でも新年度が来たことを体感させられる……」
とかなり渋い顔をしながら鬱陶しがっていた。
その気持ちはなんとなくだが理解できる。
戦後の私も新人の艦娘たちからはこんな感じの反応をされたし。
「きゃあああああああああああ!お姉様!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そして、つけあがらないように躾をして~!」
前言撤回。
ここまでひどくはなかった。
少なくとも、私の部下や教え子にはこんな子達はいなかった。
私の部下や教え子たちはみんないい子でした。
決して、こんな感じではなかったはずだ
そんなクラスに私が戸惑っていると
「で?挨拶も満足にできんのか、お前は」
織斑さんがそれが一度目の体罰の理由だったらしく弟さんにしれっと視線を向けた。
いや、この場合では仕方ないんじゃ?それにいくら何でもいきなり体罰はやり過ぎでは?
私が納得せずにいると
「いや、千冬姉、俺は―――」
弟さんが弁解しようとした瞬間
―パァン!ー
三度目の体罰。
今回のはちょっと擁護できない。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
さすがに他生徒の前では示しがつかないのでこれは仕方ない。
私も元が付くとは言え、軍属なのでそこら辺には厳しいつもりだ。
艦娘は鎮守府内では上司である提督に対しての呼称や態度や言葉遣いはかなり砕けているが外に出ればそこら辺はしっかりと弁えている。
いや、金剛さんはともかくとして。
あの口調がきつい霞ちゃんすら外では敬語をしっかりと使っている。
ちなみに「二水戦」では神通さん相手には私たちは常に敬語だが。
言っておくが、これは強制ではなく自発的なものである。
繰り返して説明する。自発的なものであると。
だけど、これは……まずいですね……
今のやり取りで私はいきなり危惧していたことを織斑さんの弟さん自身が招いたことに私はまずいと思った。
「え……?織斑くんって、あの千冬様の弟?」
「それじゃあ、世界で唯一男で「IS」を使えるっていうのもそれが関係して……」
「あぁ……いいなあっ……代わって欲しいな……」
最後のはともかくとして、これはまずい。
いつかはばれるだろうし気づかれるとは思ったがいきなりこの事態が訪れるとは思いもしなかった。
初日で『織斑一夏が
これで彼は背負わないでいい苦労まで背負ってしまうことになった。
『ふ~ん……
じゃあ、そちらの世界にもそこから生まれる「選民思想」はあったの?』
更識さんが私に「この世界」の醜い現実をぶつけた時に問いかけた言葉が脳裏に浮かんだ。
彼女たちからすれば、「織斑千冬」は特別な存在だ。
そして、彼女たちは短絡的に「男性唯一のIS適合者」である彼の存在を『その織斑千冬の弟が「IS」を使えるのは当然』と結論づけてしまった。
見回すと教室中から彼に向けて羨望や期待の眼差しが向けられていた。
それもかなり身勝手な。
司令……
私が不安なのは彼が周囲から変に持ち上げられないかだ。
今の彼を見て私はかつての私の父親代わりで初恋の人である艦娘と並ぶ、「人類の英雄」と称された四人の提督の一人を思い浮かべてしまった。
彼、いや、彼を始めとした提督たちは「英雄」と呼ばれることを苦々しく思っていた。
大衆が求める「特別な存在」と言うのは結局のところ、彼らにとって都合のいい存在でなくてはならないのだ。
それがあの「悪夢のミッドウェー」を招いた理由の一つでもあった。
彼は……それに耐えられるのでしょうか?
私は「この世界の歪み」がどれだけ大きくて根深いものなのかその片鱗に触れた気がした。
雪風は美少女だと思います。
もちろん、艦娘は基本全員美女だとは思いますが